【鉄の御所】七番隊の異名

■ショートシナリオ


担当:西川一純

対応レベル:11〜lv

難易度:難しい

成功報酬:9 G 4 C

参加人数:8人

サポート参加人数:1人

冒険期間:09月06日〜09月11日

リプレイ公開日:2007年09月16日

●オープニング

世に星の数ほど人がいて、それぞれに人生がある。
冒険者ギルドでは、今日も今日とて人々が交錯する―――

「こんにちはぁ。どうも、谷ですわ〜」
「おやま。谷さん、お久しぶりです。ちゃんとお仕事してるんですか?」
「おおう、きっついツッコミやなぁ(笑)。ま、ボチボチな〜」
 ある日の冒険者ギルド。
 暑さも一休みしているのか、幾分か涼しいその日、京都冒険者ギルドに谷三十郎という男がやってきた。
 毒気を抜かれるようなニコニコした表情のおじさん。
 しかしてその実体は、壬生の狼と呼ばれる新撰組の七番隊組長であった。
「で、今回はどんな依頼でしょうか?」
「んーとね、また新撰組で大規模に鉄の御所を攻める計画があるんやけど、その最先方ってとこかなぁ」
「‥‥はい? すいません、鉄の御所って、あの鉄の御所ですか?」
「多分その鉄の御所や♪」
 二人が言う鉄の御所とは、酒呑童子の本拠地たる比叡山にある御殿のこと。
 先の新撰組による襲撃によって多少の被害を受けたとはいえ、まだまだ鬼の居城は健在。
 そこへいきなり攻め込めというのは、死んで来いと言う様なものである。一度失敗しているだけに、大規模な攻略作戦を行うというのは眉唾だが‥。
「や、別に真正面から斬り込め言うんやないよ。そんなん俺ら七番隊の特徴に合わんし。俺らの任務は、酒呑童子の戦力補充を妨害することや。最近になって、大和の方から流れた牛頭鬼と馬頭鬼の混成部隊が鉄の御所に入ったらしい。この前の討伐で向こうも結構数減らしたでな、まあ黙って見てる訳にもいかん」
 鉄の御所に新しく入った混成部隊。これらの鬼は所詮外様であり、鉄の御所の一番外側に配置されているようだ。
 隠密行動を得意とする七番隊は、冒険者と共に不意を突き、この部隊を強襲・撃滅するという。
 牛頭鬼、馬頭鬼の総数は不明だが、10匹は下るまいと思われる‥‥?
「だ、大丈夫なんですか? 前回の酒呑童子騒動の時、七番隊だけ全然動いてなかった気がするんですけど」
「‥‥いんや。後方で物資の輸送や各隊への伝達、負傷者の治療やら搬送やら、地味ぃ〜に頑張っとったよ?」
「ホントに地味ですね(汗)。いくら冒険者に協力を仰ぐとはいえ、そんな地味な七番隊の皆さんで戦えるんですか? ぶっちゃけ、今回も荒事は他の隊に任せて処々諸々の後方支援をしてたほうがいいのでは‥‥」
「‥‥一海君。世の中で一番救えんアホはどんなんかわかる?」
「へ? い、いえ‥‥」
「『補給なしで戦ができる』思うとるやつや。武具にしろ食料にしろ、物資が滞ったら戦ってなんてやってられん。つまり、ホンマの戦上手っちゅーのは補給隊にこそ強者を配置するんよ。まぁ、ぶっちゃけ‥‥あまり舐められるのは不本意だ。以後遠慮してもらおうか‥‥!」
「‥‥!」
 ぞく、と一海の背中を戦慄が走る。
 『ぶっちゃけ』以後の谷は、今まで一海が見たことの無いような表情と殺気を纏っていた。
 数秒も経たないうちにいつもの谷に戻ったが、一海は心臓の動悸が治まらない。
「‥‥にゃは。ごめんな、俺もちょい気ぃ立っとったみたいや。脅かすつもりはなかったんやけどなぁ」
「い、いえ‥‥こちらこそすいません。年上の方に、つい友達感覚で物を言っちゃって‥‥」
「実際お友達なんやからえぇやん。怒っといてなんやけどー(笑)」
 そして、依頼の手続きを終えた終えた谷は、やはりいつものように飄々と帰っていく。
 しかし、不意に足を止め、振り返った。
「一海君、七番隊の異名‥‥知っとる?」
「え? いえ‥‥」
「『隠行の逆星(おんぎょうのげきせい)』や。ま、意味は想像したって。ほな〜」
 新撰組七番隊による、鉄の御所への先制攻撃。
 果たして、酒呑童子率いる鬼の軍団の出鼻を挫けるかどうか―――

●今回の参加者

 ea0031 龍深城 我斬(31歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea1774 山王 牙(37歳・♂・侍・ジャイアント・ジャパン)
 ea2246 幽桜 哀音(31歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 ea5062 神楽 聖歌(30歳・♀・侍・人間・ジャパン)
 ea5414 草薙 北斗(25歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 eb0882 シオン・アークライト(23歳・♀・ナイト・ハーフエルフ・ロシア王国)
 eb1422 ベアータ・レジーネス(30歳・♂・ウィザード・人間・フランク王国)
 eb5451 メグレズ・ファウンテン(36歳・♀・神聖騎士・ジャイアント・イギリス王国)

●サポート参加者

ソムグル・レイツェーン(eb1035

●リプレイ本文

●集合
「はいはーい、右手を見たってや〜。こっからの眺めは絶景なんよ〜♪」
 酒呑童子の住まい、鉄の御所と呼ばれる比叡山の一角を目指す一行。
 その緊張感を根底からぶち壊すかのような明るい声で、旗の代わりに十文字槍を振って引率する谷三十郎。
 依頼に参加している冒険者は勿論、普段付き従っている新撰組七番隊の面々も呆れ顔だ。
「‥‥なんていうか、やる気が欠片も感じられないわね。あの人に指揮を任せて大丈夫なのかしら」
「大丈夫‥‥かどうかは分からん。俺も谷組長と親しいわけでもないしな‥‥」
「だ、大丈夫‥‥だと思うよ? 谷さん、やる時はちゃんとやる人‥‥だと思う‥‥(汗)」
「『だと思う』ばかりですね‥‥」
 シオン・アークライト(eb0882)を始めとして、今回集まった冒険者はかなりの実力者揃いである。
 龍深城我斬(ea0031)も色んな強者を見てきたが、谷はさっぱり読み取れない。
 参加者の中では一番谷と親しいと思われる草薙北斗(ea5414)でさえ、神楽聖歌(ea5062)の言うように谷の実力について推察でしか語れず、一行の不安は増すばかりであった。
 一行は七番隊が調べた移動ルートで鉄の御所に向っているのだが、道すがら随行している七番隊の平隊士に谷のことを聞いても、彼等も谷についてはよく分からないという。
「理解しかねます。部下にでさえ無能とも有能とも判断されないというのは」
「‥‥不謹慎ですが、いざとなった時楽しみです。谷組長の実力を是非見たいものですね」
「鬼達は引き受けます。皆様はそれぞれの活動をお願いします」
 ベアータ・レジーネス(eb1422)、山王牙(ea1774)、メグレズ・ファウンテン(eb5451)。
 彼等も一級の力を持つ冒険者だが、谷の実力は知らないし測れない。
 これはあくまで噂だが、新撰組の各組長は挙って凄腕で、特に一、二、三番隊の組長は文句なく強いとか。
 任されている隊の番号が若ければ若いほど強いなどという噂もあるようだが‥‥これは眉唾物である。
「うん? どったん?」
 夕暮れにはまだ少し早い山からの景色を眺めたまま、幽桜哀音(ea2246)は静かに髪を風に揺らしていた。
 そして、ぽつりと呟く。
「鬼、か‥‥彼等にも‥‥戦う理由‥‥あるのかな‥‥」
 谷は答えず、ただ幽桜の次の言葉を待った。
 ややあって‥‥ざざざ、と少し強い風が吹きぬけたところで、幽桜は踵を返した。
「いずれにせよ‥‥敵は討つ‥‥。それだけだけど‥‥」
「‥‥にゃは。ま、きばってこ〜や〜」
 行程は順調そのもの。あとは夕暮れを待って、牛頭鬼と馬頭鬼の部隊に奇襲をかけるだけ。
 ここ草薙が別行動をし、単独で鉄の御所への潜入を試みるようだが‥‥さてさて?
 この時、まだ誰も知りはしなかった。
 今回の戦いで、想像を超えるものを見ることになろうなどということは―――

●隠行の逆星
 牛頭鬼と馬頭鬼の部隊が展開しているのは、山中の開けた場所であった。
 木で身を隠しながら様子を伺う面々であったが、鬼たちの数が12匹いるのを見て、流石に少し凹んだ。
「牛頭鬼‥‥二年前は多人数で取り囲んでやっと一体倒した強敵だったな‥‥。それがあんなにぞろぞろいるわけか」
「こっちも‥‥昔より‥‥強くなってる‥‥と、思う‥‥」
「それは確かにね。それにしても、あいつら歯痒いわね。偵察って言う言葉知らないのかしら。ぞろぞろと雁首揃えて固まっちゃってまぁ。逆にやりづらいじゃないの」
「発見されたら、全てを相手にしなければならないようですね。とりあえず、オーラを付与しておきますね」
「パッシブセンサーのスクロールで確認しました。魔法で探られているということはありません」
 準備は整った。
 できれば広域攻撃魔法を持った魔法使いがいれば心強かったのだが、言っても仕方ない。
 山王とメグレズが谷を見て、合図を待った。
「‥‥え、俺が言うん?」
「リーダーは谷さんですから」
「むーん‥‥。よし。最初に言っておく! とっとと帰って飯喰いたい!」
「‥‥谷組長‥‥」
「わーん、冗談や〜。山王さん恐い顔せんといて〜」
「‥‥特に表情を変えた覚えはないのですが」
 とことん緊張感が無い男である。
「ほな、いってみよか〜。怪我はしゃーないとして、死んだらあかんよ〜!」
 そして、戦いの口火は切られた。
 木陰から走り出し、一行は3班に分かれて戦闘を開始する。
 一斑は、龍深城、山王、シオン。
 二班は、幽桜、神楽、メグレズ。
 三班は、谷と新撰組七番隊の平隊士が6人の計7人。
 ベアータは敵の増援などに備え、木陰に隠れたままブレスセンサーなどで警戒に当たる。
 先ほどシオンが言っていたが、鬼たちは雁首揃えて固まっていたため、一行に気付くと、一斉に武器を手にして襲ってきた。
 そう‥‥『12匹の鬼が一斉に』である。
「よし‥‥やっぱり腕は俺の方が‥‥って、おい!?」
「‥‥! 手数が‥‥多い‥‥!」
「私のように防ぐか、幽桜さんのように避けられないとまずいです! とはいえ、私もチャージングされると‥‥!」
 一匹一匹の腕は冒険者に遠く及ばないし、攻撃の連打もない。
 が、12匹と言う数と、しっちゃかめっちゃかな突撃のせいであっさりこちらの陣形が乱れる。
 防御方法が武器による受け主体になる面々では、動けなくなった場合に盛大な直撃をもらってしまうことだろう。
「‥‥腕自体は幽桜さんより少し上くらいでしょうか。達人に近い鬼が12匹‥‥!」
 山王も重たい一撃を得意とするが、回避となると弱い。
 迂闊に攻撃を繰り出して受けを放棄すれば、あっという間にやられる恐れがある以上、慎重にならざるを得ない。
「舐めていたわけじゃないけれど、厄介ね! 出し惜しみせずに必殺技いきましょ!」
 シオンはガードとデッドorライブで牛頭鬼の斧の攻撃を軽傷でやり過ごし、カウンターアタック+スマッシュで迎撃!
 一撃で鬼を瀕死に持っていくその剣閃から、彼女は青眼の返剣(ブルーアイズ・カウンターブレイド)と呼ばれるようになるのだが‥‥今はそんな場合ではない。
「一匹減ったと考えていいでしょう。七番隊の皆さんは‥‥?」
 神楽が戦場を見渡すと、七番隊の平隊士も、3人3人に分かれ、善戦していた。
 彼らは基本がよく出来ているらしく、派手さは無いが堅実に戦闘を推移させており、特に心配はないだろう。まぁ、あくまで三人でチームを組んで戦っているからではあるのだが。
「ほー。中々どうして、やるじゃないか! で、谷組長は!?」
 龍深城が、馬頭鬼をオフシフト+カウンターポイントシュライクで瀕死に追い込みながら谷を探すと‥‥。
「きゃーきゃー。たーすけて〜♪」
 三十過ぎのおっさんが、かわい子ぶった悲鳴を上げつつ十文字槍で馬頭鬼の攻撃を捌いていた。
 誰もがツッコミを入れたかったが、実は違う。
 よくよく見ると、谷は単身で敵のド真ん中にいるのに連続攻撃を受けない。
 谷の場合、避けるのが卓越しているわけではないのだが‥‥?
「‥‥わかった‥‥。谷さん‥‥『強い』けど‥‥多分、それ以上に‥‥『巧い』‥‥」
「戦場の流れを掴むのが上手いんだわ。見て、足元に転がっている石なんかも計算に入れて移動してる‥‥!」
 谷の実力は一番隊の沖田や三番隊の斉藤に及ばないが、周囲をよく見て効果的に動くことを知っている。
 それは、言うほど簡単な事では無い。戦いには相手がいる、熟達した戦士でも敵の次の行動を読み切るのは不可能だ。シオンは谷の戦い方を、ある種の兵法ではないかと感じた。
 だが谷が今、連続攻撃を受けない位置、自分が攻撃しやすい位置へとするする移動しているのは、余程賭けに強いか、或いは人が悪いとしか思えない。
「‥‥!? 今、谷さん攻撃しましたか?」
「そうは見えませんでしたが‥‥ええい、邪魔です! ‥‥とにかく、鬼が血を出している以上攻撃したんでしょう」
 大天使の兜と鎧を身に纏い、石柱のごとき武器を振るって雄々しく闘うメグレズ。
 その姿はまるで神話の時代の戦神のようだ。
 その影に隠れるような谷の攻撃はとても見づらい。ブラインドアタックのようだが、何気ない動作から放たれる斬撃には独特の間があった。
 ニコニコして毒ない普段の振る舞いは、乱戦の最中でも変わらない。相手にしてみれば、ちょっと怖い。
 と、その時だ。
「みなさん、こちらに向ってくる敵の増援らしきものを感知しました。数は11です」
 いつの間にか戦場に近づいてきたベアータが、さらりとそんなことを言う。
「そういうことは早く言ってよ! それに、もっと大きな声で叫べばこっちまで来なくてよかったでしょ!?」
「はぁ。すいません」←天然
 そんなやり取りをする暇は無い。確かにここにいた鬼たちは半分くらいにまで減らしたが、こちらも手傷は負っている。
 そこにまた同じ数の増援など来られては、体力的にも厳しいのだ。
「‥‥谷さん‥‥。時間‥‥あまり、稼げてないけど‥‥退く‥‥?」
 桜の花びらが流れ舞うかのような、軽やかにして優雅な幽桜の動き。彼女だけ無傷なのは、その体捌きあってこそだ。
 しかし、彼女も微妙に息が乱れ始めているのを谷は見逃さなかった。
「んー、せやね。引き際間違ぅたら損するばっかりや。ベアータさん、接触までどれくらい?」
「急いでいるわけではないようですので、およそ2分くらいでしょうか」
「充分や。みんな、ちょいとばかり残りの連中足止めしとって〜」
 谷がふっと笑顔を崩したと思った次の瞬間、すでに谷は行動を開始していた。
 慌ててそれに続く冒険者たち。猛り狂う鬼たちを、疲労の出始めた身体に鞭を打って喰い止める!
 いつの間にか鋭い表情になっていた谷は、例の兵法もどきで戦場を駆け、瀕死状態ながらまだ生きていた鬼たちに次々と止めを刺していく。
 鬼に精錬された治療術があるとは思えないが、止めは刺しておくに限る。
「手柄を掠め取るようでいい気はせんがな。時間が無い‥‥悪く思うな」
 ポイントアタックやポイントアタックEXを駆使し、急所を狙って確実に仕留めていく。
 両端に刃がついている十文字槍だけに、あっちこっちに手を出すのにも適しているようだ。
 殺せると判断した鬼全てに一撃を加えた谷は、すぐさま撤退の指示とベアータへ魔法を要請。
「ほな、さっさと引き上げよか。後は草薙君が上手くやってくれるのに期待や〜♪」
 ベアータがストームで支援し、一行は撤退しようとする。
 しかし、その時―――!

●少年の見たもの
「な‥‥に、これ‥‥?」
 たった一人、鉄の御所内部に潜入した草薙が見たものは、一つの庭に四季の景色が広がるという異界であった。
 人遁の術で背を縮め、失踪の術でスピードを増し、パラのマントの姿を消す能力と隠身の勾玉を活用しながら内部構造を記憶するために活動していた草薙。
 途中幾度も鬼に出くわし、追い立てられるようにして辿り着いたのがこの『四方四季の庭』。
 まだ御所の様子は把握し切れていないのだが、一先ずはここで姿を消し、一息つきたいところだ。
「この庭のことも気になるけど‥‥なんて鬼の数なんだろ。あっちにもこっちにもいて、一人じゃとてもじゃないけどまともに調べられない‥‥!」
 幸い、辺りに鬼の気配は無くなった。
 この不可解な庭にいるのは少々気が引けたが、休めそうなのがここしかないのだから仕方がない。
 ややあって‥‥草薙は再び屈強な鬼の巣窟へと戻り、今度は出口に向って一直線に向う。
 無理をしてやられてしまっては元も子もない。彼の任務は、御所の情報を持ち帰ることなのだから。
 草薙ほどの装備・術・実力を持った忍者でさえ探索が困難な鉄の御所‥‥その脅威は、衰えていない―――

●脅威
「そこで何をしている?」
 ベアータが放ったストームの土煙で見えづらいが、小さい崖の上に人影があった。
 二本の角を生やした人に似たその鬼は、片腕が無い‥‥!?
「鬼退治に来たというなら、長として相手をしよう」
「‥‥! まさか、貴様は‥‥!?」
 山王はその人影と声で体に戦慄が奔ったが、他の面々は分かろうはずもない。
 ただ、そいつから感じる寒気にも似た圧倒的な威圧感だけが背筋を駆け上ってくるのだ。
 崖を降り、近づいてくるその人影を見て、谷は即刻叫んだ。
「まずい! ベアータ、もう一度ストームだ! 足止め程度になればいい!」
「‥‥」
 体力自慢の鬼達にストームは効きにくい。まして相手は風使いの鬼王。谷はそれを知らないのか、いや知っていてもそいつ相手に出来ることは限られている。嵐をものともせず近づいてきた隻腕の鬼は、手にした斬馬刀を幽桜に振り下ろした!
「‥‥速―――」
 最後まで言う事すらできず、幽桜がたたっ斬られる。
 真っ二つにされなかったのが奇跡のような斬撃。そばにいた七番隊士が倒れる。衝撃で吹き飛んだ彼女を仲間が助けた。
「させるもんかぁぁぁっ!」
 その時、マグナソードを手に切りかかったのは偵察に出ていた草薙!
 どうやら無事に御所を脱出し、合流できたらしい。
「みんな、哀音さんを連れて速く逃げて! 僕なら微塵隠れがあるから時間が稼げるはずだよ!」
「ならば私も残ります! 私くらいの重武装であれば‥‥」
「駄目よ、メズレズ。あなたじゃ皆が逃げ切った後に自分が逃げ切ることができない。いいから速く逃げるのよ!」
「シオンの言うとおりだ。偵察や戦力削りに来てこんな大物に出くわしたら話にならん‥‥!」
「ライトニングトラップを仕掛けます。皆さん急いで。草薙さん、逃げる時に踏まないでくださいね」
「山王さん‥‥まさかこの場で決着を、なんて仰いませんよね?」
「‥‥そこまで愚かではありませんよ。ただ、やつへの借りが一つ増えることに違いはありませんがね‥‥!」
「‥‥任せる。任せるが‥‥! 死んだらあかんよ、草薙君!」
「まっかせといてっ!」
 冒険者のやり取りを酒呑童子は見つめていた。決死の表情で草薙が睨みつけると、斬馬刀をゆっくり構えた。童子の怪力で振るわれるそれは、触れただけで彼の肉体を粉々にするに違いない。

「‥‥」
 数刻後、ずたずたになった右腕を庇いながら、草薙はなんとか生還した。
 すぐに再生させ、治療して跡は残らなかったが、‥‥苦痛に僻んだ顔を仲間達は悲しそうに見つめる。
 冒険者と七番隊の前に現れた、人智を超えた鬼。
 果たして、人類はやつに‥‥鉄の御所に打ち勝てるのであろうか―――