あだ名屋、地味に継続中
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■ショートシナリオ
担当:西川一純
対応レベル:フリーlv
難易度:易しい
成功報酬:5
参加人数:6人
サポート参加人数:6人
冒険期間:09月13日〜09月18日
リプレイ公開日:2007年09月20日
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●オープニング
世に星の数ほど人がいて、それぞれに人生がある。
冒険者ギルドでは、今日も今日とて人々が交錯する―――
「一海君、突然で悪いが聞きたいことがある」
「はい、何でしょう」
ある日の京都冒険者ギルド。
京都の何でも屋の藁木屋錬術は、ギルド職員の西山一海に問いかけた。
「『スクールライフ』とかいう本を知っているかね?」
ずざっ!
藁木屋からそのタイトルが出た瞬間、一海は高速で一歩後ずさる。
「‥‥なんだねそのリアクションは」
「い、いえ、まさか藁木屋さんからスクールライフの話が出るとは夢にも思わなかったもので」
「私もよく知らないから君に聞いているんだ。アルトが読んでいたんだが、見ようとしたら隠された。どういう話なのか、妙に気になってね‥‥一海君なら詳しかろうと思ったのだよ」
「えーっとですね、日本で書かれた欧州を舞台にした本で、ジャスティスっていうヘタレ主人公を巡る、アリス・ワールドさんとエリカ・ラングエッジさんという二人の女の子がいまして、優柔不断なジャスティスのせいで周りの人間の殆どを巻き込む三角関係が展開されていく‥‥という話です」
「‥‥聞くだけで嫌になるな。というか、そんな主人公の名前が何故にジャスティス?」
「知りません。作者さんに聞いてください」
「で、三角関係は分かったが、それは面白いのかね? アルトは随分熱心に読んでいたようなのだが」
「面白いっちゃあ面白いですよ。特に、ラングエッジさんがノコギリ持ち出す辺りとかが」
「もういいもういい、聞いた私が馬鹿だった。気にしないことにする」
「ワールドさんもナイフ持ち出したりしますし、実に殺伐とした―――」
「もういいと言うに。気分を変えて依頼の話をしていいかね?」
そう言って藁木屋が取り出したのは紙の束。
一海が見せてもらうと、あだ名を希望する旨や不本意なあだ名を払拭して欲しいという類の内容であった。
つまりは、いつぞや開催された『あだ名屋』としての依頼らしい。
依頼の参加者と面談を行い、希望などを聞いた上で藁木屋たちが動き、その情報力を活かしてあだ名の操作を行う。
冒険者のみならず、一般人でも意外とこの類の仕事を依頼してくる人は多いとか。
「随分久しぶりですね?」
「これでもちまちま片付けてはいるのだがね。土角龍・芭陸の件も片付いたし、いい機会だと思ってな」
再び開催される、あだ名をつけたり消したりする依頼。
はてさて、今度はどんな人間模様が描かれるやら―――
●リプレイ本文
●将門雅(eb1645)の場合
「まいど〜。有形無形万の品を扱う万屋将門屋(しょうもんや)の店主、将門雅や。また来たで」
「お久しぶりですな、将門殿。御愛顧に感謝‥‥とでも言うべきでしょうか」
将門は以前にもあだ名関連の依頼に参加したことがあり、その時に『売人×玄人』というあだ名を付けられた。
この依頼は、必ずしも本人が望むようなあだ名が付けられるとは限らないため、リベンジといったところだろうか。
「前回藁木屋はんが考えてくれた『影動の商人(えいどうのあきんど)』ってのはええと思うたし、折角考えてくれたんやからあだ名にしたいなと思うてね。それにもったいないしね」
「あうぅ‥‥で、でも‥‥休みがちな、お店の、店主さん‥‥ですし‥‥」
「なんかゆーたか?」
「はうっ!? い、いえ、何も‥‥」
今回彼女が希望しているあだ名は、前回藁木屋が提案したものなのだが、アルトノワールに却下された。
その時、彼女は一回目の性格変化の真っ最中であり、明るく活発的だったのだ。
「しかし、アルトはん、えらく雰囲気が変わったんやけど大丈夫なん?突っ込みも弱いし‥‥」
「まぁ、色々ありまして。しかし、暫く会わないうちに商売を拡大されたのですな。江戸に支店と、那須にも支店を出す御予定だとか。景気がいいのはよいことです」
「おーきに。でな、そのご祝儀代わりと言っちゃあ何やけど、かっこええあだ名欲しいねん。な? な?」
「一応動いてはみますが‥‥浸透するかどうかは運次第ですぞ?」
「‥‥き、希望する、あだ名に、限って‥‥広まらなかったり、するんですよね‥‥(ぼそ)」
「なんかゆーたか?」
「べ、別に‥‥」
「まぁ、機体して待っとるわ。なぁなぁ、ところでアルトはん。その読み物おもろいん?」
と、将門は今日もアルトが持っていた本を指差す。
アルトが最近お気に入りと言う、スクールライフという本だ。
「斜め上を、いく意味でなら‥‥面白い、ですよ‥‥。よ、よかったら、お貸し、します、けど‥‥」
「ホンマ? おーきに♪」
乙女の秘密だと、結局藁木屋には内容は明かされなかったが‥‥はてさて、将門のあだ名は広まるであろうか―――
●所所楽柊(eb2919)の場合
「アルトさんは久しぶりだったかな? 錬術サンは‥‥先日に勝手に知り合いの振りしちゃってたから、初対面っぽくない印象なんだが‥‥はじめましてになるな、よろしく〜」
「は、はい。お久しぶりです‥‥(微笑)」
「いやいや、お気遣い無く。アルトから話は聞いていたからね‥‥潜入訓練の時はご苦労様」
普段着で、帯剣の武士状態、髪もぼさぼさ、化粧っけが全くなしの所所楽。
彼女は新撰組に所属しており、隊の活動が裏方っぽいせいか、生業の方でも、護衛もしくは護衛対象を尾行するように追いかけて護るといった具合の仕事が多いらしい。
実際に、屯所に居るときもこういうラフないでたちで、目立たないように気をつけてるらしい。
が、やはり所所楽も女の子。こういった仕事ばかりでは寂しかろう。
「‥‥すまん、来たばかりだけど、ちょっと準備させてもらっていいかな〜?」
そう言って、一度厠に姿を消し、今度は芸妓仕様に着替えて戻って来た。
常に舞う様な仕草が、先ほどのラフな格好の所所楽とはどうも繋がらない。
「隊士と言う立場を隠したいときとか、護衛対象のそばに控えたりするときなんか、こうやって女装してるって〜わけ。身長からすると目立つけど、普段地味に過ごしている分ばれないもんでさ、今までもばれずにやってこれてる」
「ふむ‥‥中々どうして、これはこれで似合うと思うが」
「‥‥ま、馬子にも衣装‥‥」
「なんか言ったか〜?」
「い、いえ、何も!?」
「とにかく、上手くいえないけど、素の隊士の立場とか、そういうのを隠すための移し身みたいなあだ名、あればいいな〜って思って来たんだ。あだ名で、たった一人を示すって〜の、ちょっと憧れるしさ」
「では、そうだな‥‥『閃く揚羽蝶』というあだ名はどうだろうか」
「お、中々カッコイイな〜。その心は?」
「蝶は蛹から羽化するだろう? 本来の所所楽嬢の素性を蛹と見立てた。しかし、所所楽嬢は人間。蛹に戻ることもあれば、舞い踊るだけの蝶でもない。蝶のひらめく姿と、刀の閃きをかけて、『閃く揚羽蝶』だ」
本人も気に入ってくれたようだし、藁木屋たちはこのあだ名を広めようと動くことになる―――
●明王院浄炎(eb2373)の場合
「い、『意外とおっちょこちょい』‥‥? え、えっと‥‥全然、そんな風に、見えないんです、けど‥‥」
「俺がお市殿の話を聞き落としてしまったが為に、折角の策が無駄となり、足軽達には要らぬ怪我をさせ、可成殿には不要の負担を掛けてしまった。本来ならば、笑い話で収まる話ではなかろうに‥‥笑い話で済ませてくださった御二人の心の広さに感謝すると共に、何とも申し訳なくてな」
明王院は、どちらかといえば、一人心苦しい想いを抱えていた折にこの依頼を見つけ、藁木屋たちに称号を消してもらうのではなく、話を聞いて貰う事で自らの手で挽回すると言う誓いを立てる機会にしたい‥‥と言うのが動機の様子だ。
見た目どおり、真面目で一本気な性格のようである。
そんな彼にこのあだ名がついているのは、ある意味不自然ではあるが‥‥。
「なるほど‥‥よろしければ、私たちが払拭に動きますが?」
「いや、話を聞いてもらえただけで結構だ。やはり、自らの手で挽回せねば申し訳が立たぬのでな。心遣い感謝する」
「‥‥お、汚名を、挽回‥‥?」
「‥‥汚名は返上するものだと思うが?」
「はぅ‥‥す、すいません‥‥似合わない、ボケは‥‥するものじゃ、ありませんね‥‥(泣)」
時に、他人に聞いてもらうだけで心が軽くなることもある。
意図したわけではないが、この依頼がそんな場になるのも、やぶさかではない藁木屋たちであった。
彼等的には、『毘沙門天の使い』というあだ名を進呈したかったのだが―――
●ジルベルト・ヴィンダウ(ea7865)の場合
「動機? そうね、何と無くかしら。浄炎さんが良い身体つきしてるからじゃ、ダメかしら」
軽く笑って明王院の方を見るジルベルト。
明王院のほうは、気付かなかったふりをして茶を啜っていたが、ジルベルトにとっては想像通りのリアクションだったらしい。さらっと耳にかかった髪をかき上げ、藁木屋たちに視線を戻した。
「フフ、あだ名の一つも有ったら箔がつくでしょ。そうね‥‥『夕映え天使』なんていうのはどうかしら」
「ほう。その心は?」
「これを見て頂戴」
そう言って、高速詠唱でクリエイトファイヤー初級を掌で発動させる。続けて高速詠唱でファイヤーコントロール初級を成功させ、生み出した炎を操作しまるで赤いリボンを操る様に自分の周囲を躍らせる。
炎に照らされて、まるで夕映えに染まるが如き姿に、他の参加者たちも感嘆の息をついた。
「それに、あたし一寸惚れっぽいから」
と、藁木屋のあごに自らの人差し指を這わせ、フフ、と笑った。
「だ、駄目ですっ! れ、錬術は、私のなんです‥‥っ!」
慌ててアルトが邪魔に入り、藁木屋とジルベルトを引き離す。
これもジルベルトの期待通りのリアクション。
楽しそうに笑い、彼女はくるりと背を向けて言った。
「別にこのあだ名でなくてもいいわ。綺麗な二つ名なら何でもいいの。これ以上からかうとアルトノワールさんに怒られちゃいそうだから、今日はこの辺で、ね。フフフ‥‥」
夕映えに飛ぶ天使は、随分小悪魔的なのだな、などと思う藁木屋であった―――
●鳳令明(eb3759)の場合
「じゃじゃじゃ令明なのじゃ! よろしくなんじゃ! 夢は博物館を建てたいんじゃ! 京都土産にあだ名が欲しいのじゃ!」
やたらテンション高くまくし立てるのは、シフールの男性の鳳。
まぁ、シフールの男性自体はさして珍しいものではないのだが‥‥。
「財産の管理をしているので滅多に冒険にださせてもらえないんじゃ。今こそ、俺の力を見せるときなのじゃ〜!」
「あー、すまない。話の腰を折るようで申し訳ないのだが、そこに置いてある巨大な物体は何かね?」
と、藁木屋が指差したのは、さぞかし色んなものが入っているであろう巨大な箱である。
ジャイアントでも持ち上げるのが厳しそうなこの箱は、間違いなくシフールでは押しつぶされて終了だろう。
「俺のバックパックなのじゃ! 見た目どおりお察しの通り、色んなものが入ってるのじゃ! 見よ! 我が財の力をっ! 断じて倉庫番では、断じて倉庫番では〜!」
「そ、倉庫番が、どうとかは‥‥き、聞いて、ません‥‥(汗)」
どうやって持ち歩いているのかも気にはなるが、それよりまずあんな量をバックパックとして持ち歩くのは色んな意味で止めておいた方がいいと思われるのだがいかがろう(何)。
「ところで藁木屋どの。アルトノワールってもっとツンツンしていて毒がだだもれの子だった気がするんじゃが‥‥何があったんじゃらほい」
「あぁ‥‥まぁ、かくかくしかじかまるまるくまぐま」
「豆腐の角に頭をぶつけて性格が変わって、それを治そうと全力バトルしたら打ち所の悪い一撃を貰ってまた性格が変わったわけか〜。すっかりオモシロ要員なのじゃ〜」
「そ、そういう、こと、言う方は‥‥『ざ・倉庫番なのじゃ!』って、あだ名を‥‥付けちゃいます‥‥!」
「ぬおっ!? 俺のあだ名だけカッコよくないのじゃ! 差別なのじゃ! それは決定事項なのじゃ!?」
「わーん、け、決定事項、ですぅ〜!」
ビーストアーツをお披露目する暇も無く、広めるあだ名を決められてしまった鳳であった―――
●神楽龍影(ea4236)の場合
「神楽龍影と申します、宜しく御願い致します」
最後に登場したのは、神皇の為に働く志士である神楽である。
戦闘は苦手で、交渉事中心であっても、彼なりに命を賭して今まで生き残ってきたという人物だった。
「あ‥‥さ、『酒場のころころお面さん』、ですね‥‥」
「お願いしますからそのあだ名を広めるのはご勘弁願いたく‥‥(泣)」
「お気になさらず。しかし、私も神楽君のことはよく耳にするが‥‥大変なことになっているようだね」
「はい‥‥何でも話しによれば、尾張の虎長公が復活されたとか‥‥。その、生前の神剣捜索の際に、虎長公は宣言なさっておりました。内容は、えぇと、嫁が何とか、鈴鹿殿がとか、嫁に何とか、色々と‥‥(顔を真赤にしつつ)」
「‥‥もし? 何か脱線しては―――」
「と、とにかく! 虎長公からも認められるような男でなくては、その‥‥そうした嫁に出したり出さなかったりとか、可能性が御座らぬでしょう!?(少し肩で息をしつつ咳払い)」
「錬術‥‥み、見てて、こっちが‥‥恥ずかしくなる、くらい‥‥真っ正直な、人‥‥だね‥‥」
「からかうな。こういう純粋な人間は今時貴重なくらいだぞ。ところで神楽君、その面は鈴鹿嬢に貰ったとか‥‥?」
「は、はい‥‥一応は。し、しかし、鈴鹿殿は本当は私のことを好きなのではなく、信頼してるだけ、或いは黒虎の隊長を務めているからその褒美と言う以上の意味はないのではないかとですね‥‥!」
「‥‥錬術‥‥」
「それはわかったとゆーに。‥‥神楽君、深くは言及すまい。ただ、『面秘双想(めんひそうそう)』というあだ名を送ろう。自分自身の想い‥‥そして鈴鹿嬢の想い。それを大事にするといい。そして、何の気兼ねなく想いが通じるようになったなら‥‥」
面を取り、素顔で彼女を抱きしめてやればいい。
その藁木屋の真意を、神楽は察してくれただろうか‥‥?
とにかく、藁木屋とアルトは彼らのあだ名を定着させるため、地味な仕事を続けるのである。
一部確定の方もいらっしゃるようだが‥‥さてさて、あだ名が本当に定着するのはいったい誰であろうか―――