謎の抱きつき魔!

■ショートシナリオ


担当:西川一純

対応レベル:6〜10lv

難易度:普通

成功報酬:3 G 9 C

参加人数:5人

サポート参加人数:3人

冒険期間:10月18日〜10月23日

リプレイ公開日:2007年10月26日

●オープニング

世に星の数ほど人がいて、それぞれに人生がある。
冒険者ギルドでは、今日も今日とて人々が交錯する―――

「か、一海さんっ! い、今すぐ依頼を、お願いしますっ!」
「はい!? あ、アルトさんじゃないですか‥‥なんですかいきなり」
 ある日の京都冒険者ギルド。
 職員である西山一海のところにやってきて、開口一番泣きそうな顔で叫んだのは、アルトノワール・ブランシュタッドという京都の何でも屋であった。
 二人は友人だが、一海はアルトがこういう風なアクションを起こすところを見たことがなかった。
「さ、最近噂の、通り魔の話は、知ってますよね?」
「あー、なんか聞いた事がありますね。一人歩きしてるいい男がいたらいきなり抱きついてくるとか」
「そ、そうです。じ、実は昨日、錬術が、その通り魔に襲われたんです‥‥!」
 錬術とは、アルトノワールの相棒で、藁木屋錬術という何でも屋である。
 彼も一海とは友人で、しょっちゅうギルドに出入りしているわりといい男だ。
「藁木屋さんが? で、やっぱり抱きつかれちゃったので?」
「ち、違いますっ! れ、錬術の身のこなしは、知ってるでしょう? ちゃんと、逃げ切った‥‥そうです」
「つまりませんねぇ」
「つ、つまらなくありません! 一海さん、自分が被害者になったところを、想像してみてください! そんなことが、好きな娘に知られたら、どんな気分になりますか!?」
 一海は両手の人差し指を頭に当てて、想像の翼を広げてみる。
 見も知らない女性に無理矢理抱きつかれたれた挙句、風雷桜花さんにそのことを知られたとしたら‥‥。
「今すぐとっ捕まえましょう(泣)。うわー、なんかすっごい嫌な気分に‥‥」
「で、でしょう? ほ、本当は、私が直接、捕まえたいんですけど‥‥ちょっと、忙しくて。そ、それじゃ、依頼書、お願いしますね。ぜ、絶対、捕まえてくださいね‥‥!」
 そう念を押して、アルトノワールは去っていった。
 依頼書製作に取り掛かった一海は、ふと思う。
 自分は被害者になったら誤解を受けそうなので嫌だが、世の中にはそう思わない男も多いはず。
 むしろ、ラッキーだと思う被害者(?)も少なくないのではないか、と。
「いやいやいや。立派に迷惑行為なんですから、捕まえないと」
 セルフツッコミしながら、依頼書製作に戻る一海。
 果たして、謎の抱きつき魔を捕まえることはできるのであろうか―――

●今回の参加者

 ea0927 梅林寺 愛(27歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 ea5443 杜乃 縁(31歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 eb2295 慧神 やゆよ(22歳・♀・陰陽師・人間・ジャパン)
 eb6553 頴娃 文乃(26歳・♀・僧侶・人間・ジャパン)
 eb7816 神島屋 七之助(37歳・♂・陰陽師・人間・ジャパン)

●サポート参加者

島津 影虎(ea3210)/ 槙原 愛(ea6158)/ マアヤ・エンリケ(ec2494

●リプレイ本文

●聞き込み中
 某月某日、京都。晴れ。
 昼間のうちに行動を開始した五人は、今まで抱きつき魔の被害に遭ったという人たちに接触をはかり、その人物像や手口に迫ろうと聞き込みをしていた。
 次々に被害者に話を聞くが、大概の被害者は身震いをしてその時の事を話したがらない。
 犯人が女であるということと、夜に襲われたということは確かなようだが、どうにも不審だ。
「解せないわね。何か恐いことでもあったみたいだけど、殆どの人がそれを隠したがるのはどうしてかねェ」
「さぁ。私はそもそも抱きつかれなかったのでなんとも」
 頴娃文乃(eb6553)を始めとする冒険者五人は、最後の被害者であると同時に依頼人の相棒でもある藁木屋錬術にも聞き込みを行っているのだが、やはり犯人像は浮かんでこない。
 髪が長く、わりと美人なくのいちだということはわかったが、使う術も疾走の術くらいしか判断ができなかった。
「つまり、本当のところは抱きつかれるだけでは被害が終らないということでしょうか?」
「えぇっ!? だ、抱きつかれた後の被害ってどんなことですか!?」
 神島屋七之助(eb7816)の推論に対し、過敏に反応する杜乃縁(ea5443)。
 まぁ、この二人はこの後、囮役として抱きつき魔の脅威に晒されるのだから仕方がないとも言えるが。
「むむむ。犯人像が見えてきたのですよ〜」
 と、そこで今まで腕組みをしながら唸っていた梅林寺愛(ea0927)が声を上げた。
 一同は梅林寺に注目し、次の言葉を待つ。
「今までの被害者さんの特徴は、いい男であることと、黒髪であること、あと男の人にしては髪がちょっと長めということなのですよ。つまり、今回の囮役に適任なのは縁なのですよ!」
「おー! じゃあ、僕の占いの結果で出た一番の危険地帯には、縁おにぃーさんに行ってもらおー!」
 梅林寺と慧神やゆよ(eb2295)が手を突き上げ、ノリノリで話を進める。
 が、その話を聞かされて穏やかではないのは杜乃である。
「ちょっ、ちょっ、そんな!? どんな恐ろしいことがあるのかも分からないのに!?」
「大丈夫よ。命をなくすわけじゃないんだし。犬にでも噛まれたと思って我慢してね」
「犬!? 噛まれたってなんですか!?」
「なに、私も危険地帯に配置はされるんです。確率の問題ですよ、はっはっは」
「神島屋さんー!? 自分は髪が短いからってー!」
「縁おにぃーさん、大丈夫! 魔法少女はね、京都のかっこいーおにぃーさんの味方だもん♪」
「頼もしいような頼もしくないようなー!?」
「さぁさぁ、では縁と七之助、どっちの方に抱きつき魔さんが来るか、張った張ったなのですよー!」
「僕の運命で賭けごとしないでください! っていうかみなさん全員僕にかけるのやめてくださいよー!」
 杜乃の泣き声が響く中、藁木屋だけはのんびり茶を啜っていた。
 今、自分が知っていることを口にしたら、杜乃が逃げ出してしまうような気がしたからである。
(「‥‥言えん。犯人が『うふふふふふ‥‥‥‥!』と言い残して逃げたなどと‥‥」)
 馬鹿をやっているうちにも時間は過ぎる。
 夜の帳が降り始めた頃、五人は藁木屋と別れたのであった―――

●抱きつき魔、現る
「ううう‥‥あまり乗り気ではないですが‥‥というか物凄く嫌ですが‥‥仕方ないです‥‥」
 一行は慧神の占い(及びフォーノリッジの魔法)に従い、二箇所の危険地帯に別れた。
 もうすでに泣きが入っている杜乃の側には梅林寺とその愛犬が。
 大分気が楽になった神島屋の側には、慧神と頴娃、梅林寺の愛犬が一匹。
 とはいえ、この危険地帯はかなり近しいため、気合を入れて叫べば異変がもう一班にも伝わるだろう。
 そういう意味では杜乃も少しは安心したのだが‥‥。
「見慣れた京の街も、通り魔が出るかと思うと不気味に見えますね‥‥(汗)」
 いくら梅林寺が守ってくれているとはいえ、相手は謎の抱きつき魔。
 しかも抱きつくだけでは済まなそうな気配が濃厚である以上、怯えるのも無理は無い。
 そして、張り込みを始めて一刻ほど後―――
「っ!?」
 周辺に妙な気配を感じた時にはもう遅かった。
 回避に恵まれていない杜乃は、すぐに反応できず振り向く間も無く抱きつかれてしまったのである。
 しかも、背後から。
「うふふふふふふ‥‥! あははははは‥‥! 男‥‥イイ‥‥オトコ‥‥!」
 ぞくっ!
 耳元で囁かれたその声は、すでに正気の沙汰ではないような気がした。
 命の危険‥‥というより、何か別な方面の危険を感じる。
 背後から抱きつかれた杜乃は、当初予定していた逆に抱きしめることでの束縛ができないため、せめて叫ぶことで身の危険を他の面々に伝えようとしたのだが‥‥。
「駄ぁ目‥‥。くすくす‥‥キモチイイコト、しましょ‥‥? うふふ‥‥!」
 手で口を塞がれ、もう片方の手で胸元をまさぐられる。
 その妙に慣れた手つきが、今はただ恐ろしい。
 と、その時。近場で犬が遠吠えし、抱きつき魔に対し誰かが音もなく飛び掛った。
「うふふ‥‥邪魔しちゃいやぁよ‥‥お嬢ちゃん‥‥!」
「気付かれたっ!? 気配も音も殺してたはずなのですよ!」
「あんな近くで不自然に犬が吠えれば、嫌でも誰かいるって気付くわよ。くすくす‥‥なぁに? あなたも相手して欲しいの? でも駄ぁ目。わたし、そっちの気はないの‥‥うふふ‥‥!」
「わっ、あっ、ちょっと! へ、変なところ触らないでください!」
「くすくす‥‥初心なのねぇ。力を抜いて‥‥わたしに任せて‥‥。くすくすくす‥‥!」
「後学のために観察していたい気もするのですよ‥‥。でも駄目なのです! 遊丸!」
 愛犬にも攻撃を命じ、梅林寺は抱きつき魔への攻撃を再開する。
 月明かりの下で見るだけでも、相手はかなり美人だと分かる。
 そんなくのいちが何故こんな真似(あるいはそれ以上)をするのか、梅林寺にはほんの少しだけ心当たりがあった。
「まさかあなた‥‥『堕ちちゃった』人なのですよ!?」
「あらぁ‥‥ご同業? くすくす‥‥まぁ、そう呼ぶ人もいるわねぇ‥‥!」
「え? え!? 梅林寺さん、何か知ってるんですか!?」
「そ、それは、なのですよ‥‥」
 口篭る梅林寺。だがその時、神島屋たちが到着、頴娃のホーリーと神島屋のスリープが放たれる!
「ぐっ! あらあらぁ、お仲間なんて酷いじゃない。あら‥‥でもそちらの陰陽師さんも中々いい男ねぇ‥‥うふふ‥‥!」
「じゅ、純粋に褒められてるはずなのにちっとも嬉しくありませんね‥‥(汗)」
「スリープは抵抗したみたいね。あたしのホーリーも‥‥次は杜乃さんを盾にされちゃうかねェ」
 神島屋もすぐに抱きつき魔の尋常ならざる雰囲気に圧倒され、被害に遭わなかったのを心の底から喜んだ。
 とはいえ、杜乃を人質に取られているも同然のこの状況では、追撃も難しい。
 しかも相手は、いい男とはいえいざとなれば平気で杜乃を害するだろう。そういう目をしている。
「ところで梅林寺さん、さっき言いかけてたのはなんなの? 今は少しでも情報が欲しいんだけど」
「はうっ。え、えっとなのですよ‥‥く、くのいちには、房中術というのがあるのですよ‥‥」
「もういいです、大体分かりました! つまり、修行中に快楽に負けてしまい、それだけを求める人になってしまったというわけですか! 被害者の人たちの口が重いのも‥‥!」
「大の男が女相手に好き勝手されたから、バツが悪いって? まったく、男っていうのは‥‥」
「あらぁ‥‥みんないい声で鳴いてくれたわよ? うふふ‥‥あなたもいい声で鳴いてくれそうだし‥‥そそるわぁ‥‥!」
「うわわわわっ! なんで僕ばっかりこんな目にぃぃぃ!?」
 抱きつき魔が、杜乃の首筋に舌を這わせた次の瞬間。
「ちっ!」
「はぐあっ!?」
 後方から何かが迫ってくることを察知した抱きつき魔は、仕方なく杜乃を放して退避。
 すると、残された杜乃だけが何者かにダイビングボディプレスをかまされた。
「あちゃー。ご、ごめんね、縁おにぃーさん!」
「くすくす‥‥気配が駄々漏れなのよ、お嬢ちゃん」
「僕みたいな女の子に抱きつかれるのは嫌だと思ったんだけど‥‥失敗しちゃった(汗)」
「勿論好ましくはないわねぇ。まぁ、スリープ使いさんがいるならさっさと逃げた方が得策かしら。まだまだ味わい足りないのよ‥‥オトコをね。くすくすくす‥‥!」
 そう言って、抱きつき魔は身を翻す。
 追おうとした梅林寺を、神島屋が止めた。
「お二人の疾走の術の速度には、私たちはついていけません。単独行動は危険ですよ」
「うぅ‥‥でも、同じくのいちとして複雑なのですよ‥‥。ところで念のために、私は房中術は習ってないので悪しからずなのですよー」
「梅林寺さんがそんなの習ってるなんて言われたら、あたしはひっくり返るねェ」
「あれ? 縁おにぃーさん? おーい、もう抱きつき魔さんはいなくなったよー?」
「ううう‥‥き、緊張の糸が切れました。足が言うことを聞いてくれません‥‥」
「新しい世界でも開けました?」
「開けませんっ!」
 かくして、出現頻度は下がったものの、未だ京都には抱きつき魔が徘徊する。
 傷ついた(?)杜乃の心も、明るい頴娃のカウンセリングでなんとか回復するだろう。
 さてさて‥‥抱きつき魔が捕まる日はいつの日やら―――