●リプレイ本文
●占い×2
「むむむ‥‥僕の占いでは、この辺とこの辺が危険と出ました」
「おっ、奇遇だね! 僕の占いでもその辺が怪しいとでてるよー♪」
抱きつき魔は深夜に出没するというのはほぼ確定条件である以上、日中は情報収集に従事するのがよい。
とはいえ、抱きつき魔が変装して昼間にも獲物を見定めているかもしれないという意見が出たので、酒井貴次(eb3367)がダウジングペンデュラム、慧神やゆよ(eb2295)が神秘のタロットで占いを実行。
各自変装しつつ、酒場で情報収集もしつつ、達人クラスの占いの腕を持つ二人により、出現位置の予測は立ったわけだが‥‥。
「問題は、見つけた後どうやって捕まえるかなのですよ。道を踏み外し堕ちてしまった彼女を見過ごす事はできないのですよ! 捕らえるか、逃れられるか‥‥これは勝負事と同じっ! この勝負、此度こそ勝たせて頂くのですよ!」
「今回は何とか捕まえて雪辱を晴らしたいわ。何と言ってもアタシと若干キャラ被ってるのが気に食わないし」
「そうなると、やはり囮役の方が重要なのですが‥‥大丈夫なんでしょうか(汗)」
梅林寺愛(ea0927)、頴娃文乃(eb6553)、神島屋七之助(eb7816)の三人は、慧神と共に一回目の追跡にも参加してくれた面々故、抱きつき魔の恐ろしさは熟知している。
だからこそ、囮役を買って出てくれた勇者(?)、大宗院謙(ea5980)に期待がかかっているのだが‥‥。
「抱きつき魔を捕まえるための練習をさせてくれないか」
「なんでやねんっ!」
すぱーんっ!
練習という言葉にかこつけ、わりと本気で仲間をナンパしようとした大宗院にツッコミをかましたのは、鈴苺華(ea8896)というシフールの志士見習い。
聞けば大宗院には妻子があるそうだが、バレたら困ったりしないのだろうか?
まぁ、ナンパの技術は確かだそうだし、他に囮をやってくれるような物好きもいないので、居てくれないと非常に困る。
とはいえ‥‥。
「‥‥不安なのですよ‥‥」
梅林寺の溜息と呟きに、大半の仲間が頷いたのだった―――
●失言
「どうだい、私なら貴殿の欲を満足させることができると思うのだが」
「あら‥‥嬉しいこと言ってくれるじゃないの。うふふふ‥‥素敵よ‥‥!」
夜の帳が下り、闇に包まれた京都。
日中に占いで予測した地点を大宗院に歩いてもらい、抱きつき魔をおびき出そうとした一行。
武器などは持たず、遊び人の格好で、お酒を持って少しほろ酔い風の格好をして歩いていた大宗院にいきなり抱きつく女性が現れたのは、捜査を始めてから一刻ほど後のことであった。
鈴苺華が隠れたバックパックを手にしていることを怪しまれなければいいのだが。
「じゃ、ちょっと移動しましょ。こんな往来じゃ、いつ邪魔が入るかわかったもんじゃないわ」
「ん‥‥まぁ、確かに。では行くか」
話の流れ上、渋るのも変に思われるかと考えた大宗院は、抱きつき魔らしき女についていくことにした。
が、そこは相手もさる者。一行の思惑通りの行動は取ってくれないようだ。
「くすくす‥‥ちょっと待っててね。すぐに連れてってあげるから。‥‥その前に」
なんと、抱きつき魔は鈴苺華が入っていたバックパックを持っていた縄でぐるぐる巻きにし、放り捨てた。
それは一瞬の早業で、近くで見ていた大宗院にも何が起こったのか分からなかった。
続けて、いつの間にバックパックを取られたのかと動揺した大宗院に当身を食らわせ、その身体を抱える。
「なっ‥‥何を‥‥!?」
「うふふふ‥‥! 中の子の気配が駄々漏れなのよ‥‥色男さん‥‥!」
そして、疾走の術で大宗院を抱えたままどこかへ逃走を開始する!
この間、わずか数秒。
遠目で様子を伺っていた他のメンバーは、当然初動が遅れざるを得ない。
「やられた! どうしましょうか‥‥このままでは追えなくなります!」
「一応、ムーンアローのスクロールで足止めを試みます!」
「愛おねぇーさん、Fブルームとおねぇーさんで追うしかないよ!」
「わかってるのですよ! えぇい、一本取られたのですよ‥‥!(ざわ‥‥ざわ‥‥)」
破綻。
梅林寺の仕掛けた策は、警戒を強めていた抱きつき魔に察知されてしまったのだ。
そうでなくとも勘のいい抱きつき魔に対し、大宗院が『欲を満足させることができる』等と言ってしまったのも痛い。
恐らくあの台詞で、『あぁ、こいつは自分のことを知った上で一人歩きしていたんだ』と悟られ、鈴の気配を探ったりすることにしたのだろう。
「しっかし、それでも獲物は連れて行こうとするんだからたいしたもんだねェ。アタシは鈴を助け出した後合流するよ」
「了解なのですよ! やゆよ、七之助! 行きますのですよー!」
闇夜を駆ける抱きつき魔の追跡にかかる一行。
果たして、捕まえることはできるのであろうか―――
●ギリギリ
「‥‥まぁ、女性にやられるのなら本望ではあるが‥‥相手を満足させるだけでは、貴殿がつまらないであろう。本当の愛の営みというものを知りたくはないか? それを知らずには本当の誘惑とは言えないと思うが」
「あらぁ‥‥? 勘違いしてるみたいね。私、相手はどうでもいいの。私さえ良ければ相手の泣き言なんて知ったことじゃないわ。嫌がろうが、もう出なかろうが、私が満足するまで貪りつくすだけ。あなたは体力ありそうだから、久しぶりに満足できそうな気がするわ‥‥くすくすくす‥‥!」
大宗院が次に目を覚ましたのは、どこかの寺らしき建物の中。
障子越しの月光に映し出された抱きつき魔は、ナンパ師としての大宗院から見ても充分過ぎるくらい美人である。
しかし、自らの指で唇をなぞるその仕草を、全然色っぽいとは思えない。
大宗院の背筋を、柄にもなく冷たいものが走った。
「‥‥いいだろう。そこまで言うなら見せてくれ。言っておくが、私は一筋縄ではいかんぞ」
「くすくす‥‥楽しみだわ‥‥!」
そう言うと、抱きつき魔は大宗院にキスして口を塞ぐと、するすると手馴れた手つきで着物を脱がしていく。
薬でも嗅がされたらしく、大宗院は身体の自由が利かない。
「う‥‥くっ‥‥!?」
まるで絡みつくような抱きつき魔の指と舌に捉えられ、百戦錬磨(?)の大宗院でさえ小さく呻いた。
まだ事は始まったばかり。しかし、このままではずっと抱きつき魔のターンで終ってしまいそうな気がする。
かと言って、大宗院には何もできない。ただこのまま抱きつき魔の玩具にされてしまうのだろうか?
「うふふふふ‥‥じゃ‥‥しちゃうわよ‥‥?」
「‥‥ぐ‥‥!」
それまでの行為で脳髄が痺れている大宗院からすれば、もう望むところである。
このまま快楽を貪るのも悪くは無い‥‥そう思い、降りてくる抱きつき魔の身体を眺めていた時である。
「そこまでにしなっ! そっから先は色んな意味でギリギリさァ」
「やゆよは見ては駄目なのですよー! 謙もさっさと粗末なものをしまうのですよっ!」
「いやいや、かなり立派だと思いますが‥‥」
「神島屋さん、そういう場合ではないですよ‥‥(汗)」
「え? え? なになにー? 防チュー術っていうのと関係あるの、愛おねぇーさん?」
「さあっ! 年貢の納め時なんだよ♪ 暗かったんだぞー! 狭かったんだぞー! 苦しかったんだぞー!」
バンッ、と障子が開き、六人が部屋になだれ込んできた。
これには流石の抱きつき魔も驚いたらしい。
「あら‥‥撒いたと思ったのに。どうしてここがわかったのかしら‥‥?」
「えっへん! うちの玩丸(忍犬)をなめてもらっては困るのですよ! あなたが鈴を縛るのに使った縄で臭いを覚えさせて、誘導してもらったのですよ!」
「案外近くに潜んでいたんですね。灯台下暗しでした‥‥っていうか、服着ていただけません?(汗)」
「酒井君、社会勉強だと思うといいです。そうそう見られるものではなくなっていくのですから‥‥」
「泣くんじゃないよ、鬱陶しいねェ」
「ねーねー愛おねぇーさん、このままじゃ僕、何も見えないよー?」
「いいのです‥‥やゆよはそのまま汚れないで居て欲しいのですよ‥‥(ほろほろ)」
「残念‥‥いい獲物を見つけたと思ったのに。名残惜しいけど退散させてもらうわね」
「なぁぁぁんでーやねぇぇぇぇぇんっ!」
薄暗い中では、鈴のような身体の小さなものが移動することは察知されづらい。
逃げ出そうとした抱きつき魔をハリセンでの不意打ちスタンアタックで昏倒させようとしたが、攻撃が当たっただけで気絶までには至らなかった!
「くっ! このっ‥‥!」
「逃げ場の狭まる建物の中に、自分から獲物を連れ込んだのが失敗さァ!」
「今度こそは! 私も含めて、あなたのような脅威に晒される人を作りたくないのでね!」
続けて、頴娃のホーリー、神島屋のスリープが飛んで、抱きつき魔は意識を失い、倒れる。
そうそう何度も抵抗し続けられるわけはないということか。
「みゃ〜‥‥これで、一件落着なのですよ♪ 後は猿轡をして亀甲‥‥げふんげふん、雁字搦めにふん縛るのですよー!」
こうして、京都を騒がせた抱きつき魔は御用となった。
どういう罪に問われるのかと聞かれるとちょっと困るが、まぁ彼女ならどこででもやっていけそうな気はする。
京都のイケメンの平和は、こうして保たれたのである―――
「‥‥で? 私はいつまで晒し者になっていればいいんだ?」
「んー? 暗くてよく見ないけど、謙おにぃーさんにキノコみたいなのが‥‥」
「やゆよーーーっ! 気にしたら駄目なのですよーーーっ!?」
‥‥保たれたのである。多分―――