はにしんぐ ツアー編

■ショートシナリオ


担当:西川一純

対応レベル:6〜10lv

難易度:普通

成功報酬:3 G 9 C

参加人数:5人

サポート参加人数:1人

冒険期間:12月01日〜12月06日

リプレイ公開日:2007年12月10日

●オープニング

世に星の数ほど人がいて、それぞれに人生がある。
冒険者ギルドでは、今日も今日とて人々が交錯する―――

「帰ってください」
「久しぶりだというのに御挨拶だねボーイ。冒険者ギルドでは客にそういう態度を取るようになったのかな?」
「あーたは別格です。ロクでもない依頼しか持ってこないくせに」
 ある日の京都冒険者ギルド。
 職員である西山一海は、自分の担当スペースにやってきた客に、0.2秒で拒否の意思を示した。
 男の名は小左(しょうざ)。埴輪愛好会の会長で、『埴輪を無傷で捕獲して来い』とか、『隣町の狛犬が埴輪とキャラが被るから壊して来い』だの、しんどい依頼ばかりを頼んだ経歴があるのだ。
 とはいえ、小左が言うように冒険者ギルドも客商売。
 犯罪行為を頼まれるのでもない限り、依頼主が頼んできた依頼を出さなければおまんまの食い上げである。
「仕方ありませんね‥‥例の演説を始められたくないので、とっとと依頼内容をお願いします」
「最初からそう言えばいいものを。今回は、最近発見された昔の埴輪工場跡見学の随伴を頼みたい。我ら埴輪愛好会三十名全員で、また新たな埴輪の境地に近づく研究をしたくてね」
「ふ、増えてる‥‥。しっかし、工場跡ということは当然動く方の埴輪がたくさんいるんですよね?」
「無論だ」
「だったらわざわざ護衛なんて雇わなくても、喜んで埴輪に殴られながら見学すればいいじゃないですか。埴輪が好きなら、埴輪に叩かれるのだってある種快感なんじゃないですか?」
「その通りだが死人が出ては困る」
「その通りなんですかっ!?」
「私は、我が会員たちが一騎当千の埴輪愛好家だと信仰している。つまりは、彼等と私で総兵力三万と一人の埴輪好き集団となる。しかし、それ故に一人の死者も出してはならないのだよ」
「‥‥わかったよーなわからんよーな‥‥。あぁ、一応聞いておきますが、護衛の方々は襲ってくる埴輪を壊していいんでしょうね? 駄目だとか言ったら怒りますよ」
「今回は工場見学が目的だからね‥‥特別に許可しよう」
「あーそーですかそりゃどーもー」←蝶適当
「それでは頼んだよ。フフ‥‥今から楽しみだね。第七次ハニワツアー‥‥状況を開始せよ」
 もうツッコミを入れる気力も無いのか、一海は黙って依頼書の製作に取り掛かった。
 大勢の一般人(?)を護衛しながらの埴輪工場跡見学‥‥果たしてどうなることやら―――

●今回の参加者

 eb2018 一条院 壬紗姫(29歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 eb3747 蔵馬 沙紀(35歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 eb5301 護堂 万時(48歳・♂・陰陽師・人間・ジャパン)
 eb5655 魁 豪瞬(30歳・♂・ナイト・河童・華仙教大国)
 ec3981 琉 瑞香(31歳・♀・僧兵・ハーフエルフ・華仙教大国)

●サポート参加者

久方 歳三(ea6381

●リプレイ本文

●ツアー中
 京都近郊某所、最近発見された埴輪工場跡付近。
 すっかり冬めいた気候となってきた京都周辺地域は、太陽が沈んだ途端底冷えしだすほどである。
 幸い本日の天候は快晴で、風もなくポカポカ陽気。旅行するにはうってつけと言えよう。
 それが『まともな旅行なら』ではあるが。
「素晴らしい。見たまえ、すでに埴輪が歓迎してくれている。その儚い散り際もまた美しい」
 埴輪愛好会会長の小左は、三十名ばかりいる会員を引き連れながら進む。
 工場跡に入る前だというのに、この一帯にはそこそこの埴輪が徘徊し、侵入者とみなされた一行に襲い掛かってくる。
 とは言っても、相手は和み系の顔をした埴輪たち。いまいち緊張感はでない。
 それでも相手は妖怪。素人でなくとも、この数を放置して殴りかかられたら死人が出る。
 そして、そうさせないために、彼等が居る。
「ハニーワぁー! モぇエー! ツンデレダッタンディスカー!」
「うぉーい、誰か訳して! 何言ってるのかさっぱりわからないからイライラする!」
「えっとですね‥‥『埴輪らよ! 去れ! それ以上近づくなら容赦せぬのぢゃ!』と仰ってます」
「しかし、言葉と言うのは大事なのですね。というか何語で喋られているのでしょうか?」
「‥‥はう‥‥かぁいいですね‥‥埴輪‥‥。和みます‥‥」
 武道家からナイトに転職したという河童、魁豪瞬(eb5655)は日本語が喋れない。
 魁と同じく前線を張る蔵馬沙紀(eb3747)は、意思の疎通が上手くいかないので連携に苦労しているようだ。
 一応、魁と面識があり、テレパシーの魔法で言語を越えた意思の疎通が出来る護堂万時(eb5301)が居てくれるので、若干のタイムラグこそあれなんとかやっていけている。
 琉瑞香(ec3981)も現代使われている言語についてあらかたの知識はあるが、魁が何を言っているのかは理解不能。
 同じように、埴輪の攻撃をひょいひょい避けつつも悦に入っている一条院壬紗姫(eb2018)の嗜好も理解不能とのことである。
 何はともあれ、この五人が居てくれるからこそ埴輪愛好会は安心してツアーを続けられるのだ。
 何せ全くの非武装集団三十人ばかりを護衛しろと言うのは、カバーできる範囲を考慮すると相当厳しいのだから。
「砕け散れぇっ!! っぉおりゃあ!!!」
「ウソダドンドコドーン!(訳:悪いがやらせてもらうぞ!)」
 硬い埴輪にもしっかりダメージを与えられるよう、前準備で装備を鈍器系に絞ってあるため、効果は抜群。
 埴輪の数は多いが、連携もなく攻撃頻度も散漫、さらに格闘技術もさして高くないため、ちょっとした無双状態である。
 講堂のストーンウォールのスクロールや、琉のコアギュレイトなども駆使すれば、なんとかならなくもない。
 その頑張りをさらっと流し、埴輪の動作、表情、壊れ具合にいちいち歓声を上げる埴輪愛好会。
 一瞬殺意が湧いても致し方ないところだろう。
「個人的に思ったんですけど、野生(?)の埴輪って、何を考えて動いているんでしょう?」
「大勢の逸般人(誤字に非ず)の皆さんの語学のためにも、テレパシーで調べてみましょう」
 講堂は、埴輪たちの攻撃が弱まったところでテレパシーを発動、埴輪の一体と交信を試みる。
 すると、講堂の頭に流れ込んできた思念は‥‥。
『はにー』
 謎の鳴き声だけであった。
「‥‥結果、聞きたいですか?」
「いえ。コケられたそのリアクションだけで充分です」
「フ‥‥愚かだね。余計な事は一切考えず、ただ命令にのみ忠実であろうとする姿‥‥それが埴輪の美徳だ。そんな魔法程度で埴輪と心を通じ合わせようとは片腹痛いね。彼等と通じ合うには、もっと別の‥‥埴輪に対する『埴輪の境地』への到達が必要なのさ」
 実際問題、普通の会員はともかく、小左は埴輪と目と目で通じ合えるようであった。
 彼が埴輪と見つめ合うと、その埴輪はくるっと向きを変えてあらぬ方向へ去っていってしまうのだ。
 そして、その境地に辿り着こうとする人物が、もう一人いた‥‥!
「じー‥‥‥‥」
『‥‥‥‥‥‥』
 見つめあう一条院と埴輪。
 相手の目(穴?)を見つめ、真摯な態度でお家を見学させて頂けないかとお願いしている‥‥らしい。
 埴輪といえど気持ちが通じれば争いを回避できると過去に実証済み‥‥らしい。
 らしいばかりで申し訳ないが、見つめあったまま埴輪が攻撃してこないのは事実である。
「ナズェミテルンディス!(訳:危ない避けるのぢゃ!)」
 その時、一条院に向って別の埴輪が攻撃を仕掛けようと近づいていく。
 魁が叫んで注意を促すが、例によって意味のわからない(微妙に合っている様な気もするが)言葉にしか聞こえない。
 無防備なところを殴られては、流石にダメージは軽く済むまい。
「土偶はただ静かに立ってな! そぉら、葬(ほおむ)らん―――」
「土偶じゃねぇ! 埴輪だっ!」
「ンなの今はどうだっていいでしょうがっ!? あっ、ちょっ、一条院さん!」
 埴輪をぶっ飛ばして一条院に向う埴輪も巻き添えにしようとした蔵馬であったが、愛好会会員の激しいツッコミによってタイミングをずらされ、目の前の埴輪しか処理できなかった。
 もう間に合わない。一条院が殴り飛ばされる!
 誰もがそう思ったときだ。
『はにー』
 一条院と見つめ合っていた埴輪が、ひょいっと向きを変えて鳴く。
 すると、殴りかかろうとしていた埴輪の動きがピタリと止まり、つつっと一条院の目に視線をやった。
「‥‥可愛いって正義ですよね? はう‥‥お持ち帰りしたいです‥‥」
『‥‥‥‥はにー』
 なんと、二匹目の埴輪も説得(?)されたのか、攻撃を中断。
 唖然とする面々を他所に、一条院の周りにはどんどん埴輪が集まり、終いには彼女を囲んで踊りだす始末であった。
「これは‥‥姫!? 遥か古代、埴輪王国の頂点に君臨し、世界で最も埴輪を愛し愛されたという姫‥‥『はにわーぷりんせす』の生まれ変わりとでも言うのかぁぁぁっ!? 諸君、しっかりと目に焼き付けたまえ。我らは今、伝説を目の当たりにしているのかも知れないのだからね‥‥!」
 12体の埴輪を視線と想いだけで従え、至福の表情で佇む一条院。
 愛好会の会員からは盛大な拍手が巻き起こり、中には感動のあまり泣き出す者まで出ていた。
 流石の小左もエスカレートしたらしく、一条院と固い握手などを交わしている。
「‥‥‥‥どういうリアクションを取ればいいのかわかりません」
「アンタトゥーレハ、アカマジャナカッタンデ‥‥ウェッ(訳:種族を超えた、相互理解が生まれるとはな‥‥フッ)」
「ここは感心するよりツッコむべきかと‥‥」
「いっそ会員になっちゃえばいいじゃない、あの娘‥‥」
 そして、一行は埴輪を引き連れたまま工場跡へと進入する―――

●ツアー終了
 天然の洞窟を拡張して造られたらしい山中の工場跡。
 やはり中にも埴輪がいたが‥‥。
「これ以上仲間に引き込むなよ? ただでさえ大人数で歩きづらいんだ」
「そんな‥‥。どうしてもですか‥‥?」
「アンナアグニンナディカヴァール! オデノカラダハボドボドダ!(訳:気持ちは分かるが仕方あるまい! このまま連れ帰るわけにもいかんのぢゃ!)」
 12体の埴輪をも引きつれている現状、接敵した埴輪は素直に叩き割るのが上策である。
 そうして進むと、古代に使われていたのであろうヘラや型、釜戸らしきものを多数発見。
 持ち帰っては盗人になってしまうので、純粋に見学に専念する愛好会の面々がちょっと意外だ。
「驚きました。意外とマナーがよろしいんですね」
「下手なことをして埴輪を追えなくなっては本末転倒だからね。そんなことより、見たまえ、この光景を。この工場で埴輪が造られ、そして消えていったのかと思うとそれだけで感動すら覚える」
「‥‥理解しかますね。いや、歴史に触れるというのは勿論悪いことではないのですが‥‥何かこう、間違っているような」
 やがて、愛好会の面々も大分満足したのか、そろそろ帰路に着く運びとなった。
 日はまだ高いが、山である故、日が暮れると途端に気温が下がってくるためだと思われる。
 ちなみに、一条院に説得(?)された埴輪たちは、この工場跡に残していくことになり、一条院が再度説得(?)。
 後ろ髪を引かれ、何度も振り返りながらその場を後にする一条院であった。
 そして、京の都の入口である羅生門まで来た時である。
「‥‥‥‥」
 じーっと、小左を睨み付け‥‥もとい何かを訴える眼差しを送る一条院。でも、表情は崩さない。
(「‥‥まるごとはにわ‥‥」)
「‥‥よろしい。ならば埴輪だ」
 流石歴戦の埴輪愛好家である小左。埴輪に関することだけは鋭い。
 一条院の埴輪への想いをすぐさま読み取り、両腕を自らの顔の前に持ってきて応える。
 まるごとはにわをプレゼントされ、ここに愛好会会長ですら一目置く埴輪好きが誕生したのであった―――