●リプレイ本文
●選手入場
「お集まりの皆様、お待たせいたしました! 第一回ペットモンスターズの開幕でーす! 実況はこの私、冒険者ギルド職員の西山一海が務めさせていただきまーす!」
年の瀬も迫った京都のはずれ、とある山。
晴天に恵まれた大晦日に、物好きにもこんな山くんだりまで来てペット対抗戦が開催された。
開幕宣言と共に、わぁっと大歓声が起き、どこから集まったんだと思われるような数の観客のボルテージも高まっていく。
舞台(というか縄で区切っただけだが)にはすでに選手とペットが揃っており、思ったよりもずっと多い観客に困惑し、ちょっと引いていた。
「ではご紹介しましょう! まずは白組‥‥忍犬候補の柴犬、帝釈天を連れて参加の、島津影虎(ea3210)さーん!」
「あー‥‥どうも。いやはや、こんなにも観客の皆さんが多いとは予想外でしたよ。えぇ」
一海のコールを受けて島津が挨拶をすると、またしても観客から歓声が沸いた。
どうやらペット対抗戦を見るより、主人の冒険者たちを見に来た者も多いらしい。
島津さーん、等の黄色い声援まで飛んだりしているので、プチアイドル状態だ。
「続きまして、同じく白組! 日本にはいないと言われる変り種、ライトニングバニーの忠朗を連れて参加の頴娃文乃(eb6553)さん! 僧侶さんで獣医さんなので、人も動物も怪我しても大丈夫です!」
「怪我なんて無い方がいいんだけどねェ。ま、いざとなったら言ってね。パパッと治してあげるから」
頴娃には、男女問わず『お姉様ー!』という声援が飛ぶ。
やはり男性の声が多く、俺も治療してー、などの声も聞いて取れた。
「続けて白組、グリフォンの瑞鶴を連れて参加、御神楽澄華(ea6526)さーん! ペットの戦闘能力としては一番かもしれませんので、要注目ですね!」
「こ、こんにちは。瑞鶴共々、全力を尽くさせていただきます」
御神楽には、『可愛いー!』とか、『御神楽さーん!』などのスタンダードな声援。
しかし、知名度の関係なのか今のところ彼女のところで起きた歓声が一番大きいようである。
「白組最後のメンバーは、京都の名物兄弟陰陽師のお兄さんの方、拍手阿義流(eb1795)さんでーす! 参加させるペットは、地の精霊、ヨウツチちゃんだそうでーす!」
「ふふふ‥‥どうも、精霊博士の阿義流です。ヨウツチの魅力、存分に御覧に入れますよ」
阿義流にはやはり女性人の黄色い声が圧倒的。
お兄さーんとか、お兄ちゃんって呼んでもいいですかーなどのちょっと変わった方向の声も聞こえるようだが。
「対する赤組の一番手! 豹のかすみを伴って出場の和泉みなも(eb3834)さん! アイスチャクラを操る志士さんであることから、『氷豹共駆(ひょうひょうきょうく)』と呼ばせていただきたいところ!」
「は、はぁ‥‥御自由に。かすみ、知らない人が多いですが頑張りましょうね」
うぉぉぉ、と野郎共の熱い雄叫びが響き渡る。
見ると、いつの間にやら『みなもさん親衛隊』と書かれたたすきや鉢巻をした男たちが、観客にかなりの数混じっていた。
射撃の名手である上、背がかなり小さく、可憐な少女(に見える)だけに、熱狂的なファンが付いているらしい。
ちなみに、阿義流も内心結構な勢いでときめいていることは内緒である。
「続く赤組メンバーは二人同時に紹介! 恋人同士で参加の雨宮零(ea9527)さんとシオン・アークライト(eb0882)さん! 狼のフローリアとヒポグリフのテュールでの参加ですが‥‥同じ組に所属している辺り、見せ付けてくれます! コンチクショウっ!」
「あ、あのー‥‥一海さん? 微妙に殺気が混じってるような気がするんですけれど‥‥(汗)」
「モテない男の僻みはみっともないわよ。それに、競技中は恋人の前に戦士のつもりなので悪しからず」
この二人も‥‥特にシオンのほうは知名度が高く、ファンも歓声も多い。
ただ、ファンの中でも二人の仲を応援しようと言う人間が大多数らしく、『お似合いですー!』とか、『お幸せにー!』等の好意的な声が多いのが印象的である。
勿論、『零君こっち向いてー!』とか、『シオンさん、一手御教授をー!』などの個人向けの声もちらほらあるが。
「そして、ラストを飾るのは! もも―――」
「蒸し返すなよ!」
「っとと、もう違うんでしたっけ。新たな異名、ワイルド執事こと拍手阿邪流(eb1798)さん! 相棒は埴輪のツチクレ! ‥‥酷いネーミングですね、ハイ」
「ほっとけ! つか、長ぇんだよ! おら、さっさと始めんぞ!」
阿邪流くーん、等の女性方からの声援が照れくさかったのか、あるいは一海がうざかったのか(多分後者だろう)、阿邪流の言で早速本題に入る一行。
白組は、柴犬、ライトニングバニー、グリフォン、エレメンタルフェアリー。
赤組は、豹、狼、ヒポグリフ、埴輪。
バランスが取れているようないないような微妙な感じだが、後はもうやって見なければ分からない。
予め顔合わせや打ち合わせなどはしっかりやっておいたため、特に問題はないとは思うが‥‥?
「すいません。少々よろしいですか?」
と、不意に和泉が挙手して宣言する。何事かと注目が集まったところで、和泉はゆっくりと呟いた。
「申し訳ないのですが、私は白組に移籍させてください。現状戦力差を考えると、こうでもしないとまともな仕合にならないかと」
「いや、まぁ別に構いませんが‥‥では、白組の方からお一人、赤組に移ってください」
「では私と帝釈天が。そちらにも小動物がいたほうがバランスが良いかと」
島津と柴犬が陣営を移り、これで戦力バランスも改善されたはず。
それでは、そろそろ開始といこう。
「それでは‥‥ペトモンファイトォッ!」
『レディー‥‥ゴォォォォッ!』
何故か一海が紅白のボールをフィールドに投げ込み‥‥冒険者たちの声で、仕合が始められたのであった―――
●晴れ舞台
普段、主人たちの力にはなるもののいまひとつ影の薄いペットたち。
しかし今日は、彼等が主役。大勢の観客を前にして、主の指示ありとはいえ、メインを張るのは彼等なのだ。
「瑞鶴、テュールさんを迎撃してください! 他の仲間では対処できない相手ですから!」
「あちゃー‥‥やっぱりそう来るわよね。けど、魔獣騎士の従者を甘く見ないで欲しいわね! テュール!」
御神楽とシオンが参加させたペットは、基本的に似ている上に戦闘能力も近い。
群を抜いて強いこの二匹が相打つことは、チーム戦と言うことを考慮しても仕方のないこと。
空を駆け、激しくぶつかり合う二匹の魔獣を目の前に、観客から歓声が沸く。
普段なら絶対お目にかかれないようなバトルが眼前に展開されるのは、やはり好奇心を大いに刺激されるものだ。
「指示ができるとはいっても、動物では仲間同士の細かい配慮は不可能‥‥ならば、これと言う相手を決めてしまい、突破させた方が賢明です。かすみ、頑張るのですよ」
「そうですね。数を減らせば、それだけ仲間のフォローに回れますから。豹と狼‥‥どちらが上か、勝負‥‥!」
こちらでは和泉と雨宮のペットが、お互いの出方を伺い、唸りながら円を描くように牽制しあう。
継戦能力は狼が上だが、瞬発力では豹が上だろう。後は、飼い主との絆‥‥連携が勝負の鍵か。
地上での四速歩行獣同士の戦いは、やはり見ごたえ充分。
観客もどこを見ていいか迷うことだろう。
「いやはや、しかし随分可愛らしいペットですね。しかし、確かその精霊は殆ど戦闘能力がないはずですが」
「ええ、とても勝てそうにありません。でも可愛いでしょう!? 髪の長い巫女さん姿だからおしとやかな感じで素敵でしょう!? いいんです、可愛ければ!」
主人をジト目で睨むヨウツチをきっぱりと無視し、悦に入る阿義流。
同じ炉の気がある方たちからは大好評だが、ちょっと女性ファンが減ったかも知れない‥‥けどそんなの関係ねぇ。
島津は溜息を吐きつつ、帝釈天に攻撃指示を出したのだった。
「ツチクレ、体当たりだ! マウントとって連打だ!! 手出せ、手出せ! 肘でいい、目に入れろ! 投げろ投げろ!」
「ちょっとちょっと、物騒だねェ。そんなにカリカリしてどうするのさ」
「勝負事は勝たなきゃ意味がねぇんだよ! くそっ、ちょこまかと!」
埴輪であるツチクレの攻撃は、動きの速いLバニーの忠朗にことごとく回避されている。
硬い身体のおかげでツチクレもダメージはないが、阿邪流にはペットの苦戦が面白くないらしく、人目もはばからずに反則行為(?)を指示する。
が、当然埴輪にはそんな細かい指示は届かない。せいぜい『全力で攻撃しろ』くらいにか理解されないだろう。
ペットを信じ、主を信じて戦う、いつもと違う戦場。
殺し合いではなく、半ばレクリエーションではあるが、やるからには勝ちたい。
思いの他の盛り上がりを見せ、思いの他勝負は長引く。
しかし、永遠に続く戦いなどない。
一番最初に崩れたのは―――
●ここから実況再開です
「おぉーっと阿義流さん、ヨウツチが噛み付かれると判断するや否や、その前に躍り出てヨウツチを庇ったぁー!」
「初の精霊ペット! この私の愛好心! やらせはしません、やらせはしませんよ〜!」
「なんというプレッシャー‥‥というか一海殿、庇うのは反則なのでは?(汗)」
「攻撃しているわけではないのでOKだそうです! しかし、処遇は島津さんにお任せしまーす!」
「ふむ。ルール上は問題なくとも、褒められた行動ではありませんから‥‥」
「ふっ‥‥この拍手阿義流、小さくて可愛いものを愛でる漢! 一歩も退きませんよ!」
「なら何故危険があると知っていてヨウツチさんを出場させたので?」
「自慢したかったからに決まっているでしょう!?」
「‥‥帝釈天」
「ばう」
「あっ、ちょっ、甘噛みなんですが! 微妙に痛いんですが!? あーーーっ!」
「色んな意味で戦闘続行不能とみなし、ヨウツチさん退場っ! 赤組、残り三!」
●作戦勝ち?
「仕方ないねェ。忠朗、張り付いて思いっきり電撃を喰らわせてやりな。硬いっていうだけじゃ防げないでしょ」
「Lバニーが埴輪の右ストレートを回避、懐に潜り込んで張り付いたぁ! そして電力を上げて‥‥!?」
「ピー‥‥キューーーッ!」
「なんとなくギリギリな泣き声と共に、フルパワースパーク! これにはさしもの埴輪も‥‥!」
「馬鹿言ってんじゃねぇぇぇっ! ここまで近づきゃあこっちのもんだ! ツチクレ、そのまま放すなよ!?」
「おぉーっと!? 流石元々は泥や土、こうかはないようだー! 忠朗、ツチクレに両腕で抱きしめられるようにして圧迫され、かなり苦しそう! こうかはばつぐんだぁぁぁっ!」
「そら、電気兎を潰されたくなきゃ降参しな。オツムの勝利ってやつだぜ」
「うーん‥‥なんか悔しいわねェ、アンタにそういうこと言われるの‥‥」
「何でだよ!?」
●魔獣対決
「くっ‥‥スピードは向こうの方が上‥‥! 瑞鶴、よく狙ってください!」
「基本的な戦闘力はそっちが上だけどね。テュール、上に回りこむ動きを止めちゃ駄目よ!」
「実力伯仲のグリフォンとヒポグリフの空中決戦もいよいよ大詰めなのか!? お互い一撃が即刻負けに繋がりかねない状況で、よく戦っています! 速さか、力か! 果たして勝利はどちらの手に!?」
「こうなれば‥‥瑞鶴、止まってください! 一か八か‥‥!」
「正気なの!? テュール、念のために後ろへ回り込みなさい!」
「素晴らしい、まるで手足のように魔獣を操る女性二人! しかし、瑞鶴ピンチ! 後ろから爪を振りかざしたテュールの一撃が‥‥決まったぁぁぁっ! ‥‥いや、これは!?」
「テュールを掴んだ!? そのまま死なば諸共で落ちるつもり!?」
「勿論、テュールさんには下側になってもらうことになりますが‥‥。ごめんなさい、瑞鶴‥‥上手い作戦が思いつけなくて。拍手様の真似をさせていただきました‥‥!」
「受身も取れず、地面に叩きつけられた二匹の魔獣! お互いダメージが大きいのか満足に動けなーい! 両者戦闘不能ーッ!」
●地上の覇者
「さぁ、勝負も大詰め! 魔獣二匹が両方とも戦闘不能になってしまった以上、狼と豹の勝った方のチームが有利になるのは必定! お互い生傷は多いですが、これまた直撃はない模様! かすみの方に若干疲れが見えるような気がしますが、果たしてどう転ぶかー!?」
「迂闊に攻撃を指示出来ない‥‥! シオンがやられたように、カウンターを貰うわけには‥‥!」
「かすみの体力ではそろそろ限界‥‥。仕方ありません、仕掛けます。かすみ、全速で突撃‥‥!」
「覚悟を決めたか、和泉さんの指示でかすみが全力突撃! フローリアはどう受けるー!?」
「フローリア、同じく突撃! 相打ち覚悟で噛み付いて!」
「無謀な!?」
「無謀ではあっても、無策じゃありませんよ‥‥!」
「狼と豹が真正面から激突ぅぅぅッ! あぁーっとこれは!? 豹の方が傷が深そうだぁぁぁっ! 狼は体毛の分頑丈なのか!? だがしかし、噛み付いたままの体勢では相手に引っかかれ放題! あとはお互い気力の勝負ぅぅぅっ!」
果たして、勝負の行方は―――?
●戦い終わって
結局、豹も狼も戦闘不能に近くなってしまい、島津の柴犬と阿邪流の埴輪が残った赤組の勝利。
クライマックスだったギャラリーたちも、白組は勿論接戦を演じた赤組にも惜しみない拍手を送ったのであった。
飼い主もペットも観客も、思ったよりずっと熱くなってしまう競技、ペットモンスターズ。
参加する冒険者やペットの数だけ可能性のある、奥の深いものだったようである。
今日は、大晦日。
戦い終わって、家に帰るもの、そのまま初詣に向うものと、その後の行動は様々。
ただ、確かなことは‥‥。
「かすみ、あの動きは良かったですね。今日は本当にご苦労様でした」
和泉に限らず、参加者たちとペットたちの絆がより深まったことと、ペトモンがちょっとした話題になったこと。
憧れの冒険者に会えるかも!? という、ちょっと違った要素も混じってはいるようであるが。
かくして、また一年が終る。
新たな年に、新たな出会いと事件を内包しつつ―――