●リプレイ本文
●前フリは無しで
「姉妹さんと真剣に遊び対決なのだー! ‥‥だよねー?」
『違う違う』
一月某日、晴れ。
すでに準備万端で集まった冒険者たちと、それを取り囲むギャラリーの方々。
一番手を担う所所楽苺(eb1655)は、仲間及びホアング姉妹からのツッコミに動じる様子も無い。
箸主体の店と聞き、せっかくだから箸を使うことにしたらしく、季節柄も考慮して豆つかみ競争を提案。
準備も完了しており、わざわざ材料まで買ってきて豆を煮込んだりと、随分手間をかけたようだ。
「ルールは簡単! それぞれのお店のお箸を使い、決められた時間内に『潰さずに』『より多くの豆を』『美しく』お皿に盛り付けるかの三点を総合して競うのだー! 審査員は、特別げすとの藁木屋さんなのだ!」
「あー‥‥何故私が引っ張り出されているのだろうか(汗)。申し訳ないが、これが終ったら帰らせてもらうよ?」
「それでもいいのだ! さて、おいらと戦うのはどっちなのだー!?」
頬を掻いて半分ぼやいている藁木屋を完全に勢いで押し切り、所所楽はビシッとホアング姉妹を指差す。おそらくこの勢いで無理矢理藁木屋を引っ張ってきたのだろう。
「‥‥いいわよね‥‥あなたは。行動すればそれだけの結果が得られると思ってるんだもの。仕方ないわね‥‥私がやってあげる。世の中そんなに甘くないってこと、思い知らせてやるわ」
「おっ! お姉さんのテイさんが相手なのだ? よろしくなのだー!」
テンションがまるで正反対の二人。
慣れた手つきで箸を持ち、所所楽お手製の黒豆がたくさん入った鍋を一つずつ前にする。
審査員(?)の藁木屋の合図と共に、二人はかなりのスピードで皿に豆を移していく。
しかし、一見ただただ豆を移しているように見えるが、所所楽にはきちんとした意図があった。
下段に大粒、上段に向けて重ねていくに連れて小粒になるように、選び抜きながら積んでいる。
選ぶ際に生じる迷いの時間もあり、スピードだけなら不利。
一方、テイは黙々と積んでいく。『美しさ』という点をあまり考慮に入れていないようだが、大丈夫なのだろうか?
「むむむっ、手強いのだ! テイさん、お箸の使い方上手いのだー!?」
「‥‥箸は華国発生の道具よ。いくら私たちがクズだからって、甘く見すぎなのよ」
「だ、誰もクズだなんて言ってないのだー!? こうなったら判定に全てを賭けるのだー!」
「賭けなのですよ!?」
「反応しなくていいのだー!?」
そして、タイムアップ。ツルツル滑る黒豆を、二人ともよくもと思うくらいのスピードで積み上げたものである。
藁木屋が二人の皿を見て回り‥‥審判を下す。
「勝者‥‥テイ嬢」
『おぉぉぉぉっ!?』
ギャラリーから上がった歓声は、意外だという意思を明確に込めたものだった。
確かに、積んだ数はテイの方が多い。しかし、総合的な形のよさと言うか纏まり感は所所楽の方が圧倒的なのに。
「ほわーっ!? な、なんでなのだー!?」
「確か、審査基準は『潰さずにより多くの豆を美しく』だったね? 確かに所所楽嬢の纏め方は上手い。しかし、纏めることばかりに気が行ってしまったのか、一個一個の豆に窪みが多い。これは力加減の問題ではなく、『全体を造ろう』という意識が一つ一つを疎かにした結果と言える」
所所楽が慌てて確認してみると、確かに微妙な窪みが結構見える。作業の最中には気付かなかったが、冷静に見れば明らかだ。
「比べてテイ嬢のは、なんというか‥‥本当にただ単に『潰さずに多く』積んだだけ。総合的な美しさでは勝っているが、『より潰れていて豆が少ない』では、所所楽嬢を勝者にはできない。すまないね」
「負けちゃったのだー‥‥。でも、いい試合だったのだ! テイさん、またいつか勝負をお願いしたいのだー!」
「‥‥ま、気が向いたらね」
そんなわけで、まずはホアング姉妹の一勝。
藁木屋は帰宅し、次なる種目へと移る―――
●ルーレット
「なんだか良く分からないが、勝てば良いんだな、勝てば。OK理解した。まっ、俺に万事任せときな!」
無駄に爽やかに、豪快に言ってのけたのは、レオナール・ミドゥ(ec2726)。
彼はロシアで生まれたと言うリスキーな遊戯をジャパン風にアレンジ。
大福を用意し、茶屋に頼んで6つ用立ててもらった。
中身は基本的にはこしあん。しかし、一つだけカラシを入れてあるという。
要は『ロシアンルーレット』ならぬ『こしあんルーレット』とのことである。
「今度はあたしが相手よっ! あたしたちは闇の住人‥‥不運を通り越して、不運の方が逃げ出すんだからっ!」
「ツォウが相手かい。さあ、ゲームスタートだ。俺は逃げも隠れもしない。そして最後の最後まで勝負を捨てない!」
この勝負は、正直言って運任せ以外の何物でもない。
レオナールもカラシ入りがどれか分からないので、一発目であっさり勝負が決まるなどと言うこともありえる。
となれば、ギャラリーも最初から気が抜けない、結構緊迫した勝負になったりする。
ちなみに、わざわざギャラリーを召集したのは彼である。脱衣がどうのと吹き込んだのだが、これが効果抜群。寒いのに、野次馬がぞろぞろとやってきたのはよかったのか悪かったのか。
そして、緊張の一個目はレオナール。言いだしっぺだからと言う理由で先手を取ったのだ。
「ふっ、中々いい味だぜ。この茶屋はチェックしておいてもいいかもな!」
「ふん、運がいいやつっ! ならあたしは、これよっ!」
レオナールが食べた物も、ツォウが口に運んだものもハズレ。
残り四個で、確率は四分の一となる。
しかし、更に一個ずつ食べても、お互い当たりは引いていないようであった。
残りは二つ。このレオナールの手番で、彼がハズレを食べれば自動的にツォウの負けである。
確率は二分の一にまで低下。そして、レオナールが片方を掴み‥‥今までと同じように、一気に口の中に放り込む!
しーんと静まり返るギャラリー。
レオナールのリアクションは‥‥!?
「残念だったな。どうやらお前さんの負けのようだぜ!」
「なっ!? そ、そんな馬鹿なっ!? こ、このあたしが、こんな小さな不幸に躓くなんてっ!?」
「さぁ、最後の一個だ。味わって食べるんだな。ハッハッハ!」
ニヤリと笑ったレオナール。がくりと膝をつくツォウ。
レオナールが平気と言うなら、最後の一個がカラシ入り。食べるまでも無くツォウの負けだが‥‥?
「くっ‥‥くぅぅぅっ! あ、あたしの負けよっ‥‥!」
第二戦は冒険者側の勝利。レオナールの運勝ちといったところか。
ちなみに。
「‥‥あなた、二個目で当たり食べたでしょ」
「テイ? さー、なんのことだ?」
「‥‥不自然な発汗と微細な紅潮があったわ。あれは勝負事に熱くなったからじゃない。私の目は誤魔化せないわ」
「仮にそうだったとして、勝負を無効にでもするかい?」
「‥‥まさか。見破れなかったツォウが悪いのよ。激辛と自分の不運を必死で抑えたあなたの男気を汲んで、秘密にしておいてあげるわ。ねぇ‥‥ロシアンダンディ」
「素敵なあだ名をどーも」
かくして一勝一敗にて第三戦へ。
メインイベントとも呼べる真剣勝負が、今始まる―――
●ざわ‥‥ ざわ‥‥
「さぁ、真打登場なのですよっ! ツォウ、あの時の決着、付けに来たのですよーっ!」
「ふーん‥‥美人武闘家姉妹の名は伊達じゃないねぇ。何やら楽しそうな(罰)ゲームだしねぇ? あたしも入れてくれさねぇ」
オリジナルの札遊戯を考案してきた梅林寺愛(ea0927)と、それに便乗する形で加わったリスティ・ニシムラ(eb0908)。
これに対し、ホアング姉妹も二人揃って対抗。
これが噂の脱衣ゲームかと、ギャラリーのテンションも鰻上りである。
「ぶー。おいらも参加したかったのだー」
「人数が丁度いいんだから仕方ないだろ。ま、見てるだけでも楽しいぞ、きっとな」
所所楽とレオナールは見学に回る。
ルールはこうだ。無地の木札を二十五枚用意し、『火』『水』『風』『土』『陽』『月』『忍』『闘』『白』『黒』を当たりとして二枚ずつ計二十枚。
更に、ハズレとして『魔』『鬼』『霊』『妖』『屍』が一枚ずつで、総合計二十五枚の遊具を作る。
この中から順に一枚ずつ引き、ハズレを二枚引いてしまわないようにしながらより多くの当たりを引けば勝ち。
人数も四人くらいが丁度よいであろうこのゲーム。単純なようで意外と奥深いかもしれない。
「何さっ! さっきの汚名を晴らさせてもらうわっ!」
「‥‥はぁ‥‥よくもまぁ、こんな遊び思いつくわね‥‥」
「遊びじゃないのですよ! 敗者は用意して来たこのお酒‥‥『化け猫冥利』を禁断の壷で呑んでもうらうのですよーっ!」
『うおぉぉぉぉぉっ!』
野郎共の熱い魂の雄叫びが木霊する。
禁断の壷とは、これに強い酒を入れて飲むと脱衣衝動に駆られるという恐ろしくもトンチンカンなアイテムである。
知らなくともなんとなく効果を察したギャラリーたちをきっぱり無視し、四人は勝負を開始する!
イカサマが無いように全員が札を混ぜたので、もうどれがどれか分からない。
「それじゃあたしから行こうかねぇ。『白』だそうさねぇ」
「‥‥私は『闘』よ」
「次はあたし‥‥『土』っ!」
「流石にみなさんやるのですよ‥‥! 私のターン! ドロー!『鬼』! ‥‥『鬼』!?」
他の面々が順調に当たりを引いているのに、のっけからハズレを引く梅林寺。
まさかいきなりがけっぷちと言う逆境に追い込まれるとは思わず、鸚鵡返しに札を確認するが結果は同じ。
このままでは、犠牲者第一号になりかねない。
「あたしとしては誰が負けてもいいんだけどねぇ。自分でも構わないさねぇ。おっと、『風』」
「‥‥『黒』」
「ざまぁないわね、梅林寺っ! どう、『火』よっ!」
「ぐっ‥‥! い、いいだしっぺがいきなり負けるわけにはっ‥‥!(ざわ‥‥ ざわ‥‥)」
梅林寺が引いたのは二枚目の『闘』。とりあえずいきなり負けはなくなったわけだが、不利に違いは無い。
「可愛い女の子に囲まれるっていうのはいいねぇ。癖になりそうさねぇ。『陽』」
「‥‥『月』」
「『水』っ! さぁさぁ、後が無いわよ、梅林寺っ!」
「ちょっ、待っ!? 二十五枚中十一枚引いてハズレが一枚だけなのですよ!? 残り十四枚中四枚がハズレ‥‥ハズレを引く確率は四分の一くらいなのですよー!?」
何故だか知らないがどんどん追い詰められていく梅林寺。
せっかくツォウとの再戦を望んでやってきたのに、散々である。
「引かないっ‥‥! 引くわけが無いのですよっ‥‥! 賭博破戒録の私が、こんな簡単にっ‥‥!(ざわ‥‥ ざわ‥‥)」
引いた札は『火』。なんとか負けを回避し、息を吐く梅林寺。しかし!
「あれま。『月』」
「‥‥『忍』」
「ククク‥‥恐ろしいっ! 賭博とは恐ろしいわね、梅林寺っ!」
「うぅっ‥‥! 馬鹿ななのですよっ‥‥!(ぐにゃぁ〜)」
なんと、ツォウが引いたのは『黒』。
二十五枚中十五枚消化、ハズレは一枚のみ。
つまり、残りの十枚中ハズレは四枚。確率にしてほぼ二分の一! ギャンブルと言う魔性がせせら笑う!
残りの札の状況を考えると、次の一周で最低二枚はハズレが出ないと厳しい。
仮にこのターンを凌いだとしても、次の一周も梅林寺意外が全員当たりを引いてしまったらその時点でアウツ。単純に確率だけを考えても、生き残りは絶望的!
「ぜ、前回と立場が逆なのですよっ‥‥! 考えるのですよっ‥‥! 勝つ確率を少しでも高める方法をっ‥‥!」
ギャンブルにおいて、頼れるのは自分の力のみ。
『お願い』だの『頼む』だのと神頼みを始めてしまえば、九分九厘負けが決まる。
梅林寺が予め予定していた技‥‥『すり替えもどき』は攻めるときに使うものであって、追い詰められた現状で使ってもあまり効果は無い。
その動作を行ったところで、下手をすれば自分の当たり札を減らす結果となりかねないからだ。
結局のところ、思考は最初に逆戻り。頼れるのは自分の運と感だけ!
「勝つっ‥‥! この札から私の逆転が始ま―――まぁぁぁぁぁっ!?」
梅林寺が引いたのは‥‥『魔』。
二枚目のハズレ。合掌―――
●あなたと‥‥
総合成績二対一で、ホアング姉妹の勝利。合併話は白紙となり、開選屋からの依頼は失敗‥‥のはずだった。
しかし、多くのギャラリーが集まり、後に話題を呼んだことで、この二件の店による対決が恒例化。スポンサーがついたりなんだりで、意外な展開を見せたらしいのだが‥‥それはまた別の話。
「そして、勝負を通じて友情を深めた冒険者一行とホアング姉妹は、新たな戦いの予感を秘めて別れた―――のですよ」
「うーふーふーふーふー。愛ちゃぁーん? 綺麗に締めようとしても駄目さねぇ。バツゲームがまだだねぇ!」
「うぐっ! あぁっ、もうすでに壷の用意が済んでるのですよ!? わっわっ、苺、レオナール、放すのですよーっ!」
「自分で言い出したことは守らないと駄目なのだー! 嘘つきは泥棒の始まりなのだー!」
「悪い、俺も脱衣楽しみにしてるんだ。男だしなぁ」
「大丈夫さね、あたしも一緒に呑んだげるからねぇ。皆で脱げば恐くないさねぇ!」
「公序良俗がーっ! んぐっ!? ん〜〜〜っ!」
禁断の壷に入れられた酒を無理矢理呑まされた梅林寺。
頭がふらふらし、急激に身体が芯から熱くなる。冬だというのに、服など着ていられないくらいに熱い‥‥!
「はぁっ、はぁっ、はぁっ‥‥んくっ‥‥! はうっ‥‥!」
胸元を押さえて、必死に熱と脱衣衝動に耐える梅林寺。
なんだか妙に色っぽい声を出しているがキニシナイ。
ふっと誰かの笑顔が脳裏に浮かんだような気がした梅林寺。
駄目だ。こんな公衆の面前で裸体を晒すわけには行かない。
誰かは思い出せないけれど‥‥自分が全てを晒していいのは、あの人の前でだけ。そんな気がして、涙が滲む‥‥。
そんな時である。
「‥‥‥‥」
ごっ!
「べぶっ!? な、なにす‥‥はうぁっ!?」
なんと、ホアング姉妹が蹴り、鉄拳と続けざまに梅林寺を攻撃。たまらずもんどりうつ梅林寺。
「あー、ごめんっ! 手が滑っちゃったっ!」
「‥‥足が滑った。怪我したみたいね。しょうがないからウチにくれば? 手当てくらいしてあげるわよ」
そして、ちらりとリスティに目配せ。リスティもすぐにその意図を読み取った。
「怪我したんじゃしょうがないねぇ! なら男衆、代わりにあたしと苺が呑むからねぇ、ありがたく思いなよねぇ!」
「なんでおいらもなのだー!?」
「んー、ま、なりゆきってやつだ。ありゃあ無理にさせちゃあいけねぇよ。なぁ?」
ホアング姉妹に連れられて、その場を去る梅林寺。
遠くから聞こえる喧騒に、思わず涙が零れたのであった―――