楠木正成、動く

■ショートシナリオ


担当:西川一純

対応レベル:6〜10lv

難易度:普通

成功報酬:3 G 9 C

参加人数:4人

サポート参加人数:-人

冒険期間:01月16日〜01月21日

リプレイ公開日:2008年01月24日

●オープニング

世に星の数ほど人がいて、それぞれに人生がある。
冒険者ギルドでは、今日も今日とて人々が交錯する―――

 その日、冒険者ギルドに妙な客がやってきた。
 いや、冒険者ギルドには比較的妙な人が来ることが多いのは事実だが、それを考えても妙。
 彼女は編み笠を被り、剣道着姿で刀を腰に帯びた、女剣士のいでたちであった。
 まぁ、そこまでは普通。わりと見かける姿ではある。
 が、職員の西山一海のところにやってきたかと思うと、突然こう言い放ったのだ。
「二人きりになりたいの。奥、空いてるかしら?」
 それを聞いていた周りの職員も、言われた本人である一海も一瞬固まる。
 しばしの間をおいて、ようやく回りだした一海の脳が、ある結論を出した。
「冷やかしなら帰ってください」
「なんでよっ!?」
 普段モテない一海は、自分から言うならともかく、こういう台詞を真っ向から女性に言われても疑うことしかできない悲しい性格のようである。
 それに、そもそも女性のほうが告白をするというような雰囲気ではなく、嫌々感がバリバリだったのも問題なのだが。
「いいから案内しなさい! ぶつわよ!?」
「わ、わかりましたわかりました。じゃあ、訳ありの依頼人さんたちの話を聞く部屋でいいですか?」
「わかったわ。ふん、最初からそういえばいいのよ!」
「私が悪いんですかっ!?」
 閑話休題。
 件の部屋へ移動した女性は、少なくとも一海と面識はない。
 しかし、一海は彼女のことを知っていた。依頼書作成のために彼女の名前を聞いて、彼は絶句する。
「く‥‥楠木正成様ぁ!? 何やってるんですか、こんなところで!?」
「依頼を出しに来たに決まってるでしょ! 知ってると思うけど、私の正体は周りに知られてないから、結構自由に動き回れるの。雑務は正長(正成の代わりを務めている親戚のおじさん)に任せてあるしね」
「‥‥それって、正成様は名ばかりの頭首ってことなのでは」
「そ、そんなことないもん! いいから依頼の内容を聞きなさい!」
 最近の丹波藩の戦力増強について、楠木正成は神皇様に報告を行った。
 周知の通り、精霊魔法技術はジャパンにおいて神皇家が独占している。八卦衆や八輝将といった凄腕魔法戦士16人(!)と精霊龍五匹を、神皇様に無断で丹波が保有していることは定法に照らせば論外である。
 すぐさま丹波藩主山名豪斬は都に召喚された。疑いは反逆罪であるが、豪斬は不安がる家臣達をなだめて都へ赴いて答弁した。
 自らに反逆の意思はないが、長崎月道、江戸月道の発見により開国したジャパンにおいて神皇家以外に精霊魔法技術の保有を禁ずるのは時代の流れに反していると明言。ジャパンの発展の為にも精霊魔法技術を開放するべきと自らの主義主張を説いた。
 公家達が大激怒したのは言うまでもない。精霊魔法を独占してきた彼らにすれば、昨日今日精霊魔法に触れた若造に言われるまでもなく、時代の変化は感じている。そして、神皇家の権威を損なわず、社会が混乱しない緩やかな変化が望ましいと考えている。
 都が様々な問題を抱えれていなければ、山名豪斬は反逆者として捕えられ、丹波藩はお取り潰しになっていた事だろう。
 ともあれ事を荒立てたくない公家達の意思により、山名豪斬は悠々と退席した。
 そして協議の結果、山名豪斬と幼い頃から親しいのに反山名的な思想を持つ楠木正成に調査の指令が下ったのだという。
 丹波藩に調査員を送り、八卦・八輝・五行龍は勿論、民草の実情を調べるのが彼女の仕事。
 これについては、山名豪斬も了解していることである。
「じゃあさっさと調査員を送ればいいじゃないですか」
「ただ調査員を送るだけじゃ無能もいいところよ。それに、第三者の目がない調査隊なんて信用に足る報告が出来るとは思えないわね。自分たちに都合のいい報告をするかもしれないし、公平さに欠けるわ」
「いや、立派だとは思いますが、それって調査をされる側の主張なのでは‥‥」
「へっ!? な、何かおかしい?」
「いえいえ、思ってたよりいい人なんだなぁ、って」
「う‥‥うるさいうるさいうるさーい! 豪斬様みたいなこと言わないでよ、ばーかばーかばーか!」
「はいはいわかりました。それじゃ依頼書書きますね。依頼人が正成様だということは伏せて、正式に参加した人にだけ明かすということでいいですね?」
「え? あ‥‥うん。お願い。それと、あなたの友達の情報屋には言わないで。あの人たちは丹波寄り過ぎるから」
「アルトさんのほうは大丈夫だと思いますが‥‥正成様がそう仰るなら。これでも真面目な話に関しては口は堅いほうです」
「‥‥うん、わかった。信じる。それじゃ今日は帰るわね。また依頼当日に会いましょ!」
 最後は笑顔で手を振って、楠木正成は帰っていった。
 ついいつものように友達感覚の口調で喋ってしまったが、あれでもかなり由緒ある豪族の御頭首である。
 そう思うと、一海は正成の生まれを不憫に思わざるを得なかった。
「‥‥ん? 依頼当日って‥‥あの人、調査隊に同行するんですか!?」
 さてさて、楠木正成による丹波藩の調査‥‥如何なりますことやら―――

●今回の参加者

 eb5087 ライクル(27歳・♂・カムイラメトク・パラ・蝦夷)
 eb7556 草薙 隼人(30歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ec2502 結城 弾正(40歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 ec2738 メリア・イシュタル(20歳・♀・ファイター・人間・エジプト)

●リプレイ本文

●いざ、出発
「こんにちは。私は楠木正成様の姪で、楠木紗雪(くすのき さゆき)よ。叔父上のお言いつけで今回の調査に同行することになりました。よろしくお願いね」
 一月某日、晴れ。
 依頼出発当日、冒険者ギルドに集まった依頼参加者たちを待っていたのは、楠木正成本人であった。
 しかし、その事実はあくまで秘密事項。正成は紗雪という偽名を名乗りつつ、冒険者と同じように旅支度を終えていた。
 しかし、何の淀みも無くさらっと偽名を名乗った辺り、日常的に名乗っている名前なのかもしれない。
 真相を知るギルド職員の西山一海は、引きつりながらも苦笑いして見送るしかなかった。
「私はライクル(eb5087)。コロポックルのカムイラメトクだ。よろしく頼む」
「私はメリア・イシュタル(ec2738)です。同性ということですし、お友達になりたいですね」
「草薙隼人(eb7556)。あんたのことは『お嬢』と呼ばせてもらう。気を悪くしたら簡便な」
「結城弾正(ec2502)だ。おーい、そこの案内のお姉さん。一寸いいか」
「あたしには紗雪っていうれっきとした名前があるんだけど?」
「じゃあ紗雪。現地では別にコソコソ隠れて探らんでもいいんだろ。俺も侍の端くれだ。同じ魔法戦士として『八卦衆』や『八輝将』がどんな修行をしてるか興味があるんだ。何とか一緒に修行できるよう取り計らって貰えんかな」
「そんな権限あたしにはないわよ!? それに、修行って、これは調査なの! そんなことやってる暇ないんだからね!?」
「固い事言うなよ、お嬢」
「あんたも、きちんと名前で呼びなさいっ!」
「あぁぁ‥‥出発する前からグループの心がバラバラに‥‥。みなさん落ち着いてください(汗)」
「あまり紗雪さんをからかうな。話が進まんぞ」
 なんとか出発した五人の後姿を見て、一海は心底心配であったという―――

●丹波紀行
「こういう調査をするとき、効果的なのは、その地の名産品(有れば)を食べることだ。ただ、それだけでも、食料は充分にとれているか、どんな産業に力を入れているか、その地の人達はどんな気質を持っているのか、など‥‥分かることは多い」
「って! あんた、ひょっとして食べ歩きしたいだけなんじゃないでしょうね!?」
「まさか。どうだ? あなたも食べてみては」
「いらないわよ!」
 紗雪(あえてこう呼ばせていただきます)は地団太を踏むが、ライクルは至って真面目だ。
 その言葉に偽りはないし、しっかり丹波の民衆を調査している。
 彼が見た限りでは、丹波の民はわりと潤っている模様。
 食べることにも苦労はしていないようで、治水、開墾、町造りと、山名豪斬は内政重視派であると感じられた。反面、外交は強く無いのかもしれない。それは今回の経緯からも想像ができた。
「でも紗雪さん、この苺、本当に美味しいですよ?」
「‥‥そんなの知ってるわよ。小さい頃に何度も遊びに来てるからね。あと、丹波と言ったら地酒よ。あたしは呑んだことないけど、叔父様があれは絶品だって言ってたわ」
「ほう‥‥それはなんとも楽しみだな」
「つか、お嬢は河内の人間だろ? なんで丹波に遊びに来たことがあるんだ」
「昔‥‥丹波が先代の御当主様だった頃は、丹波は今みたいな状況じゃなかったもん。河内とも、楠木家とも、山名家は仲良しで‥‥あたし、豪斬様とよく遊んだのよ」
「しかし、藩主が山名豪斬に代わってからは、例の精霊魔法が云々の問題で疎遠になった、と?」
「あったりまえでしょ!? 豪斬様のやってることは神皇様への反逆に等しいのよ!? 楠木家までそういう目で見られるわけにはいかないし、豪斬様の行為は容認しちゃいけないの!」
「今更だと俺は思うけどねぇ〜。神皇家は京の冒険者ギルドにいったい何人のウィザード・バード・レンジャーが登録してるか知ってるだろうに。既に所帯持って子供こさえてる奴だっている筈だ。もう精霊魔法が神皇家の独占だなんて古い話だ」
「日本には日本の伝統と格式ってものがあるじゃないの! 結城、あなただって日本人でしょ!? 侍でしょ!? なら一番尊ばれるべきは神皇様であるのは当然! 古いとか新しいとかじゃないの!」
「駄目だこいつ‥‥早くなんとかしないと‥‥」
「そこ、草薙っ! 浪人のあなただってそうあるべきなのよ!? そんなんだから仕官先を失くすんだわ!」
 一行は、こうして楠木の叫びを何度も聞きながら丹波内を歩き回って調査をする。
 楠木はガチガチの神皇様派であり保守派で、ジャパンに変革など必要なしと考えているようだった。
 幼馴染の豪斬といえど手加減なし。隙あらば丹波に抗議する材料を探しているようである。
 けれど、領内を見回す限り、領民たちの暮らし向きは想像以上に豊かだった。経済的にもそうだが、人々の表情にそれは現れていた。
 落ち着いた雰囲気の村が多く、笑顔を見ない村がない。
 当然ながら、藩主への評判もすこぶる良い。急進的な藩主についていけない人も中には居るようではあるが、ここ数年、黄泉人や鬼騒動、政情不穏で緊張の絶えない畿内にあっては稀な平和と言える。
「精霊魔法使いについては、気味悪がったり、都の事を気にする方もいらっしゃるみたいですけどね」
「当然よ! よかった、丹波の民全員が腐ったっていうわけじゃないみたいね」
「おいおい、紗雪さんは幼馴染を腐ったよばわりするのか」
「う‥‥うるさいうるさいうるさーいっ! もう民衆はいいでしょ! 次の調査行くわよ、次っ!」

 若干、調査結果を追記しておく。
 京都に隣接し、常に中央の政争に翻弄される丹波において、豪斬の内政重視、外政軽視の政策が成功したのは奇跡的である。
 特に、藩主が無断で魔法部隊を所持していれば、もっと前に問題にされて良さそうなものだが、ここ数年の黄泉人騒動やジャパン中の騒乱で都や隣国にその余裕が無かったのだろうか。
 更に言うなら大名が魔法部隊を持ちたいと言えば譜代の家臣達の反対もあったと思われるが、領内にて特にそのような噂は聞かなかった。内政重視で侍の出番が少ない丹波では強力な発言力を持った家臣が居なかったのかもしれない。あるいはそもそも豪斬の方が、封建のしがらみを嫌って魔法部隊を求めたとも推測できる。
 話によれば、豪斬は黄泉人被害を水際で食い止めた功績で魔法部隊を家臣達に認めさせたようだ。
 数年前に丹波を割る内乱がおきた時も、一部を除いて後に禍根が残らなかったので国力を疲弊せずに済んでいる。
 しかし、魔法部隊や豪斬の武勇がよく取り沙汰されるが、内政に力を入れ、他国に兵を出す事もない丹波の兵自体は人数も多く無く、錬度も高いとは言えない。
 穿った言い方になるが、周りが消耗する間に国力を蓄え、禁忌の魔法技術に手を出した丹波は他国から見れば格好の標的とも言えるだろう。


●魔法戦士たち
「あ、あの‥‥どうも。は、八卦衆代表の、地の砂羅鎖です‥‥」
「八輝将代表の、紫晶の水銀鏡なのだわ。調査とか言っていたけれど、何をすればいいのだわ?」
 とある屋敷に立ち寄った一行は、豪斬が派遣した八卦・八輝の代表と面会する機会を得た。
 二人とも女性の上、砂羅鎖は非常に気弱そうなので、凄腕の魔法戦士という感じが微塵もしないが。
「言っておくけど、修行は禁止よ、結城」
「わかっている。だが、得意な魔法を見せてもらうくらいは構わんだろう?」
「そいつは俺も興味あるな。流石に全員と会うって訳には行かなかったようだが、出来れば目の前で実演してもらいたいね」
「あたしも見てみたいんですが‥‥よろしいですか?」
「多数決に従うぞ」
「あ、あんたちねぇ‥‥」
 頭を抱える紗雪をよそに、一行は屋敷の庭に出る。
 砂羅鎖と水銀鏡も調査隊の機嫌を損ねたくないのか、素直に要望に応じている。
「それじゃあ行くのだわ。砂羅鎖、いいのだわ?」
「は、はい! が、頑張りますっ!」
 ただ高速詠唱で魔法を撃つだけなら、それほど難しいことではない。
 冒険者四人組は、そこそこ気合を入れて身構えていたが、いきなり砂羅鎖のみが突撃してきたことで面食らう!
「刀も持たずに!?」
「も、持ってたら駄目なんですぅ〜っ!」
 砂羅鎖がそう叫んだ直後に、砂羅鎖諸共一行は漆黒の闇に包まれる。これは‥‥水銀鏡のシャドウフィールド!
「大蛇咆っ!」
 ゴゥンッ、と衝撃が広がり、砂羅鎖の高威力版のオーラアルファーが炸裂、一行を弾き飛ばす。
 本当ならもう一発くらい連続で飛んでくるのだが、真剣勝負ではないのでそれはなかった。
「百聞は一見にしかず‥‥って言うけど本当にその通りで驚いた。 いやぁ〜凄いのを見せてもらって感謝感謝。二人でこれだから組み合わせたらもっと凄いんだろうなぁ‥‥その辺はどうなんだろう?」
「さぁ。八輝将同士は結構パターンがあるけれど、八卦衆とはあんまりそういう話はしないのだわ」
「せ、戦闘方針が違いますから‥‥。でも、いずれ、十六人全員での連携も、考えたいですね」
 その場の大半の人間が『ねーよ』とツッコミたかったが、とりあえず自重する。
 実際問題、十六人での魔法の連携攻撃など考えたくもない。どんな集中砲火と言うかフルボッコなのか。
 屋敷内に戻った一行と紗雪は、今度こそ会談を再開。
 八卦衆、八輝将それぞれの考え方や、豪斬の考えなど、それこそ話題は多岐にわたった。
 そして勿論‥‥。
「話にならないわっ! あなたたちが仕えるべきは神皇様でしょ!? 特に、八卦・八輝の大半は志士‥‥その時点で山名に仕えていい理由にならない!」
「はうっ!? さ、紗雪様、でもですね‥‥」
「でもも糸瓜もないっ! あなたたちがさっさとどこかに行っちゃえば、豪斬様だって諦めざるをえないのに!」
「それじゃ私たちはどうすればいいのだわ? 神皇さえよければ私たちはどこでのたれ死んでも構わないのだわ?」
「様を付けなさいお団子頭ぁっ!」
 と、紗雪が怒鳴り散らし続ける結果となるのは必然であった。
 どうしてそこまで神皇に忠誠を誓うのか‥‥また、他者にもそれを求めるのか、冒険者たちには理解できない。
 やがて、あまりにヒートアップした紗雪を宥め、ちょっと外の空気を吸ってこいとライクルが諭す。
 メリアもそれについていき、落ち着かせる役に回った。
 結城と草薙が、改めて話を聞くことにし‥‥調査を続行した―――

●スキ
「裏八卦‥‥? 聞いた事あるわね。確か、前に丹波で暴れまわってた魔法を使うゴロツキ連中だったかしら」
「まぁ、確証はないんだが、話を聞くとどうも八輝将の連中はその裏八卦そのものなんじゃないかって思ったんだ」
 帰路についた彼らは、今回の成果及び結果について話し合っていた。
 その中で、草薙が呟いた言葉。これに紗雪が喰いついたのだ。
「でも、裏八卦って全員捕まって、処刑されたと聞きましたけれど‥‥」
「まぁ、首が晒されたわけじゃないらしいからな。あながち無いとは言えないだろうが‥‥それがどうかしたのか?」
「どうって‥‥格好の攻撃材料じゃない! そんなゴロツキを処刑したなんていいながら抱え込んでるなんて、常軌を逸してるわ。叔父様にいい報告が出来そうね」
「攻撃‥‥!? すまないが紗雪さん、私たちは丹波を揺らがす手伝いに来たわけではないんだが。公平な調査をと言うから協力したんだぞ。責め立てるあら捜しをしに来たんじゃない」
「それに、確証はないって言っただろ? まだ八輝将が裏八卦と決まったわけじゃ‥‥」
「いいのよ、ヒントが得られただけでも。あとはこっちで調べます。それにライクル、これは充分公平な調査よ。普通に考えて、魔法を抜きにしても処刑しなければいけないような人物を仕官させることは異常よ。違う?」
 そう言われてしまうとぐうの音も出ない。
 八卦衆も裏八卦も元をただせば志士や陰陽師である。都に記録は残っているし、丹波に流れてきた経緯は叩けばホコリが出るに違いない。もし都で問題を起こした志士や陰陽師を匿っていたとなれば‥‥どう考えても只では済まない。
 紗雪こと楠木正成は、今回の調査に大満足であったという
 代わりに、冒険者たちの気分は重い。
「あ、あの‥‥紗雪さん? 今回のことで豪斬様の立場が危うくなって、処罰されるようなことになったら、どうするつもりなんですか? それも神皇様のためなら仕方ないんですか‥‥?」
「う‥‥だ、大丈夫よ。素直に御沙汰に従ってくれるなら叔父様が口添えしてくれるだろうし、神皇様もそこまで厳罰にはしないはずよ。あたしだって‥‥好きでこんなことしてるんじゃない。昔の豪斬様に、戻ってもらいたいだけよ‥‥!」
 楠木家当主と、一人の少女という立場で揺れる紗雪の心。
 果たして、今回の調査は丹波にどういう影響をもたらすのであろうか―――