決断の時

■ショートシナリオ


担当:西川一純

対応レベル:フリーlv

難易度:易しい

成功報酬:0 G 65 C

参加人数:7人

サポート参加人数:-人

冒険期間:03月14日〜03月19日

リプレイ公開日:2008年03月20日

●オープニング

 言うまでもないが、丹波藩主、山名豪斬は、藩主とはいえ神皇家の臣下である。
 全ての藩主は神皇家に忠誠を誓った臣である。それは数百年の皇藩体制を支える原則であり、領主達にとっては自然の法則と同じくらい重い。
 しかし、昨今の京都付近の諸問題があったにせよ、明確なお咎めがないのをいいことに精霊魔法使いを十人以上も召抱え、『精霊魔法を統括するのは神皇家』という日本古来の了解を破った。
 黄泉人、長州、酒呑童子と問題続きで放置していた都も、いい加減に看過できぬということになったのか、丹波藩に縁のある楠木正成に命を下し、丹波を調査。
 その中で、丹波が抱える魔法部隊の一つ『八輝将』が、京都で悪事を働き、行方を晦ました志士などで構成されているのでは、との疑惑が浮上。追加調査が行われた。
 冒険者にも独自の調査を求めたのだが、結局『黒でも白でもない』というような結論に至り、八輝将は京都に召集され、更なる御沙汰を待て、ということになったのだが‥‥はいそうですかと事は運ばない。
 八輝将の一人、青珠の蒼陣が、乱心したか神皇をこれでもかと侮辱。
 はては現状の主である山名豪斬をも利用したと吐き捨てたのである。
 事情聴取を取り仕切っていた楠木正成は、当然我慢がならなかった。
 志士であるならば、蒼陣の言は見過ごせない。
 例え正成がやらなかったとしても、同席していた志士である冒険者の誰かがやっていたかもしれない。神皇を罵倒されて見逃せば志士として立場が無い。
 蒼陣は斬り捨てられ、八輝将はその数を一人減らした。
 それは、ある意味必然。当の蒼陣がそれを狙ったのだから。
 しかし、明確な判決が出ていないのに調査中の他藩の藩士を斬り殺せば、無罪とはいかない。
 楠木正成は謹慎を申し渡され、丹波の一件から離れることとなった。
 これが吉と出るか凶と出るかは分からない。だが、蒼陣は楠木正成組し難しと判断したのだろう。

 そして、その結果が今回の依頼となる。
 都から総勢五百もの兵力が丹波に送られることが、関係者の話から明らかとなった。
 これは丹波を攻めるのが目的ではなく、あくまで八輝将の引渡しを勧告するためのものということではあるが、丹波がこれを拒否した場合、どうなるかは火を見るより明らかだ。
 藩内にも八輝将を引き渡して、都に許しを乞うべきだという声は少なくない。
 しかし、豪斬は危惧する。これを受け入れてしまえば、八卦衆や五行龍にも話が及び、彼が今までやってきた事は全て無駄になるのではないかと。
 幸い、まだ兵が送られるまでは時間がある。
 そこで丹波藩主、山名豪斬は、冒険者に意見を聞くために依頼を出す。
 丹波藩の主城、東雲城に冒険者を招き、今後の方針について忌憚のない意見を聞かせて欲しい、と。
 こんなことは自国内で纏めるのが筋である。しかし、豪斬はあえて冒険者の意見が聞きたいという。
 何故ならば‥‥豪斬は、これからの世を動かすのは一握りの権力者ではなく、彼らや大衆であると信じているからだ。
 意見次第では、八輝将を大人しく引き渡すことになるかもしれない。
 はたまた、本格的に京都‥‥ひいては神皇家を敵に回すことすらありえる。
 豪斬本人の思想や理想はともかく、民や家臣の事を考えれば容易く答えは出せない。現在は激動の時代であり、何が正しくて何が間違っているとも簡単には言えない。‥‥今回の依頼は、丹波を、日本の歴史を揺るがす決断の時となるだろう―――

●今回の参加者

 ea4236 神楽 龍影(30歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea4301 伊東 登志樹(32歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea6526 御神楽 澄華(29歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 ea9527 雨宮 零(27歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 eb0882 シオン・アークライト(23歳・♀・ナイト・ハーフエルフ・ロシア王国)
 eb1758 デルスウ・コユコン(50歳・♂・ファイター・ジャイアント・ビザンチン帝国)
 eb3367 酒井 貴次(22歳・♂・陰陽師・人間・ジャパン)

●リプレイ本文

●声
 丹波藩の主城、東雲城。
 丹波中央部に位置し、藩主の山名豪斬が居を構える城である。
 今日と言う日、その謁見の間には正装した七人の冒険者が控えていた。
 その他、丹波の重臣や八卦衆、八輝将なども全て集まっており、空気は重苦しい。
 時間通りに現れた山名豪斬は、まず家臣一同に声をかけた。
 この場で冒険者諸氏が述べた意見に、決して口を挟まぬこと。無礼な、などと思うなと念を押した。
 豪斬は依頼を出した張本人なので問題はないが、丹波の家臣の中には看過できない言葉もあろう。
 まずはそれを封殺しておかなければ、冒険者たちもおちおち意見も言えない。
 そして。
「此度はよく来てくれた。このようなことに付き合ってもらい、感謝の言葉もない。正直、二、三人来てくれれば御の字かと思っていたが‥‥嬉しく思う」
 本心からの礼を述べた後で、注意事項を口にする豪斬。
 冒険者たちも、他の冒険者の意見に口を出さないようにと釘を刺したのだ。
 主義主張の異なる考え方が出たからといって、それを否定し口論になるだけ時間の無駄。
 要は豪斬が彼らの意見を聞き、考えなければいけない事だからである。
 そして‥‥ついに、意見陳述が始まった―――

●伊東登志樹(ea4301)の場合
「おひけぇなすって。ちんぴら坂を直走る伊東登志樹ってぇケチなやろうたぁ俺のことでさぁ。今まで丹波に関わってきた身としても、豪斬親分の悩みに答えるために来やしたぜ」
 伊東の言動に眉をひそませる丹波藩士は多い。
 が、今はそんなことは関係ないのだ。
「俺ぁよぅ、正直言って、蒼陣の野郎があんなマネする様な漢とは思ってなかった。小利口な小悪党‥‥俺は、あいつはそういう奴だと思っていた。‥‥だがよぅ、あの野郎がああしたのは、丹波がどうとかのためじゃねぇ。豪斬親分‥‥あんたってぇ漢に惚れちまったからだぜ? あの野郎の見せた漢気に答えんのが、親分ってもんだぜ」
 豪斬は伊東の一言一言をしっかり噛み締め、真っ直ぐに受け止めるよう務める。
「少なくとも、引渡しは、引き伸ばして、交渉の余地を探るのが妥当だな。‥‥まぁ、端から引渡しなんざ、勘定に入れる必要は無ぇがな。のらりくらりと時間を稼ぐのが良いだろ」
 伊東の弁が終わり、豪斬はゆっくりと懐いた。
 豪斬は内心思考を巡らしながらも、次の冒険者の意見を促した。

●デルスウ・コユコン(eb1758)の場合
「引渡しは拒否、八輝将は藩内で登用してる者にこれ以上の口出し無用と。ただし、先の一件(神皇侮辱)もありますし‥‥まぁ、解散させて藩として処罰を加えるか、罷免もやむおえないかもですな」
 丹波に関わったことのないデルスウの意見。それは、一民草のそれと変わらない。
 悪意もない、擁護もない、正に忌憚のない意見‥‥貴重である。
「武力で威嚇してきている以上、ここで引くべきではないでしょう。どうなるか分かりきっているとは言え、相手もそれを承知の上で仕掛けてきているのでしょうし。抵抗するだけ抵抗して、折を見て最後は潔く腹をお召しになるのが宜しいかもしれません。それまで部下やら民草に塁が及ぶ事を考えればどちらにしても苦渋の決断ではありましょうが‥‥。黄泉人、五条の乱と見事に力の無い事を証明しているのが現の朝廷です。長いものには巻かれ、勝てる戦しかせず、まことに忠義を働いているとはとても言えますまい。此度の件、特に兵力動員に関しては明らかに連中は判断を誤っている。それがまことに神皇の意思であるなら、もはや神皇など必要ないでしょう。しかし、無知で道理を知らぬ主君を諌めるのも臣下の務めと言うことはありますかな」
 彼の意見は非常に過激で、謁見の間がざわつく。
 が、豪斬はただ受け入れて感情を見せない。
 デルスウはその様子を見て、満足気な表情を浮かべていた。

●シオン・アークライト(eb0882)の場合
「数々の無礼を喋る可能性がございますが、平にご容赦を。此度のこと、八輝将の引渡しは、済し崩しに他に手が及ぶ可能性を考えて拒否されると同時に、都があくまでも引渡しを求めるのならば、次に大きな戦が起こった時に丹波は都に協力しないことを言外に匂わせてはどうでしょうか。その代わりに、此度のことを都が不問に処すならば豪斬様は反省の意を示し剃髪入道されると共に、熊野誓詞に血判と起請文を書き神皇陛下への忠誠を誓い朝廷に何かしらを献上する‥‥と言ったように硬軟使い分ける案を提示させて頂きます。ただし、此の案は下手をすれば都の態度を更に強硬なものとしてしまう可能性があることを他冒険者も危惧しておりましたし、私も完全否定はできかねることをご承知置き下さいませ」
 シオンの意見は、丹波藩士に好評なようだ。
 流石に何の反省も無しでは、と思っている人間が結構居ると言うことである。
「最後に、豪斬様がどのような方法をお選びになるとしても、隠居だけは思いとどまって下さるようにお願い申し上げます。八輝将などの信頼を受けるに足る方は豪斬様しかいらっしゃらぬでしょうし、隠居後には豪斬様の手の届かぬところで派閥争いや、豪斬様の後に藩主となられた方が八輝将などを護りきるとは確約できぬと思いますので‥‥」
 シオンの意見を聞き終わり、豪斬は次の冒険者を促す。
 その苦笑いの混じったような微笑に、シオンは『あぁ、この人は本当に苦しんでいるんだな』と感じ取ったと言う。

●雨宮零(ea9527)の場合
「僕は‥‥この丹波での特殊な状況を保っていくつもりであれば、ですが‥‥反逆の意思はなく、されどこちらの意思は強固であるということを‥‥今回どういう結果になっても、そういった姿勢を強く見せる必要はあると思うのです。そういった理由で、すんなりと八輝将を引き渡してしまうことは少し考えた方が良いかと思います。志士である、等が大きな問題であれば、間もなくして八卦衆も同じようなことになるでしょうし、条件を提示してみてはどうでしょうか。僕は、認めてもらえるような強い材料は思いつかなかったの‥‥ですけど。(滝汗)」
 柔らかい雨宮の意見。恋人であるシオンの意見とは違い、確たる方針はないが‥‥それでも、彼が心から丹波のことを心配し、なんとか豪斬の助けになれればと思ってくれていることは伝わる。
「‥‥この間の件は、僕も衝撃的でした。もしかして楠木さんとのご関係も聞き及んでの行動だったのかもしれませんね。あの蒼陣さんが仲間や丹波のために命を賭すまでに‥‥。きっと皆さん、豪斬様のことが好きなんでしょうか。あと、愚問であるのを承知で‥‥裏八卦処刑の時から、ほんの少し気になっていたのですが‥‥烈斬様の時も、何かありましたか?」
 最後の問いに、豪斬は明確には答えない。
 しかし、目を閉じ、想いを馳せるような表情を見せられた雨宮は、それだけでなんとなく察した。
「‥‥わかりました。それでは、どうか悔いのないご選択を」

●御神楽澄華(ea6526)の場合
「蒼陣様が命を落とされた際、その場にいながら何も出来なかった事に謝罪いたします。そしてその上で‥‥真に申し上げ難いことですが、派兵されてくる使いを強行に突き放す、というのは道理が通らぬであろう事を、進言させて頂きます。私自身、丹波には幾度も足を運んでおりますし、五行龍様方のことも含め味方したい気持ちはありますが‥‥豪斬様が、魔法が一所に留められる今の制度にいくら疑念をもたれようと、魔法戦力を擁する事を決めた志がいくら高かろうと、法は法‥‥従わぬ理由とはなりません。少なくとも、これ以上朝廷からの咎めに異を唱えるは筋が通りますまい」
 御神楽の言には反論の余地は無い。
 本来、こうあるべき。こうでなくてはいけないという意見の見本だ。
「無論、ただ唯々諾々と従うべし、とも思いません。豪斬様に神皇家を蔑ろにする意がなき事は、楠木様同様信じております。であれば‥‥行動をもって制度を崩すより、いくら苦難の道で時間がかかろうと、制度が是正されるよう働くべきでは? 今までの不義の謝罪・けじめつけと叛意無しを示す為とし、派兵された方々と京へ向かうという案には賛意を。私も丹波に叛意無しを訴えますし、正式な沙汰が下るまで八輝将様方に不当な仕打ちが加えられぬよう尽力もいたします」
 ありがたい。志士であり、道を正しながらも丹波を憂いてくれる御神楽の気持ちは本当にありがたい。
 それでも豪斬は、ただ頷くわけには行かない‥‥。

●神楽龍影(ea4236)の場合
「今回の件、如何に理由があれども、元々道理を外したは丹波藩。何らかの『けじめ』は必要なのは変わりませぬ故、機先を制すべきでしょう。勅令が出ている以上、勅使が同道致しておりましょうから、勅使を篤く遇しつつ、勅令に対する答えを伺う暇を与えず、山名殿が自ら神皇様に謝罪する、という名目で上洛。この際の供は、冒険者か八輝衆の代表等、少数とし、神皇様との直接会談にて反意無き事を伝えては‥‥と考えます」
 この意見も、シオンや御神楽同様、丹波藩士にも理解者が多い。
 それが普通。それでこそまともな日本人と言うべき意見なのだから仕方ない。
 神楽は進言の終わりに、豪斬を見据えて言う。
「これを機に、丹波藩の神皇家直轄領化をお考え頂きたい。今、天下に必要な事は一藩の利を捨てる事に御座います! 神皇家の御為、そして領民の、或いは天下万民の為、御一考を‥‥!」
 正装でも面は外さない。そんな神楽に不快感を露にする人間も居たが、豪斬は意に介さない。
 大事なのは風体ではない。神楽の意見と‥‥その心なのだ。
 面の下の素顔を見透かすような微笑を浮かべ、豪斬は神楽の意見を受け止めた。

●酒井貴次(eb3367)の場合
「古来よりの理を無視して、多数の魔法戦士を召抱えている事は、確かに非難されても致し方ないと思いますし、何らかのけじめは必要だと思います。とは言え、朝廷も実質黙認していた訳ですし、今更兵を挙げるというのも妙な話ですよね。少なくとも、申し開きの場くらいは設けても良いのでは? と、まずは要求しては如何でしょうか? 流石に、無条件に従うというのは、後の事を考えると拙いような気がします。『逆らう気は無いけど、高圧的に来られるのなら、承服しかねる部分もある』という感じでしょうか」
 酒井もまた、丹波藩に縁の薄い人物。
 その言葉は無邪気と言うか、理想。しかしそれ故に真理である部分も多い。
 だが、それよりも何よりも、酒井は占いによって結末がおぼろげながら分かっているのだ。
 複雑な表情を浮かべる酒井に、豪斬は微笑んでから頷く。
 さて、これで全員の意見陳述は終ったが―――?

●想いの起源
「‥‥皆の意見、ありがたく頂戴した。忌憚なき意見の礼としては拙いが‥‥一つ昔話をしよう」
 そう言って、豪斬は語り始めた。
 
 丹波に、武士の家系に生まれたとある少年が居た。
 やんちゃなさかりのその少年は、ある日、従者数人と共にいつも遊び場にしている山へと出かけた。
 しかしその日、その山にはどこかからやってきた人喰い鬼が潜伏しており、不意を突かれた従者たちは抵抗しようとするも全員殺され、少年は恐ろしくてただただ逃げた。
 捕まれば殺される。命を張って逃がしてくれた従者たちのためにも、立ち止まってはいけない。
 しかし所詮は子供の足。人喰い鬼はすぐさま追いつき、少年に手を伸ばした‥‥その時である。
 あらぬ方向から雷撃が人喰い鬼を直撃し、一人の武士が少年を守るために立ちはだかったのだ。
 精霊魔法を使うからには志士。それは分かる。その志士が何故こんなところに居たのかは分からない。
 そんなことを考えている間に、志士は卓越した魔法であっという間に人喰い鬼を打ち倒したのだった。
 ややあって、騒ぎを聞きつけたのか少年の父親が兵を連れてその場に現れた。
 礼をしたいと言う父親の申し出を、志士はやんわりと断る。
 自分は『追われる身だから』と悲しげな笑みを浮かべて。
 その志士は、京都で志士同士の派閥争いに巻き込まれ、言われなき罪を背負わされて京を追われたのだという。
 神皇を守る志士と言えど、所詮は人間。清廉潔白な人物ばかりではなかろう。
 忠誠は一本気でも、神皇家に対する自らの地位をもっと高めたい‥‥そんな風に思う人間が居てもなんら不思議ではない。
 少年は思った。
 何故、人を助けた人間がこんなに惨めな状況に居なければならないのかと。
 志士だった人間が、自分を助けてくれた正義の味方が、こんな野山で辛い思いをしているなど、許し難かった。
 辛い思いをしたのなら、その分だけ報われなければ嘘だと、子供心に強く思ったのだ。
 そんな少年の心を知ってか知らずか、少年の父はその志士を召抱え、少年の守り役とした。
 流石に志士であることは他のものには伏せたが、その境遇と息子を助けてくれた恩に報いたかったのだろう。
 少年を見捨て、魔法など使わずに隠れていれば、辛い生活かもしれないが志士であることを他人に知られるようなことにはならなかったのだから。
 やがて、時は流れ‥‥父が死に、家督を継いだ少年は、故あって丹波に流れてきた志士たちを迎え入れた。
 流石に擁護の仕様がない程の悪人は見捨てたが、かつて自分を救ってくれた志士のように、丹波の民を救ってくれる存在となってくれるよう願って‥‥脛に傷のある人間でも召抱えたのだ―――

「‥‥電蔵‥‥すまぬ。やはり余は、蒼陣の命がけの行動を無下にはできん。彼らの意見を聞いていて、ますますそう思ってしまった。‥‥いや‥‥もしかしたら、おぬしと出会ったあの日から、答えは決まっていたのかもしれんな‥‥」
「若‥‥いえ、殿‥‥。ワシは‥‥」
「そんな顔をするな。これは余が決めたことだ。召抱えた家臣を差し出して、藩主として賢く生きるより‥‥不様でも人としての答えを優先する。丹波藩主、山名豪斬の結論は‥‥『いくら交渉しようと家臣である八輝将を差し出すことはない。あくまでも実力行使とあれば、丹波の兵力を以ってこれを撃退す』だ。されどこれは翻意にあらず。長州、五条が都に攻め入るようなことがあればすぐさま神皇様の元に馳せ参じよう」
 何を今更と言われても仕方がない言葉。とんでもない御都合主義な台詞。
 そんな世迷言が通るものかと言われても文句は言えない。
 これで丹波の立場はほぼ最悪な状況へ転がり落ちることだろう。
 それでも、これが山名豪斬の本心。決断。そして‥‥理想。
 義なくして‥‥家臣も守れずして、民や藩が守れるものか―――