突撃、オ−バーフラッグス!
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■ショートシナリオ
担当:西川一純
対応レベル:フリーlv
難易度:難しい
成功報酬:0 G 39 C
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:04月11日〜04月14日
リプレイ公開日:2008年04月13日
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●オープニング
世に星の数ほど人がいて、それぞれに人生がある。
冒険者ギルドでは、今日も今日とて人々が交錯する―――
「聞いてください藁木屋さん!」
「なんだね薮から棒に」
「ついに‥‥ついに私にも冒険者さんからの依頼が来ましたっ! 私にも依頼を望んでくれる人がいるんだ‥‥こんなに嬉しい事はない‥‥! 御紹介します、月詠葵君でーす!」
「どうもなのです。お世話になりますなの♪」
ある日の冒険者ギルド。
冒険者ギルドでは、当然ながら様々な人からの依頼を募集している。それは冒険者も例外ではない。
しかし、冒険者は何か問題があっても大概自分の力で何とか出来てしまうため、自ら依頼を出す事は少ないのだ。
まぁ、あくまで少ないだけであって、今回のように皆無なわけではない。
ギルド職員、西山一海に紹介されたのは、まだあどけなさの残る少年でありながら熟練の冒険者でもある月詠。
長い銀髪と目が特徴的で、京都の何でも屋の藁木屋錬術とも、勿論一海とも付き合いの長い旧知の仲だ。
「今回はですね、半ば遊びもかねた模擬戦をお願いしたいのですよ。あ、勿論やるからには本気です。自分たちの力や技を、個人ではなくチームでどれだけ発揮できるかというのを試してみたいのです♪」
「どれどれ‥‥。ほう、かなり練りこんであるルールだね。サバイバル鬼ごっこを戦闘ありにしたような感じか」
「みゅ♪ でも、なんか変な感じなのです。いつもは受ける側なのですが、今回はお願いする側なので‥‥」
「いやぁ、私は嬉しいですよ? 藁木屋さんはともかく、私は月詠君と話す機会ってあんまりありませんから」
「うや‥‥一海お兄ちゃんって呼びますですか?」
「あー‥‥遠慮しておきます。なんか危ない道に目覚めてしまいそうなので‥‥(自分の鼻頭を抑える)」
月詠が持参してきたルールが書かれた紙に目を通した藁木屋は、どこか適当な場所がないか思案する。
街中は論外。京都の外は障害物が少ない場所が多い。
こういう実戦に近い遊びは、山の中などが望ましいのだが‥‥。
「ふむ。では、いつもサバイバル鬼ごっこをやっている山でどうだろう。所有者の貴族には私から打診しておこう。それでは、それも踏まえて正式なルールはこんなところでどうだろうか」
1:参加者で2チームに分かれ、相手チームの旗を奪うことを目標とした模擬戦である
2:相手チームの旗を奪うか、片方のチームが全滅することで勝敗決定
3:予め決められた陣地使用可能な場所から其々が自分の陣地を指定する。また、初日は陣地構築や罠設置などに使用
4:2日目の朝から戦闘を開始し、依頼終了日まで昼夜の区別問わずに戦闘期間とする。今回は合計3日間。
5:戦闘不能状態に陥るか、予め各人に配られた木札を奪われた時点で戦線離脱と見なし、以降戦闘への参加はできない。
6:ペットは禁止とし、回復系アイテムは、リカバーポーション1個、ヒーリングポーション1個のみ使用可能。その他の回復アイテムは使用禁止。それ以外の武器・アイテム・魔法等についての制限は設けない。
「薬は合計二個だけなのですか? 随分厳しくなってるのですよ(汗)」
「より実戦感覚で緊張感を出すにはこの方がいい。回復薬を使うタイミングや順番も重要になる」
「せんせーい、しつもんでーす。『戦闘不能』の基準はなんですかー?」
「そうだな‥‥『重傷状態になる』が適当か。瀕死でもいいのだが、万が一死人が出ても困るだろう? それに、一撃に対する緊張度や連携による状況構築の成果などもこちらの方が出やすい。瀕死は‥‥正直やりすぎ感もある」
「了解なのですよ〜♪ では、当日を楽しみにしてるのです♪」
殺伐とした依頼が続いていた一海にとっても、はしゃげるいい機会となった今回の依頼。
楽しげな話題は、それだけで人の心を和ませる力があるものだ。
さて‥‥チームで行うスペシャルで二千回で(?)模擬戦は、果たしてどんな結果となるのだろうか―――
●リプレイ本文
●下準備
四月某日、晴れ。
冒険者一行は、サバイバル鬼ごっこなるお遊びがよく行われる山へ足を運び、半々に分かれた。
山の所有者にも許可を貰い、陣地の構築や罠の設置も自由。
実戦さながらの力を出す模擬戦が行われるわけだが、親しい友人であってもやるからには容赦なしというから凄まじい。
都合三日、七十二時間の朝昼晩全てが期間となる。
寝ていました、休んでいましたは言い訳にもならないと言う徹底振りである。
さて、一日目はどちらのチームも山を歩くなりして陣地を構築する場所を決め、余裕があれば罠を仕掛けでもいい。
開始の合図と同時に走り出した二チーム‥‥編成はこうだ。
Aチーム Bチーム
月詠葵(ea0020) 所所楽柊(eb2919)
風間悠姫(ea0437) 楠木麻(ea8087)
幽桜哀音(ea2246) 草薙北斗(ea5414)
南雲紫(eb2483) ルンルン・フレール(eb5885)
こうして見ると、Aチームは純粋な戦闘力で、Bチームは搦め手的な能力で相手チームを上回っているのがわかる。
とは言っても、これは一対一のいざ尋常にといった類の勝負ではない。
どちらが勝ってもおかしくない戦い‥‥運すらも勝敗に大きく関わってくるだろう。
やがて、初日の朝が終わり、昼が過ぎ、夜の帳が降りて、また朝が来る。
ここからが本当の勝負の時。準備は終った‥‥後は戦うのみ!
少なからず緊張する二チーム。
お互いの陣地の旗だけが、穏やかに風にたなびいていた―――
●スペシャルで! 二千回で(?)! 模擬戦なんだよぉぉぉぉぉッ!
山一つ。
字にするとたった三文字で表せてしまうが、実際に足で移動するとなると意外と広い。
実は二チームとも、一日目の準備期間で相手の陣地を見つけられずにいたりする。
敵チームに遭遇することもなかったので、二日目に入ったからといって即相手陣地を強襲、といった真似はできない。
もっとも、お互い最初からそんな手を使う気はなかったようだが。
「う〜ん、見当たらないねぇ。罠に手をかけすぎたかな〜?」
「でもでも、昨日のうちにあっち方面とあっち方面は調べましたよ? とすると、必然的に向こうの陣地はこっち方面ということになるのです♪」
「うん‥‥そうなんだけどね。でも、Aチームもこっちの陣地を見つけた様子がないから、このままだと鉢合わせしそうな気が‥‥」
Bチームの草薙とルンルン。
忍者コンビは、気配を隠しながら敵陣地の場所を探るために未探索の地域へと歩を進める。
しかし行けども行けども辺りに人の手が入ったような跡がなく、罠も見当たらない。
まぁ、サバイバル鬼ごっこで使われたのであろう古い痕跡はあるにはあったが。
相手も然る者。気配を感じずとも、もう補足されているということも充分在り得る。
二人はますます慎重に、山の土を踏みしめていく―――
「‥‥どう‥‥紫さん‥‥。気配‥‥する‥‥?」
「‥‥いいえ。隠れ身の勾玉とか使われているとすると恐いけど、多分近場には居ないわね」
「‥‥ふぅ‥‥。意外と‥‥見つからない、もの‥‥」
「ま、痕跡を探る手段はこっちしか使えないわけだから少しは有利ね。忍者が二人も居て罠を一つも仕掛けないなんてことは無いでしょうから、罠に出くわしたら敵陣が近いということよ。それで充分」
こくりと頷く幽桜。まだまだ穏やかな通常モードの南雲。
こちらのAチームの二人も敵陣を探し、山を探索中。
昨日調べていないところを中心に、警戒しつつ進む。
実は南雲の言うとおり、Aチームは罠らしい罠を一つも作っていない。
その分自陣の場所を察知されにくくはなるが、防衛能力が落ちるのは少々痛いか。
がさがさと草木を掻き分け、何気ない一歩を踏み出した瞬間!
ひゅんっ! という風切り音がした直後、巧妙に隠れていた縄と言う名の蛇が南雲の足に噛み付き、捕えようとする!
しかしそこはかなりの回避力を持つ南雲。不意ではあったが、良い反応で辛くも脱出成功。
「ほう‥‥流石は北斗、良い位置に罠を仕掛けている。が、こんな縄程度で私を縛れるものか」
「‥‥私だったら‥‥ちょっと、危なかった‥‥かも‥‥」
嵌れば、足首から宙ぶらりんにされるタイプの罠。
だがこれで、遠からざる場所に敵の陣地があることは想像に難くない。
Aチームの二人は、緊張感を高めながらもそのまま真っ直ぐ森を進む―――
カラン‥‥カラン‥‥。
Bチームの本陣では、木々のざわめきの中に乾いた木がぶつかる音が混じっていた。
どうやら先ほどの罠は、発動と同時に本陣の鳴子を鳴らすよう連動していたらしい。
しかし、よくあるような大音響を巻き起こしたりはせず、その音は非常に控えめ。
これはルンルンの提案である。彼女曰く、『わざわざ相手に自分たちが見つかったことを教えてあげる必要はありませんなの。それに、夜に大きな音が鳴ったら嫌じゃないですか。睡眠不足はお肌の天敵なのです!』とのこと。
「フッフッフ‥‥おいでなすったようですね。テントの中にでも隠れていましょうか?」
「テントの正面から相手が来てくれるんならな〜。生憎見通し良い風に陣地を作ったんだ、来るならこっちも真正面から迎え撃つしかないってなもんさ」
それでも、相手が来ると分かっているのといないのとでは心構えに大きな差が出る。
楠木と所所楽が本陣を守っているこの時に現れたAチームの二人‥‥即ち、幽桜と南雲。
お互い、相手の姿を確認して思わず舌打ちしてしまう。
「まずいな‥‥麻がいるのか。ソニックブームの射程を遥かに超える魔法が飛んでくるぞ‥‥!」
「‥‥というか‥‥これ以上、近づくと‥‥お地蔵さんに‥‥されると思う‥‥」
そう、楠木には射程100メートルからなる達人級のストーンがある。
抵抗できればいいが、失敗すれば即再起不能。
抵抗できたとしても、二発、三発目を高速詠唱でもらうとかなり分が悪い。
「麻サン、伏兵は?」
「いないみたいですね。ま、四人全員出払うわけにはいかないでしょうから当然でしょう」
「おっし、そんじゃこっちから攻めるとすっか。危なくなったら魔法ヨロシクな〜」
「GOOD! 蓋でもグラグラのラッシュでもお任せあれっ!」
相手は回避が上手い幽桜と南雲だが、魔法が回避できないものである以上は関係ない。
Aチームが戦う姿勢を見せたらストーンで固めてやればいいだけの話だからだ。
しかもこの周辺には草薙とルンルンが作った罠が大量に散らばっているので、俄然追うBチームが有利!
しかし、そこは相手も歴戦の戦士。状況は不利と判断し、いち早く撤退を開始する!
「良い判断だ! けど、そう上手く逃げられるかなぁ〜!?」
「‥‥!? 何‥‥この、障害物‥‥?」
「くっ、意外と邪魔だ! それに‥‥!」
南雲たちのすぐ横を矢が通り過ぎていく。
所所楽が作った余材の突起物も、何気に蹴っ躓いたりしてタチが悪い。
追ってくる所所楽と楠木‥‥追う側の上に罠の場所を知っている二人は、どんどん距離を詰めてくる!
「‥‥分散したほうが‥‥いいかと‥‥。向こうも‥‥必要以上には、追わないと‥‥思うし‥‥」
「承知。とりあえず自陣へ戻るぞ!」
二手に別れた幽桜と南雲。流石にそれを追うほど所所楽も馬鹿ではない。
Bチーム本陣での小競り合いは、こうして幕を下ろした―――
●雨中の駆け引き
結局、二日目はAチームBチーム共に相手の陣地の場所を把握するので精一杯であった。
お互いローテーションで休息を取り、役割を交代しつつ警戒し、二日目を終える。
と、三日目にさしかかろうとする朝方になって雨が降り始めた。
しかも結構纏まった勢いで、テントの外に出ればあっという間にずぶ濡れ。身体が冷えてしまうことこの上なし。
とはいえ、雨が降ってきたから中止などという生っちょろいことを言う人間が居るはずもなく。
そして時は過ぎ‥‥残り時間はあと半日ほどとなってしまった。
(「悠姫‥‥気付いてますか?」)
(「えぇ。でも気付かないフリをしましょう」)
今は月詠と風間のカップルが敵本陣を目指し、移動中。
小声で会話する二人の声は、雨音にかき消されて他人にまでは届かない。
すでにBチームの本陣の場所は分かっているが、現在地はAチームとBチームの陣地の真ん中辺り。
気配は木の上からする時もある‥‥となれば相手は草薙とルンルンだろう。
しとしとと雨が降り続く現在では、息を潜めてじっとしている方が体温や精神力を削ってしまう。
このまま進めば、Bチームは月詠たちを本陣に残っている二人とで挟撃することもできるが‥‥?
「‥‥そういえば、哀音や紫はもう敵陣に着いたかしらね?」
「‥‥悠姫? あぁ‥‥そうだね、そろそろ着くころだと思うの。ボクたちも急ごう!」
わざと大きめの声で会話する二人。
つまりは聞いているであろう草薙たちに、Aチームの本陣がカラになっていると誤解させたかったのだ。
そして、先ほどからちらちらしていた気配が付近から消えたことでその作戦が成功したと確信する。
何故草薙たちが挟撃を捨ててまでAチームの本陣を確認に行ったか?
それは、忍者二人には疾走の術があり、体力的にも速度的にも確認しにいくのが悪い手ではないと思ったからだろう。
そろそろ時間も無視できない。Aチームが最終手段に出たとしても不思議ではないのだ。
「かかったな。追いましょう、葵。こっちから逆に挟撃を仕掛ける!」
「了解! 全速力で戻るの!」
果たして、この作戦でBチームの数を減らせるかどうか‥‥?
「わわわっ、やられました! Aチームの本陣にはちゃんと人が居ますのです!?」
「ということは、葵君たちも戻ってくる!? やばい‥‥退いたほうがいいかな‥‥!?」
「でも、今から本陣に戻って四人で攻めるにしても、時間が足りません。ここは、一か八か私たちだけで行きましょうなの!」
「今ならまだ葵君たちが来るまで少し余裕がある‥‥迷ってると状況を悪くするだけ、か」
「旗取りは速度命なんですよ、光の速さでGOです!」
わざわざ江戸から、この依頼のために京都までやってきたと言うルンルン。
やれるだけのことはやっておきたい。このまま時間切れで引き分けでは悔いが残る‥‥それは草薙も同じだ。
「わかったよ。一気に突破する!」
木の陰から飛び出し、一気にAチームの本陣へ突撃する影が二つ。
この付近も見通しはいいが、本陣目の前が林である分、暗くて二人の接近への反応が遅れた。
Aチームは鳴子などの罠を仕掛けておらず、目視や気配察知が頼みの綱‥‥!
「速い!? 北斗たちか!」
「‥‥柵を‥‥一っ飛び‥‥!」
疾走の術はジャンプ力も増す。
草薙レベルになれば、よほど高い柵でない限り飛び越えるのは朝飯前である。
しかし、そこにはとある問題もあった。
「‥‥迂闊‥‥焦ってる‥‥?」
「えっ!? ルンルンさん!?」
そう、ルンルンは初級でしか忍術を使えない。
ということは、草薙は一っ飛びでもルンルンは横に避けるしかない柵も当然出てくる。
故に、進撃速度に大きな差が出る‥‥!
ひゅんっ、と風斬り音。
幽桜のブラインドアタックEX+シュライクが、草薙を襲う!
「駄目だ、見えないっ!」
目で見ての回避は不可能と判断した草薙は、微塵隠れで回避!
ついでで旗の真上に出現‥‥!
「温いッ!」
「くぅっ!?」
予想していたのか、南雲のソニックブームで弾き飛ばされる草薙!
しかし、さらにそこへ走りこむのは‥‥!
「(疾走‥‥カチッ)後は勇気だけなの!」
奥歯を噛んで加速する(?)ルンルン。
幽桜をパックン(大ガマ)に任せ、南雲の死角から旗へ‥‥!
しかし!?
「あう!? と、届かないなのー!?」
旗を囲っている柵は、ルンルンでは飛び越えられない。
かといってよじ登るなどと言う真似をすれば狙い撃ち。
結局走り込んで草薙を回収、距離を取るだけに留まる。
しかしそれも、草薙の言葉ですぐさま撤退に変わる。
不意を突いたのならまだしも、幽桜と南雲は正面からやりあって勝てる相手ではない。
多少後ろ髪を引かれながらも、二人は来た道を全速力で引き返した。
道中、背後を気にしつつ薬で回復した草薙が、一旦陣に戻るべくルンルンに振り返ると、そこには‥‥!
「残念。速く動けるのはそちらだけではない‥‥!」
「ぜぇっ、ぜぇっ、悠姫‥‥ボクは、韋駄天の、草履、ないん、だけど‥‥!」
風間の一撃を背後から受けたのか、ルンルンが倒れ伏すところであった。
助けるか!? いやしかし、助けに入ってどうする!?
これは模擬戦だ、命の心配はない。ならばここは自分が逃げ延びたほうが‥‥!
‥‥と、頭ではわかっていたのに。
草薙の身体は、意に反してルンルンを助けるべく疾駆していた。
「それは悪手だ。しかし‥‥」
「北斗お兄ちゃんの行動ッ! ボクは敬意を表しますですッ!」
雨降りしきる中の攻防。
その結果は―――
●ぐだぐだでもいいのです←結論
結論から言えば、どちらも旗は奪えず仕舞い。
ただし、Aチームは四人とも健在だったのに対し、Bチームは二人しか残らなかった。
これを考慮に入れるとAチームの判定勝ちではあるが‥‥やはり手練が集まると、そう易々と旗など奪えないということか。
好手、奇手、名手。
実力と知恵をフルに要求されるこの模擬戦‥‥例えばチーム構成が一人入れ替わっただけでも全然違う結果になった可能性は大きい。ならば参加者そのものが違えば何を況や。
天候さえ目まぐるしく変わる状況での模擬戦‥‥お楽しみいただけたであろうか―――