絆を試せ!? ペット障害物レース!

■ショートシナリオ


担当:西川一純

対応レベル:フリーlv

難易度:普通

成功報酬:5

参加人数:5人

サポート参加人数:1人

冒険期間:05月04日〜05月09日

リプレイ公開日:2008年05月05日

●オープニング

世に星の数ほど人がいて、それぞれに人生がある。
冒険者ギルドでは、今日も今日とて人々が交錯する―――

「なら書くしかないじゃないかっ! というわけで西山一海です♪ 今回はご指名ありがとうございます〜!」
「ど、どうも。一海さんが出してた去年の年末のペット対決依頼で、『魔獣の相手は魔獣』な空気だったのが寂しかったから、強い弱いじゃなくて自慢のペットをのびのび競わせて欲しいと思ったの」
 依頼人である冒険者、ステラ・デュナミス(eb2099)の手を取り、上下にぶんぶん振るのは、ギルド職員の西山一海。
 凄腕魔法使いであるところのステラから出された依頼だけに、どんな内容かと思って聞いてみれば、予想に反して実にほのぼのとしたものであることに安堵する。
 ステラは件のペット対抗戦に参加はしていなかったが、観戦していたのだろうか。
 確かに魔獣相手に普通の犬が戦えるはずもなく、自然とそういう流れになってしまったのは確か。
 そして一海が実況で悪ノリしたのも確かである。
 閑話休題。
「そういうわけで、今回はペット同士で戦うみたいな形じゃなく、『障害物レース』みたいな形式にして欲しいの。決められたコース上にいくつかの関門を用意して、それをクリアしないと先には進めない‥‥そんな感じで」
「なるほど。それなら飛んでいようが大きかろうが、逆に不利になることもありえますもんね。それじゃ、依頼書に書かれてたお題をちょっと弄りまして、こんなコースにしてみました」
 と、一海は懐から一枚の紙を取りだし、広げて見せた。

第一関門:餌探し区画。コース上の森に位置し、その区画内に隠された動物用の餌を一つ見つければクリア。
第二関門:一定間隔で直線に立てられた棒の間を、左右に波を描くように通り抜ける。失敗したら最初から。
第三関門:一定時間、飼い主からの『待て』という命を守らせればクリア。失敗すれば最初から。
最終関門:第三関門をクリアした場合、飼い主はその場に留まる。飼い主無しできちんとコースを進み、ゴールまで辿り着ければ完全制覇となる。
備考:1位30G、2位10G、3位5G、残り五人は参加賞1Gの賞金がステラさんから出る模様。

「例によって、サバイバル鬼ごっことかをやる山を借りますので、周りへの被害などはご心配なく。コースの設置も任せてしまっていいと思いますので、参加する方々はレースに集中してください」
「お願いするわね。細かいことは私や藁木屋さんたちに聞いてもらえればいいし。あとはどんなペットであれ、飼い主との絆がものを言う‥‥そんな競技になればって思うわ」
「殺伐とした依頼の中で、一服の清涼剤になってくれるといいですね♪」
 戦いではなく、純粋に言うことを聞くか聞かないか、頭が良いか悪いかが大事になるであろう今回のレース。
 グリフォンを凌駕するネコ、というのも今回のルールならば充分在り得る話である。
 さてさて‥‥一海が担当する冒険者からの依頼第二段は、どうなりますことやら―――

●今回の参加者

 ea0340 ルーティ・フィルファニア(20歳・♀・ウィザード・エルフ・ロシア王国)
 ea1309 仔神 傀竜(35歳・♂・僧侶・人間・華仙教大国)
 ea8878 レイン・フィルファニア(25歳・♀・ウィザード・ハーフエルフ・ロシア王国)
 eb2099 ステラ・デュナミス(29歳・♀・志士・エルフ・イギリス王国)
 eb2216 浅葉 由月(23歳・♂・志士・人間・ジャパン)

●サポート参加者

マルティナ・フリートラント(eb9534

●リプレイ本文

●ペットという友人
 生物を飼う、というのは生半可な気持ちでは出来ない。
 ペットだって食事はするし、糞もすれば運動もしなければならないのだ。
 それらすべてに責任を持ち、家族同然に愛情を注ぐのが真のあるべき飼い主の姿であろう(主観込み)。
 そして今日‥‥ステラ・デュナミス(eb2099)の提案の下、戦闘でない方法で、ペットと飼い主の絆が試される機会が生まれたのである。それを観戦すべく、一般人も多く会場に集まっていた。
 五人の参加者と、五匹のペット。
 そのどれもが魔獣の類ではなく、可愛い系のペットであるのが、平和な競技である証拠でもあった。
「満員御礼といかなくとも、無事集まったみたいで一安心。ともかく後は頑張りましょうか」
「ペットとほのぼのと楽しめれば、それでおーけぃです」
「ふふん、まぁ、勝ったモノ勝ちよね。やるからには勝たなくっちゃ。遠慮なーくいくわ。そんな訳で、姉様も、覚悟っ!」
 依頼人だからといって、ステラには有利な条件はない。条件は他の参加者と全く同じである。
 ルーティ・フィルファニア(ea0340)のように楽しめればという参加者もいれば、レイン・フィルファニア(ea8878)のように素直に勝ちに行こうとする参加者もいる。
「あら‥‥随分可愛い子が多いわね。負けちゃ駄目よ、五朗丸」
「レースをするからには勝ちたいけど、みんなとも仲良くなりたいね。皆さん、よろしくお願いします」
 仔神傀竜(ea1309)と浅葉由月(eb2216)は、共に男性である。男である(何故か二度言う)。
 ほのぼのとした雰囲気の中、全員が挨拶とペットの紹介を終え、スタート地点へ。
 観客の女性から『可愛いー!』という声がよく飛んでいるが、ペットに向けられたものだけか怪しい。
 ちなみに。
 ステラはジュエリーキャットのプリムラを。
 ルーティは優れた燕のヴィーライを。
 レインは優れたセッターの羚羊(れいよう)を。
 仔神は幼い熊の五朗丸を。
 浅葉は柴犬のみかんを。
 以上の組み合わせでの参加である。
 そして、観客たちが見守る中‥‥スタートの合図が高らかに宣言されたのであった―――

●順位はなるべく言わずに進行します。悪しからず
 第一関門は、スタート地点から少し離れた森の中。
 観客も追いかけてくるというちょっと間抜けなことになってしまったが、それは置いておいて。
 流石に空を飛べる燕のヴィーライは速い。
 いの一番に第一関門に入り、課題の餌探しを始めるが‥‥。
「ヴィーライ? 頑張って」
 どうも鳥は嗅覚は鋭くないらしく、中々餌を見つけられない。
 身体が小さく小回りは効くが、力がないため何かを退かして‥‥というのにも向いていない。
 後続の参加者が追いついてきてしまっても、ヴィーライはまだクリアできないでいた。
「をほほ、姉様追いついたわよ! これは羚羊に任せちゃってもいいかなー、って思うけど‥‥うーん。犬の得意分野よね、きっと。頭いいところ見せてやりなさい!」
 言われた羚羊は、ふんふんと鼻を鳴らして地面を探る。
 そしてレインの予想通り、いともあっさり餌を発見、第一関門をクリアする。
「よぉ〜し、いい子いい子! ‥‥って、羚羊? ちょっと、食べてないで進むわよ!? ねぇってば!?」
 見つけた餌を良く噛んで味わって食べている羚羊。
 折角手早く餌を見つけても、これでは順位に反映されない。
「偉いわね五朗丸。悪いけど先に進ませてもらうわよ」
「みかん、た、食べちゃだめだよ? ‥‥だめだって言ったのに一飲みにしちゃうし‥‥」
「いいじゃない。この際、早く食べちゃったほうが楽よ?」
 熊の五朗丸や柴犬のみかんも餌を手早く見つけることに成功。
 しかし、羚羊のように座り込んで味わうのではなく、即飲み込んだり食べながら走ったりしたので順位を上げる。
 ちなみにジュエリーキャットのプリムラは小さい口で餌にかじりついていた。
 それを見ていた観客たちはふと思う。餌は肉っぽいもののようだが、ヴィーライは食べきれるのだろうか、と。
 しかし。
「見つけたの? いい子ね、じゃあ行きましょう」
 餌を発見したルーティとヴィーライは、一口も食べずにさくっと進んだ。
 ルールには『餌を一つ見つければクリア』とある。
 別に食べきらねばならないとは一言も言われていないのだ。
「ちょっ!?」
 食べないよう言い聞かせるのも主人の器量である―――

●第二関門
 ここでは、一定間隔で直線に立てられた棒の間を、左右に波を描くように通り抜けるのが課題。
 失敗したら一本目の棒からやり直しなだけに、作戦は重要である。
 ここで一番苦戦したのは‥‥。
「あぁ、駄目よ五朗丸。その棒はじゃれるためにあるんじゃなくて‥‥」
 まだ幼く、遊びたい盛りの五朗丸は、棒に掴まって立ち上がってみたり棒の周りをぐるぐる回ったりして、仔神の思うように進んでくれない。
 棒の周りを回ると言うことは波の動きから外れるということだから、何度も何度もやり直しに。
「うん、遊ぶ感覚でやっていこう。上手に右、左、右‥‥ね」
「細かい動きは基本猫だから大丈夫のはず。プリムラ、ゆっくりでいいからきちんと私に付いて来てね」
 この課題は四足歩行の動物のほうが得意な様で、軽々とクリアしていってしまう浅葉とステラ。
 レインも保存食を使って羚羊を誘導するが、さっきの餌であんまりお腹が空いていないのか途中で余所見をしたりと思うようには進まない。まぁ、一応ノーミスでクリアはしたのだが。
 ヴィーライもまた、意外と苦労していた。
 ルーティの後を付いて行くという形式をとったはいいが、燕はパタパタ羽ばたいて飛ぶのではなく、滑空するようなスタイルで長く鋭く宙を舞う。
 よって、棒と棒の間ではなく棒の上を通ってしまったりすることが何回かあったのだ。
 まぁ、それでも五朗丸ほどのリトライはしていなかったが―――

●第三関門
 ここの課題は、三分間の間、飼い主からの『待て』という命令を守ること。
 何かをしているとあっという間の三分だが、ただじっと待つとなると意外と長く、手持ち無沙汰。
 それは飼い主もペットも同じことである。
 各組とも、意外と苦戦する関門であったようだ。
「まっ、待ちなさい! 待って! 待つの! ストーップ!」
「みかん、ちゃんと我慢できたら一杯遊ぼう? だから、すこ〜しの間、我慢、我慢。‥‥我慢だってば〜!?」
「あらあら、五朗丸ったら甘えん坊さんね。まぁ、叱る訳にも行かないかしら‥‥」
「ふふーん、餌はさっきまででいっぱい食べたから大丈夫でしょ。さぁ、忠犬っぷりを披露してやりなさい! ‥‥って、十秒も待たずに食べないよーにっ!? どんだけ食べるのよー!?」
 鳥は、そもそもじっとしているのが苦手。ヴィーライも例外ではない。
 みかんは、小さい頃から浅葉と兄弟のように育ってきた故に彼と遊びたがる。
 幼い熊は、当然甘えたい盛りなのですぐにじゃれる。
 羚羊は‥‥飼い主と似ている。(ぇ)
 そんな中、粛々と課題をこなしたのは‥‥。
「よしよし。どう、プリムラ。満足した?」
 待てと言う指示を一分くらいで破ってしまったプリムラを叱らず、優しく撫でてしばらく自由にさせたステラ。
 焦っても仕方ない。餌を食べ終わり、満足そうに鳴いたプリムラを見て、ステラは再度待てを命じる。
 お腹もいっぱいになったからか、今度はしっかりと三分間命を守ったプリムラであった―――

●最終関門
 第三関門の『待てを三分間遵守』を完遂した後は、飼い主と別れてゴールを目指す。
 観客はすでにゴール地点へ移動しており、ペットたちはそのゴールに向けて決められたコースを一人で進まなければならない。
 ちなみに、ゴール地点から見える『一定の範囲』を越えてゴールに接近しても、それは無効となる。
「今までの関門、御苦労様。終ったら好きなデザートあげるわね。さ、後はあなた次第。頑張って!」
「ふふふ、これこそ野生のカンが存分に発揮される機会ね? それに羚羊は狩猟犬‥‥貰ったわ!(手をぐっ)」
「ちょっと寂しいかもしれないけれど、後でまたたっぷり遊んであげるわ。頑張ってね」
「ここまでくれば、後はもう少し! 僕は‥‥留まるんだ。少し寂しいけど、みかん、頑張るんだよ!」
「コースを護れば飛んでもいいんですって。ヴィーライ‥‥魔獣をも凌ぐあなたの速さ、見せてあげてね。あなたが遅い? あなたがスローリィ? ううん、そんなことは在り得ないから‥‥!」
 詳しい順番は伏せるが、なんとか全組が第三関門をも突破。
 最終課題である飼い主と別れてゴールを目指すことに邁進する。
 不安げに飼い主のほうを振り返る者。
 元気よく飛び出していく者。
 一直線にかっとんでいく者
 欠伸交じりにマイペースで進む者。
 着実に確実に歩を進める者。
 五者五様の足取りで、栄光のゴールへ‥‥!

●結果は
 結論から言えば、五匹とも脱線せずにゴールへと辿り着くことに成功。
 ゴール地点で見守っていた観客の目に、一番に飛び込んできた者は‥‥黒い弾丸であった。
「ヴィーライ‥‥! また、世界を縮めたね‥‥!」
 最終関門に臨んだ順番はかなり遅かったが、やはり持ち前の凄まじいスピードがそれをカバーしてありあまった。
 Nice Speed。とでも言うべきだろうか。
 特等席であるというルーティの髪の中に潜り込み、甘い味の保存食の欠片をついばむその姿は、非常に心和む。
 二位はみかん。犬の脚力を、前に進むことにのみ使ったのはやはり大きい。
 派手さは無いが、確実な走り‥‥といったところか。
「惜しい! でも、よく頑張ったね、みかん! 僕も嬉しいよ!」
 三位はプリムラ。
 第三関門を一番にクリアしたのはいいのだが、足取りが慎重すぎた。
 常に警戒しながらコースを進んでいるうちに、ヴィーライやみかんに追い抜かれてしまったのである。
「ん〜、残念。もうちょっと大胆さが必要だったかも。でも、よくやったわ。お疲れ様♪」
 四位は五朗丸。
 最終関門を始めても、度々振り返ったり仔神の下へ戻ってみたり、甘えん坊ぶりを発揮。
 他の面々より大分遅れてではあるが、なんとかコースを踏破、最終的にはゴールに至る。
「まぁ、良く頑張ったわ。お疲れ様。こうやって、子供は少しずつ親に頼らなくても生きていけるようになるのねぇ」
 そして‥‥言うまでもないが、五位は羚羊である。
 最初から最後までマイペースを貫いた結果、途中でコースを脱線。
 あわや失格かと思われたが、脱線したコースをまた脱線、それを更に脱線‥‥と繰り返していたらいつの間にか通常コースに戻っていたと言う、ある種神業を披露。
 五朗丸から大幅に遅れていたため、探しに行こうかという話が持ちあがった頃に姿をみせ、無事ゴールしたのだった。
「あーんもう、誰に似たのよ、そのゴーイングマイウェイ具合はっ!?」
 『あんただ』とは誰もがツッコみたかったがツッコめなかったという。
 こうして、黒い弾丸の伝説を生みつつ障害物レースは終了。
 勝負の終った打ち上げの席は、ペット談義に花を咲かせつつ、賑やかに和やかに進んだという―――