巨大な壁とデビルのカンケイ

■ショートシナリオ


担当:西川一純

対応レベル:11〜lv

難易度:普通

成功報酬:5 G 55 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:06月27日〜07月02日

リプレイ公開日:2008年06月28日

●オープニング

世に星の数ほど人がいて、それぞれに人生がある。
冒険者ギルドでは、今日も今日とて人々が交錯する―――

 京都では今、目を疑う不可解な巨大な壁が出現し、削岩されている。
 それが崩されたときに何が起きるのかは不明だが、今のところ結構面白がられているのは確かである。
「私もちょっと掘ってみたんですけど、たまーに金とか珍しい石とかが出てくるんですよ。いい小遣い稼ぎになります♪」
「あんな得体の知れないものをよく掘る気になるな‥‥」
 ある日の冒険者ギルド。
 職員の西山一海は、採ってきたという金や宝石などを取り出してホクホク顔である。
 聞いていた京都の情報屋、藁木屋錬術は、ため息混じりに呆れて見せた。
「ふんだ、藁木屋錬術さんみたいなお金持ちには私のような雇われ人の苦労は分からんのですよ」
「いや、私もかつては奉行所の同心だったのだが」
「そ、そんなこともあったよーな気もしますが! スコップやツルハシは結構壊れちゃいますが、結構実入りいいんですよ?」
「興味が無い。それに、気をつけたほうがいい。最近妙な噂も耳にするからね」
「妙な噂? 誰かが他人が掘った貴重品をピンハネしてるとか」
「そうではない。例の丹波藩の食客、カミーユ・ギンサも壁を掘りに来ているのではないかという話だ」
 カミーユ・ギンサ。正体は不明だが、悪魔の一人であることは確からしい。
 正確に言うと、悪魔に憑依されてしまった哀れな少女というのが正しいが。
 長い金髪と、黒いフリフリの洋服がトレードマークなのだが、泥臭い作業であるはずの壁掘り現場に、カミーユらしき格好をした少女の姿が何度も確認されているという。
「えー? だってカミーユさんって、悪魔なんでしょう? 悪魔が何であの壁を掘るような真似するんですか。銀砂家っていったら普通にお金持ちですし、わざわざ自力で掘らなくても金や宝石くらい持ってますって」
「それが分からないから不気味なのさ。本人だとしたら、わざわざ京都まで来て何故そんな真似をするのか。そうすることが悪魔の利になるのではないかと思ってしまうのは当然の流れだろう?」
「それにしたって自分じゃ掘らないでしょう。人を雇った方が効率もいいんですし」
「そうなのだ‥‥だから余計に分からない。こうなれば依頼を出して調査してもらうのが手っ取り早いか」
「偶然ですって。大体、そんなフリフリドレスのまま削岩なんてしませんよー。ドロドロになっちゃいますもん」
「だといいが、な‥‥」
 ただでさえ、カミーユの思考・行動には不可解な点が多い。
 京都にまで来て壁を掘っていましたと言われても、不自然ではあるがあぁやっぱりと思えてしまう。
 京都に現れた巨大な壁と悪魔の関係は、果たしてどのようなものなのだろうか―――

●今回の参加者

 ea2741 西中島 導仁(31歳・♂・ナイト・人間・ジャパン)
 ea3891 山本 建一(38歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea4301 伊東 登志樹(32歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea6526 御神楽 澄華(29歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 ea7871 バーク・ダンロック(51歳・♂・パラディン・ジャイアント・ビザンチン帝国)
 ea8545 ウィルマ・ハートマン(31歳・♀・ナイト・人間・ロシア王国)
 eb3225 ジークリンデ・ケリン(23歳・♀・ウィザード・ハーフエルフ・フランク王国)
 ec3981 琉 瑞香(31歳・♀・僧兵・ハーフエルフ・華仙教大国)

●リプレイ本文

●単身
「え‥‥? カミーユ様は、ここ最近丹波を出ておられないということですか?」
「うむ。自室に篭っているとかで、膳も部屋に運ばせているようだ。それも侍女が応対しているようだが」
 京都のお隣、丹波藩。
 その主城たる東雲城にて、御神楽澄華(ea6526)は単身、藩主の山名豪斬に謁見していた。
 京都からの派兵などのわだかまりがあり、自身もそれに参加していた身として、御神楽は会うことすら難しいだろうと踏んでいたのだが‥‥拍子抜けするほどあっさりと、豪斬は謁見に応じた。
 そして豪斬から聞かされた言葉は、京都でうろついているカミーユを否定する言葉であった。
 嘘だろうか? しかし、ここでそんな嘘をつく必要があるか? 直に会いに行けばすぐにバレるのだ。
 御神楽はわけが分からないながらも、言葉を続けた。
「では豪斬様、よろしければカミーユ様とも会わせていただけないでしょうか。この場に来ていただきたいとは申しません。こちらからカミーユ様のお部屋に赴くことをお許し願いたいのですが」
「それはかまわん。カミーユは客分であって家臣ではない。面会を拒否されているならともかく、訪ねてきた人物を追い返す必要も義務も無い。好きにするといい」
「忝く存じます。‥‥豪斬様‥‥前から一度、直接お聞きしたかったのです。何故あなた様のようなお方が、神皇様の御意向に背くようなことをなさるのですか? 豪斬様のお人柄は‥‥多少ずれているとは思いますが、決して悪いものではありますまいに‥‥」
「‥‥買いかぶりだ。余は、我侭なだけであろう。争いなど無ければいいと思いながら、争いを生んでいるのだから」
「‥‥。不躾な事をお聞きしました。では、私はこれにて‥‥」
 そう言ってカミーユの部屋に向かう御神楽の顔は、とても残念そうで‥‥胸を苛む痛みを堪えつつ、歩を進めていた。
 そして、藩士の案内でカミーユの部屋へ。
 この襖の奥に、カミーユがいるというのだが‥‥それでは京都にいるカミーユは誰なんだということになってしまう。
 幸い、今は侍女が出払っているという。
 声をかけても反応が返ってこないので、御神楽は意を決して襖を開け、部屋の中へ‥‥!
「‥‥? カミーユ、様?」
 和風の部屋に似合わない調度品をきっぱり無視し、布団で寝息を立てているカミーユに注意を向ける。
 整った顔立ちは、まるで御伽噺の茨姫のように美しい。
 御神楽は布団の横に座り、その寝顔を見ながら必死に考えていた。
「まさか、こちらが悪鬼ということはないでしょう。ならば、京都に現れている方が悪鬼‥‥。ということは、この銀砂紙遊様は解き放たれた状態‥‥。今なら、助けられるやも‥‥」
 意を決して、寝ているカミーユに声をかけてみるが反応が無い。
 それならと、軽く肩を揺すってみると‥‥。
「カミーユ様。カミーユ様‥‥!」
「‥‥‥‥う‥‥ん‥‥‥‥?」
 心ここに在らずと言った表情ながら、ゆっくりと目を開けるカミーユ。
 しかし、次の瞬間。御神楽は我が目を疑った。
 がばっ! っと起き上がったカミーユは、辺りを見回し、御神楽を見て、自分の身体を見下ろし‥‥。
「嫌ぁぁぁぁぁっ! 嫌、嫌ぁっ!? 何で!? どうして意識が戻ってるの!? やめて‥‥やめてぇぇぇっ!」
 思わず身構えた御神楽であったが、怯えた表情でガタガタ震えるカミーユを目の前にしては、我を忘れても仕方ない。
 御神楽が見てきたカミーユは、いつでも余裕綽々で、含みはあれどいつでも笑顔であった。
 それが、こんなに怯え、気の触れたような表情や声を出しているのが信じられない。
「か、カミーユ様、もう大丈夫です。あなたに憑いていた悪鬼は今はいません!」
「い‥‥ない‥‥? いない!? どこに行ったの!? ねぇ、どこに行ってしまったんですの!?」
「え‥‥そ、その‥‥」
「嫌ぁっ! 戻ってきて! わたくしをそっとしておいて! あの暗い心の奥に閉じ込めておいてぇっ! ガミュギンさん、お願いします! 私が悪いことしたなら謝りますからぁ‥‥! ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい‥‥!」
「カミーユ様‥‥!」
 騒ぎが大きくなるとまずいと判断した御神楽は、カミーユに当身を食らわせて昏倒させる。
 スタンアタックを習得していないので、少々乱暴になってしまったようだが。
「カミーユ様の言動‥‥まさか、カミーユ様は自らその身を差し出したのでしょうか? ‥‥ガミュギンなる、悪鬼に‥‥」
 見ていて痛々しいくらい壊れてしまっている本物のカミーユ。
 理由も経緯もわからないが、これ以上ここにいても得るものはないだろう。
 京都にいるというカミーユにも会うべく、御神楽は部屋を出る。
 ‥‥と。
「‥‥申し訳ございません。今はまだ、お眠りください‥‥」
 頭を垂れて謝罪をしてから出て行く御神楽。
 その胸がまたズキリと痛んだことを、本人も知らない―――

●壁掘れワンワン
「細かい御託はどうでもいいんだよ! 俺のツルハシは、天をも貫くんだぅぁ! 出て来いや! 金銀財宝の鉱脈ぅぅぅ!!」
「五月蝿いのが一人いるみたいですが、どうかお気になさらず。‥‥お一人なのですね」
「あらあら、奇遇ですわね。皆さんも宝石を採りに?」
 どうせ監視するなら近くでやろうということになったらしく、伊東登志樹(ea4301)や琉瑞香(ec3981)などのカミーユと顔見知りの人間を基点とし、接触を試みた一行。
 例の黒いフリフリドレスを土で汚しながらも、カミーユはたった一人で楽しそうに壁を掘っていた。
「‥‥なんというか、聞いてはいたが随分明るいお嬢さんだな。これが悪鬼羅刹の類なのか?」
「逃げるそぶりもありませんね。掘りながら監視する分にも楽ですが‥‥」
「ただのデビルなら排除すればいいだけだが、人間に憑依してるんじゃ手が出せねぇ。パラディンには罪無き者を殺めてはならないという戒律もあるしな」
 カミーユとまったく接点の無い西中島導仁(ea2741)や山本建一(ea3891)、バーク・ダンロック(ea7871)などは、壁を掘りつつ、依頼の趣旨であるカミーユの監視を続行する。
 一応、過去に丹波と関わりがあったバークは、カミーユが丹波の食客であると聞いて苦い顔をしていたが。
「見てくださいまし。ダイヤモンドにルビーにサファイアに‥‥♪ ときめいちゃいますわ♪」
「宝石がお好きなのですね。あなたは悪魔と伺っていますが‥‥憑依されているカミーユさんも、宝石がお好きだったのでしょうか? よければお聞かせくださいませんか?」
「いえいえ、これは私の趣味と実益ですの。カミーユは宝石などに興味の無い、寂しい性格ですのよ。‥‥それにしても、そんなことをお聞きになりに来ましたの?」
「糊口をしのぐ仕事というものに貴賎、感情は関係が無い。と言っても住処の近所をブンブンと五月蝿いのが飛び交えば気にもなろう? ‥‥まぁ詰まる所、ちょうど暇だっただけだが」
 ジークリンデ・ケリン(eb3225)はゴーレムに掘削作業を任せつつ、それとなく本物のカミーユの人となりを探る。
 一方、ウィルマ・ハートマン(ea8545)は壁を掘ることすらせず、犬と一緒にピタッとカミーユに張り付いていた。
「‥‥‥‥あのー‥‥やりにくいんですけれども」
「気にするな。嫌なら‥‥ふむ。ちと顔を貸せ。案件がある。重要だ。取って食いはしない」
「はぁ。別にかまいませんけれども‥‥」
 了解を取ると同時に、ウィルマはちょっと無造作にカミーユの両頬を思い切り摘んだ。
 そのまま引き伸ばしたり揺さ振ったり、ギリギリギリと可憐な少女の顔を弄ぶ。
「ひ、ひらいれふふぁ! ふぁひふぉふぁふぁいふぁふふぉ!?」
「ん。やはり触る分には何も分からんな」
「ひーん。女の子の顔になんてことをなさるんですの!? しかも蝿呼ばわり‥‥私はヴェルゼブブ様ではありませんっ!」
「人として珍しいものには見て、触ってみたくなるものだろう? 私などは以前それで西の果てで邪神を見てきたことがあるくらいだ。まぁ、溜飲は下がった。うむ。これで以後我々は利害が一致する限り友人だぞ。喜べ」
「すっごく嬉しくないですわっ!」
 コロコロ表情を変え、笑い、驚き、怒る。
 デビルとは思えないような人懐っこさを見せるカミーユに、初対面の人間はどうも首を捻ってしまう。
「あのお嬢さんが悪魔というやつだとして‥‥それが何をしにしているんでしょう? 何かを企んでいると言うより、ただ遊んでいるようにしか見えないのですが‥‥」
「あん? レミエラの合成に使える金属でも掘ってんじゃね? ‥‥あと考えられそうなのは、『ヒヒイロカネ』とかか?」
「レミエラ、ねぇ。まぁ悪魔だろーと使えないことはないんだろうが‥‥って、ちょっと待て。あいつ、丹波の食客だって言ってたな。まさか、丹波の魔法戦士たち用のレミエラを作るために‥‥ってことはないか?」
「なるほど、あり得るな。丹波の魔法戦士の話はこの近辺ではよく聞く話だ。それが特殊なレミエラを
備えたら‥‥と考えると少々ぞっとするものがある」
 山本、伊東、バーク、西中島は、各々スコップやらツルハシやらで壁を掘っている。
 何か新しい層にでも出くわしたのか、今まであまり見たことが無い宝石が採れるようになっているようだ。
 ちなみに、ジークリンデはゴーレムに採掘作業をさせつつ、壁の高い位置にファイヤーボムを叩き込んでみたのだが、上から宝石やら石片やらが降り注いでくるので不評を買い、地道に手作業に戻った。
「ふぅ。随分採れましたわ♪」
「‥‥私達に話があるのでしょう? 御用は何です?」
「はい? 別にありませんけれども」
 ぱたぱたと軽くスカートをはたき、カミーユは焚き火にかけてあった鉄瓶からお湯を注ぎ、紅茶を淹れる。
 琉は自作の栄養ドリンクをカミーユに差し入れつつ探りを入れてみたが、さらっと流されてしまった。
 いつもの含み笑いもなく、『え、何言ってんの?』と言わんばかりの表情。
 直感的に、嘘ではないなと感じた。
「貴方自身が行うならともかく、貴方が人間に憑依してその体を使い意識もまだ生きている。となればこの作業は『カミーユさん本人』には不本意な作業のはず。だから私が代わります。忠告しますが、今後も私達に何かさせるなら『動かす体』は大切になさい」
「くすくす‥‥代わりに掘ってくださいますの? 嬉しい申し出ですが、そろそろ帰ろうと思いますの。琉さんが仰るように、『身体を気にして』のことですわ♪」
 そう言って、優雅に紅茶を一杯飲み終えたカミーユは、荷物をまとめてささっと帰ってしまう。
 焚き火と鉄瓶はそのままにして、よろしければどうぞ、などと言い残して。
 結構な量の宝石や金属を採って行ったようだが‥‥果たして。
 ちなみに、カミーユが帰るのと、御神楽が丹波からこの現場に来たのはほぼ入れ違いであった。
 監視対象であるカミーユは丹波に帰ったし、大分壁の掘削も進み、冒険者も結構な量の目新しい宝石やらを手に入れたようなので、依頼自体は成功である。
 悪魔も掘りに来る巨大な壁‥‥ここが、どんな騒動の火種となるのであろうか―――