【神話の黄泉女神外伝】丹波戦線・北部

■ショートシナリオ


担当:西川一純

対応レベル:11〜lv

難易度:難しい

成功報酬:9 G 4 C

参加人数:10人

サポート参加人数:3人

冒険期間:08月09日〜08月14日

リプレイ公開日:2008年08月18日

●オープニング

 神話に名を残す、日本の神々や大地をも生み出したと伝えられる女神‥‥イザナミ。
 混沌とした情勢にある現代のジャパンに再臨した彼女は、人類に害を撒き散らす黄泉の軍団を率いていた。
 復活の地、出雲はすでに壊滅状態。藩丸ごとがイザナミとその軍団に支配されたといっても過言ではなった。
 やがて、イザナミは京都へ向かって進軍を開始する。
 その進軍スピードは非常に緩やかなものではあったが、死を、破壊を、悲しみを撒き散らし、それらを取り込んで更に戦力を増大させていく、不死者ならではの不条理な行軍であるという。
 これに対し、京都及び丹波は一時休戦とし、これを迎え撃つ事となる。
 丹波と但馬の国境、遠阪峠でついに激突した丹波軍とイザナミ軍。
 他に類を見ない特殊な戦力を多数擁する丹波軍ではあったが、その圧倒的な数の差の前では、いくら歴戦の冒険者たちが協力していても持ちこたえ切れなかった‥‥かに見えた。
 事実、あのまま事が推移すれば確実に丹波は藩内にイザナミ軍の侵入を許し、壊滅的な被害を受けただろう。
 冒険者たちは善戦したのだが、津波の如く押し寄せる圧倒的な数の前には彼らでさえ呑み込まれかけたのだ。
 それを未然に防いだ(?)のは、丹波の食客、カミーユ・ギンサ。正確に言えば彼女に憑依した悪魔である。
 蒼い炎に身を包んだ馬の姿の悪魔は不死者を操る能力を有しており、かなりの無理をしながらもイザナミ軍の指揮系統を混乱させ、それを半々に分断して北部・南部のルートを取らせることに成功。
 まぁ、『丹波だけを避けながら』という奇妙な軌道が、京都において新たな物議を醸しているのは言うまでもないが。
 どちらにせよ、イザナミ軍は京都に迫りつつある。
 元々遅い進軍スピードが、カミーユの小細工のおかげで更に鈍り、時間はまだ多少ある。
 イザナミ軍の総兵力を5000と仮定するならば、半々で2500。撃破を望むならある意味ここしかないか。


 さて、ここからが本題である。 
 丹波藩の調査では、イザナミ本人は南部ルートを通っていると言う。
 しかし、北部にも2500の兵力と、何人かの幹部級の黄泉人がいることには違いない。
 そこで、丹波藩は依頼を二つ出し、北部と南部を同時に攻撃することにしたようだ。
 こちらは北部‥‥イザナミがいない方を担当してもらうことになる。
 本当はこちらも兵を半々に分けたいのだが、先の戦での死傷者の関係上、そう単純にはいかない。
 更に、北部には『骸甲巨兵』という武装がしゃ髑髏を有する『平良坂冷凍』という一派が、独自にイザナミ軍と戦うために移動中との報告もある。
 彼らとは相互不可侵の協定を結んでいるとはいえ、彼らだけに任せるのも色々怖い。
 よって、丹波兵600と八卦衆、五行龍の氷雨(蛟)と森忌(風精龍)、熱破(炎龍)も向かうことになった。
 殲滅せよ、とまでは言えない。しかし、イザナミ軍が京都に着くまでに少しでも数を減らしたいのだ。
 丹波北部の戦線。イザナミ本人はいないとはいえ‥‥非常に重要な戦場である―――

●今回の参加者

 ea1774 山王 牙(37歳・♂・侍・ジャイアント・ジャパン)
 ea4301 伊東 登志樹(32歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea5414 草薙 北斗(25歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 eb0921 風雲寺 雷音丸(37歳・♂・志士・ジャイアント・ジャパン)
 eb2064 ミラ・ダイモス(30歳・♀・ナイト・ジャイアント・ビザンチン帝国)
 eb2099 ステラ・デュナミス(29歳・♀・志士・エルフ・イギリス王国)
 eb3824 備前 響耶(38歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 eb5451 メグレズ・ファウンテン(36歳・♀・神聖騎士・ジャイアント・イギリス王国)
 eb5668 ルーフィン・ルクセンベール(22歳・♂・ファイター・ハーフエルフ・イスパニア王国)
 ec0126 レヴェリー・レイ・ルナクロス(25歳・♀・パラディン・人間・フランク王国)

●サポート参加者

綾小路 瑠璃(eb2062)/ ツバメ・クレメント(ec2526)/ 九烏 飛鳥(ec3984

●リプレイ本文

●この身を賭して
「凍真さん、いけるわね!?」
「勿論だぜ! 合わせっぞ! 凍えろ、魂の一欠片まで!」
「吹き抜けろ、猛る戦場を!」
『ツインブリザードクラスター!!』
 丹波藩北部における、イザナミ軍の片割れとの戦闘。
 その口火を切ったのは、主力となる攻撃部隊に所属する、ステラ・デュナミス(eb2099)と八卦衆・水の凍真であった。
 二人でタイミングを合わせ、迫り来る不死者の群れにアイスブリザードを叩き込んだのである。
 これにより、倒されないまでも動きを鈍くした最前列の不死者たちは、後から押し寄せる不死者に押し倒され、実質行動不能になるものの‥‥やはり津波の如く押し寄せるその様は、数を半分に減らしたとは思えない勢いだ。
 攻撃隊には他に、八卦衆の炎夜、宵姫、明美と、五行龍の熱破、森忌が所属しており、それぞれ奮闘している。
「『鳳凰残火(ファイヤーボム)』〜! あは〜、上空のイツマデンはお任せを〜」
「敵指揮官で1番強い者を指定‥‥スクロールに頼らないといけないんだけどねっ!」←実はシャドウボム使いらしい
「あぅぅ、おらは地味ーにサンレーザー撃つすかねぇべよ‥‥」
『あいつに頼まれたからにゃあ、やるっきゃねぇだろ! 魔法は苦手だが、四の五の言ってられねぇっ!』
『その意気じゃ熱破ぁぁぁっ! 空飛ぶ連中はワシらに任せぇやぁぁぁっ!』
「おうよダンナぁっ! 俺らに逆らったらどうなるか、思い知らせてやりやしょうぜい!」
 ちなみに、伊東登志樹(ea4301)は他の冒険者からちょいと離れ、森忌の背中に乗って空中の敵を相手するようだ。
 さて‥‥敵の総数は、推定で2000〜2500。
 一体一体はさして強くない死人憑きが殆どの構成ではあるが、数が尋常ではない。
 丹波兵にしても、丹波の特殊戦力にしても、一対一なら負けはしないはずなのだが‥‥!
「ガァアアアア!! 神皇陛下のおわす京都を襲うなど断じて許さん! 不死の軍勢だろうが、この俺が叩き斬る!」
「現情勢でこれらが京に来ては、またどこがどう動くかわかったものではない。何としてもここで食い止める」
「さて‥‥敵の数が多いようですがどうなることやら。ま、京都に迫られますと商売する場所が一つ減ってしまいますし、なるべく多くの敵に消えて頂きましょうかね」
「この怒涛の波‥‥我が身で少しでも押し留めてみせよう!」
 ペットのアイアンゴーレム『巌鉄丸』と埴輪『玉砕丸』を同行させ、不死者を切り倒していく風雲寺雷音丸(eb0921)。
 後方隊の弓隊に指示を出しておいた備前響耶(eb3824)もまた、最前線に立って不死者と戦闘中。
 ちなみに、後方隊はルーフィン・ルクセンベール(eb5668)を始めとする弓兵の他に、五行龍の氷雨が所属している。レインコントロールの魔法で、敵の黄泉人のヘブンリィライトニングを阻害しているようだ。
 メグレズ・ファウンテン(eb5451)は、その鉄壁の守備力と圧倒的なパワーで拠点防衛をめざしているようだ。
 じりじりと後退しつつも、善戦して数を減らしていく攻撃部隊。
 確かに、減らしている。しかし、全然減っているように見えないのはどういうわけだ?
 ‥‥当然だ。単純計算で3倍以上の数の差があるのだから。
 動物と人の戦いだとしても、3倍の数相手ではかなりの確率で死が見えるだろう。
 が、今回は違う。それを覆すための策がある―――!

●伏兵
「ま、まずは魔法でとのことなのでっ!『大蛇咆(オーラアルファー)』っ!」
「ヒアウィゴー! グラビティーキャノンいくヨー!」
「‥‥レミエラか‥‥俺のライトニングサンダーボルトの範囲が広がるのはいいが、な‥‥」
「レミエラでパワーアップした竜巻の術よん。これぞ増強美!」
 突如、攻撃隊と交戦するために戦線を延ばしていたイザナミ軍の横っ腹から丹波の別働隊が出現、強襲をかける!
 八卦衆の砂羅鎖、旋風、岩鉄、電路が先んじて魔法を放ち、続いて丹波兵100と冒険者たちが続く!
「‥‥此処を抜かれたら、京都での決戦も有り得る。延暦寺の時の様な、京都を巻き込んだ一大決戦にするわけには!」
「まさに蝗の如き集団。全滅は出来なくても、四散させなければ、京や近隣の町や村が壊滅する‥‥!」
「見た目は冗談みたいだけど、対不死者用の特別製ハリセンだよ! そして‥‥不死者用の結界も発動だぁっ!」
「今こそ阿修羅の名の下に‥‥全霊解放、参る!」
 伏兵部隊は数が少ない分、攻撃隊より更に個々の実力が求められる。
 そういう点では、山王牙(ea1774)も、ミラ・ダイモス(eb2064)も超越級の格闘力を持っているし、草薙北斗(ea5414)は別格の機動力を有しているし、レヴェリー・レイ・ルナクロス(ec0126)はメグレズをも越える防御力を備えている。
 意図しない方向から、しかも戦列が伸びていた横からの攻撃ともあって、イザナミ軍の陣形が崩れていく。
 明確な意思がない分、大混乱を起こして恐慌状態にというわけではないが、それでも充分な効果がある!
 攻撃部隊にしろ伏兵部隊にしろ、一騎当千の冒険者を中心に有利に戦況を展開している。
 雨雲が出ていないこともあり、遠くからHLで狙撃されることもなく、空中のイツマデンも森忌による格闘やステラのマグナブローなどで蹴散らされ、地上部隊への攻撃を行えないでいた。
 しかし、戦況が芳しくないと分かれば敵の指揮官も動く。
 小型がしゃ髑髏(以下小がしゃ)や骨車など、敵も特殊戦力を前面に押し出してきたようだ!
「‥‥デカブツのお出ましですよ。そして、敵の指揮官もね」
 山王の言葉に、伏兵部隊の面々がハッとなる。
 見れば、無数の死人憑きを撥ね飛ばしながら(!)、小がしゃが一体と骨車三体が接近してきていた。
 そして骨車の中には、ミイラのような姿をした黄泉人がそれぞれ乗り込んでいる‥‥!
「やってくれるザンスね‥‥伏兵とは随分小癪な真似をしてくれるザンスよ!」
「でも甘いんじゃん? 部隊を分けるにしちゃあちっとばかり数が少なすぎたじゃーん?」
「僕たちで少数を足止めしておきんされば、向こうは数で押せるはずだっちゃわいや!」
 顔で区別がつかないので、最早口調で区別するしかないイザナミ軍の幹部たち。
 骨車に乗って高速移動しながら魔法を撃ち込んで来るため、非常に鬱陶しい!
「うわっと!? み、味方を撥ねてこっちに飛ばしてくるなんて!? 黒星、蒼星、巻き込まれないでね!」
「小型がしゃ髑髏の相手は私と山王さんが致します。レヴェリーさんと草薙さんは黄泉人たちを!」
「いいけど‥‥多分、やれて一人だよ? 他までは無理!」
「仕方ないわ。攻撃部隊のためにも、こちらはこちらで指揮官を止めておきたい」
 レヴェリーと草薙は頷きあい、移動を開始。
 一方、ミラと山王も、小がしゃを相手にするため位置取りを開始!
 その間、LTBなどで狙撃され続けるがこの際仕方が無いか。
「残念だけど、例え魔法でも僕には当てられないよ! 突進だったら微塵隠れ使う必要もないしね〜♪」
「な、生意気な餓鬼ザンス! 避けれるもんなら避けてみるザンスよ!」
 草薙の挑発に乗ったザンス(仮称)が、骨車を操って草薙に突進してくる!
 当然それは草薙の罠‥‥草薙が微塵隠れで回避した先には、オーラパワー、オーラマックスを発動し、極限状態まで研ぎ澄まされたレヴェリーが待ち構えていた!
 例え防御力があっても、このスピードで大質量の物体がぶつかってきたら流石のレヴェリーも保つまい。
 しかし!
「‥‥我が身に宿れ‥‥竜魂召呼!!」
 オレンジ色の淡い光を纏ったかと思った次の瞬間、レヴェリーの身体が爆発的なオーラに包まれる!
 そして、突っ込んでくる骨車に対し、逆に真正面から剣を構えて突っ込む‥‥!
「貫け‥‥龍の魂を以って!」
 竜の化身となり、オーラを纏って骨車に突き刺さるその姿は、まるで竜の爪が貫くが如く。
 混沌とする戦場に、ずがしゃぁぁぁん、と豪快な音が響く!
 骨車の前面を突き破り、レヴェリーはザンスのいる骨車の中へ侵入することに成功!
「む、無茶苦茶ザンス‥‥! なんなんザンスか、お前は!?」
「‥‥この大軍を相手にすること自体がすでに無茶苦茶なの。この世を乱す者よ‥‥その命、阿修羅に返しなさい」
「ひっ!? や、やめるザンスぅぅぅ!?」
 接近戦に持ち込んでしまえば、黄泉人ではレヴェリーの足元にも及ばない。
 しかもオーラマックスで行動力を上げている以上、逃げることも不可能。
 ややあって‥‥骨車から転がり出たレヴェリーとザンス。
 しかし、すぐに体勢を立て直したレヴェリーと違い、ザンスが立ち上がることはなかったという―――

●予想外
『どうじゃぁぁぁっ! 大分減ったようじゃのぉぉぉっ!』
「おうよ、流石は俺とダンナ! って、あんにゃろう、今頃!」
 上空で戦っており、地上からの範囲魔法の援護もあってすでにかなりのイツマデンを撃墜した伊東と森忌。
 彼らが発見したのは、伏兵隊の反対方向‥‥つまりは攻撃隊と合わせて三角形になるような場所に現れた骸甲巨兵。
 その巨大な骨刀を手に、イザナミ軍を文字通り蹴散らしていた。
 指揮官の一人がやられたとはいえ、元々統制に欠けていたイザナミ軍は、まだまだ戦闘を継続中。
 じゃんとだっちゃわいや(共に仮称)は伏兵部隊のそばからは後退したが、未だ戦場にいる。
 ミラと山王によって小がしゃが一体撃破されたものの、まだ小がしゃは残っているようだ。
 攻撃隊の方も、ステラのマグナブローや炎夜と熱破のファイヤーボム等、範囲魔法を上手く使っていた。メグレズと備前、風雲寺とルーフィンのペアが、それぞれ小がしゃを一体ずつ撃破。
 しかし、華々しい戦果を上げる冒険者をよそに、兵達の被害は増えていく。
 負傷で戦線離脱を余儀なくされる兵士も増える一方。冒険者達にしても、兵士の居ない戦場で孤立すれば数で踏み潰される。疲れを知らず、死も恐れない敵を前に、綻びは徐々に広がった。
「クッ‥‥ククク、ガァハハハハァッ! 目の前には二千もの不死の軍勢か。ゾクゾクしてきやがる。こんな楽しい大戦ができるとは今日はいい日だ。百匹斬りは達成したいところだがな! まだまだ斬らせてくれるとは嬉しい限りよ!」
「げ、元気ですね雷音丸君は。こっちはもうイツマデンの撃ち落しでヘトヘトなんですが‥‥」
「こっちも魔力からっぽよ。なに、まだ来るの、敵は‥‥」
「妙刃、破軍!(技名) まだだ、まだ防げる! まだ私の意志は折れていない!」
「負傷している者や疲労の激しい者は無理をするな。死人の仲間入りをしたくなければな」
 と、言っている備前本人も余裕は無い。
 敵は全滅するまで歩みを止めない大軍。黄泉人に殺されれば、今度は自分が亡者の列に入って味方に斬られる。全滅する前に、ここらが退き時だが。
 そこで伊東は、森忌に頼んで骸甲巨兵のそばに寄ってもらった。
「おい冷凍ぉ! 聞こえてんだろ!? てめぇら、こんな後になってから来るたぁいいご身分じゃねぇか!?」
『相互不干渉の協定はご存知でしょう? 私たちの行動に文句を言われる義理はありませんよ』
「骸甲巨兵の中でまでステレオかよ!? まぁいいや、そっちにゃなんぞいい手はねぇのか!? 俺たちはもう限界なんだ、撤退してぇんだがかまわねぇなッ!?」
『ふむ‥‥十七夜さん、例の術はどうですか? そろそろだと思うのですが』
「は、あと百は倒しておきたいところです。やつらにももう少し粘っていただきましょう」
『だ、そうですよ。伊東さん、頑張ってくださいね』
「言われなくてもやるが‥‥てめぇら、何企んでやがる!?」
『無駄口は要りません。骸甲巨兵なら軽く200は潰せますから、あと少し頑張ればいいだけです」
「んだとぉ‥‥!?」
『登志樹、離れるぞ! なんぞ嫌な気配がする!』
「ちっ‥‥しょうがねぇ、ダンナ、やってくれ!」
 そうして骸甲巨兵から離れていく伊東が地上を見やると、山間部に巨大な陰陽の印が光の軌跡で描かれていた。
 それは、イザナミ軍や冒険者たちすべてを内包するほどの大きさで、地上にいる面々も何事かと困惑している。
 どうやら冷凍の部下、十七夜なる元陰陽師が仕掛けた何らかの術のようだ。
 十七夜は未知の術を使うことが多いが、これもその一つか!?
「ぐっ‥‥だ、駄目だ、これ以上は支えきれない! なんという数の暴力‥‥!」
「グォォォッ! こんな、雑魚どもに‥‥この俺がァァァッ!」
 ややあって‥‥必死に耐えていた攻撃隊や、冒険者たちに限界が訪れた。
 均衡が崩れた時、崩壊は早い。よく持った方である。ステラや八卦衆の攻撃魔法はかなりイザナミ軍に打撃を与える事が出来たようだ。
 潰走する。誰もがそう思った時、まだ動いている不死者が苦しみ始める。
 見れば先ほど十七夜が仕掛けたというの光の陰陽印が縮小していっており、それが小さくなるにつれ、不死者たちだけがまとまり、その密度を上げていく‥‥!
「おぉっ!? なんだありゃ!?」
「ククク‥‥この術は、大量の不死者と死者を必要とする。前回の戦場では倒せた敵が少なすぎたのでな」
 異様な光景だった。
 無数の死体が引力でもあるように引き寄せられ、くっつき、まるで粘土のように混ざり合っていく。骨が砕け、肉が溶け、死者だったものは巨大な塊となり、それでも動きを止めず、形を変えていく。
 やがて徐々に形を為していくそれは、まるで城のような。
 ような、ではない。それは、骨と肉で組み上げられた異形の城だった。
「な、なんだっちゃわいやー!? このっ、このっ、僕をどうするつもりっちゃ!?」
「‥‥だっちゃわいやとその愛車? やつも巻き込まれているのですか」
「それだけではないわ、牙。私が倒したザンスの死体も消えている‥‥!」
「使わせて貰いましたよ。ククク‥‥代償は高いが、上手くいきましたね。同胞を殺めるのは実に心が痛むよ! まぁ、片方は貴様ら人間が始末してくれたんだがな!」
 十七夜が払った代償とは、この術は黄泉人を生贄にする邪法らしい。城の基底部に彼の仲間の黄泉人を何人も埋めたのだとか。
「平良坂冷凍‥‥あんなのを飼っているとは‥‥」
「‥‥どうだ、ルーフィン。あれでも気が合いそうか?」
「御冗談」
 やがて、完全に変化した不死の城。
 邪悪な気配を放つその城に、骸甲巨兵および平良坂冷凍、そして十七夜は悠々と入っていった。
 前衛軍が奇怪な呪法で消失したイザナミ軍は撤退。この戦いで半数以上の不死者を失ったと思われる。
 死力を尽くしてイザナミ軍を倒したのが良かったのか悪かったのか‥‥?
 とにかく、丹波北部から京都が襲われる事が回避されたのは事実である―――