不死城潜入作戦

■ショートシナリオ


担当:西川一純

対応レベル:11〜lv

難易度:難しい

成功報酬:9 G 4 C

参加人数:10人

サポート参加人数:2人

冒険期間:08月30日〜09月04日

リプレイ公開日:2008年09月03日

●オープニング

世に星の数ほど人がいて、それぞれに人生がある。
冒険者ギルドでは、今日も今日とて人々が交錯する―――

 丹波藩の各所では現在、黄泉の女神ことイザナミが率いる不死者の軍勢との戦闘が続いている。
 しかしつい先日、北部戦線に異常あり。
 丹波藩、イザナミ軍の他に、少数ながら第三勢力と認識されている『平良坂冷凍』という商人を中心とした連中が存在するのだが、その陣営が前回、怪しげな術を戦場で行使。
 何も無かったはずの山間部に、突如として城(といっても天守閣だけがドンとあるような感じだが)が出現したのである。
「‥‥城、ね‥‥。またなんていうか、御都合主義な術が出てきたわね。十七夜ってそんなのばっかりじゃない」
「ごもっとも(汗)。でも今回は似たような事例があるんで、完全に未知の術ってわけでもないのではないかと」
「‥‥そんなふざけた術、そう何度も何度も使えるわけないでしょ。本人も条件が厳しいって言ってたんでしょ?」
「やっぱアルトさんじゃ覚えてませんか。ほら、あったじゃないですか。五行龍の土角龍・芭陸さんと一緒に探索した、呪われた教会。あれに似てると思いません?」
 ある日の冒険者ギルド。
 何でも屋のアルトノワールは、友人であるギルド職員、西山一海と共にいつものように茶を啜っていた。
 今日の話題は、丹波北部に出現した、『黄泉人と大量の不死者を材料に作られた城』についてである。
 一海が引き合いに出した『呪われた教会』の詳細は【五龍伝承歌・肆】シリーズにてご確認いただきたい。
 教会のほうは時空がどうとかいう要素もあったが、問題はその地下にあった大量の人骨。
 その怨念を基盤に術を支えていたわけだが、その地下空間には瘴気にも似た毒気の多い空気が漂っていた。
 そして、今回の不死城からも瘴気に似た空気が常に発せられており、普通の人間は近づくことすら辛いらしい。
 大量の死体と怨念を必要とし、それが基盤になっているという点では確かに共通しているが‥‥?
「‥‥覚えてないわ。興味ないもの」
「絶対言うと思いましたよ! あったんです! とにかく、不可侵条約を結んでいるとはいえ、藩内にあんなの作られたら丹波藩は困るだろうなぁ‥‥って思いません?」
「‥‥思わないわね」
「思ってくださいよ!? 話が進まんでしょーがぁ!?」
「‥‥五月蝿いわね‥‥要はその不死城の潜入偵察依頼でも出せって言うんでしょ? わかったわよ、出せばいんでしょ出せば。ついでに依頼が流れて暇してる馬鹿妹でも一緒に行かせる?」
「それは止めときましょう。騒動の種にしかならない気がします(汗)」
「‥‥ん。賢明かもね」
 不気味な気配と瘴気を放つ不死城。その内部がどうなっているのかなど想像もつかない。
 今後のためにも、少しでも情報が欲しいのは確かなところだ。
 欲しい人材はやはり、機動力が高い人物だろうか―――

●今回の参加者

 ea0020 月詠 葵(21歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea2562 クロウ・ブラックフェザー(28歳・♂・レンジャー・人間・イギリス王国)
 ea4301 伊東 登志樹(32歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea5414 草薙 北斗(25歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ea6381 久方 歳三(36歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 eb0641 鳴神 破邪斗(40歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 eb1422 ベアータ・レジーネス(30歳・♂・ウィザード・人間・フランク王国)
 eb2099 ステラ・デュナミス(29歳・♀・志士・エルフ・イギリス王国)
 eb5249 磯城弥 魁厳(32歳・♂・忍者・河童・ジャパン)
 ec3981 琉 瑞香(31歳・♀・僧兵・ハーフエルフ・華仙教大国)

●サポート参加者

神木 祥風(eb1630)/ 元 馬祖(ec4154

●リプレイ本文

●潜入‥‥の前に
 丹波藩北の山間部に、それはあった。
 ぽつんと本丸、天守閣だけが不自然に建っている城。外見上は普通のそれと変わらない。
 しかし、これは大量の不死者及び黄泉人を材料に作られた、言わば『不死城』なのである。
 ちなみに、そう遠くない場所に黄泉の女神、イザナミとその軍勢が1000以上の数居るのだが、今回は関係ない。
 つい先日も小競り合いがあったそうだが、この城が平穏無事であることを考えると決着はつかなかったようだ。
 話を戻そう。今日の依頼は、この不死城の潜入調査である。
 先ほど言ったとおり、この城には堀も城壁も無い。近づくこと自体は簡単だ。
 が、侵入できそうな場所が正門しかなく、その門は堅く閉じられている。
 しかも範囲100m程度とはいえ城全体から瘴気を放っており、近づきすぎるとどんどん体力が奪われていく。
 そして、極めつけは。
「い、行ったみたいのです。うみゅ‥‥骸甲巨兵が居ることをすっかり忘れてたの‥‥(汗)」
「なんですかあれは。ずいぶん巨大な怪骨でござりまするな‥‥」
「えっと‥‥詳しくは省くけど、冷凍の主戦力の武装がしゃ髑髏だよ。字の如く一騎当千の力があるんだ(汗)」
「あれが見回りをしているのでは迂闊に近づけませんね。そう簡単に倒せる相手でもありませんし」
 そう、月詠葵(ea0020)が言ったとおり、城の外には身長18mの巨大な妖怪がうろついていたのである。
 磯城弥魁厳(eb5249)のような初見の者には、何の冗談かと思えるような光景であった。
 草薙北斗(ea5414)やベアータ・レジーネス(eb1422)は幾度となく骸甲巨兵と戦ったことがあるので、あれが何の準備も対策もなしで倒せる‥‥いや、戦える相手ではないと身に染みているのだ。
「迂闊だったわ‥‥この城が出来たときに居合わせたって言うのに‥‥。あぁもう、自己嫌悪! 瘴気や恐怖対策にばっかり神経使ってて、『すんなり侵入できる』って思い込んでたわ‥‥」
「いや、確認をしなかった拙者たちにも問題はあるでござるよ(汗)。幸い、巨体故に動きは鈍いでござる。隙を見て一気に走り抜ければなんとかなるでござるよ」
「冷や水をかけて申し訳ありませんが、体力のある方や足の速い方はそれでもいいかも知れません。しかし、全員がそうではないことを御理解ください」
 ステラ・デュナミス(eb2099)が、珍しく自分の頭を掻いて落ち込む。
 しかし、久方歳三(ea6381)が言うようにこれは誰のせいでもない。
 事前に予想される負の条件の対策を考えるのは重要なことだし、何を調べるかを明確にしておくかも大事だ

 ただ、門番が思った以上に厄介だった。それだけである。
 とはいえ、琉瑞香(ec3981)が言うように全員の足並みを揃えるのはまず無理。
 足の遅いメンバーでは、骸甲巨兵から逃げられずに真っ二つにされることだろう。
「でもそんなの関係ねぇ! とにかく、どうにかして門まで行っちまえばこっちのもんだぜ! ヒャッハー!」
「いや、その『どうにかして』っていうのが問題なんだろ。それに、門を開けるのに手間取ってるとあのデカブツに見つかって全滅‥‥なんてことになりかねないだろーが」
「‥‥ふむ、元の資材については兎も角として‥‥瘴気さえ無ければ、俺にしてみれば似合いの城かもしれんな」
「なーに一人でブツブツ言ってやがんだぁ!? おめぇも最高に『ハイ!』ってやつになれやぁぁぁっ!」
「‥‥遠慮する。というか五月蝿い。黙れ」
 レミエラで最高に『ハイ!』ってやつになっている伊東登志樹(ea4301)の意見に、クロウ・ブラックフェザー(ea2562)が冷静にツッコむが、伊東は全然聞いていない。
 一人城を見上げつつ、誰にも聞かれないくらいの小声で呟いた鳴神破邪斗(eb0641)。
 その胸中は、色んな意味で複雑のようだ。
 さて、どうするか。一行が出だしから頭を悩ませていた、その時。
「うーん‥‥いけるかどうかわからないけど、注意を引くだけなら僕が何とかするよ。みんなが門にたどり着くまでの時間くらい稼いでみせるから、門は任せたよ!」
「うや‥‥あれの相手を一人でするのですか? さ、流石に死んじゃいますですよ」
「ベアータさんが手伝ってくれれば多分大丈夫! なんたって僕は、隻腕の鬼王からも逃げ切ったんだから!」
 月詠の心配に、笑顔で応えた草薙。
 ベアータに目配せして頷き合ったのを見て、一行は覚悟を決める。
 子供の使いではないのだから、無理そうだったから帰って来ましたでは言い訳にもならない。
 かくして、骸甲巨兵が城門の反対側くらいまで移動したところで‥‥草薙が突撃を敢行する―――

●翔ける
「くっ、久しぶりに相手するけど‥‥相変わらずだね! 冷凍たちが乗ってても乗ってなくても充分強いっ!」
 ボンッ、と爆発音がして草薙の姿が一瞬煙に消え、瞬時に別の場所に移動する。
 疾走の術を使用してなお、草薙は骸甲巨兵の攻撃をほぼ避けられない。
 自然と微塵隠れの術の使用が多くなり、ベアータのストームなどによるフォローが必要となるわけである。
 それでも、その機動性と運動性は骸甲巨兵の注意を引き付けるに足るものであった。
「草薙さん、皆さんが門にたどり着いたようです。あと少し頑張ってください」
「ぜぇっ、ぜぇっ、う、うん、頑張るよ! そ、それにしても‥‥!」
 草薙の息が荒い。まだああなるまで体力をすり減らすほど動いていないはずなのに。
 これが、瘴気の影響。生者を蝕む、根の国の空気‥‥!
 一方、門に向かった8人は8人で苦労している模様。
 門には鍵などはかかっていないのだが、押せども引けども叩けども開く気配が無い。
 ぐずぐずしていれば瘴気にやられて調査どころではなくなってしまうだろう。時間は取りたくないが‥‥?
 ちなみに。
「おぉぉぉぉっ!? な、なんでござりまするか、この手はっ!?」
 磯城弥がクライミングで石垣を登り、窓から侵入することを試みたのだが‥‥半分も上らないうちに、突如石垣から白骨の手が無数に生え、彼の首根っこや身体を掴んでしまう。
 そして、手が石垣(と言うのももはやおこがましいが)から離れた瞬間、地上に投げ落とされてしまったのだった。
「みんな下がって。手荒なのは好きじゃないけれど、名誉挽回のためにもここは私が」
「す、ステラお姉ちゃんの目が本気なのです。ちょっと怖いのですよ‥‥」
「いよっしゃあぁぁぁっ! 壊せ蹴散らせぶっ飛ばせぇぇぇ!」
 業を煮やしたステラは、フレイムエリベイション発動後、超威力のマグナブローで門を下から攻撃。
 流石にこれはたまらなかったのか、門は一気にガタガタに。
 あとは月詠や伊東がガツンと一発叩いただけで、あっさり門は壊れてしまった。
「これで通れるでござるよ。草薙殿ー! 門は開いたでござる! 急いでこちらへ!」
「そんなんじゃ聞こえないって。せっかくだから俺は草薙さんから預かった呼子笛を使うことを選ぶぜ」
「‥‥ずいぶん動きが鈍くなっているようだな。遠目からでもわかるぞ」
「一応、レジストデビルは付与させていただきましたが‥‥骸甲巨兵相手では気休めかと」
 久方とクロウが合図を送ると、ベアータを先に行かせつつ草薙もこちらへ向かってきていた。
 鳴神の見立ても正しい。疲労した状態ではいつ攻撃をもらうかわからないし、そうなれば琉のかけた耐性もなしのつぶて。
 やがて、ベアータが門に到着。それを確認した草薙は、微塵隠れで一気に移動。
 そう、引き付ける必要さえなければ、草薙だけならいくらでも逃げ切れるのである。
 流石に城の中までは追ってこられない骸甲巨兵。
 仕方無しに城の周辺警護に戻ったようである―――

●内部は
 やっとの思いで侵入した不死城内部。
 そこは、空気がやや紫がかっているような気がする以外はいたって普通の構造であった。
 襖、障子、木張りの床。床の間、畳、欄間。
 行灯や蝋燭を使った照明が点在し、光量も思ったほど少なくない。
 踏みしめる床の感触も、普通の木のそれとなんら変わりが無い。
 が、それはあくまで見せかけ。石垣で磯城弥を襲った無数の白骨の手を思い起こせばわかるように、この城に一般常識を当てはめていると逆に自分の首を絞めることになる。
 それをいち早く理解したのは、探知魔法を使った魔法使いたちであった。
「‥‥し、周囲すべてに反応‥‥!? デティクトアンデッドが役に立ちません‥‥!」
「リヴィールエネミーもです。床も天井も、周りにあるもの全てが敵意を発していて、とても判別などつきません」
 琉とベアータが、顔面を蒼白にしながら報告する。
 言うなればここは、巨大な魔物の腹の中。しかも、怨念に満ちた敵意の塊の中なのだ。
 360度どこから襲われても決しておかしくない。
「うっ‥‥こ、これは‥‥! 酷い‥‥うぅっ!」
「だ、大丈夫なのですか、ステラお姉ちゃん!? 何が見えたのですか?」
「し、知らないほうがいいわ‥‥。私、知らぬが仏って言葉が本当にあるんだってこと、今初めて知ったもの‥‥!」
 ミラーオブトルースの魔法で周辺の真の姿を見てしまったステラが、思わず吐き気をもよおしてしまう。
 心配して駆け寄る月詠を制すが、魔法が解けるまでの6分間、ずっとこんなものを見ていなければならないのかと思ってしまうくらい‥‥城の真の姿はおぞましいものだったのである。
「チッ‥‥そんな風に言われちゃ無茶もできないってもんだ。ゆっくり進むしかない‥‥ぜぶっ!?」
「クロウ殿!? 大丈夫でござる‥‥かべっ!?」
 慎重に慎重を重ねて歩いていたクロウが急に妙な声を出し、盛大にすっ転ぶ。
 駆け寄ろうとした久方もまた、何も無いところでコケて地面と激突する。
 その足元には白骨の手が生え、二人の足をがっしりと掴んでいた‥‥!
「このぉっ! お二人を放してくださいっ!」
「上等だコルァァァっ! 入れ食いじゃねぇかよぉ〜。こいよぉ〜、やってやんよぉ〜っ!」
 月詠と伊東が即座に動き、手を破壊。
 クロウと久方は転がって一行の下へ戻ってきた。
「ふむ。それでは機動力のあるわしらが行って見ましょうかな」
「ぜぇっ、ぜぇっ、ぼ、僕、今はちょっと自信ないけどね‥‥!」
「回復していないようだな。無理はやめておけ。尻拭いはごめんだ」
 磯城弥、草薙、鳴神が走り出すと、やはり床から白骨の手が出現。
 が、流石は忍者。『二人』はそれを回避、壁や天井といった空間を生かした機動で事なきを得ている。
 しかし‥‥これをずっとやれというのだろうか?
 こんな無茶な回避行動を続けていれば、瘴気の影響もあってすぐにへたばるだろう。
 しかも。
「げっ、嘘っ!? 天井からも!?」
「援護しましょう。樒流絶招伍式名山内ノ壱‥‥『椿!』」
 高速詠唱微塵隠れで強引にスタッキング状態に持ち込み、密着した状態からスタッキングPAする技らしい。
 天井から生えた白骨の手に捕まった草薙を、磯城弥が救出した。
 そういえば、鳴神は‥‥?
「って! なんでおめぇには手が襲いかかんねぇんだよ!? なんで平然と歩いてやがんだ!?」
「俺が知るか。相性がいいんじゃないか? この城と」
「瘴気の影響もあまり無いように見受けられます。一体どういうことなのでしょうか‥‥」
「‥‥ふん。悪人には反応しないらしいな。まぁ、自覚が無いわけではないが‥‥」
 ボソッと呟いた鳴神の言葉を肯定するように、城は彼に一切の干渉をしてこないようなのだ。
 喜ぶべきか微妙なところではあるが‥‥。
 ちなみに、メンバーの多くは魔除けのお札を携帯しているのだが、効果が見えにくいが実はかなり役に立っていたりする。
 元来動じにくい性格でなければ、瘴気+恐怖でまともに行動できなくなる可能性もあった。
 これは事前の準備や予想が功を奏した好例だろう。
「えぇい、まだるっこしいぜっ! 冷凍ぉ〜、見てんだろぉ〜、出て来いやぁ〜!」
「登志樹お兄ちゃん、挑発は止めたほうがー!?」
「こんなモンで俺らを止められっと思うなよぉ!? 悔しかったらちったぁ華のある攻撃してみろやぁっ!」
 伊東の声が響き渡るも、辺りはしーんと静まり返るばかり。
 と。
「ひっ!?」
 突如として床、壁、天井から何百何千という数の白骨の腕が生え、かたかたと音を立てて動き出す。
 鳴神以外のメンバーに絡みつく大量の腕、腕、腕。
 これには流石に冷静ではいられない。
「どぉぉぉあぁぁぁっ!? ち、ちっくしょう、今日のところは引き分けってことにしといてやらぁぁぁっ!?」
「なんだ、逃げるのか? 慣れれば居心地も悪くないぞ」
「どこがですかー!? うわぁぁんっ、これは流石に怖いのですよーっ!」
「志摩さんの仇討ちになればと思って来たのに‥‥くそっ、ろくろく調べられないなんてよ!」
 思わず逃げ出してしまった一行は、運よく骸甲巨兵に追われずに済んだ。
 一人、悠々と城を出た鳴神。
 ふと見上げると骸甲巨兵と目が合ったが、骸甲巨兵は彼に興味を示さなかったようだ。
「‥‥さて。お仲間と見られるのは流石に遺憾‥‥か‥‥?」
 微妙な台詞を残して去った鳴神。
 今回の依頼で判明したことが、後々役に立てばよいのだが―――