【壬生の狼たち】牙を研ぎ澄ませ
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■ショートシナリオ
担当:西川一純
対応レベル:11〜lv
難易度:普通
成功報酬:5 G 55 C
参加人数:8人
サポート参加人数:1人
冒険期間:11月02日〜11月07日
リプレイ公開日:2008年11月10日
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●オープニング
世に星の数ほど人がいて、それぞれに人生がある。
冒険者ギルドでは、今日も今日とて人々が交錯する―――
「こんばんは〜。お久しぶりなのですよ〜♪」
ある日の冒険者ギルド。
暖簾をくぐり、元気の良い笑顔を振りまくのは、月詠葵(ea0020)という少年冒険者。
女の子とさえ見まごうばかりの美形で、頼りなさそうにも見えるが‥‥こう見えて歴戦の勇士である。
「おや、月詠さん。今日はどんな依頼を御所望で?」
「違うのですよ。今日は、一海お兄ちゃんに依頼をお願いしに来たの♪」
「おお、月詠さんからまた依頼を出していただけるとは嬉しい限りです。基本的に大概の場合はお受けできるんですけど、冒険者さんからの依頼って中々来ないもので(苦笑)」
応対するギルド職員の西山一海ともかなり付き合いが長いため、話は弾む。
しばし世間話に話を咲かせた後、本題に入ることにする。
「では、そろそろ依頼書を作ろうと思います。どんな依頼なんですか?」
「新撰組を二手に分けて、大規模な模擬戦をやりたいのです」
「ほうほう。その目的は?」
「隊内の士気と錬度の向上を図るのですよ〜♪ ほら、最近は丹波のイザナミとか、京都周辺の脅威が厳しくなって来てるじゃないですか。家康候の‥‥その、外交の仕方とかも色々ありますですし!」
「あえて深くは聞きません(汗)。では、ルールの詳細をお願いしますね」
以下、詳細。
勝敗条件:終了時に生存者が多い方か、片方の組が全滅した場合
戦闘規約:真剣を使用。回復系アイテムは各人2つまで
戦闘場所:変更の余地あり。相談卓にて、特に希望する場所があればそこにすることも可能。
戦線離脱:戦闘不能状態に陥るか、降伏や怯懦を示した場合は戦線離脱と看做し、以降戦闘への参加はできない
特記事項:依頼に関して両局長や各隊からの了解、場所や怪我の治療の為の僧侶の手配等は既に完了している。また、新撰組の依頼なので、なるべく多くの新撰組所属者の参加を求む。
「これ、新撰組じゃない人も参加OKなんですか?」
「心苦しいのですが、出来れば新撰組所属の人が望ましいです。あくまで新撰組のための依頼なので‥‥」
「りょーかいです。そう書いておきますね。あ、そうだ。せっかくなんで、谷さんにも連絡しておきますね」
「みゅ♪ 谷組長も随分お久しぶりなので、お会いしたいの♪」
「‥‥ところで。この依頼、平織さんとか他の勢力に対する牽制も含めてます?」
「ぎく。な、なんのことかわからないのですよ〜♪」
「月詠さん‥‥もうちょっと策謀のいろはも覚えた方が良いかもしれませんねぇ‥‥」
「はう‥‥(汗)」
京都で催される、新撰組による大規模な模擬戦。
壬生の狼たちがその牙を更に鋭く研ぐ時‥‥周囲にどんな影響を与えていくのだろうか。
混迷の歴史に立ち向かうため‥‥いざ、勝負―――!
●リプレイ本文
●不可
「谷さん、この編成は良くないな」
「こ、近藤さ〜ん。言うかなーとは思っとったけど、何も当日の直前に言わんでもえぇやん(汗)」
京都、羅生門前(外側)。
都の南側から様々な方向へと続くであろう平原に、浅葱色にだんだら模様の羽織を着た人間がこれでもかと集まり、それを見ようと数多くの見物人も集結していた。
新撰組。京の守護者と名高い彼らが実戦さながらの部隊演習をやるとなれば、嫌でも人々の注目を集める。
しかし、新撰組局長、近藤勇は、詳しい説明を聞いた途端、眉をしかめてNOを言い渡す。
冒険者とのパイプ役をしていた七番隊組長の谷三十郎は、右手で顔を覆って天を仰いだ。
「みゅ‥‥局長、どうしてなのですか? 人数は丁度同じくらいになるようにしたの‥‥」
「隊士同士の模擬戦と聞いたが、冒険者が片方に固まっている。これでは後に障りがある」
冒険者ギルドの口利きで、この構図は作為的だ。局長が危惧するのも無理はない。
「偶然、奇数部隊の所属者ばっかりだったので‥‥」
所所楽柊(eb2919)は多少無理を感じていたが、冒険者隊士を含む含まないで分ける事に賛成だった。やりやすいし、所詮は遊びだ。
「実力が違い過ぎる。冒険者隊士の実力は組長にも匹敵する。このままでは一方的な展開にしかならん。断言する」
「いや‥局長、そない断言せんでもええやん?」
将門司(eb3393)は近藤の言葉に驚いていた。さらに続く台詞に絶句する。
「そうだな。冒険者隊士の八人と谷さん対、各隊の猛者五十五人。都合九対五十五でやれ。その程度が丁度良かろう」
「無茶な!? そんなものは訓練ではない! ただの見世物だ」
榊原康貴(eb3917)も抗議の声をあげる。近藤勇の言とも思えない。
この依頼の発案者である月詠葵(ea0020)を筆頭に、近藤の言葉に冒険者達は一斉に不満を口にした。
「確かに数の上では不利だが。しかし、実戦で必ず戦力が拮抗するとは限らん。お前達なら、切り開くと信じている」
「‥‥なるほど。冒険者でない隊士には、逆の訓練にもなる、と」
一条院壬紗姫(eb2018)が云うと、
「実戦ね‥‥局長も人の悪いことを言う」
静守宗風(eb2585)も近藤の意図を掴みかねたが、この場は逆らわぬ事にした。
不満はあれど、局長に従う冒険者たち。
「元々、『新撰組侮りがたし』という印象を広めるためでしたしね。困難を乗り越えてこそ‥‥ですか」
「うー、ちょっと困難すぎる気もする〜(汗)。でも、そうしないと始まらないならやるしかないねっ!」
明王院未楡(eb2404)とミネア・ウェルロッド(ea4591)も頷き合う。
当初の方式とは違ってしまったが、谷も新撰組のトップには逆らえない。
●狼の狂宴
ついに始まった新撰組部隊演習。
観客も歓声を上げず、黙って見ている。
真剣を使う戦い‥‥その緊張感が伝播して声を上げられないのだ。
近藤が開始の合図を出しても、双方動かない。動けない。
九対五十五――馬鹿げている。誰も最初の一歩を踏み出せない。
臆病からではない。走り出せば、もう止まることはできない。集団戦、それも非常識な人数比に誰もが迂闊に動くことを躊躇った。
圧倒的な静寂。秋の風が吹き抜けるわずかな音さえ耳に入る。
しかし‥‥その時は不意に訪れた。
かしゃーん、と破裂音が響く。
緊張にたえかねた観客の一人が徳利を持つ手を滑らせたのだ。
その音を合図に、五十五人の隊士が動き出す!
「‥‥来ます! どうやら攻め込みつつ包囲に回る部隊もあるようです!」
「まあ、この人数比ですと、そうなりますよね」
「取り囲まれる前に少しでも数を減らすべきと存じる! 行くぞ!」
九番隊所属の一条院、明王院、榊原は三人一組で互いの死角をフォローし合い、突撃してくる隊士を迎え撃つ。
「あーもう、無理を通すつもりで来たけどこいつは無茶がすぎるって!」
「言いたいことはわかる。しかし、その無茶を無理でこじ開けるのが新撰組。壬生の狼だ‥‥!」
「せやな。狼の飼っとる蛇も、腕が鳴る言うとるで!」
所所楽、静守、将門は十一番隊の所属の三人。
本当は隊を越えての連携もやってみたいが、状況が状況だけに慣れた味方とチームを組まないとまずい。
「ここでボロ負けしちゃったら、かっこ悪くて終わった後に直訴もできないよ〜!」
「直訴‥‥? ‥‥と、そんな場合じゃないや(汗)。谷組長、足手まといにはならないと思いますですよ!」
「そう願う。この状況‥‥始めから本気でいくしかあるまい!」
三番隊所属のミネアと月詠は、谷も引き入れて三人チームを形成。
谷が関西弁を止め、素の口調と表情で槍を構えていることからも、いかに近藤のお達しが厳しいものか分かる。
が、それは向こうも同じこと。こんな圧倒的多数でやられたとあっては立つ瀬が無い。
三人構成の三つのチームはなるべく固まり、さながら狼の牙と両の爪の如く、多勢とぶつかる‥‥!
「危ないですよ、榊原さん」
「忝い! しかし、流石に各々が強い‥‥!」
「‥‥鋭い! 加減なんてできません‥‥!」
明王院が盾で榊原をフォロー、その間隙を縫って榊原が一人倒す。
それと同時に一条院が攻撃を避け、反撃で一人倒すが、その間にも残りの五十三人は九人を攻め立てる。
彼らは本気だ。近藤局長に侮辱され、もはや冒険者達を滅殺せねば武士の矜持が立たない。無論、新撰組の隊士が弱いはずが無い。
「あかんな、殺されるわ!」
「負担軽減しないとな! 博鷺ッ!」
「我が剣は鶺鴒の尾の如く。攻める様は稲妻の如く‥‥!」
将門が十手やガントレットで防御に回りつつ相手の体勢を崩し、所所楽と静守が迎撃、再び死角をフォローしあう隊形に戻る、と言う動きを続ける十一番隊。
だが多勢に無勢、三人とも立っているのがやっとだ。
「ちっちゃい事は悪いことばかりじゃないんだよ〜!」
「ミネアちゃん、その戦い方じゃいつか突出しちゃいますです!」
「なら全員で突出すればいい。突出せずに守る事だけを考えていると身動きが取れんぞ!」
ミネアは身の丈以上もある太刀を全身で器用に使い、攻め一辺倒。
奇襲、強襲、退くことを知らず。しかし、雑兵相手ならともかく敵も新撰組。あっという間に退場するかに見えた。月詠が右を、谷が左の敵をなぎ倒し、ミネアを助ける。
これが魔物の群れやごろつき山賊の集団なら、各チームともこれらの連携で戦い続けられるかもしれない。
しかし、相手は自分たちと同じ新撰組。集団戦を得意とする壬生の狼たち。
例え何人かの突出した冒険者達には実力で劣ろうと、恐れは微塵も無い。日ごろ叩き込まれた戦法は色あせず、冒険者達は確実に敗北へと追い込まれていた。
ミネアを助けに入った月詠と谷も反対に囲まれて、防戦一方におしやられる。
「ちぃっ、この動き‥‥三番隊か! 斉藤め、いい教えだ!」
「なんか複雑だよ〜! って、月詠みちゃん、右後ろ! 抜けちゃった!」
「えっ!? け、気配が紛れてて‥‥!」
「七番隊特有の動きだ! 俺に任せろ!」
ミネアの横をすり抜けるようにして突っ込む一人の隊士。
それにいち早く気づいた谷がフォローに回るが‥‥!
「それが狙いですよ、谷組長!」
その谷の背後から、同じく七番隊と思われるもう一人の隊士。
谷が自分の隊の動きに気づき、カットに入ると読んでの動きだ!
「‥‥甘いな。月詠!」
「はいなのです! 月が昇るが如く‥‥!」
だが、谷はそれも読んでいた。いや、正確には、月詠が反応してくれると信じていた。
月詠は後の先を捨てて、谷を襲おうとした隊士に下から斬り上げる強力な一撃を見舞う。己の利を捨て、隙だらけになる賭け。
特別な打ち合わせは無かった。驚いた顔で倒れる隊士。
「左利きの相手と闘うんはそうないやろ? ええ経験やと思いなはれ。ほないくで。双蛇(そうじゃ)!」
「げ!? 薙ぎと唐竹の波状攻撃って‥‥九番隊と五番隊か!?」
「決め付けるな、柊。なまじ知識に頼ると裏をかかれるぞ! うおっ!?」
所所楽に一瞬気を取られた静守にポイントアタック交じりの一撃がヒット。
流石に二人同時に攻撃されては片方を捌ききれなかった!
「宗風サン!? やろぉぉぉっ!」
「血ぃ上らせんなや! あんたの技は細いとこを狙うモンやろ!」
「くっ‥‥博鷺ぉっ!」
しかし、所所楽の一撃はあえなく回避されてしまう。
その隙を狙うのは、十番隊の隊士! だが!
「柊、許せよ!」
「へ? はぐっ!?」
所所楽では避けられないと判断した静守は、なんと所所楽を蹴飛ばして回避させる。
すぐに立ち上がるが、土で顔を汚していた。
「ごめん、宗風サン‥‥」
「柊‥‥鷺はあまりバタバタ騒ぎ立てる鳥ではない。違うか?」
「‥‥! うん‥‥!」
「おっと、いい雰囲気を続けてられるほど楽な戦場やないで!」
敵はまだまだ多い。生傷も増える一方。薬は使い切った。
順当に削られているだけかもしれない。それでもやる。身体が動く限り‥‥!
「ぐっ‥‥あ、あと、何人いるのだ‥‥!」
「はぁっ、はぁっ、ひ、引き際が上手い‥‥! 二番隊の動きでしょうか‥‥?」
「‥‥このままでは明王院殿と榊原殿が保ちませんね‥‥。かといって‥‥」
ちらりと他のチームを見やる一条院だったが、余裕はあるわけも無い。そんなものは、最初からずっと無かった。このチームで彼女だけは軽傷の部類だった。生き残りを最優先として前に出なかった。しかし、そろそろ体力的にきつい。
九番隊の三人を組し易しと見たのか、攻勢が強まった。カバーに入りたくても、他のチームも限界だ。
「ぬ‥‥ぐ‥‥! じ、実力で劣るとしても、それならそれなりの動きと言うものが‥‥あるっ!」
「‥‥榊原殿!?」
「無茶です、戻ってください!」
四人ばかりで固まっていた隊士の集団に、傷の痛みを押して突撃する榊原。
そのまま一人と鍔迫り合い状態になり、集団を突き抜ける!
一際高い歓声があがる。直後、叩き潰されて地に伏す榊原。
榊原が作ったわずかな活路に、明王院と一条院は包囲の脱出を図る。
「私自身はパワーチャージを覚えていなくとも、覚えている人間に受けてもらえればこの状態に出来る!」
「くっ‥‥こんな短時間で見切ったとは!」
「後は気迫の勝負よ! うおぉぉぉぉぉっ!」
これが演習か?
固唾を呑んで見守る観客。流れるは本物の血。
これが、新撰組。壬生の狼と呼ばれる武士たちの戦場。
僧侶や薬は揃えている。それでも助からない者が何人も出るはずだ。
京都を護る守護者たちは、半端ではない。
今日、この戦いを見た者たちは、それを本当の意味で理解しただろう―――
●殉ぜよ
「本気か? 何も今ここでいう話ではないと思うが」
「も、勿論です。でも‥‥ミネアは、本当にやりたいことを見つけたの‥‥!」
演習は終了し、傷ついた壬生狼たちは明王院や将門が腕を振るった料理に舌鼓を打っていた。
ミネアは、新撰組のものとは違う羽織を持ち、近藤勇に直訴した。
それは、尾張平織家の羽織。
新撰組を抜け、平織の下に走ると。
「この前の件か‥‥芹沢先生が云った事を覚えているか?」
「わ、わかってます。だから‥‥左腕肘から先を、落としても良い、覚悟‥‥です‥‥!」
強がっているが、声に震えが混じった。
「腕は、生えるぞ」
近藤の声は冷たい。酒呑童子の腕は新撰組の苦い記憶。
「はい。クリーニングで治る範囲だけど、落ちた腕があ、あれば、ミネアが邪魔になった時、呪いも掛けられるよ」
震える声でいう。クローニングだ、ミネア。
「呪い、それが武士か? 腹を切れ」
「っ‥‥!」
ミネアが振り返ると、今まで共に歩んできた新撰組の仲間たちが、こちらを見ている。
確実な死。むしろ、死ぬことがこの場では当然の帰結にさえ思えた。
それでも。それでも‥‥!
「そ‥‥それでも‥‥行きます‥‥! 新撰組で、誠を覚えて‥‥そして、新しい真実を、悟ったから‥‥!」
「そうか。残念だが」
近藤がミネアと対峙する。
近藤は強い。抵抗は、無駄か?
『左腕では、到底足りん―――』
「ッ!? が‥‥はっ‥‥!」
突如、ミネアの胸を十文字槍が貫く。
ミネアが弱々しく振り返った先に居たのは‥‥谷三十郎。
いつものユルい笑顔を捨てた素の表情。その中でも特に冷徹な、冷たい目だった。
「た‥‥に‥‥く、み‥‥」
「呼ぶな、裏切りモノ」
「あぐぁっ!? ごふ‥‥!」
槍を捻り、傷口を抉る谷。ミネアの服が真紅に染まる。
仲間の死には、慣れている。
「あ‥‥や‥‥‥‥だ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥」
涙を流し、掠れるように呟き‥‥ミネアは、動かなくなった。
「た‥‥谷組長ぉっ!」
月詠が涙を流しながら掴みかかろうとするのを、他の隊士が止めた。
彼らは今まで戦場にいた。戦場なら、逃亡は許されない。
谷は月詠に一瞥くれることも無く、ミネアの身体を貫いたままの槍を担ぎ、近藤に向き直った。
「近藤さん、これも新撰組に籍を置いた者。せめて供養してやろうと思うんだが‥‥構わないな?」
谷の顔は青ざめていた。近藤が許すと、
「‥‥おーきに。ほな、急がんと」
いつものユルい表情に戻り、小走りでそばの馬に飛び乗り、京都に戻っていく谷。
向かうのは寺院。槍を抜き、腕に抱いたミネアの身体を抱きしめる。
すまないと‥‥涙を流しながら、谷はひたすら馬を走らせた。
やがて‥‥寺院で目を覚ましたミネアは、僧侶から伝言を受け取ったという。
『戦場で会うたら次は助けんからね? ま、そうならんことを祈っとるけど。これであんたは自由や。達者でな―――』