●リプレイ本文
●誘導
「来たか。悲鳴に釣られるとは楽でいいが‥‥。まぁいい。さぁ、闇に舞おうか」
秋がその香りを残しながらも、季節は冷たい冬へと移り変わっていく。
それを肌を撫でていく風に感じながら、百鬼白蓮(ec4859)は山野を駆け抜けていく。
疾走の術で強化されたその脚力は、背後から追ってくる小鬼‥‥茶鬼と呼ばれる妖怪に追随を許さない。
完全に見失うことなく、茶鬼たちが追う気を無くさず、それでいて決して捕まらない。
タンッ、タンッ、タンッ、ズザッ、ヒュッ、ズザッ。
小気味のいい足音は、まさに踊っているかのようだった。
仲間にかけてもらった補助魔法‥‥フレイムエリベイションのおかげで、いつも以上に調子がいい。身体は軽く、心は昂ぶりつつも静かだ。今なら誰にも追いつかれないような気さえする。
茶鬼たちは棒切れなどの雑多な武器で武装をしつつ、百鬼を追うことを諦めない。
「もう少しだ‥‥!」
予め集合場所は決めてある。位置確認も怠っていない。ならば、あと少しで仲間と合流できる。
百鬼はまだ、追ってくる八匹ばかりの茶鬼全てを同時に相手取れるほどの腕前ではない。
だからこそ仲間がいる。作戦がある。事を成すための努力が出来る‥‥!
やがて視界に入った、仲間たちの姿。偵察兼囮の役目は完璧にこなしたと言えよう。
百鬼は踏み出す足に一際力を入れ、大地を蹴った―――
●圧倒
「み、見えました。百鬼さん‥‥です」
「ふむ、予定よりちょっと早いわね。危なそうな様子はある?」
「いえ、凄く余裕たっぷりですけど‥‥はぅぅ、ホントに来るんですよねぇ〜!」
「よろしい。ならば殲滅だ。燃え上がれ、ボクの小精霊!」
合流ポイントと定めた場所では、すでに四人の冒険者が今や遅しと百鬼の帰還を待ちわびていた。
刀と鎖分銅で武装した儚げな少女剣士‥‥いや、今は少女神聖騎士か。
水葉さくら(ea5480)が静かに何事か呟くと、その身体が一瞬光を放ち、バチバチと火花散らす電撃に包まれる。
次いでブレスセンサーを発動しておく辺り、その熟練振りが見て取れる。奇襲や見失うことを予防するためだ。
ふわりと服を翻し、水葉の後方へと静かに移動するのはステラ・デュナミス(eb2099)。
彼女こそ百鬼に補助魔法‥‥フレイムエリベイションをかけたその人でありながら、その実は稀代の水魔法使いという、相反する魔法を使いこなす英傑である。
穏やかな微笑を浮かべる彼女から人知を超えた威力の魔法が生み出されるなど、パッと見では想像もつかない。
そのステラに補助魔法をかけてもらいつつも、こちらへ向かってくる百鬼と茶鬼を見ておろおろする者が約一名。
ハーフエルフで、ファイターで、力士(!)という変り種、マルキア・セラン(ec5127)。
彼女はメイド服に身を包んだ、れっきとした女性である。女性なのに力士というのがそもおかしい。
だが、そんなことは些細なこと。超至近距離での格闘戦を得意とするというその実力だけが求められるのだ。
そして最後の一人‥‥黄金の駄牛。
ちょっとぉ!? ボクの説明そんだけですか!? っていうかそのあだ名は正式に認められてませんでしたから! やりなおーし! 修正を要求します! むしろ修正してやるーーー!
あっ、ちょっと! 勝手に報告書書き換えないでください!
大地に降り立った黄金の輝き。雄々しき野牛の如く、迫り来る敵をなぎ倒す正義の志士。数々の異名を持ち、五種もの魔法を網羅する天才術士が、静かにそこにあった。彼女の名こそ‥‥楠木麻(ea8087)。後々にも語り継がれる伝説の―――
ネタキャラである。
ちっがーう! せっかくの件が台無しじゃないですか!
武力介入はお断りですっ! そもそも何が五種網羅ですか! 魔法覚えてない属性が二種類もあるくせに!
いいんですよ、精通してることに違いはありません!
っていうか、そろそろ続き書いていいですか? これだって字数に含まれてるんですから(汗)
それは困りますね。では続きを書くことを許可するゥゥゥッ!
『報告書に一部お見苦しいところがありました事をお詫びいたします』
冒険者たちは事前の打ち合わせどおりに陣形を組み、水葉、マルキアを前衛、ステラ、楠木を後衛に配置。
そして、百鬼がついに一同に合流。勢いのついた身体を木を軸に回転させ、何事もなかったかのように着地する。
「お疲れ様。後は休んでいてもらっても構わないわよ?」
「お戯れを。是非とも戦線に加わりたく候」
ステラは『言うと思った』というような優しい笑みを浮かべ、次の瞬間には凛々しい瞳で茶鬼たちを見据えた。
その数は八匹。そのどれもが、冒険者たちが全員女だと認識しているのかいないのか一向に怯える気配がない。
じりじりとにじり寄るようにして接近してくる茶鬼たち。仕掛けてくるのは時間の問題だ。
そして、一匹が痺れを切らし、水葉に飛び掛る‥‥!
「う、迂闊です‥‥よ!」
ザンッ、という鈍い音。いや、それは音すらなかったのかもしれない。
電撃を帯びる鈍色の剣閃が、小柄な水葉の身体から打ち下ろすような軌跡で放たれた次の瞬間には、哀れな茶鬼は一刀の元に切り伏せられ、地面に転がる結果に終わった。
刀に宿った雷の影響か、斬られた茶鬼の身体はしばし痙攣し、動かなくなる。
それは、舞い散る桜の花弁の様な、可憐な存在が繰り出した圧倒的な一撃。
例えるならば、千年桜が巻き起こす花の乱舞。
小さな存在など容易く飲み込む、駆け抜ける春の嵐‥‥!
大木をも両断するかのような水葉の一撃を偶然と見たか‥‥あるいは仲間の死を悼んだか。
茶鬼たちはいきりたち、我先にと冒険者に襲い掛かる。
「うろたえるな小僧どもーーーッ!」
腕を組んだままだと思われていた楠木から、黒く渦巻く魔力の奔流が巻き起こり、茶鬼二匹を同時に巻き込む。
身体をねじり、引きちぎるかのような重く強い力。
茶鬼たちの後ろにあった木々も抉らんばかりの黒い横倒しの柱は、一体いつ撃ちだされたのか?
楠木は腕を組んだままであったと思われる。まさか、一瞬で印を組み、術を唱え、撃ちだし、また腕を組んだのか?
まるで居合い抜き。鋭く研ぎ澄まされた、彼女独自の、魔法による抜刀術。
しかも剣術におけるそれが連続攻撃が不可能なのに対し、彼女のそれは連射が可能。
例え必殺の威力を持っていなくとも、グラビティーキャノンという魔法の性質上、後衛としての役目は充分‥‥!
「ち、近付かないで下さい〜(涙目)」
マルキアは冒険者になってまだ日が浅い。
いや、例え長く冒険者であったとしても、彼女の性格上、現状の言動に違いはないだろう。
しかし、その行動はまさしく戦士のそれ。近づくなと叫びつつも、近寄ってきた茶鬼の一匹にタックルで突っ込んでいく。
ごずっ、という骨が何かに打ち付けられる鈍い音がし、茶鬼が怯む。そこからまさかという俊敏さで背後に回ったマルキアは、がっしりと茶鬼の腹辺りで自分の腕をロックし、気合と共にヘソで投げ‥‥地平線から半分顔を出した太陽の如き美しい放物線を描き、後頭部を地面にたたきつけた。。
下に石こそなかったが、普通の生き物は頭部を激しく打ち付ければまともに立つこともできない。むしろ、その一撃で絶命することもあるかもしれない。
しかし、息のあったことはこの茶鬼にとっては不幸であった。マルキアが『いやあぁぁっ!』という悲鳴を上げたかと思うと、その喉元に、今度は半月を描くような軌跡の蹴り技が炸裂する。
その茶鬼はうめくことも許されず、スカートをたなびかせた太陽と月のコンボの前に動かなくなる。
さて、茶鬼もやられてばかりではない。
あまり理知的ではないものの、どうしても隙の多くなるマルキアに集中攻撃をすべく、回り込もうとする。
が、その程度の行動などとっくにお見通しの人物がいる。
「うん、基本に立ち返るって、思ったより為になるわ」
目を閉じて呟いたステラが、優雅に‥‥静かに右手を突き出したかと思うと、マルキアを狙っていた茶鬼が不意に吹っ飛び、木に叩き付けられた。その身体がずぶ濡れになっていることから、ウォーターボムを発射したことが分かる。
本来なら、ステラは火力に勝るマグナブローや有効範囲の広いアイスブリザードも使える。
しかし、彼女は分かっているのだ。ただでさえ木の多い森の中、乾燥したこの季節に火の魔法は山火事の元だし、接近戦が主流と想定されている上、動きにくい森の中のこの作戦では、範囲が広すぎれば味方を巻き込む可能性もある。
「狙い撃つわよ‥‥!」
高速で発射される高圧縮の水の弾丸。自らの魔力と大気中の水分を凝縮した命の起源。
その狙撃は正確無比。命を潤す恵みも、使い方や量次第で命を削る結果となるのだ。
それは、生半可な反応速度では急所を外す事すら許されない刹那の衝撃‥‥!
ここに来て、ようやく茶鬼たちは理解する。相手が自分たちよりはるかに格上の存在であると。
逃げ腰になる茶鬼たちを‥‥百鬼は見逃さない。
「頭上からの攻撃と言うのは中々受け難かろうな?」
回避はともかく、格闘術はまだまだと言える百鬼。
しかし、普通の冒険者には足枷となる森での戦闘は、彼女たち忍者には戦闘力向上の材料であった。
疾走の術で疾く高く機動できる彼女は、木を利用して茶鬼たちの頭上から攻撃することを旨とする。
木を蹴って高みから攻撃することは勿論、時には枝に飛び乗って真上から忍者刀を叩きつける事もあった。
舞うような足捌きに木を使った空間機動が加わるとき、それはかぐや姫を迎えに来た月の使者たちかのよう。
今はまだ、大きな力ではないかもしれない。それでも、その武は磨けば磨くほど強く美しく輝くだろう―――
●仕上げ
見立て違いというのは人間でもよくあること。それを茶鬼がしてしまったからと言って、誰が責められよう?
仲間があっという間にやられていくのを見て、茶鬼の一匹は恐怖に駆られて逃げ出した。
走って、走って、走りぬいて。残りの仲間がいる谷状になったアジトに戻ってきていた。
何を話しているのかは分からない。復讐を企てるか、あるいはすぐに逃げ出す算段か。
しかし、どの選択肢も彼らには残されていなかったのだ。
冒険者たちは塒への追撃もしっかりと想定しており、わざと一匹逃がし、泳がせたのだ。
あまりにも完成された作戦である。
「え、えっと‥‥何もここまでと‥‥思わなくも、ないんです‥‥けど(汗)」
「ダメよ。彼らは言って聞くような種族じゃないの。例え約束してもすぐに忘れてしまうか、他の場所で蛮行を繰り返す。あなたもそれをわかっていてブレスセンサーを使ってたんでしょ?」
「は、はい‥‥そうです、ね‥‥」
「Pi! Pi! ボクたちを相手にしなければならないなんて、マンモス哀れなやつ!」
「い、意味が分からないんですけどぉ(汗)。で、でも、もう一頑張りですぅ!」
「そうそう。SATUGAIせよってやつです(邪笑)」
「なんか違いませんかぁぁぁっ!?」
「許せとは言わん。ただやり遂げるのみ‥‥」
刀を手放した水葉が、電撃鎖とライトニングサンダーボルトで穿つ。
火事の可能性が低い場所であることを悟ったステラがマグナブローで焼き尽くす。
自棄になって突っ込んできた茶鬼を、楠木がローリンググラビティーで弄ぶ。
悲鳴を上げつつも、マルキアが茶鬼の首根っこをつかんでダイヤモンドカッターで粉砕する。
不言実行とばかりに、ひゅっ、と息だけを吐いた百鬼がスタンアタックで刈り取る。
後はもう言わずもがな。冒険者たちは完璧に仕事をやり遂げたのであった―――
ぶーぶー。なんか最後だけ手抜きじゃありません?
いや、途中との対比をと思いまして。っていうかいい加減武力介入やめてください。
でもこれ、大人数でやろうとしたらえらい長さになりますよね。今度は10人くらいでやって欲しい所(邪笑)
字数がいくらあっても足りませんよっ! これが好評なようなら‥‥考えなくもないですけど(汗)
ボクは水没地蔵(笑)さえ消してもらえれば大満足ですが何か?
ありえないんで。
うそーん!?
『再び報告書に一部お見苦しいところがありましたことをお詫びいたします―――』