よんでますよ麻ゼルさん。
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■ショートシナリオ
担当:西川一純
対応レベル:11〜lv
難易度:普通
成功報酬:5 G 55 C
参加人数:6人
サポート参加人数:4人
冒険期間:12月19日〜12月24日
リプレイ公開日:2008年12月25日
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●オープニング
世に星の数ほど人がいて、それぞれに人生がある。
冒険者ギルドでは、今日も今日とて人々が交錯する―――
ネプ乳マン「いくぞ、ボイン!」
ビック・ザ・ボイン「は、ネプ乳様!」
二人「「搾乳ボンバー!」」
童話、こぶとり爺さんのコブのように乳を取られて、哀れ、アルトは貧乳に(どのような仕組みで取るかは鬼の業ゆえ、鬼業秘密ということで)。
アルト「いやーん、私の胸がぁ〜!」
「どうです!?」
「‥‥‥‥いや、そんな自信満々にどうですとか言われても(汗)」
ある日の冒険者ギルド。
これでも仕事中である職員の西山一海のところにやってきて、お手製の春分同人絵巻(絵付の春分同人)の感想を求めるのは、楠木麻(ea8087)なる冒険者であった。
京都はおろか日本中に名を馳せているかも知れない、伝説の面白キャラでもある。
彼女はかなり昔から一海と顔見知りで、親しいといえば親しい。
が、彼女が春分同人を書くなどということは知らなかったし、出来がちょっとアレな感じだったので、一海としてはとても返答がしづらい。
自身も春分同人を書く身として、これにどうコメントをつけていいのか悩んでしまうのだ。
ちなみに、『アルト』とは、楠木や一海とも縁の深い、京都で何でも屋を営むハーフエルフの女性のこと。
美人でスタイル抜群だが、飽きっぽく、きつく、無関心。
最近はそうでもないが、わりとすぐ手が(刃物が)出るタイプ。
そのスタイル(主に胸)に嫉妬して、楠木はアルトを題材にしてこんな本を作ったのだろう。
「えー、同人なんだから多少の性格の違いは認めてくださいよー。元々はヘタレな主人公が何故か強気だったり、消極的なはずのヒロインそっち方面にはオープンだったりなんて日常茶飯事でしょ?」
「間違っちゃいませんが、これ、180度性格逆じゃないですか! っていうかネプ乳マンって誰!? ビッグ・ザ・ボインとか上手いこと言ったつもりですか!? そもそも、私、一応仕事中なんですけど!」
「硬い事言わないの。てか言わせなーい」
「‥‥そのギャグやるには色気が足りないかと」
「うがー! そうですよ、どうせボクは幼児体型ですよ! 胸もねぇ! 括れもねぇ! 尻のほうにも肉付きねぇ! おらこんな身体嫌だー! おらこんな身体嫌だー! 他人を弄るだー!」
「意味の分からない歌、歌わんでください(汗)。‥‥って‥‥〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッッッ!」
声にならない悲鳴をあげ、不意に一海は硬直する。
楠木の後ろに、いつものつまらなそうな顔をしつつ、楠木の書いた春分同人絵巻をめくるアルトの姿が!
それに気づかない楠木は、一海との馬鹿話に熱中したまま。
一海だけが、『やめておけ』とか『逃げろ』みたいなサインを必死に送るが、楠木には通じない。
やがて丸々読み終わったであろうアルトノワールは、明らかな殺気を放ちつつ、愛用の縄金票を取り出した。
「はッ!」
ここまでくれば、流石に状況を理解する楠木。
背後から放たれる殺気に、身体中から嫌な汗が噴出す。
怒ってる。きっと容赦ない。危険が危ない。
そう直感した楠木は、
「‥‥‥‥‥‥あぷ、あぷぷ、あぷ‥‥!!!」
と意味不明な呻きしか上げられなかったという。
「‥‥どうしたの、楠木麻。変な汁が沢山でてるわよ? 言い訳があるなら聞いてあげる。先におっしゃい」
恐る恐る振り返ってみると‥‥いつものかったるい表情のままで、しっかり青筋立てているアルトの姿が‥‥!
それがどんなに恐ろしいことか、付き合いの長い楠木には身に染みて分かっていた。
「‥‥イッペン、シンデミル?」
「ゲェーッ、アルトさん! あなた本気で殺すつもりですよね!? 冗談なしで殺すつもりですよねぇぇぇッ!?」
「‥‥当・前」
「いーやー! 一海さん、ボク、また京都から出ます! 逃げます! その補助の依頼をお願いします!」
「‥‥逃がさないわよ。あんたが京都から出るときは‥‥あの世に行くときだけだと思いなさい‥‥!」
「オワーッ!」
嵐のように現れ、嵐のように去っていった女性二人。
ため息を吐きつつも、一海にとっては結構日常茶飯事な出来事であった。
まぁ、冒険者の知り合いの中でも、楠木のようなタイプは珍しいが。
一海はやれやれと呟きながらも、一人、依頼書の作成に取り掛かったのだった―――
●リプレイ本文
●逃
「抜き足」
「差し足?」
「忍び足‥‥って、こんな歩き方してたらいかにも逃げてますって感じじゃないですかー!?」
京都の大通りを外れた、細かい路地が連なる道。
そこをこそこそと歩く三人と、半ば呆れながらそれについて行く一人。
ちょっとどころじゃなく怪しい感じがする。
「なにやってるの、もう‥‥」
「いやぁ、逃げ隠れするときはやっぱりこの台詞かなー、と」
カラカラと笑うのは、不精髭を生やした中年のおじさん。
しかし、それはミミクリーで別人に化けた楠木麻(ea8087)という女志士である。
黙っていれば可愛いのに、ぶっ飛んだ言動が災いすることが多い。
無論、今回の逃走劇も彼女が原因だ。
「思わず乗ってしまいました‥‥とりあえず付近に集団で近づいてくるような人たちはいません」
「みゅ。いつもは追う側なので、面白くはあるの。逃走だ、逃走だ、逃走ができるぞ‥‥なんて♪」
リアナ・レジーネス(eb1421)と月詠葵(ea0020)は、楠木に請われて月道までの護衛や道案内などを頼まれたクチ。
特に月詠は、新撰組という職業上、不貞志士等を追って京都の町を奔走することも多く、地理には強い。
逃げるのが楠木、追うのがアルトとなれば、面白いことが起こるであろうことは想像に難くない。
案内半分、護衛半分、メインは見物。本人たち以外はある意味お祭りである。
「油断しないほうがいいわよ。相手はあのアルトなんだから。情報屋なんだし、私たちが手を貸してるっていうこともバレてると思ったほうがいいわ。固まってるのは逆効果かもしれない」
苦笑いしつつも辺りをしっかり警戒しているのは、南雲紫(eb2483)。
彼女だけは、アルトノワールと全力で戦いたいから楠木を手伝うことにしたらしい。
南雲とアルト。仲がいいからこそ、お互いの実力を認めているからこそ、時に全力で戦ってみたいこともあろう。
と、そんな時である。
「あ‥‥月詠様、南雲様。こんなところでお会いするとは奇遇ですね」
路地の片方から、御神楽澄華(ea6526)という一人の女志士が現れ、一行に声をかけた。
馴染みの深い顔を見つけたからという感じで、悪意も芝居っ気も感じられないが‥‥?
「あら澄華じゃない。どうしたの?」
「はぁ。その‥‥アルトノワール様に楠木様を探してくれと頼まれまして。皆さん御存知ありませんか?」
南雲もいたって普通に応対したが、御神楽の言葉を聴いてぎくりとする。
表には出さなかったが、それは逃走側全員に言える事だ。
「知りませんけれども‥‥御神楽さんは何故この辺りに?」
「はい、この辺りでついさっき目撃証言があったから‥‥と言われたもので」
「ざ、残念なのですが、ボクたちは知らないのです。今日はこの人に京都の案内をしてあげてたの♪」
そう言って、月詠は中年のおじさんに変身した楠木を手で示す。
楠木は喋らない。うっかり喋れば言動ですぐにバレる。楠木とはそういうキャラだ。
「そうですか‥‥。ではもう少し探してみることにします。それでは」
ぺこりと礼をして、御神楽が歩いていこうとしたその時。
「‥‥騙されちゃ駄目よ、澄華」
御神楽がやって来た道とは正反対の方向から、長い黒髪のハーフエルフ‥‥アルトノワールが現れる。
待ったをかけられた御神楽はきょとんとするだけだが、逃走側は心中穏やかではない。
「‥‥紫たちは楠木麻の行方を知ってる。そう断言するわ」
「しかし、南雲様たちはこの方の案内をしているとかで‥‥」
御神楽が示した先には、楠木とは似ても似つかないおじさん。
アルトは一瞬いぶかしげな顔をしたが、すぐにため息をついて御神楽に近寄った。
「‥‥じゃあ呼んでみなさい。このあだ名で」
「‥‥え‥‥ほ、本当にそんな名で‥‥?」
御神楽は、アルトに耳打ちされて軽く驚く。
バツが悪いが、アルトに協力すると言ったからにはやらねばなるまい。
そう意を決して‥‥。
「お‥‥黄金の駄牛様ー?」
「‥‥様は要らないわよ」
「あう‥‥。す、水没地蔵かっこわらい〜」
ある意味御神楽にも拷問かもしれない(何)。
楠木はというと、怒りマークを浮かべてはいるがクールを装って反応しない。
「わ、私が悪人になっただけではありませんかっ!(真っ赤)」
「‥‥おかしいわね‥‥。あのヌケサクが耐えられるとは思えないんだけど‥‥」
(「ヌケサクって言うなーーー!」)
と心の中で絶叫する楠木であった。
そこへ。
「‥‥何やってんだい。アテが外れたなら次にいくよ」
なんと、さらに別の道からヘルヴォール・ルディア(ea0828)という女戦士が現れる。
彼女もアルトと仲がよく、いいから手伝え的に追手側に引き込まれたクチである。
何故ここにいるのかも分からないくらい事情を説明されていないが、アルトの頼みだったからとのこと。
「‥‥おやま、随分知った顔が多いね。それよりアルト、楠木を追うんだろ? 油を売っていていいのかい?」
「‥‥わかったわよ。じゃ、最後に質問。楠木麻が術を覚えてる魔法って三種類よね?」
「五種類ですよ!」
他の三人が『知らないよそんなの』という顔をしているところに、一人だけ即答する者がいた。
「‥‥そうね、五種類よ。でも間抜けは見つかったようね‥‥!」
案内されなければ京都の事が分からないはずのおじさん。
有名人とはいえ、それが何故楠木の使える魔法の数まで知っている?
楠木は一瞬しまったという顔をしてから、ニヤッと笑った。
「渋いねェ〜、おたくまったく渋いぜ」
その一言で、場の全員が戦闘体勢をとる。
特に、南雲は‥‥。
「最初から無理があったんだ。実力行使で打ち負かしたほうが早いに決まっている。それに正直、私はアルトと戦うために来たのだからな‥‥やり過ごされても興醒めだ‥‥!」
「‥‥そんな気はしてたけどね。いいわ‥‥紫なら遠慮することないでしょ。さぁ‥‥戦り合いましょう―――」
片や刀を構え、片や縄金票を取り出し、対峙する南雲とアルト。
その緊迫した空気は、ともあれば怪我ではすまないのをお互い覚悟している故のものであろう。
そして、南雲が地を蹴った瞬間‥‥!
ずどーん!
「ぶっ!?」
その側面からグラビティーキャノンが直撃し、南雲がごろごろごろーっと転がっていく。
撃ったのは‥‥楠木である。
「‥‥ちょっと、麻‥‥。なんのつもりかしら?」
土埃で全身を汚しながらも立ち上がった南雲が、こめかみをひくつかせながら聞いた。
「いやぁ、空気が重かったもので。もっとノリよくいきましょうよぉ。ボク、重たいのニ・ガ・テ♪」
「あ・な・た・ねぇ〜〜〜!(怒)」
「さ、流石麻お姉ちゃん‥‥あの空気を壊しに行くなんて、ボクたちにできないことを平然とやってのけるのですよ‥‥」
「痺れもあこがれもしませんけどね‥‥(滝汗)」
月詠とリアナは、南雲の怒りを買った楠木がどうなるのか不安で仕方がなかったという。
「‥‥冷めた。澄華、ヘルヴォール‥‥やぁっておしまい」
「あ、あらほらさっさー?」
「‥‥あらほらさっさー」
「えっ、ちょっ、何よこの空気!? 戦る気が削がれ‥‥きゃあぁぁ!?」
哀れ、南雲は戦闘モードに入ることもできず御神楽とヘルヴォールに畳まれてしまう。
というか、楠木は自分で自分の首を絞めていないだろうか?
「フフ‥‥シリアスな展開になるくらいなら、ボクは捕まる事を選びますねッ!」
「‥‥あっそ。いい度胸じゃない。月詠葵、リアナ・レジーネス。邪魔しないでもらえる?」
「だが断るッ! のです! ボクは折角だから助けることを選びますよー!」
「月詠さん、あまり真剣になると撃たれますよ(汗)」
健気にも楠木を庇うように立ちふさがる月詠。ツッコミを入れつつも、リアナも続く。
「‥‥正直な話、何で私はここにいるんだろうね? まぁ、何もしないで帰るのも馬鹿みたいだから、一応は手伝うけど」
「‥‥不毛な気がいたしますが、お手向かいすると言われるのであればお相手いたします」
しかし、そんな空気をまたしてもぶち壊すように‥‥。
「いいや限界だッ! 逃げるねッ! 今だッ! ト○ンスフォーム!」グギャギャギャ、グギャギャギャ←擬音
一人、魔法でイルカに変身した楠木は、アースダイブも併用して地中を行こうとする。
レミエラの効果で服も一緒に変態しているため、術が解除されても裸になることはないだろう。
が。
「‥‥澄華」
御神楽が高速詠唱でファイヤーバードを発動、楠木が完全に地面に沈んでしまう前に体当たりし弾き飛ばしてしまう!
完全に地面の上に出てしまった楠木は、イルカの姿のままビチビチと跳ねるしかない。
「さぁて‥‥まな板の上の鯉ってやつかしら? このまま捌いてみるのも面白いわね。食べる気はしないけど」
「流石にそれは!」
リアナがアルトに向かってライトニングサンダーボルトを放つ。
流石に場所が街の真っ只中なので、放射状にするのは止めておいたのだが‥‥。
「‥‥無駄無駄無駄無駄」
バチィン、と大音響が鳴り、LTBが弾かれる。
どうやら手に握った石を直前で放り投げ、盾にしたらしい。よほど正確な射撃の腕がなければできない芸当である。
「‥‥大丈夫よ、馬鹿らしくなったから殺しはしないわ。ただ、春文同人には春文同人で対抗するだけよ」
それはそれで嫌な予感がすると思う一行であったが、当の楠木がビチビチやっているのでは話にならない。
アルトは縄金票で楠木をぐるぐる巻きに縛ると、
「‥‥変態志士」
と、呟きながらずるずると引きずっていったのであった。
あぁ、そう言えば姿を変えることも変態と言うんだったかと思う一同であった―――
●その後
「‥‥で、何やったらこうなるんですか?(汗)」
ある日の冒険者ギルド。
楠木を連れてやってきたアルトを見て驚いた一海であったが、楠木の様子がおかしいことにすぐに気づく。
ごろにゃんとアルトにひっつき、甘える姿は小動物のようであった。
一海的には、楠木がいつアルトのことを御主人様とか言い出さないか激しく不安である。
「‥‥一海が書いた春文同人をリアルでやったらこうなったのよ。‥‥逆に鬱陶しいわね‥‥アルフが増えたみたい」
「げ。あれを実行したので!?」
「‥‥そうそう、もう一人客がいるのよ。ね、ヘルヴォール」
「げげっ!?」
アルトの言葉で暖簾を掻き分け入ってきたのは、紅蓮の闘士ことヘルヴォール。
彼女とアルトの絡みで書かれた春文同人が存在し、それを書いたのが一海という話を聞きつけ、もののついでということで仕置きに来たらしい。
「‥‥何さ、その『げげっ!?』は。何もやましい事がないならそんな言葉は出てこないはずだねぇ?」
「‥‥ど、どうやら言い逃れはできないようですね‥‥。お仕置きはヘルヴォールさんからですか?」
「‥‥NONONONONO」←ヘルヴォール
「あ、アルトさんから?」
「‥‥NONONONONO」←アルト
「ど、同時ですかー!?」
『‥‥YESYESYES』←二人同時
「も、もしかして無駄無駄ですかー!?」
『‥‥YESYESYES! OH MY GOD! 無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄
無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄
無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄
無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄
無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄
無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄、無駄ァッ!』←二人同時に拳のラッシュ
「ろ、六段ぶち抜き無駄無駄ラッシュ‥‥文章じゃ伝わりにくいし、文字数食うんです‥‥けど‥‥(がくっ)」
その様子を華麗にスルーする他のギルド職員たち。慣れたものである。
今日も今日とて、冒険者ギルドは平和であった――――(?)