主よ人の望みの醜さよ
|
■ショートシナリオ
担当:西川一純
対応レベル:6〜10lv
難易度:難しい
成功報酬:4 G 50 C
参加人数:5人
サポート参加人数:-人
冒険期間:02月14日〜02月19日
リプレイ公開日:2009年02月20日
|
●オープニング
その日、京都冒険者ギルドの職員、西山一海は、夕飯の食材を買いに店を回っていた。
時刻は夕方。紅く染まる京都の町は、大概の場合そうであるように穏やかな佇まいである。
買い物を終えた一海が、普段と同じように何の気なしに歩いていたその時。
「ぐぅぅぅぅっ!!」
「っ!?」
突如、若い男のものと思われる声が辺りに響いた。
付近を見回してみると、自分以外に人通りは無い。
普段からそんなに往来が激しいわけではないこの道だが、今日は特別閑散としていたのだと今更気づく。
しかし、そんなことより一海には気になる点があった。
先ほどの悲鳴‥‥どうも知人のもののような気がしたのだ。
嫌な予感を振り払い、声のしたほうへ足を向ける一海。
いくつめかの角を曲がると、そこには‥‥。
「藁木屋さん!? 大丈夫ですか!?」
友人である京都の何でも屋、藁木屋錬術が、鞘に入ったままの刀を支えにしながら膝をついていた。
外傷は見当たらず、パッと見では命に別状はなさそうだが‥‥?
「か、一海君か‥‥い、いいところへ‥‥。た、助かったぞ‥‥!」
見た目以上にダメージがあるらしく、一海へ向けた顔も苦痛で歪むだけ。
近づいてみて初めて分かる、微妙に香る焦げ臭い匂い。
「これは‥‥電撃系の魔法、ですか?」
「あ、あぁ‥‥不意のことだったので、どこから飛んできたものかは、分からないが‥‥とにかく、凄まじい威力だった‥‥。ぐ‥‥ぶ、無様だな‥‥」
「犯人は見ましたか? どっちに逃げました? いや、追いはしませんけど」
「け、賢明だ。後姿しか、見えなかったが‥‥犯人は、和装の男‥‥だと思う‥‥」
一海は藁木屋に肩を貸し、自分の家に藁木屋を連れて帰った。
話を聞けば、藁木屋は最近京都で頻発しているという『辻撃ち』の行方を追っていたと言う。
物陰に潜み、目に付いた人間にライトニングサンダーボルトを撃ち込むという辻撃ち。
老若男女問わない凶悪犯。そのターゲットにされたものの中には、命を落としたものも少なくないという。
魔法は回避が人外レベルの藁木屋にも避けられないし、彼を行動不能近くまで追い込む威力となれば何を況や。
新撰組や京都見廻り組も辻撃ちの行方を追ってはいるが、今日の出来事からも分かるように解決は見ていない。
「ここは、冒険者の方々に知恵と力をお借りしてはいかがでしょう? 京都は相変わらず厳しい情勢だっていうのに、そんな愉快犯を野放しにしておくわけにもいきませんよ」
「そうだな‥‥依頼を出してみるか。まったく、犯人は何を考えているのか‥‥」
卓越した魔法の腕を持っていながら、それを弱者に向け、愉悦を感じるために使う犯人。
これはもう、『世の中には色んな人がいる』では済まされない―――
●リプレイ本文
●てんねん
「こ、今回もまた危ないお仕事ですけど、頑張ってくださいね!」
「は、はい‥‥ありがとうございます‥‥です」
「しかし、こんな日に依頼開始なんて、タイミング悪いですよね〜」
「‥‥? 今日、何かありましたでしょう、か‥‥?」
「へっ? あぁいやその‥‥ごにょごにょ。そ、そういえば時間、まだあります?『ギリギリ』だったりしません?」
「そ、そうですね‥‥まだ少し、平気‥‥です」
「そ、そうですか。あはは、よかったぁ」
二月十四日、晴れ。
京都内での依頼となるため、冒険者ギルドに集合し出発しようと言うことになったらしい一行だったが、職員の西山一海が水葉さくら(ea5480)相手に話し込み、何気なーくそれとなーく引き止めているため、まだ出発できずにいた。
別に作戦に時間制限があるわけではないので問題はないのだが、遊んでいるわけには行かない。
しかし。
「何で候か、あれは」
「そっとしておいてあげましょう‥‥男の純情と言うやつですよ」
「っていうか、涙ぐましくすらあるわねぇ。アレで気づかないんだから水葉さんも罪作りね、ホント‥‥」
「天然もあそこまで行くと犯罪ですね‥‥。可哀想に‥‥」
迷惑を被っているのは他の参加者ばかりである。
百鬼白蓮(ec4859)はただ呆れるだけだったが、三笠明信(ea1628)やステラ・デュナミス(eb2099)はむしろ、それとなくアプローチをかけているつもりの一海に同情しているようだ。
リーマ・アベツ(ec4801)は思う。なまじバレンタインなど知らなければ、好きな相手からチョコが欲しいなどとは思わなかっただろうに‥‥と。
「えと、な、何か忘れているような、気が‥‥何だったでしょう?」
「えっ、何かあるんですか!?」
「でも、忘れるくらいですから‥‥きっと大したことじゃないです、よね」
「いや、思い出しましょう! 是非思い出しましょう! すぐ思い出しましょう!」
「あっ、もう時間(字数的な意味でも)が‥‥。み、みなさん、そろそろ行きましょう‥‥」
「へっ!? ちょっ、あ、水葉さぁぁぁんっ!?」
何故かステラがジェスチャーだけで『ごめんなさいね(汗)』と伝え、リーマも合掌して慰める。
残された一海は一人、つぅっと男泣きしたのであった―――
●囮の資格
さて、話を戻そう(最初からずれっ放しです)。
一行は三笠を囮として人気のない道を一人で歩かせ、辻撃ちが引っかかるのを待つ作戦を考案。
ドラゴンスケイルという鎧などで完全武装した三笠に、リーマがレジストライトニングを付与。
電撃系の魔法は金属製の武具でダメージが上がったりはしないだろうが、軽減も出来ず貫通してくる可能性もある。
まぁ、レジストと抵抗が両方できれば何とかなろう。
百鬼はとある家屋の庭先へ潜伏して状況を伺い、リーマは空飛ぶ絨毯でこっそり三笠を追跡中。
水葉は新撰組三番隊隊士であることを活かし、渡りをつけて協力を取り付けた。
現在は他の二人同様、物陰から三笠を護衛中である。
ちなみにステラは。
「‥‥えっと‥‥協力してもらえたのはいいんだけれど、新撰組の人たちって尾行に向いてないのねー‥‥」
別の地域にて、水葉が協力を取り付けた新撰組と『囮作戦の囮』を実行中。
敵を騙すにはまず味方からという思考の下、理由は新撰組諸氏には話していない。
まぁ、怒られたら水葉に仲介してもらい、手柄を新撰組のものにすればいいだろう。
京都見廻り組も動いているようだが、こちらは百鬼が新撰組の動きを流したため、ステラのいる地域とも本命の三笠たちのいる地域でもない場所を巡回中。
ある意味それが一番助かるのだが。
さて、ステラがぼやいた理由。それは、新撰組の面子がいつものだんだら模様の羽織姿のまま、お世辞にも上手いと言えない動作でステラを監視しているからである。
新撰組であるということに誇りを持っている彼らに変装と言う選択肢は限りなく無いに等しい。
また、集団で斬り込むことを得意とする彼らに、分散してこそこそ動けと言うのも酷な話だ。
囮作戦の囮が目的なので、辻撃ちがこの辺りに近づかないことでも充分といえば充分だが‥‥。
「みんな‥‥きちんと捕まえてね?」
ため息の後に、ステラが呟いていたころ。
「‥‥仕掛けてきませんね。リーマさん、ブレスセンサーに反応は?」
「うーん‥‥それがですね、仲間の反応以外にもぽつぽつ反応はあるんです。でも、不審な動きをせず通り過ぎて行ってしまうばかりで、辻撃ちらしき反応は‥‥」
三笠とリーマは、テレパシーリングというアイテムで連絡を取っている。
有効距離の問題で15m以上離れられないのは問題だが、こういう作戦には便利なものだ。
実際問題として、そこそこ歩いたが三笠も特別視線のようなものは感じていない。
何人かとすれ違いもしたが、ただそれだけ。怪しい動きは見受けられなかった。
ここで、三笠に嫌な予感が浮かぶ。
もし辻撃ちが、逆にこちらの動きを探るような魔法を使ったとしたらどうだろう。
付かず離れずいるリーマや水葉の動きはさぞ不自然に映るはず。
‥‥不自然? そういえば、そもそもの問題として‥‥。
と、その時である。
「はぐっ‥‥!?」
「っ!? リーマさん!? リーマさん!?」
テレパシーでリーマの悲鳴が響き、プツンと音信不通となる。
嫌な予感が当たってしまった!
そもそもの問題として、街中で鎧や兜などで完全武装して歩いている人間に誰が襲い掛かると言うのか。
おそらく冒険者であろうそんな連中にちょっかいをかけて返り討ちに遭いましたでは笑い話にもならないし、愉快犯ならなるべく無防備な人間を狙うだろう。撃ってもケロッとしていましたでは全然楽しくないからである。
完全武装の三笠が囮として歩いていても、辻撃ちからしてみれば囮としての資格がないのだ。
その結果狙われたのは、日本での知名度が低く軽装だったリーマというわけだ。
幸い、三笠とリーマの距離は近い。
正確な場所は分からなくとも、少し走れば見つけられる。
「リーマさん!」
「ヒャハハ、来たかマヌケぇ! だーれがテメェなんざ狙うかよボケがぁぁぁっ!」
そこで三笠が見たのは、ダメージで殆ど動けない状態になってしまったリーマと、和装で黒髪の‥‥外国人。少なくとも顔立ちからして日本人ではない。
辻撃ちは楽しくて仕方が無いという表情で二人を嘲笑う。
リーマは、自分へのレジストライトニングを後回しにしてしまったのが仇になったか。
「ククク‥‥いいねいいねぇ、その悔しそうな顔! 何が起こったのか分からないって顔もいいが、そういうのもオツなもんだぜぇ! ケッサクだ!」
「貴様! 精霊が与えた力をこのように悪用するとは‥‥恥を知りなさい!」
「あー? でけぇ声だな‥‥知らねぇんだよそんなもん。力ってのはよ、他人を屈服させるためにあるんだろーが!」
「この国の状況を考えないのですか!? その力があれば、人々を助けることもできるでしょうに!」
「ぷっ‥‥くはははははっ! 冗談言えよ! 助けるぅ? そんなことして何が楽しいんだよ。あぁ? おまえもやってみりゃわかるぜぇ? なんの関係も無いやつの命をこの手に握る支配感! その命を刈り取ったときの高揚感! 老いぼれがわけもわからずポックリ逝くのもいいが、やっぱ一番は女子供だな。嘘だ、嫌だ、そんなって言いながら地べたを這いずり回る姿なんてサイコーだぜ? あー、そういやこの間のガキはいいリアクションだったなぁ。おっ父、おっ母ってよぉ、泣きながら掠れた声で言うわけよ。だらしねぇったらありゃしねぇよなぁ!? ヒャハハハハハ!」
「‥‥その口を、閉じて‥‥ください‥‥!」
「うおっ!?」
三笠とは反対方向から水葉が姿を現し、ライトニングサンダーボルトを辻撃ちに撃ち込む!
「あなたは‥‥! あなたみたいな、人は‥‥!」
「ケッ、可愛気のねぇガキが出てきやがった。だが状況がわかってねぇな。俺がそこの女にもう一発ブチ込んでやりゃあどうなるかくらいわかんだろ? それとも何か? その女見殺しにて俺を捕まえっか? そりゃあ随分な正義の味方様だな! 偽善にも程があらぁ! ッハハハハハ!」
地形上、黙って近づいて斬ろうにも先に気づかれてしまうと判断した故の魔法攻撃。
だが、抵抗力が高いのかさしたるダメージにならなかったのは痛い。
人質同然のリーマは‥‥。
「わ‥‥私に、構わず‥‥!」
「そういうわけにはいきません! しかし‥‥!」
手が出ない三笠。彼は事前にこの事件の犯人が人間であって欲しいと‥‥悪魔や黄泉人でないことを願っていたが、今となってはそれも虚しい。
この辻撃ちの腐りきった思考が、悪魔や黄泉人より醜悪なものに思えたからだ。
この場の誰もが、こんな最低なやつに出会ったことはなかっただろう。
こんなものが人間の一面だと思いたくはないが‥‥!
「ま、どうも目をつけられすぎたみたいなんでな。そろそろまた別の街にでも移動すっかね。江戸なんか賑やかそうだ。獲物もたんまりいるだろーぜぇ!」
「まだ‥‥やるつもりなん、ですか!? どうして‥‥関係のない、人を‥‥!」
「カンケーねぇーからに決まってんだろ? 関係ねぇやつが死のうが生きようがそれこそ知ったことかよ。あー、それから言っとくがな、俺にゃお涙頂戴じみた過去なんてねぇぜ? 復讐だとかそーゆー高尚なのとは無縁なんでね。殺すのが楽しい。握りつぶすのが楽しい。快楽に生きるのが動物のあるべき姿だろーがよぉ!」
下衆な笑いと主張を繰り返す辻撃ち。しかし、少しずつ逃げるために後退している。
こんなやつを野放しにするわけにはいかないのに!
この場にステラがいてくれれば、魔法でなんとかしてくれたかもしれないが‥‥!
「じゃーな。あばよ、二度と会うこたぁねぇーだろーぜ!」
「ないで候な。貴様はここで死ぬのだから」
「なっ―――」
ずぐん、と鈍い音がして、辻撃ちの左胸から刀が生える。
「て、テメェ‥‥は‥‥ごあっ!?」
「喋るな。世界が汚れる」
そう‥‥一行には最後の希望があった。
とある家屋の敷地内に潜んでいて出歩かなかった百鬼は、辻撃ちの注意の外。
彼女は三笠の大声での問答で状況を把握し、隠密行動をしながら屋根の上を移動、位置取りを行っていた。
その途中、辻撃ちの言い草に何度飛び出してやろうかと思いながらも、それに堪えて。
「貴様には白州の時間を与えるのも勿体無く候。刹那でも早く地獄へ落ちろ」
その言葉は辻撃ちには届かない。彼はすでに事切れていた。
百鬼は闇に生き、闇に死ぬ忍びである。
しかし、辻撃ちの場合は単なる殺人狂。掟も秩序もある忍びと同列に扱うのもおこがましい存在だった。
と、そこにステラと新撰組が姿を現す。
「‥‥! 殺したの!?」
「生きている価値の無い下衆に候。ステラ殿のおかげで世の中のゴミを無事排除できた」
「‥‥でも‥‥いくら酷いやつだって言っても‥‥」
ステラがちらりと新撰組隊士たちの表情を見やるが、やはり反応はよろしくない。
矛先が百鬼に行く前に、水葉と三笠が動く。
「申し訳ありません。こちらに現れたので、撃退しようと思ったのですが‥‥見てのとおり、仲間のリーマさんがかなりの深手を負わされまして。百鬼さんの行動は仕方なかったんです」
「ほ、本当です‥‥。後できちんと説明します、けど‥‥逃がすよりは、適切だったと、思い‥‥ます」
信念の為に人を殺すのは、金銭のために人を殺すより下等なことであると誰かが言っていた。
金銭は万人に共通の価値を持つが、信念の価値は当人にしか通用しないからだ、と。
ならば信念すらなく、自らの快楽のために他者を殺すような者は、生きる権利すら与えるに値しない程下等なのだろう。
獣ですら、生きるために殺しこそすれ楽しむために殺しはしないのだから。
何はともあれ、京都を騒がせた辻撃ちは永遠に排除された。
多くの犠牲者と、冒険者たちの心に言い表しようの無い苦い想いを残して―――