【壬生の狼たち】京都北部群狼記
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■ショートシナリオ
担当:西川一純
対応レベル:11〜lv
難易度:普通
成功報酬:5 G 55 C
参加人数:7人
サポート参加人数:2人
冒険期間:03月04日〜03月09日
リプレイ公開日:2009年03月13日
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●オープニング
世に星の数ほど人がいて、それぞれに人生がある。
冒険者ギルドでは、今日も今日とて人々が交錯する―――
「こんばんはなのです〜♪」
「おや、こんばんはです。‥‥諸君、私は埴輪が(以下略)」
「やめてー!? そのネタはもう引っ張らないで欲しいのですよ〜!?」
ある日の冒険者ギルド。
挨拶をした直後にギルド職員である西山一海に弄られ、頭を抱えたのは、月詠葵(ea0020)という少年冒険者。
そろそろ少年から男へと変わりつつあるその顔立ちは、徐々に可愛いから凛々しいに変化しつつある。
「はうぅ‥‥一海おにいちゃん、いじわるさんなの‥‥」
「ふっ、何を今更。ところで、今日は何を握りましょ?」
「そうですねー、まずはかっぱ巻きを‥‥っていつからここはお寿司屋さんになったんですかぁぁぁっ!」
「いやぁ、ノリがよくて助かります(笑)。一丁、月詠くんにもギャグー空間や冗談界、駄洒落時空が通用するか試してみましょうか」
「妙な空間を作る特殊能力でしたっけ!? 体験してみたい気もしますですが、話が進まないので‥‥」
「へーい。じゃあお伺いしましょうか」
‥‥訂正。やっぱりまだまだお子様のようである。(ぇー)
最近、またしてもお堅い依頼ばかり扱っていたので、一海は付き合いの長い月詠でストレス解消をしていたようだ。
真面目に仕事の話をし始めると、流石の一海もきちんとそれに従事する。
どうやら新撰組関連の話のようだが‥‥?
「ふむふむ。京都北方地域の巡回強化とありますが、これって新撰組の隊の枠を越えててもいいんですよね?」
「勿論なのです。多勢力が混在する丹波地方に近い京都北方で新撰組の巡回を強化して、治安の回復を図ろうと思ったの。それと、イザナミ軍とかに与する者や黄泉人、不死者も倒せればいいかなー、って」
「うーん‥‥立派ですし必要なことだとは思うんですけど、依頼の期間中に必ずしも敵と遭遇できるとは限りませんよ? 京都軍も北方にはそれなりの警戒網は敷いてるわけですし。まぁ、幾分かの漏れはあるかも知れませんが」
「わかってますです。でもでも、イザナミを初めとする京都周辺に於ける脅威に対抗するには、小さなことからでも手を打たないと。官位剥奪が噂されてる源徳侯の配下である、僕たち新撰組の有用性も世に知らしめたいですし‥‥(汗)。上層部や各隊の組長には許可は取ってあるので、是非!」
月詠もまた、新撰組であることに誇りを持ち、新撰組が必要だと信じている者だ。
だからこそ、歴史の中に消えていってしまいそうな現状の新撰組をなんとかしたいと必死なのだろう。
その想いは貴重であり、真摯である。だからこそ、一海も断る理由を見出せない。
「わかりました。例によって、新撰組所属で無い方は遠慮していただく方向性で?」
「うーん‥‥できれば新撰組の人が望ましいんですけど、昨今の事情を考えるとそれ以外の方もおーけーです。もしかしたら、新撰組の仕事の意義を分かってくれて、お仲間になれるかもしれませんし」
「了解です。ではここで月詠くんに情報提供。月詠くんたりが向かおうとしている地域では、最近『忍者の不死者』が出没するそうです。忍び装束の骸骨だという話ですが、もしかしたらイザナミ軍の諜報員かも知れませんね―――」
時は移ろい、政治の影で壬生の狼たちに危機が忍び寄る。
しかし、それすらも噛み砕こうとするのが新撰組の意思。狼の牙―――
●リプレイ本文
●巡回強化
「おぉ、見ろ。新撰組だ」
「本当だ、新撰組の連中だぜ」
「京都の端っこまで巡回してるんだなぁ」
京都北部、丹波との国境に程近い町。
ここは西国‥‥主に丹波を経由して京都に入る旅人の玄関口とも言える宿場町である。
丹波がイザナミ軍に占拠され、交通量は激減したものの、南東部の城が奪還されたために若干往来は戻った。
しかし、まだまだ丹波の情勢は厳しく、関所や京都軍が睨みを効かせているものの、不死者がすり抜けてしまうことを完全には防止できないのが現状。
そこに目をつけたのが‥‥。
「流石に街にまで不死者が現れたりはしないみたいですね」
「そりゃ、現れた日にゃあ流石に大事になるしな。京都軍が飛んでくるさ」
月詠葵(ea0020)。幼いころから数多の修羅場を潜り抜けた新撰組の猛者である。
彼の発案で新撰組による巡回強化が企画され、こうして実行されているわけだ。
しかもただ巡回と言うわけではなく、大々的に巡回していますよと宣伝する表期間と、隠密に巡回を行う裏期間とに分け、さらに表期間は昼夜の二班に分かれ、裏期間は全員で夜に当たるという徹底振りである。
普段、新撰組の隊服をあまり着ないという所所楽柊(eb2919)なども浅葱色にだんだら模様の羽織を着用し、『新撰組ここにあり』という姿勢をアピールしている。
しかしそれは、逆に言えば『そこまでしなければ新撰組が危ない』ということでもある。
新撰組と言えば京都に知らぬものはいないと言われた、泣く子も黙る警察組織だ。
それが、主君である源徳家康の失墜、朝敵認定によって立場が危ぶまれている。
「しっかし参ったねぃ。隊士の中に動揺が広がってるのは十番隊だけじゃなかったんだねぃ」
「まったくだ。俺が屯所で『え〜、今回北部の見廻り強化と言う事で君達全員参加ね』っつった時も、『えぇぇぇ〜!?』とでも返してくれりゃあ話も続けやすかったのにさ‥‥」
「にゃはは。『しかし、北方に全員向かっては京都内部が疎かになります』やったっけ? 真面目やねぇ、一番隊は」
哉生孤丈(eb1067)や鷲尾天斗(ea2445)は、自分の隊の隊士もこの巡回に借り出そうとしたが、思いのほか他の隊士たちのウケがよくなかったのである。
いや、この場合ウケがどうこうと言うと語弊があるか。
隊士たちもそれぞれ新撰組の今後について考えピリピリしているというのが正しいか。
それでも何人かは一緒に来てくれたが。
「あーゆーのは融通が利かないってんだ(笑)。それに比べて谷さんとこは反対意見出なくてすごいわな」
「俺んとこは程よくテキトーやからね。元々後方支援や雑務はお手のもんやし」
谷三十郎が指揮する七番隊は、派手な活躍こそ無いが堅実さには定評がある。
こういう足場固めのような仕事に慣れているため、異議を唱える隊士もいなかったのだろう。
一行は町だけでなく、周辺の森や街道なども当然巡回する。
流石に噂の骸骨忍者は見つけられなかったが、怪骨が旅人を襲っているところに遭遇、撃破と言う光景もみられた―――
●夜の部
「お疲れさん。飯でも食ってゆっくり休み。いつ出てくるか分からんのやから休めるうちに休む事やな」
将門司(eb3393)が作っておいた精の出る料理を振舞われながら、昼組みは休息を取る。
そして夜間を担当する班が巡回に出るわけだが、その数は昼に比べて圧倒的に少ない。
示威行動も含めている昼に比べ、夜にそこまで人数を割く云われは無い。
というか、そこまでの人的余裕も無いのだが。
昼担当から聞いた様子を元に、夜班は町の外に重きを置くことにしたようだ。
「なんや、谷はんも来たがってたみたいやけどえぇんかったんかい?」
「な、何故私に聞くのですかっ。谷様は昼に巡回に参加していらしたのですから、お休みにならないと‥‥」
「正論だが、可哀想だな。谷組長の男心を知らないわけでもないのだろうに」
将門、御神楽澄華(ea6526)、静守宗風(eb2585)のわずか三人だけが、月明かりの下を巡回する。
木々の多いところに骸骨忍者の目撃談が多いとのことだが、今のところ怪しい動きは無い。
静守の夜目にもひっかからないし、将門の連れてきた犬たちの鼻にも異常は感知されていない。
そんな中、唯一新撰組所属でない参加者の御神楽に話が行くのは当然の流れである。
しかし、そんなストロベリーな会話を長く続けていられるほど、壬生の狼たちは器用ではない。
それ以上に、この近辺の夜が想像以上に危険だと言う証明がなされてしまった!
「怨霊!? 数は一体のみ‥‥すり抜けてきたイザナミ軍と考えるのが妥当でしょうか!」
「本命と当たる前の肩慣らしっちゅうことにしとこうか!」
「油断するつもりは無い。迷わず涅槃へ送り返してやる」
この三人にかかれば、怨霊の一体や二体では障害にもならない。
あっさり撃破し、巡回を続けていると、どうも違和感を感じる。
昼間どこに隠れているのか知らないが、町を離れれば、少なくない不死者と遭遇する。いずれも黄泉軍と云うより、不死者の領域が広がった事による野良不死者といった感じだ。
もはや京都近郊と言えど人間の領域では無いと言わんばかりに。
そして感じる、何者かの視線。
それはやはり件の骸骨忍者なのであろうか?
さて、夜にも新撰組の者たちが巡回を行い、不死者を倒しているという噂はわりとあっさり広がった。
無理に広めた覚えは無いが、そこは人が行きかう宿場町である。
あれから毎日巡回や情報収集は続けたが、結局表期間中に骸骨忍者と遭遇することは無かった。
ただ、夜になると例の視線が夜班に向けられ続けていたという。
不死者と遭遇しない夜もあったが、そんな日ですら視線が途絶えることは無く、惑いのしゃれこうべなどを借りて使用してみたものの、何とそれすらも反応が無い。
そんなに遠くからこちらを監視しているのか疑わしくはあったが、それを確認できずに裏期間へと移行する。
谷をはじめ、依頼参加者以外の隊士たちは京都に帰還することになった。
その際、月詠たちと同じ格好に変装してもらって帰ってもらうという作戦も取ったが‥‥?
そして、夜間にのみ行動を絞った、フルメンバーでの裏巡回が始まる―――
●不忍(ふしのび)
「こりゃまた随分挑戦的だねぃ。ばっちり見られてるって感じだねぃ‥‥」
「これ、しゃれこうべに反応しなかったんですよね? 遠くから見てるのにそれを悟らせてるのは何か意味があるんでしょうか‥‥。ボクたちを誘ってる、とか」
「誘っているにしては、遠すぎて方向すらわからないって。誘き寄せるつもりなら姿くらい見せるだろうし」
「何にせよ嫌な感じだな。初めから俺たちを狙ってたっていう線もありえそうだぞ、こりゃ」
昼を担当していたメンバーも夜に参加して、しばらく歩いた後の事である。
夜班が駆逐しきってしまったのか、不死者との遭遇戦は一切無く、いつの間にか不気味な視線だけが一行を捉える。
あからさまとも言えるその視線に、昼班も呆れるばかり。
しかし、あっさり悟らせる割に位置はおろか方角さえ察知させないのだから、上手いのやら下手なのやら。
このままでは、裏期間の間もずっと見られたままで終了となりかねない。
一応、民衆への新撰組のアピールと言う目的は達成したのだから無理をする必要はないのだが‥‥。
「必要は無いが、ここで退く道理も無い」
「新撰組にここまでガンつけるいうんは、喧嘩売っとる証拠やろ?」
「忍者の不死者という特異な敵、丹波に近い北部という場所。いまだ正体を明かさぬ八雷神が残り六柱の一柱やも知れません。根拠のない直感といえば直感ですが、じっとはしていられないのです‥‥!」
御神楽の懸念は、少々行き過ぎかも知れない。
しかし、出来ることをやっておきたいという想いは新撰組の面々と同じものだ。
一行は頷きあい、『近辺で最も襲いやすい場所』へと足を向けた。
木の密度の濃い森。
日中は木漏れ日などで視界はあるが、夜ともなると根に足を取られかねない悪路となる。
今の時期だと葉が枯れきり、月明かりの恩恵を受けられるが‥‥それでも注意が必要なほどだ。
この森は丹波からの不死者のすり抜けが最も多いと見られる場所。忍者ならなお行き来は簡単であろう。
さぁ、どう出る。襲うなら絶好の場所のはず‥‥!
その時!
「っ! 危ないのですっ!」
「お? おぉぉぉっ!?」
不意に木の上から飛び出した影が、鷲尾に向かって忍者刀を突き下ろす!
それにいち早く気づいた月詠が、刀をぶつけて弾き飛ばした!
ざざざざ、とかなりの距離を滑り、そいつはこちらを見据えた。
「こいつが例の骸骨忍者か! 随分な身のこなしじゃないか‥‥!」
瞳の部分に紅い光を点した骸骨忍者は、所所楽たちが構える前に疾駆し、一行の周りを囲むように飛び跳ねる。
恐らくこいつが視線の主。一行が帰ったと思わせる作戦には引っかからなかったようである。
疲れを知らない不死の忍者。筋肉疲労からも肉の重さからも開放された骨だけの忍者は、普通の忍者からは想像出来ない圧倒的スピードで動き回る。
木々を利用した空間軌道まで加わるのだから、目で追うのも一苦労だ。
「ちょろちょろと‥‥! 飛び跳ねるだけとは芸の無い!」
「いや、でも実際にやられると厄介だねぃ。重たい一撃を狙うのは無理そうだねぃ‥‥!」
静守の言うように、骸骨忍者が飛び跳ねるだけなわけは勿論無い。
隙を見て忍者刀がすれ違いざまの一撃をくれてくる。
掠めるような攻撃方法は、ヒットアンドアウェイの見本のようなものだった。
「くっ! この力量‥‥やはりあなたは八雷神の一柱なのですか!?」
骸骨忍者は答えない。
ただ無機質に、機械的に‥‥それでいてパターンを微妙に変えた老練な攻撃を繰り返す。
「生前はさぞ名のある忍者やったんやろうな。ペラペラ喋らんところ一つをとっても‥‥!」
イザナミの時代に忍者という職業があったのかは不明。
今はっきりしているのは、不死者の忍者の有用性。
いかに格闘技術が高くても刃が届かねば無意味、スピードでかく乱すれば大人数相手に優位に立てると証明されたのだ。
だが、こちらもやられっぱなしというわけには行かない。
新撰組としても‥‥一冒険者としても!
幸い、このメンバーの中で、骸骨忍者に匹敵するスピードを得られる人物が一人だけいる!
「火鳥の術‥‥刀で狙うのは無理だとしても!」
当てることだけを念頭に置き、骨だけの身の軽さ+疾走の術に対抗すべく、ファイヤーバードを発動する御神楽。
しかし、それでも軌道を読み違えると空を切る。
必死に自分の軌道を変え、三撃目でなんとか横脇を捉えた!
無理な軌道変更を続けた御神楽は、かなりのスピードで木に激突する。
軽い分大きく吹き飛ぶ骸骨忍者。当然、その隙を逃す面々ではない!
「八雷神だろうがそうでなかろうが! さぁ、キバッて行こうか!」
「悪・即・斬‥‥死して尚、人に仇なす人外のもの‥‥壬生の狼の牙が再び冥途へ送り返してやろう‥‥!」
近かった鷲尾と静守が一気に突っ込み、骸骨忍者に得物を振り下ろす‥‥が!
「駄目だ、宗風サン!」
「あかん、敵は一人や無い!」
所所楽と将門がフォローに入る暇も無く、新たに上から現れた二つの影が鷲尾たちを襲う。
見れば、先ほどの骸骨忍者と殆ど同じ格好の骸骨忍者が二体。
合計三体の骸骨忍者が、一行の前に全く同じポーズで構えている!
「視線の方向なんかが分からなかった理由はこれなのですか‥‥!? が、骸骨忍者部隊だなんて!?」
「これはもう、新撰組が想定する敵の範疇を越えまくりだねぃ‥‥!」
今度は三体での超スピード軌道が始まるのかと身構えた哉生であったが、予想に反し、骸骨忍者たちはあっさりと闇の中へと引き上げていった。
喋れないのか、あえて喋らないのかは分からないが、とにかく目的すら不明のまま。
場所が相手有利だったとはいえ、イザナミ軍にはあれだけの忍者部隊も存在することが判明したわけだ。
京都での暗躍を防ぐためにも、新撰組のように腕の立つ警察機構は必要不可欠だろう。特に、京都の現状を思えば何をいわんやである。
壬生の狼たちの牙は、今日も何かを護る為に研ぎ澄まされている―――