【運命の一戦】一心不乱の大戦争を

■イベントシナリオ


担当:西川一純

対応レベル:11〜lv

難易度:難しい

成功報酬:2 G 17 C

参加人数:96人

サポート参加人数:-人

冒険期間:03月25日〜03月25日

リプレイ公開日:2009年04月05日

●オープニング

 出雲を始めとする中国地方は現在、イザナミ軍がほぼ掌握している。
 長州藩の山口も陥落寸前とも聞くし、四国にまで黄泉水軍の魔の手が迫っている。
 もはやジャパン全体の危機と云って良いイザナミ軍の動向を探らんと、日夜腕利きの草の者が黄泉の領域に決死の潜入を試みていた。

 ――その日。
 草の者たちが掴んだ情報は、命をかけて京都に知らせねばならないほどの重大事項であった。
 イザナミ軍も馬鹿ではない。彼らは魔物ながら、領国支配には熱心である。その諜報網が捉えた獲物を、みすみす逃しはしない。
「人様の領土に土足で踏み込んだんだ‥‥ただで済むわけねぇよなぁ?」
 目の前に現れた、槍を手にした骸骨武者(歩兵)。
 まず会話できることに驚いた調査隊であったが、その戦闘力の前に、殿として残った者はあっさり命を奪われる。
「ば、化物め‥‥ぐあぁぁっ!?」
 死体を数える黄泉兵は、一人少ないことに気づく。
「逃がしたか。ふふ‥‥構うまい。待っていてくださいイザナミ様、今すぐお傍に参ります! イザナミ様の接吻はいただきだー!」
 こうして、悪夢の始まりは尊い犠牲の下に伝えられる―――

「追跡隊の準備は出来ておりますが」
「無用。‥‥どちらにせよ、我らも都へ向かうのだ」
 黄泉将軍の呟きをかき消す大軍の響き。
 西国を蹂躙した未曾有の黄泉軍が、山城目指して一直線に動き始めていた。

「申し上げます! イザナミ軍が無数の不死者を連れて東へ、丹波方面より大軍にて京都へ向けて侵攻を開始しました!」
 黄泉討伐のため、神皇軍の集結を急いでいた京都御所に急報がもたらされた。
「何‥‥ついに来たか。して数は?」
「その数、約五万!」
 ざわ‥‥と一気に騒然となる京都首脳陣。
「ご、五千の間違いであろう?」
 公卿の一人が震える声を出すのを、陰陽頭安倍晴明が冷たくかぶりを振る。晴明の元にも、陰陽師から報告が届いていた。
「都始まって以来の危機じゃな」
 イザナミ軍総数10万とも言われる。どこまで確かな数字かは不明だが、今回の侵攻は向こうも本気なのだろう。
「とうとう来よったか。むしろ遅すぎたくらいかのう」
 最高権力者である関白藤豊秀吉は、玩んでいた扇をパチンと畳む。
「‥‥おのおのがた、覚悟の時じゃ」
 これまでもイザナミ軍は数百から数千の兵で山城に侵入を試みていた。秀吉は乾坤一擲の遠征を計画していたが、デビルの襲来や関東の戦で準備が遅れ、諸侯の足並みが揃わぬうちに敵に先手を打たれた。
 いずれにせよ、京都が陥落すれば黄泉の被害は拡大し、五畿内をイザナミに奪われる危険は高い。しかも噂では、鉄の御所の酒呑童子も既にイザナミに組しているという。
「神皇軍の状況は?」
「ちょうど大阪の兵を集めている最中なれば、イザナミが来る前に七千は準備できまする。しかしながら播磨、丹後は自国を支えるに精一杯、平織があの通りゆえ、後は大和の松永久秀殿が頼り。それに薫風隊と、天台や真言の僧兵、見廻組、新撰組‥‥集めても、およそ一万数千」
 本来、最も頼りとなるのはジャパン中部で最大勢力を持つ平織家。だが、現尾張藩主市と虎長の間で対立が勃発し、今はとても他国に兵を出す状況にない。
 大和松永が約二千、薫風隊が七百、延暦寺などの僧兵一千、見廻組や新撰組が合わせて数百ほどか。
 戦力比は四倍から五倍か。
「籠城したいが、京都は守るに難しい。黄泉は民を喰らうからのう」
 守りの堅い大阪城に後退する案も出たが、それでは京都の民が不死者の餌食となる。安祥神皇が断固反対し、御所会議は決戦ときまった。

 黄泉軍の大半は死人憑き。経験を積んだ武士や冒険者の敵では無いが、数は戦場での大きなアドバンテージ。その上、イザナミ軍には黄泉将軍や八雷神があり、また強力な不死者も多数従えている。噂では忍者や術師までいるらしい。しかも全員が眠りも疲れも知らないと来ているから、たちが悪い。

「神話はこの時を予言していたのかもしれん。イザナミが、黄泉の軍を率いてイザナギの子らに復讐する時をな。みすみす殺されてはやれんがの」
 京都に住まう全冒険者に協力要請の達しが出た。
 都全域を巻き込んで展開される、大いなる一戦。
 その結果次第では、日ノ本は滅ぶ―――

●今回の参加者

月詠 葵(ea0020)/ エレオノール・ブラキリア(ea0221)/ ルーラス・エルミナス(ea0282)/ 天城 月夜(ea0321)/ 天城 烈閃(ea0629)/ 壬生 天矢(ea0841)/ アンジェリーヌ・ピアーズ(ea1545)/ ゼルス・ウィンディ(ea1661)/ 鷲尾 天斗(ea2445)/ クロウ・ブラックフェザー(ea2562)/ イリア・アドミナル(ea2564)/ カイ・ローン(ea3054)/ ウィンディオ・プレイン(ea3153)/ オラース・カノーヴァ(ea3486)/ カイザード・フォーリア(ea3693)/ 円 巴(ea3738)/ 七瀬 水穂(ea3744)/ アラン・ハリファックス(ea4295)/ 尾花 満(ea5322)/ 草薙 北斗(ea5414)/ 音羽 朧(ea5858)/ アンドリュー・カールセン(ea5936)/ ミリート・アーティア(ea6226)/ 雪切 刀也(ea6228)/ 神田 雄司(ea6476)/ 御神楽 澄華(ea6526)/ ファング・ダイモス(ea7482)/ ジーン・インパルス(ea7578)/ ルメリア・アドミナル(ea8594)/ 霧島 小夜(ea8703)/ トマス・ウェスト(ea8714)/ パウル・ウォグリウス(ea8802)/ 朱 蘭華(ea8806)/ デュランダル・アウローラ(ea8820)/ 白翼寺 涼哉(ea9502)/ 雨宮 零(ea9527)/ カノン・リュフトヒェン(ea9689)/ ラーバルト・バトルハンマー(eb0206)/ 太 丹(eb0334)/ 陸堂 明士郎(eb0712)/ シオン・アークライト(eb0882)/ 風雲寺 雷音丸(eb0921)/ 哉生 孤丈(eb1067)/ リアナ・レジーネス(eb1421)/ ベアータ・レジーネス(eb1422)/ 拍手 阿義流(eb1795)/ 拍手 阿邪流(eb1798)/ ミラ・ダイモス(eb2064)/ ステラ・デュナミス(eb2099)/ 八城 兵衛(eb2196)/ 小 丹(eb2235)/ 明王院 浄炎(eb2373)/ 明王院 未楡(eb2404)/ 十野間 空(eb2456)/ 南雲 紫(eb2483)/ 静守 宗風(eb2585)/ アルディナル・カーレス(eb2658)/ 玄間 北斗(eb2905)/ ケント・ローレル(eb3501)/ シルフィリア・ユピオーク(eb3525)/ 将門 夕凪(eb3581)/ 明王院 月与(eb3600)/ チサト・ミョウオウイン(eb3601)/ アルスダルト・リーゼンベルツ(eb3751)/ アンリ・フィルス(eb4667)/ カーラ・オレアリス(eb4802)/ イリアス・ラミュウズ(eb4890)/ 中 丹(eb5231)/ 張 真(eb5246)/ 磯城弥 魁厳(eb5249)/ 日高 瑞雲(eb5295)/ エレイン・ラ・ファイエット(eb5299)/ メグレズ・ファウンテン(eb5451)/ 宿奈 芳純(eb5475)/ 乱 雪華(eb5818)/ キュアン・ウィンデル(eb7017)/ クァイ・エーフォメンス(eb7692)/ エル・カルデア(eb8542)/ セイル・ファースト(eb8642)/ 尾上 彬(eb8664)/ コルリス・フェネストラ(eb9459)/ 伊勢 誠一(eb9659)/ ロッド・エルメロイ(eb9943)/ 鳳 蓮華(ec0154)/ アン・シュヴァリエ(ec0205)/ 虚 空牙(ec0261)/ 烏 哭蓮(ec0312)/ 国乃木 めい(ec0669)/ リンカ・ティニーブルー(ec1850)/ サリ(ec2813)/ マロース・フィリオネル(ec3138)/ オグマ・リゴネメティス(ec3793)/ 琉 瑞香(ec3981)/ ガラフ・グゥー(ec4061)/ 藤枝 育(ec4328)/ リーマ・アベツ(ec4801

●リプレイ本文

●運命の日
 孫子曰く、昔の善く戦う者は、先ず勝つべからざるを為して、以って敵の勝つべきを待つ‥‥。
 様々な作戦を考案、実行し戦いに備える京都軍。中でも冒険者が訴えたのが、野戦陣地の構築。
「‥‥堀? 今から掘るのか」
「そうです」
 想定戦場に堀と柵をめぐらし、即席の砦を作る。
 現在、イザナミ軍は丹波亀岡盆地を京都へ進軍中。大江関での迎撃は間に合わず、決戦は京都西部、樫原あたりと見られている。
「工作隊を守る兵を、俺に貸して頂きたい」
 陸堂明士郎は春香姫に直談判し、薫風隊の一部を工作隊の護衛に付けた。
 藤豊家臣アラン・ハリファックスを初めとする幾人が関白に意見を具申、冒険者からの提案を秀吉は即決し、多くを採用した。
「手が足りるまい。わしの本隊から、準備が整っておる者らを回す」
 関白の承諾を得て石田三成らの協力で大規模な工作隊を編成し、急ピッチで作業は進められた。
 既に目と鼻の先まで不死の軍勢は迫っている。京都内が戦場となるは必至であり、戦の準備とは別に、民の避難も考える必要があった。
「喜べ。仮設村は平織に話が通ったぞ」
「これが近江の浅井様の許可状です」
 白翼寺涼哉と張真は、以前に坂本の南に作られた仮設村の再使用を平織領近江の浅井長政に願い出ていた。この件だけは平織市も虎長も異論は無い様子で、驚くほど早く許可が下りる。
「ふふ、おかしな話ですね。兵は出せないが、避難民は受け入れるとは‥」
 真言宗の寺院を回った烏哭蓮の皮肉に、張は憮然としたが。
「平織は、真言との盟を忘れておらん」
「ほう」
 烏はくぐもった笑い声を出した。平織家は市派と虎長派で二つに割れている。東寺跡で文観に会った烏は、彼に話を聞いた。
「死す事で不浄なる命が芽生える、蛆虫の増殖を止める手立てはございましょうか?」
「根を断つ事よ。‥時に、哭蓮は根の国があと幾つあるか知っておるか?」
 穏やかな微笑で文観が言った事には、全部で5つ。これほど死者の穢れに近い国は他にないと黒の高僧は嗤った。
 ともあれ、北西から来るイザナミ軍に対し、近江の浅井や大和の松永の協力で東や南に民を避難させる算段がついた。
「所で、楠木殿ほどの武者を除外した決戦は考えられぬと思うがの」
「道理じゃな」
 アランを通じてアルスダルト・リーゼンベルツが関白に進言し、謹慎していた河内の楠木正成とその郎党を京都軍に加えた。
 刻一刻と決戦の時が迫る中、打てる手は総て打とうと、人々は懸命に準備を進める―――

●戦略と偵察と
「手が足りないよぉ‥‥でも、やらなきゃ!」
 丹波山中、ミリート・アーティアはマジカルミラージュで偽兵を作った。効果時間が短い上に成功率も高くないので効果は今一つ。だが。
「あっ」
 山上からでもはっきりと分かる、不死者の大軍勢。
 それがミリートの幻に引き寄せられるように、二つに割れたのだ。
「お約束は有効だからお約束になるって事かな?」
 敵の別動隊を警戒していた天馬に乗るアン・シュヴァリエもこれを察知した。その口元に笑みをはく。気付かねば致命的だが、上手くすれば各個撃破も可能だ。
 ところが、アンが踵を返した瞬間である。
 突如、イザナミ軍の後方から青い光を放つ物体が飛来したかと思うと、もう一つの軍を形成しようと離れていく不死者たちの前に降り立った。
 蒼い炎に包まれた空飛ぶ馬。少なくとも遠目ではそんな風に見える。
 その馬が纏った炎が大きく吹き上がると同時に、不死者たちの動きが急激に鈍り、方向を変え‥‥やがて元いた軍勢と合流し、一体化してしまった。
 そして蒼い炎の馬は、何事もなかったように飛び去ってしまった。
「蒼い炎の馬が‥‥!? ‥‥カミーユ、本当に手を貸してくれたのね」
 工作隊の護衛に付いていた南雲紫は話を聞いて、思い当たる節があった。
 喜ぶべきか、恐れるべきか。その表情は複雑だ。
「感心しませんね。デビルに何かを期待すれば、貴方は悪魔信者とみられますよ」
 そう呟いたのは薫風隊のアルディナル・カーレス。
「偶然か。もしくは戦場の拡大は避けられましたが、私達は絶好の機会を逃したとも」
 悪魔に関する事は全て疑ってかかるのが神聖騎士だ。
 分裂失敗でイザナミ軍の足並みが乱れたのを幸い、不眠不休の工作隊は今のうちに下がろうとした。防御陣地は未完成だが、偵察隊の情報からそろそろ限界である。イザナミ軍が来る前に工作隊を下げて休ませ、集結の済んだ本隊を陣地に入れなければ、彼らの努力は無駄になる。

 ぐしゃっ

 突然、撤収準備を行う足軽の体が潰れる。
 ある者は体が真っ二つになり、またある者は何者かに足を掴まれて空中を飛んだ。
「何事だ!?」
 工作隊のあちこちで悲鳴と怒号が上がる。
 騒ぎは徐々に拡大したが、敵兵の姿が無い。
「どうなって‥‥って、なんだありゃ!? ヤロウ、イザナミ軍か!?」
 空へ迎撃に上がった日高瑞雲は、飛び散った兵の血飛沫が空中で何かに付着するのを見た。
「姿の見えない敵だと? 護衛部隊は術師を中心に応戦しろ、その他の者は兵を逃がせ。こんな所を敵の軍に突かれたらおしまいだぞ!」
 カノン・リュフトヒェンは迅速に指示を飛ばす。
 がしゃ、がしゃ、という不気味な乾いた音が響く。すぐさま本隊にも連絡が飛んだ。
 見えない敵は透明化した小型がしゃ髑髏(以下小がしゃ)、その後ろにイザナミ軍が居ると見て秀吉も本隊を急がせた。
「よし、掴んだ! がしゃ髑髏は任せろ! 私ならそうそう引き剥がされはしない!」
「もう一体は私たち兄妹に任せてください!」
「太陽と月光の騎士がお相手いたします」
 メグレズ・ファウンテン、ファング・ダイモス、ミラ・ダイモスの三人が小がしゃを囲み、縄などを括り付けてチェーンデスマッチにようにお互いを結んだ。
「おらおらおら〜!」
 そこへ、人を跳ね飛ばしながら爆走する一台の骨車が現れ‥‥造りかけの堀に落ちた。微妙な空気を纏い、中から槍を持った骸骨武者が現れる。
「あたた‥‥酷い目にあったぜ。まぁいいや、八雷神・土雷の相手はどいつだぁっ!?」
「今まで耳にした名前じゃありませんね。単身で乗り込むとは、よほどの自信か‥」
「詮索は後でいい。どちらにせよ、戦ってみれば分かることだ!」
 近場にた雨宮零とデュランダル・アウローラが、工作隊の撤退を他の者に任せて土雷と相対する。
「まずはてめぇか!」
 雨宮に突撃する土雷。
 が、攻撃された雨宮が拍子抜けするくらい、土雷の攻撃はあっさりと受け流せてしまった。
「て、てめぇ‥‥分かってねぇだろ!?」
 いける。どんな能力があるか不明だが、剣の腕前は一段は劣る。
 そう直感した二人は、畳み掛けるように連続攻撃を仕掛けた!
「俺は! 二千回でっ!(ザンッ)模擬戦でっ!(ガツンッ)八雷神なんだよぉーーーっ!(ガシャーンッ)」
 攻撃を喰らうが、倒れない土雷。
「ならば、これでどうだ!」
 デュランダルが重い一撃を放つ。吹っ飛ばされた土雷は、むくりと体を起こした。レミエラの光が見えたが、この耐久力は異常だ。
「ぎゃはは、効かねぇな。いいか、俺は(ドカンッ)」
 土雷は無言で振り返った。背後から攻撃した雪切刀也は、後方に飛び退く。
「隙だらけだったが‥‥、ただの骸骨戦士では無いのか」
「だ・か・ら! ‥‥てめぇら、少しは人の話を聞けよ!」
 地団駄を踏む土雷を、押し殺そうと冒険者が集まったその時。
『土雷。あまり遊ぶなと申したはずじゃぞ。まったく‥‥放っておけん奴よの』
「イザナミ様!」
 周囲に響く女の声に、土雷は直立不動。
「おいてめぇら、今日の所は‥‥俺の勝ちだな。このぐらいで勘弁してやらぁ」
「なっ」
 土雷が馬鹿でかい声で撤収と叫ぶ。カノンが突きかかるが、地面から突き出た腕が骸骨戦士の足を掴んだかと思うと土雷を地中に引きずり込んだ。
 透明な敵に引っ掻き回され、報告だけでも百人を下らない死傷者を出した。この前哨戦でイザナミ軍は透明化していた二体の小がしゃと不死忍者五体を失う。
 そして‥‥天地を揺るがし、イザナミ軍本隊が京都軍の前に姿を現した―――

●まち
「プットアウト、急いで! まったく、どれだけの不死忍者が入り込んだって言うのよ!」
 ステラ・デュナミスを先頭に、伊勢神宮の斎王下の五節御神楽隊が京都市中で起こった不審火を消し止めていく。数百人の兵を出してもらえたのはありがたいが、伊勢の守りが手薄になるのではと一抹の不安がよぎる。
 時刻は深夜二時。月は出ているが、あまりにも細い三日月の光では辺りを照らしきれていない。
 イザナミ軍は夜の帳が降りきってから京都西部に姿を現した。それから程なく、京都各所で騒ぎが起きたのは紛れもなく黄泉軍の陽動。
 陰陽寮の陰陽師も消火に参加し、大火には至ってないが、冒険者は陰陽師と民を守る役目に奔走する。
「こちらに一匹! お願いするでござるよ!」
「応。都に潜む不死者ども、一つ残らず叩き出してやるのじゃ」
 京を高速で駆け抜ける二つの影。
 音羽朧が探知魔法で不死忍者を探し当て、磯城弥魁厳が実力で排除していく。
 夜の闇と戦う彼らとは別に、医療局も戦端を開いた。前線から、休む間もなく怪我人が担ぎこまれる。
「全件受け容れだ! 死者は増やすなよ?」
「どーすンだ。戦況もよくねェって言うし、やっぱ仮設村に移動すっか?」
 ケント・ローレルたちは、京都に残る神皇軍と共に一般人の避難誘導の指揮を取る。今は一部だけだが、状況次第では避難地域は際限なく広がる。そうなると、とても仮設村では足りない。
「天矢さん、もう少しゆっくり走らせて! そのうち街の人を轢いちゃうわ! ‥‥っと、あっちの路地裏に反応!」
「俺の腕を信じろって! さぁ、嫉妬深い女の手下‥‥これで四匹目だぜ!」
 同じ馬に乗り、アンジェリーヌ・ピアーズが魔法で不死者を探知、壬生天矢が直接戦闘で仕留めるという段取りで京都の町を疾走する二人。
 槍を投げつけて、見つけた不死陰陽師を撃破するも敵は一向に減らない。
 新撰組や見廻組も市街警備に出張っている。すぐそこまで迫った黄泉の軍勢に、混乱する京都の民も騒動に拍車をかけた。
 深夜にも拘らず通りには人がひしめき、荷物を満載した荷車が人を跳ね飛ばす。その混乱振りは、御所にまで届いている。

「‥‥古に何があったのか、今上に問う機会は得られずか」
「仕方ない。鈴鹿隊長も御所には入れて貰えなかったというし、安倍晴明はさすがに御所詰めだそうだけど」
 アンリ・フィルスとクロウ・ブラックフェザーは御所の外を警護していた。
 多くの冒険者が、京都御所の警備に回っていた。安祥神皇の護衛を志願する者も少なくなかったが、禁裏の警護は特に信用における者に限られた。
「何故、中に入れん。軍勢率いる事は叶わなんだが、せめて一志士として陛下をお守りしようと‥」
 風雲寺雷音丸は内裏の警護についてもおかしくないが、平織家臣である事を警戒されたか外の警護に回された。敵軍は大神が率いる変幻自在の妖魔ならば、警戒しすぎて損は無いが、冒険者らは軽い失望を感じる。
 その頃‥‥月道を警備する月詠葵が、内心の動揺を隠しながら凛々しく、ある人物を迎え入れていた。
「ふむ、驚かぬな。つまらん――」
「驚いております。ですが、全く予想しなかった訳では無く‥‥新撰組三番隊月詠葵、新撰組が責任を以って、本陣にご案内いたします―――」

 さて、ここで時は少し遡る。
 鉄の御所の動きを警戒していたメンバーは、夕暮れに酒呑童子を先頭とした鬼の軍勢が出陣したのを確認。
 本陣に連絡すると同時に、フォレストラビリンスで時間稼ぎを実行した。
 京都側は鬼軍への備えとして、御所の兵を増強したが、兵の大半をイザナミ軍に送っているので迎撃する余裕が無かった。このため、夜半に酒呑童子と彼の率いる人喰い鬼の軍勢は、易々と市内に侵入を果たした。
 京都の北東が鬼軍に蹂躙されるのを看過出来ぬと、新撰組の芹沢鴨は三、六、七番の三小隊を率いて急行した。
「俺はプロだ。罠で仕留められなかったなら直接叩けばいい。大事なのは被害を最小限に食い止める事だからな」
 アンドリュー・カールセンはあくまで冷静に呟き、弓矢で鬼の急所を狙っていく。
 伝令から『酒呑童子、京都に到達す』という報告を受けた天城月夜は、伊勢からの部隊の指揮をステラに任せて酒呑童子に談判に向かう。
「‥‥何の用だ、人間」
 さしもの酒呑童子にも疲労の色が濃い。
 いや疲労と言うより、これは何らかの病気‥‥あるいは呪いか。疑問を感じつつ、月夜は鬼王への頼みを口にする。
「慈円殿を尊んでここは一つ、これ以上進まずにいて貰えぬか?」
「‥‥ふ、和尚が存命ならば、イザナミと和して共に魔王と戦うと言われたかもしれぬ。だが、是非も無いことだ」
 続きは言わず、酒呑童子は刀を抜くことで姿勢を示した。

●三日月の戦塵
 主戦場たる京都西部では、まさに血戦が展開されていた。
 深夜に戦端を開いた両軍は、収束することなく三時間以上経った今も戦い続けている。戦場を照らすのは、頼りない三日月の月明かりと、時折吹き荒れる魔法の雷火。
 いざ戦いが始まれば、イザナミ軍には怒涛の攻撃しかない。本能で生物を襲う不死者には、後退も休憩も存在しない。
 魔法や弓矢による射撃部隊にとっては、良い的である。
「浮かします! タイミングを合わせて撃ってください!」
「貫け雷光! 裁きの雷よ今ここに!」
「私も続きます。吹きすさべ、氷の神風!」
 エル・カルデアが100mの範囲で敵を空中に打ち上げ、ルメリア・アドミナルがライトニングサンダーボルト、ロッド・エルメロイがファイヤーボム、イリア・アドミナルがアイスブリザードを叩きこむ。それぞれ超越級の極大魔法の使い手であり、並の軍勢相手ならこれだけでもビビッて逃げ出す所だ。
 夜空に彩られた雷光と爆炎、その光で輝く猛烈な吹雪。
 戦場を照らし出す四つの連携魔法は、さながらトライ・ディザスター。空前の大魔法の饗宴、ここは人界か魔界か。
「すいませんイリアさん、空中部隊が苦戦しているようです。そちらの防衛に行きたいんですが構いませんね!」
「地上は地上で手一杯か! 例え援護が期待できなかろうと、弓の弦が断ち切れるまで撃ち続けてやる!」
 航空部隊のルーラス・エルミナスやイリアス・ラミュウズたちは、魔獣の背に跨り、イザナミ軍と空中戦を繰り広げている。
 敵は怨霊やイツマデン、単体で見ればさしたる力を持たないが、数百、数千となれば話は違う。最強の戦士でも狙われたら絶命は必至。
 飛行部隊は必死に防戦しつつ、隙を見つけてロック鳥に大きな網を持たせて地上へ投下したり、重量物を質量爆弾として直接ぶつけて地上戦を支援する。
「無理です、あんなの! 狙った小がしゃには当たらないし、網を被った人たちを踏んづけていくんですよ!?」
 リアナ・レジーネスは重量物を補給しながら嘆く。
 圧倒的な物量を前に、虚しさを感じる。そもそも飛行戦力の規模が違い過ぎる。魔法部隊を対空に専念させて欲しいと嘆願するが、地上も地上で大変なのだ。
「当てようと思うな、当たったらいいなくらいの気持ちで撃て!」
「左舷、弾幕薄いですよ! 何やってるんですか!」
「こちらの方面はストームで押さえますが、決め手にはなりません。早く増援を!」
 リンカ・ティニーブルーやオグマ・リゴネメティスが属する地上弓隊も、味方前線を支援するため、空から地上へ目標を切り替えていた。ゼルス・ウィンディは側面から回り込もうとする敵をストームで押し戻している。

 京都軍の前面が容易に抜けないと見たイザナミ軍はしきりに側面から突破を試みた。戦場は徐々に広がり、数に劣る神皇軍の疲労を誘う。
 冒険者や新撰組、京都や大和軍など諸隊を織り交ぜた神皇軍は、暗闇の死闘によく耐えていた。
 無論、闇と不死者の恐怖に負けて死にたくないと逃げ出す者も多い、仲間がむざぼり食われる横で剣を振い続けるのは至難だ。が、多くの者が踏み止まった。最前線で彼らを鼓舞する百人にも及ぶ勇者の背中に、勇気と希望を見いだした。
「‥‥五万の軍が粗末な堀一つ、越えられぬか」
 イザナミは微かな驚きを覚えた。
 土雷から報告を受けた京都軍の陣地を、彼女は取るに足らぬと判断した。低い堀や木の柵、氷漬けの壁にどれほどの効果があろうと、圧倒的な力の前では無力。
 事実、陣地を固持する京都軍は夥しい死傷者を出している。
 堅固な土塁や堀は未完成で、申し訳程度に柵だけの場所もあれば、柵すら間に合わなかった場所もある。それを補うのは、人間の兵だ。死を恐れない死人憑きや怨霊とは違う、生きる事に執着する筈の彼らが本能に逆らい、次々と仲間の屍を越えて戦った。
「‥‥大国主、ぬしもこのような気持ちであったか」

「鍛冶屋のハンマーだ! 耐えられるなら鍛えてやるぞ!」
「やだねぇ‥‥やだやだ。俺の身体の魅力も理解できなくなっちゃあお終いよ」
 ラーバルト・バトルハンマー、藤枝育といった面々は、ただひたすらに敵を倒していく。
 この戦場で単独行動は自殺行為と理解し、てだれの冒険者達は神皇軍の兵との連携を重視した。具足姿が板につかぬ足軽とて、居ると居ないでは大きく違う。
 冒険者らしい戦いを見せる一団もあった。
「わしの心は冷静、冷徹、揺るがぬ心! コールドハートじゃ!」
「おいらの技は変幻自在! ファンタ”し”ティックパフォーマンス!」
「自分の胃は何を食らっても壊れないっす! アンブレイカブルストマックっす!」
「おーい、なんか俺らイロモノと一緒くたにされてんぞ、兄貴」
「文句の前に手を動かせ。セキカン、攻撃です! あいつらはあなたを鶏の出来損ないといっていますよ!」
 小丹、中丹、太丹の丹三義兄弟と、拍手阿義流、阿邪流の拍手兄弟。
 乱戦で自然に集まった彼らは兄弟ならではのコンビネーションをみせた。
「イザナミ軍が何するものか! 私たちは負けるわけにはいかないんだ!」
「そうだ。我らが使命は、藤豊に逆らう愚者を、その肉の最後の一片までも絶滅すること!」
「やれやれ‥‥安請け合いだったかな。アラン、終わったら美味い酒でも奢れよ!」
 アラン小隊とも言うべき部隊には、円巴、セイル・ファーストが所属。
 藤豊家臣であるアランには指揮官が倒れたり、自分の部隊とはぐれた兵が集まり、百人規模の部隊を作っていた。
「この合戦こそ我らの桧舞台! 命を惜しむな、名こそ惜しめ! 新撰組一番隊、いざ参る!」
「止まらぬ矛は己が手に、破れぬ盾はその心に!」
「人は寝床へ死人は土へ。それだけだ」
「今日は大サービスだ。一丁でも二丁でも相手してやる。この背中の侍魂、散らせるものなら散らして見やがれ」
「誠の矜持を以て戦え。これが新撰組だ。壬生の狼の牙で冥途へ送り返してくれる」
 新撰組は一番隊を筆頭に、好戦的な面々が集まっていた。
 一番隊を指揮するのは、この戦いで代理を取ると明言した鷲尾天斗。張り切る鷲尾は一番隊を壊滅寸前に追い込み(と言っても、どの部隊も似た状況であるが)、妻のエレオノール・ブラキリア、それに霧島小夜は瀕死者を連れて必死に前線と洛中の救護所を往復する忙しさである。
「鷲尾、貴様京都はどうした?」
 十一番隊の静守宗風が怪訝に問う。
「芹沢先生に取られた」
 黄泉人との戦いを重視する鷲尾は決戦に回された。
「酒呑童子か。御所といい、気になるが‥‥来た者は仕方無い、ここで死ね」
 ちょうど一千ばかりの敵が押し出してきて、前線が破られそうだ。静守に顎で死地を示され、鷲尾は意気揚々と駆けだした。
 入れ違いに一隊を率いてパウル・ウォグリウスが戻った。言うまでも無く満身創痍だが、顔は笑っている。
「何が楽しい?」
「いや‥‥だが、俺らはそういうもんだろ?」
 黙示録に悪鬼と踊るのが我らの務めと呟くパウル。
「諦観か、くだらん」
 冒険者と神皇軍は各所で善戦したが、時が経つほどに立ち上がれぬ者は増える。
 そういう面子を前線で引き受けるのがこの人。
「けひゃひゃ、どうしてこの場面でハリセンなのかね〜。そっちも単独行動とは、救えんね〜」
「これがジャパン人の心意気である」
「おい、こんな莫迦と一緒にするな。俺は一騎がけが好きなんだ」
 最前線で治療活動に従事するトマス・ウェストは、両手に死者殺しのハリセンを構えた尾花満と、英雄オラース・カノーヴァを助けた。
「俺はアラン隊に参加している。惜しい腕だ、一緒に戦わぬか?」
「やだね。俺は好きなように生き、好きにくたばる」
 二人とも悪態をつきながら、動けるようになると再び戦場に戻った。
「先生方、急患です!」
「止めろ、俺はまだ戦える‥‥くそっ、こんなざまでは一騎当千は程遠い」
 将門夕凪は、ひっきりなしに負傷者を運んだ。虚空牙は夕凪を押しのけようと手を伸ばし、月を見てしまった彼女は発狂し、奇声を発して仲間の保存食を奪う。
 過酷な戦場に、参加したハーフエルフの殆どは一度ならず狂化した。が、優秀な戦士である彼らを、戦場から引き離すことが出来ないのも事実。
「ここまで来ると、みんな狂ってるのと変わらないし」
 ゴーレムを盾にして弓を撃つクァイ・エーフォメンスは、野戦病院を守る形で戦う。
「うう‥‥どんどん敵が増えてる」
「壁が薄いと判断されたのでしょう。ならば増援が来るまで死守するのみ」
 コルリス・フェネストラもゴーレムを並べて、クァイと並んで弓を撃つ。コルリスは飛行部隊に属するが、不完全な野戦陣地をカバーするためにゴーレム隊は重要な壁であり、狂化に悩まされながらも離れられない。
「まあ、ここなら狂化してもお医者さんが居ますから」
 前向きである。
「私は御免です」
 乱雪華は狂化すると無感動になる。仲間の窮地にも京都の命運にも心が動かなくなるのは非常な恐怖だ。グリフォンを駆り、降霊の鈴を鳴らして不死軍を翻弄する雪華は、新たな敵の登場を仲間達に教えた。
「戦場で柔肌を晒すとは‥‥破廉恥だぞ、冒険者!」
「あぐっ!? こ、これが、八雷神‥‥!?」
 マロース・フィリオネルは利き腕に深手を負う。
 骨の馬に乗った骸骨武者は、火雷。
 イザナミ軍は敵の疲労を見て取り、一挙に粉砕しようと幹部を投入。
「させません! 火雷‥‥この戦場でまみえたこと、多少なりと運命を感じます!」
「お手伝いします。レジストライトニングが助けになれます」
「無茶は覚悟の上。神皇様のために命も張れずに、志士を名乗れるか!」
 御神楽澄華、リーマ・アベツ、天城烈閃が現れ、さしもの火雷の足が止まる。更に、
「苦戦してんのかよ、火雷!」
「‥‥貴様、勝手に持ち場を離れるな」
 土雷が現れ、二体の骸骨武者が並び立つ。三対二だが黄泉軍の幹部二人は厳しいか。
「大幹部がのこのこ現れるとは好都合だ。貴様らを倒せば、勝ったも同然だな」
「ああん? イザナミ様舐めんなよ。俺らの軍は層が厚いんだ、俺達ほどじゃねえが、すげぇ将軍や幹部がごろごろ居らぁ」
 土雷の言葉に、天城はうんうんと頷いた。
「喋りすぎだ」
 火雷は土雷を襲おうとした御神楽の攻撃を弾く。会話はここまでと天城とリーマが土雷に攻撃を集中。
「いってぇー! やりやがったな!?」
 有効打が与えられない。土雷の売りは頑丈さか。
 執拗な火雷の攻撃を、天城は避け続ける。
「乗ってください!」
「なんだと!?」
 魔法の絨毯を取り出したリーマが割り込み、冒険者達は八雷を捨てて飛び去る。まさか逃げを打つとは思わず、二体の幹部は追撃出来ない。
 正面から激突し、大消耗戦を演じた両軍だが、ここへ来て京都軍が徐々に引き始めた。釣られて前進するイザナミ軍の前に、煌びやかな軍勢が姿を見せる。
「‥‥ん? 人間の援軍か。だが、あの軍旗は見た事が無い」
 黄泉人は京都近隣の諸侯は知っていても、遠く関東の事までは疎い。
『神皇軍の皆さん、私達の勝ちです。伊達政宗率いる伊達軍二千が到着しました』
 ベアータ・レジーネスの超越ヴェントリラキュイが各部隊に情報を伝達する。
「‥‥何?」
 その放送は敵中深く入り込んだ火雷にも聞こえた。
 イザナミ軍は京都軍を追い詰めている。二千の兵が加わったとて、なお余力があるものの、京都軍を包囲する形で部隊は拡大し、イザナミの本陣が手薄になっていた。無傷の軍勢に冒険者の突破力が加われば。
「いかん、戻るぞ」
「へ?」
 踵を返す火雷に、土雷が間抜けな声を出した。
「隙ありー、だよ! 流派八跋衝奥義・華仙連湖ッ!」
 今までどこに隠れていたのか、突如として鳳蓮華が乱入、土雷に電光石火の四連撃を叩き込む!
「い、イザナミ様ぁ〜!?」
 まともに喰らい、吹き飛ぶ土雷。
「がっ‥‥く、くっそ‥‥こ、この不死身の甲羅茶話が‥‥死ぬかよっ‥‥!」
 かなりの深手ながら、土雷はまだ動けた。
「何をしている、退くぞ土雷!」
 前方では、伊達軍が突出したイザナミ軍の先鋒に襲いかかっていた。黄泉人は死人憑きや怨霊を操ると言っても、限度がある。亡者の群れは黄泉人の制止も聞こえず、伊達軍の餌食となった。
「さすが政宗公」
「不死者は疲れも空腹も覚えないが、無敵ではない。あれなら、誰でも勝てる」
 イザナミの先鋒は長時間の戦闘でボロボロだ。腕が取れ、足が抜けて這うような不死者など、無傷の正規軍なら敵ではない。一縷の望みが出てきたというのに、カイザード・フォーリアは苦い顔だった。
「どこぞの田舎武者ではないのだ。伊達家ならば無用の混乱を避け、配慮があって然るべきと思ったが、この派手さはどうだ」
 伊達政宗自身が出陣し、しかも二千とは。江戸の守備隊が激減したのは間違いない。
「御言葉ですが、一も二もなく、京都を守る為に伊達家は最大限の努力をしただけですよ。懸念は分からなくもありませんがね」
 伊達家家臣、伊勢誠一は苦笑を浮かべた。誠一と彼に協力したシオン・アークライトは、今回政宗を動かした立役者だ。
「二人とも、難しい話は後にして貰えないかしら?」
 シオンは呆れ顔で言う。一瞬でも気を抜ける時ではない。
「‥‥政治は根回しだ。しかし、今はシオン殿が正しい。騎士として務めを果たそう」
 伊達軍の登場で折れかけていた神皇軍に勢いがある。文字通り、死力を尽くして最後の足掻きを見せる京都軍に、イザナミは。
「イザナミが、後退していきます!」
 京都軍にとって、イザナミ軍が早々に撤退の動きを示したのは意外だった。勢いを得たとはいえ、京都軍は依然として満身創痍なのだから。
「罠か? いや、ともあれ京都を守る事じゃ」
 イザナミは本隊と黄泉人を退かせたが、コントロールを失った前衛の部隊を捨てていった。京都軍と伊達軍は一万を超える残敵というには多すぎる不死者の掃討に忙殺される。統制を失った死人の大軍は凄まじく、一時は全滅を覚悟するほど、厄介なものだった。
 決着をつける前に不死者の方が散り散りとなり、京都から避難中の民にまで被害が及んだ。大量にばら撒かれた死人憑きの害は、少なくとも四月中は続くだろう。京都付近の街道の治安は激烈に悪化し、伊達軍は街道警備と京都防衛の為に都に一時残った。その間にイザナミは丹波に撤退する。
 京都軍が失った兵は、約半数。
 全滅していてまったく不思議の無い被害である。
 黄泉軍は重要戦力の小がしゃを多数失い、堀や土塁は骨車にも効果的だったが、特に死人憑きや怪骨は二万近くを失った。
 なおイザナミ軍は近畿に数万の戦力を持ち、状況は予断を許さない。けれど、大神イザナミを相手に彼らは勝利した。
 ――とりあえず、ではあるが、京都は守られた。
 神皇軍の次なる手は丹波のイザナミ討伐か、それとも‥‥。