残党狩り
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■ショートシナリオ
担当:西川一純
対応レベル:6〜10lv
難易度:普通
成功報酬:3 G 9 C
参加人数:10人
サポート参加人数:4人
冒険期間:04月18日〜04月23日
リプレイ公開日:2009年04月30日
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●オープニング
世に星の数ほど人がいて、それぞれに人生がある。
冒険者ギルドでは、今日も今日とて人々が交錯する―――
「ずっと前から好きでした」
とすっ。
「のぉぉぉっ、楊枝がっ! 額に楊枝がぁぁぁっ!?」
「‥‥そんなつまらない冗談聞かせるために呼んだわけ? 殺すわよ」
ある日の冒険者ギルド。
職員の西山一海は、友人である京都の何でも屋、アルトノワール・ブランシュタッドをギルドに呼び出していた。
いざ話をということになって、開口一番さっきのような台詞を吐いたからお仕置きされたのである。
「ず、ずびばぜん。えっと、今日来てもらったのは悪魔について聞きたいからなんです」
「‥‥悪魔、ねぇ‥‥。私もそんなに詳しくは無いけど。興味ないから」
「日本人よりはよっぽど詳しいでしょーが。えっとですね、悪魔と契約するのって、口約束だけで成立するんですか? それとも、悪魔ごとに契約の仕方は違うとか?」
「‥‥私が聞いた限りじゃ、書面で『契約します』って書かされるっていうのしか知らないわね。同時に、魂の一部を担保として提出するとか。‥‥どっちみち口約束だけってことはないでしょ」
「そうですか‥‥。むむぅ‥‥」
「‥‥ついでだからこっちの依頼話も聞きなさい。京都西側の野良アンデッドの件よ」
先日の大戦争‥‥五万ものイザナミ軍との戦いにからくも勝利した京都軍であったが、イザナミは撤退時に一万近い多数のアンデッドを放逐し、混乱に拍車をかけた。
現在でもイザナミ軍の残党は討伐し切れておらず、西側への流通は大きく制限されている。
組織立った行動でないことが逆に厄介で、大きく消耗した京都軍だけでは手が足りないのである。
「助かったのは確かですが、嫌な置き土産を残されましたねぇ‥‥」
「‥‥普通の軍隊と違って、殿なんていらないしね。アンデッドなら生物が居る限りいくらでも補充できるし」
戦場となった嵯峨嵐山付近には、今も多数の犠牲者の遺体が転がっていると言う。
直接黄泉人に手を下されていなくとも、不死者は自然発生すらするもの。
そちらも何とかしたいのは確かだが、今は動き回っているイザナミ軍残党の駆逐が最優先である。
イザナミが兵力を補充し、再び大攻勢をかけてくる前に体勢を整えたい京都。
その第一歩は、地道な残党狩りから始まる―――
●リプレイ本文
●ハント
四月某日、晴れ。
ようやく京に吹く風も暖かくなり始め、春を感じられる季節になってきた。
そんな空の下‥‥十人からなる依頼の参加者たちは、一心に狩りを行っていた。
それが動物を狩るような、武士の嗜みの様な狩りならばまだいい。しかし現実は、『不死者』という元人間を狩る‥‥悲しくも虚しい戦いだったのである。
「ホルスさん、そちらから追い込んで。タイミングをきちんと合わせてね」
シェリル・オレアリス(eb4803)は超越級のホーリーライトを二回発動し、聖なる力を秘めた光の球を二つ作った。
片方を自分が持ち、片方をペットのスモールホルスに持たせ、まるで羊を追い立てるかのように野良アンデッドを追いやっていく。
使命を持たないアンデッドは、この光を嫌って遠ざかろうとする。
丸一日保つ光球は、期待通りに不死者を集めていった。
「‥‥な、なんというか、全員綺麗どころだとやりづらい、かも‥‥(赤面)。ま、まあ敵と切り結んでればまず関係ないんだけどね」
「あーら、綺麗どころだなんて嬉しいこと言ってくれるじゃないの。お姉さんがイロイロ手ほどきしてあげましょうか?」
「い、いや、遠慮します。これでも大切な人がいる身なんで‥‥」
「くすくす‥‥冗談よ。かーわいい♪」
冒険たちは五人ずつに分かれて行動しており、シェリルを筆頭にしたB班は、シェリルが追い立てた不死者を雪切刀也(ea6228)やセピア・オーレリィ(eb3797)たち残りの四人が一網打尽にする作戦を取る。
「あら。セピアが冗談なら、あたしは本気でお相手してあげるわよ?」
「‥‥刀也‥‥下劣」
「俺か!? 俺が悪いのかっ!?」
紅千喜(eb0221)にしろレティシア・シャンテヒルト(ea6215)にしろ、B班の女性陣はかなりの美貌の持ち主ばかり。
その中の白一点である雪切は、リアクションの良さもあって弄られ役となっていた。
しかし、このやり取りは長い緊張状態の前のほんの一時だけ。
「‥‥来たみたいだね。数は三十くらいかな?」
「はぁ‥‥またなの? いい加減移動したいのに」
「文句言わないの、千喜さん。何度来ても倒す。何匹来ても倒す。これはそういう趣旨の依頼よ」
「今の俺に出来ることは、全力で臨む事、か。ふふっ、ありがたいね。祈るだけしか出来ないよりも遥かに心地いい」
先の京都決戦を戦い抜いた雪切にしてみれば、相手が組織立っておらず数もまばらで楽に感じる。
しかし、街道付近にも拘らず通常ではありえないくらいに出くわす不死者たちは、今の混沌とした日本の状況の最も分かりやすい暗部であり、決して一日二日で収められるものではないのだ。
「我、『刀』也‥‥参る!!」
遠くからシェリルが不死者を追い立ててくるのをレティシアが察知。
死人憑きが大半のようだが、怪骨や怨霊も少数混じっている。戦力的には、この五人で充分倒せるだろう。
雪切の薙刀が閃き、セピアの槍が貫く。
紅の日本刀が断ち切り、三人の前衛を援護すべく、レティシアの歌に乗せた竪琴の結界が辺りを包んだ。
「レティシアさん、弾き語りは止めた方がいいんじゃないかしら。その‥‥色々台無しよ?」
「うぅっ、やっぱり楽器はまだまだなのかな‥‥。いいよ、どうせ歌だけで充分だよ」
B班の面々だけでも、すでに四回追い立て狩りを敢行し、百近い不死者を葬っている。
それでもちょっと移動すれば不死者を発見できてしまうことから、京都西側に放たれた一万とも言われるイザナミ軍の残党‥‥野良アンデッドの脅威は推して知れる。
戦いたいわけではないのは、多分不死者のほうも同じ。
意味も分からず殺され、意味も分からず生者を殺すという不死者の本能に突き動かされる。
意味も分からず京都を攻める軍隊として編成され、意味も分からず捨てられた。
彼らに罪は無い。彼らも被害者なのだから。
「行くよ。涼、それに黒曜石。上古の時代は既に終わった。だが、そんな幼い連中の所為で友達が泣き続けている。僕は、それが我慢ならない‥‥。だから何もかも斬り伏せる。錆びた刀が、叩き折れるまで」
眷属輪を左手でぎゅっと握り、刀也は尚も薙刀を振るい続ける。
倒さなければ更なる犠牲者が出るのは明白。そうすることが、目の前で猛威を振るう犠牲者の救いにもなる。
そう思わなければいたたまれないし、イザナミ軍が戦力を再編成して再び攻めて来る前に、京都も防備を調えなければならないのだから。
そのためにも‥‥
「攻めるにしても守るにしても、西を敵の好きにさせておく理由はないってこと!」
業火の槍から火球を放ち、一気に不死者の集団を焼くセピア。
せめて街道くらいは押さえておきたい。
それは、B班は勿論、A班の面々も心に思う願いであった―――
●街道
「1万‥‥黄泉人め。これだけ殺してまだ殺す気か」
街道、と一口に言っても、日本には無数の街道がある。
B班が丹波方面に向かう街道を担当しているのに対し、アラン・ハリファックス(ea4295)を初めとするA班は、河内に向かう街道を担当している。これは藤豊家臣のアランの提案と言うか頼みでもあったようだ。
こちらでも散発的に死人憑きや怪骨と出くわし、往来の激しかった街道とはとても思えない惨状を露呈していた。
A班は追い立てて狩るという様な手法ではなく、五人でひたすらに不死者を撃破して回るという方法を取った。
勿論、ただ無闇に周辺をうろついているわけではないが。
「あちらの方角に三体ほどの反応を探知しました。大きさは人と変わりありません」
アルフレッド・ラグナーソン(eb3526)が発動している超越デティクトアンデットは、周囲百メートルほどながら丸一日の効果時間があり、常に敵の位置を教えてくれる。
逆に言えば周囲百メートルの範囲にほぼ必ず不死者が居るというとんでもない事態なわけだが。
一行が示された方角へ向かうと、そこには‥‥
「‥‥! 惨い‥‥親子連れで候か‥‥!」
「くっそ‥‥! 胸クソ悪いぜ‥‥!」
疾走の術を発動しており、先頭を切って敵の姿を確認した百鬼白蓮(ec4859)は、思わず歯噛みをした。
ゆらゆらと幽鬼のように歩く三体の死人憑き。
男の子と、その両親と思わしき男女は、まだ最近殺されたのかまだ人に近い様相を保っていた。
しかし、それ故に哀れだ。死してなお、親子寄り添うその姿はあまりに悲しい。
憤る雷真水(eb9215)も、さっきまで何体もの不死者を倒してきたが、親子連れの死人憑きは初めてだ。
赤の他人がたまたま集まったのだと思えれば気が楽だが、彼女もそんな風に割り切れる性格ではない。
「それでも、私たちは彼らを葬らねばなりません。彼らに罪を犯させることの無いように‥‥」
「アンデッドも、好きでアンデッドになった訳ではない。特にこのアンデッド達は。‥‥手早く終わらせよう、真水」
「分かってる。アランの背中はあたしが守る!」
ジークリンデ・ケリン(eb3225)はあえて威力を落としたファイヤーボムを炸裂させ、怯んだところに百鬼が走りこみ、駆け抜けるように攻撃を加える。
そこに馬を駆るアランと雷が追撃を加え、圧倒的な戦闘能力で三体を駆逐した。
悲鳴を上げることも無く無機質に倒れ動かなくなる死人憑きは、人ではないことを鮮明に示している。
「ん‥‥? 範囲内に、凄いスピードで走り回る反応があります。骨車でしょうか」
「あそこの、空を飛んでいるの‥‥あれもアンデッドでしょうか」
アルフレッドの探知に反応があったのと同時に、ジークリンデが上空にイツマデンらしき影を見つけた。
高さが高さだけに、Fボムでも届かないだろう。
だが。
「ストーン‥‥発動。周囲に人は居ないはず」
超越ストーンが発動され、上空に居たイツマデンが暴れだし、一分も経たないうちに落下し始め‥‥ぐしゃりと潰れた。
石化していない部分は、当然上空からの落下に耐えられない。まぁ、石化している部分も砕けているが。
「よし、骨車は俺と真水と百機で追う。二人は後で追いついてくればいい」
そう言って馬を走らせたアランたちは、気ままに走り回る骨車を発見。
人の足では、疾走の術でもない限り追いつくのは不可能だ。
無軌道に走るだけの骨車だったが、獲物を発見してアランたちに突撃してくる!
「くっ! 大きいことはいいことで候な、まったく‥‥!」
百鬼はギリギリで骨車の突撃を避けたが、その心中は穏やかではない。
大質量の大きな物体が、馬以上のスピードで爆走する。
それと正面衝突などしようものなら、よほどの防御力が無いと即死するだろうし、仮に耐えられたとしても装備ごと吹っ飛ばされるのは必死だ。
がりがりと地面を削って方向転換し、執拗に冒険者を狙い続ける骨車に対し、アランと雷は馬を下りた。
そして、骨車が百鬼に突撃を仕掛け、百鬼が避けた瞬間に‥‥!
「砕けろ! お前に情け容赦は要らん!」
「オーラパワー付きの二刀流‥‥当たると痛いぜ!」
タイミングを合わせ、左右から挟む込むように攻撃するアランと雷。
別に狙ったわけではないが、骨車はその構造上、横から攻撃されると車輪にダメージをもらうことになる。
一部とはいえ砕けてしまった車輪では、先ほどまでのような走りはもう出来まい。
こうやって、地道な駆逐作業は続いていった。
街道全てを網羅することは出来なかったし、まだまだ残党の数は多いが‥‥それでも、一回の依頼としては充分な戦禍であったと言える。大物と言うか、手間取りそうな不死者が居なかったのも功を奏したのだろう―――
●鎮魂
「あら? 雪切さん、それは?」
「シードルって酒です。何もなく送られるのは、寂しい筈だから」
一行は、依頼期間が終わって帰ろうと言うとき、全員集合していた。
シェリルが、酒を地面に撒く雪切を見かけ、声をかけたのである。
「ガキも女も皆死人憑きか。‥‥斬りすぎた。疲れた、な」
アランもまた、雪切の行動に目を伏せながら呟いた。
動物を狩るのとはわけが違う。心が軋んで仕方が無い。
「せめてもの慰めに歌を贈るわ。わたし達と、そして貴方達の長い夜が、どうか早く終わりますように‥‥」
レティシアが紡ぐ優しい歌。
生者と死者‥‥両方を癒すように、風に乗って流れていく。
この歌をイザナミが聴いたならどういう反応をするのか。
心地よい声に包まれて、一行はふと思うのであった―――