人喰らいの刀
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■ショートシナリオ
担当:西川一純
対応レベル:11〜lv
難易度:やや難
成功報酬:7 G 30 C
参加人数:5人
サポート参加人数:1人
冒険期間:04月23日〜04月28日
リプレイ公開日:2009年04月30日
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●オープニング
世に星の数ほど人がいて、それぞれに人生がある。
冒険者ギルドでは、今日も今日とて人々が交錯する―――
「藁木屋さん、呪いの刀がある‥‥って言われたら信じます?」
「また唐突だね。無論信じるさ」
ある日の冒険者ギルド。
職員の西山一海は、茶を啜りながら友人の藁木屋錬術とだべっていた。
一応勤務中であり遊んでいるようにしか見えないが、なんだかんだと仕事はこなしているらしい。
京都の情報屋である藁木屋は、呪いの刀についてあっさりと存在を肯定する。
「魔法や神道、陰陽道。悪魔に至っては普通に呪いの術を行使するとも聞く。今のご時勢、呪いなんていうものがないと言われる方がよほど信憑性が無いさ」
「ごもっとも。じゃあですね、『人を喰らう刀』だとしたら?」
「人を喰らう‥‥? 妖怪の類かね?」
「かも知れませんし、違うかもしれません。実は、そんな依頼が舞い込んでるんですよ」
先の京都の危機の際、京都軍にはせ参じようとした侍がいた。
少しでも強力な武器を持っていこうとしたその侍は、地元の神社に封印されていた刀を持ち出そうとする。
しかし、封印を解き、鞘から刀を抜いた瞬間、異変は起こった。
握った柄から木の根のようなものが生えて手に絡みつき、ずぶずぶと右手に同化していったという。
激痛と共にめり込み、肉を、骨を侵食していく刀。
その刀は侍の右腕を完全に取り込み、人を異様な生物に変えていってしまう。
現在では、男の右肩辺りまでが完全に刀に侵食され、同化してしまっているとか。
「そのまま侵食が進めば、完全に刀と同化し、喰い尽くされるということか。それをなんとかしてくれ、と」
「そういうことらしいですね。一応、ニュートラルマジックとかの解呪は試してみたそうなんですけど、効果なし。寺院でもお手上げだそうで、冒険者の方々の知恵や経験でなんとかならないかっていうことみたいです」
「うーむ‥‥難しいな。そこまで侵食していると、切り離そうとすれば命が危なそうだが‥‥」
京都決戦の影で起こった悲劇の一つがここにもあった。
生還か、死か。苦しむ侍の行く末は、あなた方次第―――
●リプレイ本文
●異形
それは、まさに異様な光景であった。
件の村にたどり着いた一行は、まずは症状の進行具合などを見定めるため、侍のところへと向かった。
そこで彼女たちが見たものは‥‥首や右胸ほどまで血管のような木の根のようなものが幾筋も浮き出た男と、完全に刀と融合し、手首から先が完全に無くなったその右腕。
右腕の上側のほうの肉は刀の背のようになってまだ残っているが、下側‥‥脇に繋がる下側の方の肉はすでになく、人の脂で不気味に曇る刃が伸びている。
とはいえ、残った方の肉も皮が無く、生々しいピンク色をした筋肉の筋があらわになっている。あれでは空気に触れているだけでも相当の激痛があるだろう。
「惨いわね‥‥。聞きしに勝る状況じゃないの。少なくとも鞘には戻せなさそうね‥‥」
暴れないようにさせるためなのか、柱に座った状態で括り付けられている侍を見て、セピア・オーレリィ(eb3797)は険しい表情をする。
鞘が封印の一部で戻せばどうにかできないかと考えていたようだが、肉に埋もれるようになっている現状ではどう足掻いても鞘には戻せない。
侍の自宅と言うこの一軒家は、周囲に縄が張り巡らされて人が近づけないようにしてあった。
一応、食事などの面倒を見てくれる係りの人間は出入りしているようなのだが。
侍は荒い息を吐き、憔悴しきった声で呟いた。
「‥‥そ、そなたたちが冒険者か‥‥。かたじけない‥‥情けない姿を、晒してしまったな‥‥」
「安易に手に負えない力に頼ろうとしたのは感心しないわ。それを反省してもらうためにも、あなたを助けに来ました」
「面目ない‥‥。しかし、俺はただ、神皇様のお役に‥‥少しでも立てるならと‥‥!」
その言葉に嘘偽りはないようだが、現に侍は瀕死の状態に陥っている。
シェリル・オレアリス(eb4803)の言うように、強そうな武器だからと言う理由で安易に力に頼ったのは失敗だろう。
「何か分かる? 妖怪の類ならテレパシーリングを使ってみようと思うんだけど」
「そうですね‥‥どちらかというと妖怪と分類してよいかと思います。見たことも聞いたこともありませんが」
南雲紫(eb2483)にしてもジークリンデ・ケリン(eb3225)にしても、一応何とかするための手段は考えてある。
まずは状況把握をしないことには始まらないと、細かく観察する一行。
侍にいくつか質問をして、刀を妖怪であると断じたジークリンデは、自分と侍にレジストプラントを使用、植物系の毒などがあれば排出させる手段をとった。
しかし毒は無く、その魔法に反応したのか‥‥
「ぐあぁぁぁっ!? がっ、ぐぉぉぉぉぉ‥‥!」
めりめり、ぶちぶちと嫌な音を立て、血管のような筋が侍の身体の中心部に向かって更に伸びる。
「これ以上の進行はまずい! ジークリンデ、ストーンで食い止めろ!」
「私がこれで交渉してみるから、それまで待って」
カノン・リュフトヒェン(ea9689)を制し、南雲がテレパシーリングをはめた手を刀に向ける。
封じられたテレパシーの効果を発動し、刀に呼びかけてみると‥‥
『血、血、血ダ! モット血ヲスワセロ! 血ダァァァァァ!』
狂気じみた思念が叩きつけられ、南雲の緊張感を一気に上げた。
もし話が出来るなら、何者なのかとか何故人を喰らうのかなどを聞きたいと思っていたのだが、一瞬のコンタクトにも拘らず交渉は無理そうだと断言できてしまう。
話を差し挟む余地も無い。自分の本能を思念としてただ垂れ流しているだけの刀に交渉もクソもない。
南雲が頭を振ったのを見て、カノンは軽くため息をついた後、シェリルに視線を向けた。
だがシェリルは、デビルでもアンデッドでも魔法の品でもないとため息をつき、寺院同様お手上げと呟く。
「わお、マジですか。‥‥お侍さん、少しの間石化させるけど大丈夫? そうでもしないと進行が止まらないし。何とか方法を探して見るから、希望を捨てないでね!」
セピアが侍の左手を握り、精一杯の励ましの言葉を送る。
荒い息を吐く侍は、弱々しくだがそれに頷き‥‥ジークリンデの魔法で石と化した。
シェリルやジークリンデの推測どおり、刀ではなく柄の方が本体っぽいのは間違いないが、その柄が完全に肉の中に埋もれてしまっているのがなんとも歯痒い。
一行は侍の自宅を出て、神社へと向かった―――
●言い伝え
例の刀が祭られていたという神社で、一行は刀のことについて宮司に話を聞いていた。
侍が知っていたことからも、この辺りでは結構有名な話なのだろうと踏んでいたカノンの推測は大当たりで、聞けばあっさりと答えてくれたのである。
しかし、その言い伝えはなんとも奇妙。
その昔、この近辺には悪鬼羅刹と恐れられた鬼が住んでおり、ある時旅の侍がそれを打ち倒したという。
お礼を言う間もなく、侍は姿を消し‥‥後には鬼の死体と、その心臓に突き立った侍の刀だけが残った。
村人たちは感謝の意を込め、村の神社にその刀を奉納し、村の守り神としてあがめてきたと言う。
「‥‥どう思う? 私にはあんな妖刀が出来上がるようには思えないんだが。というか封印される必要がどこにある?」
「わりとどこでも聞けそうなお話よねぇ。侍と鬼の刀が入れ替わってたっていうのはどう?」
「どうかしら。あの様子だと、人や鬼に限らず生物なら何でも侵食しそうだけど」
「交信してみての意見だけど、鬼の執念が刀に宿ったって言う線も薄いかもね。上手く言えないんだけど‥‥悔しいなら血を求めるんじゃなくて、死を求めると思うの」
「本能的に血を求めている、ですか‥‥。宮司さん、この辺に木を枯れさせるモノや言い伝えがあるようでしたら教えていただけませんか?」
宮司は中年の男性だが、それらしい話を聞いたことはないと言う。
その代わり、神社に伝わる文書や巻物類を持ち出してきて調べてくれる。
一抱えもある量に、一行も手伝っていたのだが‥‥
「‥‥ん? 待て、これは何だ? 血に染まった木とあるが」
巻物の一つを読み進めていたカノンが、一箇所でその動きを止めた。
そこには、この村では死刑になったものを木に括り付け、心臓を杭で穿つと言う処刑方法があったと書いてあった。
もっとも、その大木が落雷で折れたことで、五十年以上前にその処刑方はなくなっているらしいのだが。
宮司はそれを聞き、その処刑に使われていた大木は常に血に染まったように真っ赤だったと聞いたことがあると証言。
「‥‥その折れた大木はどこへ行ったのですか?」
流石にそんなことまではどこにも書かれていない。しかし、その木が折れたのと同時期の記録に、神社の刀の柄が乾燥のため割れてしまい、新しいものを作って取り替えたと書かれてあったのを南雲が思い出す。
「ね、ねぇ‥‥私、すっごく嫌な予感がするんだけど‥‥」
「大丈夫よ。みんなそうだから‥‥」
引きつった笑いを浮かべるセピアと、頭を抱えるシェリル。
「そもそも、封印されたのは何故だ? される理由がわからん。誰がやったのかわからないのか?」
カノンの言葉に、宮司は答える。先代の宮司‥‥つまりは自分の父親だと。
封印されたのはほんの二、三十年前で、ちょっと祈祷して注連縄で囲んだだけである、とも。
「そういうのは封印とは言わないだろう! じゃあ何か、単に見栄えを少し変えただけか!?」
つまり、長年処刑された人間の血を吸い続けた木が折れ、刀の柄の材料にされて数年後あたりで妖怪化。
その十何年後かに封印などというご大層な名目の模様替えがあって、言い伝えと重なり、誇大広告のようになってしまったわけだ。
それに釣られた侍が刀を手に取り、被害にあった‥‥というわけである。
「そうよね‥‥祭事での刀の持ち方は鞘部分を持つわけだし、移動させるにも刀掛けごとよね‥‥」
南雲が右手を額にやって天を仰ぐ。
分かってみればくだらない顛末ではあったが、打開策が見つかったわけではない。
石化して症状は止まっているとはいえ、侍の身体は中心部辺りまで蝕まれているし、例え南雲が刀の刃部分を折っても本体が柄なのでは効果があるまい。
柄部分は肉というか侍の身体の中に埋没しているわけで、ジークリンデの魔法で焼くわけにもいかない。
侍に我慢してもらい、右腕を丸ごと切断して、シェリルの超越リカバーとクローニングで回復させるか?
「‥‥それしかないか。行くぞ」
カノンの音頭に全員が頷き、五人は再び侍の家へ―――
●生と死と
シェリルのニュートラルマジックによって石化を解かれた侍は、提示された解決法を聞いて、流石に一瞬怯んだ。
しかしこのまま放っておいても座して死ぬだけ。石化したままいても死んでいるのと変わらない。
侍は激痛の中、しばし考え‥‥
「‥‥やってくれ。このまま死んでは、武士の名折れ。俺はまだまだ‥‥神皇様の御為に、働かねばならん!」
「いい覚悟だ。切断は私に任せろ」
戦闘モードに入って口調も変わった南雲が刀を構える。
シェリルがジークリンデの補助を受け、万全の魔法の準備を整えて待機。
そして‥‥南雲の刀が、右肩から脇にかけ正確に右腕を切断!
ポイントアタックEXとバーストアタックをきちんと修得しているからこそできる、刀を叩き折りつつの切断だ。
噴き出す鮮血。しかしその傷口からは、まだ鍔から下が残っているのが垣間見える!
「しつっこいわ‥‥ねぇ!」
セピアが傷口に手を突っ込み、柄を握って引っ張り出そうとする!
侍は苦悶の声を必死に押し込め、セピアを信じて堪える‥‥!
「ごめんなさい! でも、助けるから! 絶対、助けるから‥‥!」
「私も手伝おう。セピア殿だけでは力が足らないだろう」
血で汚れるのも厭わず、カノンも加わって一気に柄を引き抜きにかかる。
ブチブチと肉が引き千切れる嫌な音の中‥‥幾重にも枝分かれした根っこごと、柄が引き抜かれる!
「後は任せて! 癒しの光よ‥‥!」
シェリルが超越リカバーに取り掛かり、呼吸が停止した侍を黄泉路から引き戻す!
セピアは、引き抜かれた柄を空中に放り投げ‥‥!
「南雲さん!」
「分かっている!」
南雲により真っ二つにされ、柄は床に落ちる。
その後、ジークリンデにより家の外に持ち出され‥‥
「やるからには徹底的に。焼却してしまった方が確実でしょう」
マグナブローで燃やし尽くされたのであった。
かくして、人を喰らう妖刀はこの世から消滅し‥‥侍の命は救われた。
シェリルのクローニングにより腕の再生も出来るとかで、時間はかかるかもしれないが再び剣を取れるようになるだろう。
悲劇が一つ救われた。そう断言できる一件であった―――