決死の暗殺行

■ショートシナリオ


担当:西川一純

対応レベル:11〜lv

難易度:難しい

成功報酬:9 G 4 C

参加人数:9人

サポート参加人数:1人

冒険期間:05月14日〜05月19日

リプレイ公開日:2009年05月22日

●オープニング

世に星の数ほど人がいて、それぞれに人生がある。
冒険者ギルドでは、今日も今日とて人々が交錯する―――

「藁木屋さん藁木屋さん、なんか、不死城に暗殺に行って来いっていう依頼が来たみたいなんですけど‥‥何かのイタズラですかねぇ? 放置しましょう」
「現実逃避をしないように。立場上、放置したら職務怠慢だぞ」
 ある日の冒険者ギルド。
 職員の西山一海は、いつものように友人である何でも屋、藁木屋錬術と仕事をしながらだべっていた。
 そこに、他のギルド職員が現れてとある依頼書を渡してきたのだが‥‥中身を読んで、一海はさくっと紙を放り投げた。
 ため息を吐きながら紙を拾い上げた藁木屋は、一海の台詞が嘘でなかったことを確認する。
 不死城。それは、丹波で交錯する勢力の一つ、元丹波の大商人、平良坂冷凍が住む奇怪な城である。
 大量の不死者を材料にし、魔法だか神道だかよくわからない術で作られたその城は、外見こそ普通の城と大差ないが、石垣に見える部分から蜘蛛のような形状の白骨の足を生やし、移動することが出来る。
 また、壁から巨大な白骨の手を伸ばしたりもできるし、高威力の電撃魔法を受けても傷ついた部分を腐肉が覆い隠し、自動修復してしまうという常識が崩壊しそうな性能を誇っているのだ。
 中も一見普通の城だが、材料が材料だけに巨大な不死者の中に居るのと変わらないと言っていいだろう。
 なお、城の外にも中にも瘴気が立ち込めており、特殊な対策を施さないと体力や能力が低下したり恐怖に駆られたりするのも厄介さの一つと言える。
「ふむ‥‥これはやはり、丹波での反攻作戦の一環か。噂ばかりではなかったわけだね」
「反攻作戦? 今の京都にそんな戦力があるとはとても思えないんですが」
「まだ不確かなので詳しくは言えないが、埴輪大魔神を人類の味方に引き込めたら‥‥という噂があるのだよ。そこで、丹波をめぐる勢力の一つであり、いずれ戦うであろう冷凍軍の頭を一気に潰せないかと思ったのだろう」
「一応、お互い干渉しないっていう体になってたのでは‥‥」
「山名豪斬様が丹波藩主であったころならまだしも、丹波南東部の城を掠め取ってしまった今では冷凍に守る義理は無いさ。それこそ、改めて京都として冷凍と手を組みたいとでも言わなければね」
 不死城は現在、丹波東部に位置しているようであるが‥‥城に潜入するには問題が一つある。
 冷凍軍の最大戦力である、武装がしゃ髑髏‥‥『骸甲巨兵』の存在である。
 文字通り一騎当千の破壊力を持つその化物は、常に不死城のそばをうろついており‥‥生半可な戦力では時間稼ぎをするのも難しいだろう。
 それを掻い潜り、奇怪な城に潜入し、その中を進んで平良坂冷凍を殺す。
 焦っているにしても少々無謀すぎるプランだが‥‥。
「やってみなければ分からない、か‥‥。賭け以外の何物でもないな」
「私にはただのヤケクソに見えますけど‥‥(汗)」
 最早相容れない京都と冷凍軍。もし何かが違えば、協力することも出来たのだろうか?
 だが、我々は現実を生きている。今用意された道は、戦うことだけ。
 望み薄でも、ここで冷凍を倒すことが出来れば‥‥丹波での勢力図は、大きく変わるかもしれない―――

●今回の参加者

 ea6215 レティシア・シャンテヒルト(24歳・♀・陰陽師・人間・神聖ローマ帝国)
 ea6228 雪切 刀也(27歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 eb0334 太 丹(30歳・♂・武道家・ジャイアント・華仙教大国)
 eb0641 鳴神 破邪斗(40歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 eb2099 ステラ・デュナミス(29歳・♀・志士・エルフ・イギリス王国)
 eb2235 小 丹(40歳・♂・ファイター・パラ・華仙教大国)
 eb3797 セピア・オーレリィ(29歳・♀・神聖騎士・エルフ・フランク王国)
 eb5231 中 丹(30歳・♂・武道家・河童・華仙教大国)
 ec2108 春咲 花音(23歳・♀・忍者・人間・ジャパン)

●サポート参加者

レムリィ・リセルナート(ea6870

●リプレイ本文

●異質な者同士
『ほっほっほ‥‥まさかたった一人でここまで上がってこられるとは。相当な腕利きのようですね』
「‥‥さてな。文句はろくに機能しない自分の城に言え」
 現在は丹波藩東部に腰を落ち着けている不死城。
 その最上階に、平良坂冷凍は堂々と鎮座していた。
 他の冒険者よりかなり先行し、単身で不死城に潜入した鳴神破邪斗(eb0641)は、難攻不落と思われたこの城からさしたる妨害も受けず、冷凍の場所までたどり着くことに成功する。
 しかし、そこに居た冷凍は‥‥
『まぁいいでしょう。御用件を伺いますよ。お茶でもお出ししましょうか?』
「‥‥結構だ。それより同時に喋るな。不気味でかなわん」
『それは無理というものですよ。我々は二人で一人なのですから』
 そう、平良坂冷凍は二人並んで座っている。
 片方は例の黄泉人が変身したものだとわかってはいるが、台本どおりに進むわけが無い会話のキャッチボールでも冷凍たちは完璧に同時に同じ事を喋る。
 どうせ言っても聞かないと判断した鳴神は、用意していた質問をぶつけてみることにしたようだ。
「‥‥一つ。忘却の洞窟の調査を依頼したのはおまえか?」
『存じませんね。何か面白い収穫でもあったのですか?』
「‥‥聞いているのはこっちだ。二つ。仮におまえの身に何か起きた場合、不死城や配下の黄泉人達はどうなる?」
『そうですね‥‥今までどおりイザナミに対抗して動くか‥‥はたまた頭を垂れてイザナミの軍門に降るか‥‥それはその時の状況次第でしょうか』
「‥‥三つ。何より、この先、おまえは何を望む? 支配か? 破壊か?」
『ほっほっほ‥‥私たちの主旨は最初から変わっていませんよ。丹波藩を支配する‥‥それだけです。他の藩や京都に興味はありません。他所は他所で勝手にやっていただければよろしい』
 即答する冷凍。その言葉を、鳴神は嘘や冗談ではないと判断した。
 自らを悪人と認める鳴神だからこそ、冷凍たちの言動に信憑性があると直感する。
「‥‥正直に言えば、俺はおまえを暗殺しろと言われてきた。言わなくても分かっていると思うがな。だが、もう一つ正直に言うとお前の暗殺を決めかねているのも確かだ」
『ほう‥‥それは何故です?』
「‥‥俺は今の混沌とした現状が好きでな。混沌もろともこの国をぶち壊されてはつまらん。だがお前たちの存在は立派な混乱材料で‥‥っと、喋りすぎたか。お前たちは話しやすいのか知らんが、余計なことまで言ってしまったようだ。忘れろ」
『御要望とあれば忘れましょう。私たちとしましては、あなたとは良い関係を築けるような気がするのですがね』
「‥‥どうだかな。俺は一旦退く。場合によっては今度は首を取りに来る」
『ほっほっほ‥‥そうならないよう祈っていますよ』
 そう言って、悠々と最上階から降りて行く鳴神。冷凍もその背中を追おうとはしなかった。
 悪を裁くのは正義であると、普通は信じられている。
 だが‥‥悪が悪を裁く。それもまた、一つの真理なのかもしれない―――

●門番からしてこれだよ!
 鳴神から遅れること一刻ほど。
 残りの八人が不死城付近に到着した時、骸甲巨兵は以前のように、城の周りを警戒するようにぐるぐる回っていた。
 圧倒的な巨大さと威圧感。それは、遠目から見た初見のものたちにも充分感じ取れたようである。
 ちなみに、鳴神は堂々と城に入ろうとし、骸甲巨兵もその姿を確認したものの、襲おうとはしなかったという。
 一行は春咲花音(ec2108)に別地点で狼煙を上げてもらい、骸甲巨兵がそちらに向かった後に罠に誘導、一気に通り抜けるという作戦を練っており、実際にそれを実行に移した。
 しかし‥‥
「っもう、なんで無視!? ちら見すらしなかったよね!?」
 巡回するばかりの骸甲巨兵は、もくもくと上がった黒い煙に全く気付かず、あるいは無視して歩き続ける。
 狼煙で誘導できないのであれば、春咲が別行動を取っている意味は限りなく薄い。
「駄目みたいね。できれば遠慮したかったけど、突っついてみますか」
「じゃあ、予め泥濘を作っておくわ。無理はしないでね」
 レティシア・シャンテヒルト(ea6215)とステラ・デュナミス(eb2099)は、共に魔法で骸甲巨兵をなんとかしようと試みるメンバーである。
 フライングブルームで近づき、ムーンアローで牽制。追ってきたらファンタズムなりシャドウフィールドなりで撹乱してみようというのがとりあえずの策である。
 一人では危険だという意見もあったが、空を飛ぶ手段が無ければステラの策に繋げられない。
 可憐な歌姫は、果敢にも骸甲巨兵に近づき‥‥
「付いて来て貰うよ!」
 その細指から発射されたムーンアローは当然の如く骸甲巨兵に直撃し‥‥当然の如く、追いかけてくる!
 動きそのものは鈍重だが、巨体のため歩幅がでかい。もたもたしていると追いつかれる!
 逃げながらもファンタズムやシャドウFを連続使用するレティシア。しかし、骸甲巨兵にはまるで通用しない!
「くっ‥‥やっぱり他のアンデッド同様、本能で生者の気配を察知してるって言うの!? レティシアさん、こっち!」
 叫ぶステラに気付いたレティシアは、Fブルームを疾らせてぬかるんだ地面の上を通過する。
 精神面が駄目なら物理的な攻撃しかない。
 クリエイトウォーターで地面をぬかるませ、相手の超重量を逆に利用するのだ
 巨大な骨刀を振り上げて襲い掛かってくる骸甲巨兵がそれを踏み‥‥大量の泥を跳ね上げて見事に転んだ。
 18メート物巨大な人型の物体が尻餅をつくように地面と激突し、またしても泥を跳ね上げつつ地面を揺らす!
「わお、コケる時も豪快ねぇ! みんな、この隙に走るわよ! 絶対に振り返らないこと! クーリングもなし!」
 セピア・オーレリィ(eb3797)が、遠くに居る春咲も走り出したのを確認して一気に駆け出した。
 こうして、どうにか掴まらずに城に潜入した一行。
 正門をバーストアタックでぶち破った雪切刀也(ea6228)は、一番最後に城に入り時ポツリと呟いた。
「‥‥これ、帰りはどうするんだ‥‥?」
 重くなった自らの気分を振り払うように頭を振り、今は考えないことにしたようだ。
 瘴気渦巻く不死者の腹の中‥‥それが不死城の内部。
 門番で随分時間を取ってしまったが‥‥果たして―――

●迷いと影響
 平良坂冷凍軍は、軍というにはあまりに数が少ないというのは有名な話である。
 その十にも満たない戦力のどれもが突拍子も無い実力を持つのも確かなことなのだが‥‥。
「オス! 敵が全然見あたらないっす。平和っぽいっす」
「ホント。雑魚がわらわらーっと寄ってくるかと思ったんだけど」
 フトシたんこと、太丹(eb0334)と春咲が辺りを見回してみるが、普通の城の風景が広がるだけで辺りはしーんと静まり返り、ネズミ一匹姿を見ることは出来ない。
 だが、以前この城の本当の姿を見たことのあるステラが全員に注意を促した。
 もしかしたら、腕だけじゃなく怪骨くらいは精製できるかもしれない、と。
 とりあえずのところ白骨の腕も出て来る様子は無いので、一行はゆっくりと城の内部を進み始める。
 ぎしぎしと音を鳴らす木の床(に見える)を歩き、階段を上って二階へ。
 そこにもはやり敵はおらず、殺風景な茶色と白の世界が続くのみである。
「このまま何事も無く進めたら楽なんだが‥‥そうはいかないでしょうねぇ」
「そりゃねぇ。ちょっかいをかけられないっていう鳴神さんが羨ましいかも。っていうかどういう理屈なのかしら?」
 雪切とセピアが呟いた直後、フトシたんが何かに気付いて義兄弟の小丹(eb2235)と中丹(eb5231)に声をかける。
「小大兄、中小兄、どうしたっすか? 顔色が悪いっすよ」
「いや、何だか知らんが寒気がするんじゃ」
「あかんてほんま。クチバシがかじかむくらいやで」
 魔よけのお札も御守りも持っていない二人は、不死城に入ってからしばらくして、恐怖の影響を受け始めた。
 守りと御守りは似て非なるものであり、瘴気には多少効果があっても恐怖心は軽減してくれない。
 逆に言うと、瘴気対策として有効なアイテムを持っていないレティシアなどはガンガン体力が削られており、元々体力があるほうではない彼女はすでに息が荒くなっている。
「これはまずいんじゃ。役立たずになる前に、一気に上に上がって仕事をするんじゃ」
 小丹の言葉に全員が頷き、二階の回廊をぐるっと回って階段を見つけ、三階に上がる。
 しかしそこで一行が見たのは、二階と全く同じ風景であった。
 似たような風景というわけではない。城は上に行けば行くほど一階ごとの面積が狭くなるが、この三階は二階とまるで広さが同じなのだ。
 嫌な予感に駆られ、急いで四階に上がってみるが‥‥
「また同じ風景やないか。確かに階段を上がったはずやで」
「はぁっ、はぁっ、ま、窓から見える風景も‥‥変わりませんね‥‥」
 中丹とレティシアの言葉通り、一行に上に上がっている気配が無い。
 無限ループとも思える状況を、ステラは‥‥
「‥‥これは幻術? ミラーオブトルースを使えば見破れるかもしれないけど‥‥あれは‥‥」
 以前見た、ぐちゃぐちゃに融合した腐肉や骨の映像が脳裏に蘇える。
 レティシアの鎮魂の歌も、息を乱した状態ではまともに機能すまい。
「ちょっと待って。これ、まさか下に戻るときも無限に同じ景色‥‥なんて言わないよね?」
 春咲もまた、瘴気に有効なアイテムを持っていないので体力が削られていく一人。
 その言葉に全員がぎょっとするが後の祭りだ。
 進んでいるのか戻っているのかすらわからない無間地獄。
 一行の弱った心を狙い打つかのように、壁や床から無数の白骨の腕が生えてくる!
「うわわわわっ! こ、こここ恐いっす〜!」
「こういう状況、予想してた人居たわよね‥‥。嫌な予感ほど良く当たるって!?」
 セピアが槍を振るって腕を砕くが、砕いたそばから床に吸収され、また同じところから腕が生える。
 このままではジリ貧であるし、城を出られたとしてもへとへとのところを骸甲巨兵に襲われてはたまらない。
 状況を予想できただけに悔しいが、撤退するしかあるまい。
 しかし、その撤退をどうやってすれば‥‥
 と、そんな時だ。
「‥‥おまえら、何をやっているんだ。いい加減に待ちくたびれたぞ」
 回廊の角から鳴神がひょいと現れ、無数の骨の腕のなかを悠々と歩いてくる。
 影響が無いとは聞いていたが、ここまでガン無視されるのはどういうことなのか一行には理解できない。
「悪いんやけど、不調を訴える人が多いんや。おいらたちは撤退したいんやけど‥‥幻術でもかけられてるのか二階に降りられのうて困っとるんや。どうにかならん?」
「‥‥何を言ってるんだ。ここは二階だぞ」
「は? 何度も上に行く階段を上ったはずじゃ」
「‥‥ちっ、本気で茶飲み相手でもしていればよかったか。もういい、俺が案内してやる。さっさと退くぞ」
 鳴神を先頭に階段を降りると、一行は普通に一階に降りることが出来た。
 そして、骸甲巨兵が正門前を通り過ぎ、城の角を曲がったところで一気に撤退したという。
 勿論骸甲巨兵はそれに気付いたが、足元に近寄ってきた鳴神に一瞬気を取られ、機を逸した。
 その後、鳴神が襲われることも無く‥‥全員無事ながらも、依頼としては失敗となったのである―――