続・届かぬ返事 〜今、仇を〜

■ショートシナリオ


担当:西川一純

対応レベル:1〜3lv

難易度:難しい

成功報酬:0 G 78 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:09月28日〜10月03日

リプレイ公開日:2004年09月30日

●オープニング

世に星の数ほど人がいて、それぞれに人生がある。
冒険者ギルドでは、今日も今日とて人々が交錯する―――

「あぁよかった、いいところに! 実はですね、今回の依頼は急なんです。そして‥‥私からも是非完遂をお願いしたい依頼なんですけれど‥‥お話だけでも聞いていってください。聞いてくれますね? 聞いてくれたりゃー!」
 その場にたまたま居合わせた冒険者の一人に掴みかからんばかりの若い衆。普段持ちかけてくる妙な依頼の時とはまた別のハイテンションだった。
「実は少し前、『江戸から二日ほど行ったところにある親戚から文の返事が来ないから様子を見てきてくれ』という依頼があったんですが‥‥そこに行った冒険者さんたちが謎の妖怪に襲われ、撤退に追い込まれたんです。幸いその人たちに死人は出ませんでしたが‥‥依頼者の親戚さんたちは、もう‥‥」
 すでに主を失った屋敷。そこに住み着いていたモンスターによって住人は全滅させられ、冒険者たちまでが撤退を選んだという事実に、さしもの役所もモンスター狩りを決意し、乗り込むも返り討ち。返って犠牲を増やす結果となってしまった。今では屋敷から奴等が出ないよう監視するだけで、手は出せないでいる。
「専門家が調査したところ、『白溶裔』という名前であることが判明しました。台所の古雑巾が腐って妖怪になったと言われるもので、現在は立派に妖怪と認識されているらしいんですが‥‥」
 一般市民が相手をするにはあまりに強力すぎるその性質。空中をゼリー状の物体が浮遊し、接触した生物を酸で溶かして捕食する。
 勿論纏わりつかれれば武器や鎧も溶かされてしまう可能性があるという、厄介な敵だ。
「白溶裔は二匹。今も屋敷の中に潜み、餌が来るのを待ち構えています。このままでは屋敷の人たちも浮かばれません‥‥どうか、キチンとお葬式を挙げてあげるためにも、白溶裔の滅殺をお願いします‥‥!」
 前回と同じ依頼者、同じ場所。しかし今回の目的は様子見ではなく仇討である。
 故人の無念を晴らせるのは役所でも依頼者でもなく‥‥冒険者であるあなたたちしかいないのだ―――

●今回の参加者

 ea0030 玖堂 火織(30歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 ea5902 萩原 唯(31歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 ea6526 御神楽 澄華(29歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 ea6749 天津 蒼穹(35歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 ea7030 星神 紫苑(30歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea7084 胤奏 柳傳(53歳・♂・浪人・ジャイアント・ジャパン)
 ea7116 火澄 八尋(39歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea7246 マリス・エストレリータ(19歳・♀・バード・シフール・フランク王国)

●リプレイ本文

●決戦直前
「さて‥‥皆さん準備はよろしいですか? では、作戦を開始しましょう」
 御神楽澄華(ea6526)は日本刀を抜き放ち、再びやってきた屋敷を見上げる。志士である自分に二度目の敗北は許されない。そう彼女は呟いていた。
「はい‥‥今度こそ負けません。今回は案山子さんも用意しましたし!」
 同じく、前の依頼から参加している萩原唯(ea5902)も屋敷を見やり、ぐっと拳を握る。前回背中に大きな傷を受けた彼女だが、傷自体は綺麗に治してもらった。だが御神楽同様、心に受けた傷というか屈辱は拭いきれていない。
「よっしゃ。とっとと潰しに行こうぜ、その妖怪をよ。腕が鳴るってもんだ。全てを浄化する炎よ、剣となりて我が力となれ‥‥」
 御神楽、萩原と同様に白溶裔の誘導役を買って出た星神紫苑(ea7030)。すでにバーニングソードの詠唱に入っていた。
「では俺たちは手はず通り庭にでも潜んでいよう。誘導は頼んだ」
「お三方、気をつけてくれ。間取りは問題ないと思うが、敵は奇襲が得意だそうだからな‥‥」
 胤奏柳傳(ea7084)と火澄八尋(ea7116)も既に戦闘体制を取っており、準備は万端のようだ。
「‥‥じゃ、後任せた‥‥。あー、かったりぃ‥‥」
 欠伸交じりに呟いた玖堂火織(ea0030)は適当な場所を見繕うとさっと屋根に上ってしまい、ごろんと転がってしまう。
『玖堂様はそんなことでよいのか!? 何をしに来たのじゃ!』
 マリス・エストレリータ(ea7246)が玖堂の傍に飛んでいって捲くし立てるが、彼女の言葉を理解できる人間はとりあえずこの場になく、逆に寝に入られてしまう。
「そんなところにいたらいざという時にきついんじゃないのかー? というか危険なところで寝るな」
 天津蒼穹(ea6749)も声をかけるが、玖堂に降りてくる素振りはない。ドスの効いた声で『俺の眠りを妨げる奴は‥‥何人たりとも許さん‥‥』と返事するのみ。
「誘き寄せるまでは構いませんよ。では‥‥行きましょう」
 御神楽の音頭に従って誘導組みが屋敷へと潜入を開始する。バーニングソードで紅く燃えるように見える三本の刀は、非常に頼もしげに見えた―――

●誤算
「うあぁぁぁぁぁッ! し、しまったッ!」
 肉の焼ける嫌な臭いが立ちこめ‥‥白溶裔に纏わりつかれた御神楽の左腕が激しく痛む。意識が飛びそうになるのを必死に堪え、バーニングソードを付与した刀を押し当てることで引き剥がす。
「ぐおっ‥‥! じょ、冗談じゃない! 二匹同時に出てくるなんざ聞いてないぞ!」
 同じく付与魔法をかけた日本刀で白溶裔を引き剥がした星神。だが敵はかすり傷程度に対しこちらは二人が中傷。台所に踏み込んだ瞬間に奇襲を受けた三人は、明らかに形勢不利だった。
「星神さん、あなた足を‥‥!」
 萩原は案山子を派手に歩かせて牽制するが、どうやら白溶裔は生物でないものにあまり興味がないようだ。ふよふよと空中に舞い上がると、また御神楽、星神に向かって接近する。
「ちっ、くそったれ! このままやられっぱなしでたまるか!」
 リカバーポーションを飲み干して傷を回復した星神は、魔法が効いたままの日本刀で斬り付ける! だがやはり大した効果は認められない。
「ぐっ‥‥あれでも駄目だなんて‥‥! お二人とも、やはり一旦外へ!」
 痛みだけが鋭く走る左腕を庇い、御神楽は作戦通りの動きを指示する。萩原も星神も頷き、来た道を戻っていく。白溶裔の動きは緩慢で少し走るだけで引き離せてしまうため、時々立ち止まらなければいけないのが歯がゆい。
「‥‥あれ? 一匹ついてきてませんよ!?」
 萩原の叫びに振り返ると、ふよふよと追ってくるのは確かに一匹だけ。だが戻るわけにも行かず、今は一匹だけでも外に追い出して潰した方がいいだろう。そうでなくても、もう少しで出口なのだ―――

●今、仇を
「来た! 御神楽殿たちは無事のようだぞ!」
「後ろにいるのが敵か‥‥あんな妙な物体に、何人もの人間が‥‥!」
 厳密に言うと無事ではないのだが、待機組みも構えを取って誘導組みを迎える。
「御神楽殿、一匹しかいないようだが‥‥と、その傷‥‥襲われたのか」
「ええ、気配が殆どつかめなくて‥‥不覚を取りました。も、もう一匹は途中で追ってこなくなってしまいまして」
 回復役がいないのはかなり厳しい。受けた傷はそのまま放置しておくしかないため、長期戦は更に不利だ。
『玖堂様、誘導組が戻ってきたようじゃぞ。いい加減起きるのじゃ!』
「‥‥何言ってるかわからないんだよ、まったく」
 一方、屋根の上の二人も事の次第に気付いたようだが、具体的な策を講じられるような意思の疎通はできていない。ぷっぷくぷーとマリスの笛が虚しく響くだけだった。
『歯がゆいのう‥‥どうしたら分かって‥‥うお!?』
「‥‥どうした?」
 玖堂を指差したまま固まるマリス。正確には、指差したのは玖堂の背後に突如出現した白溶裔‥‥!
「ぐがっ!? ち、ちぃぃぃっ! どこから出てきた!?」
 恐ろしいことに瓦と瓦の間から、にゅるっとところてんのように出現したのだ。予想だにしなかった出現方法で、背中をしたたかに焼かれた。
 どうやら屋敷の中で見失った一匹は、玖堂の気配を感じて屋内から屋根に向かって移動していたらしい。
『だ、大丈夫かの!? 昼間というのが難点じゃが‥‥ムーンアローを喰らえぃ!』
 マリスの手のひらから発生した光は的確に白溶裔を捉えるが、まるで効いていない。無傷とまでは言わないが、致命傷は程遠いようだ。
「‥‥退け‥‥俺は寝起きが悪いんだ‥‥貴様‥‥生きて帰れると思うなよ‥‥」
 リカバーポーションで回復した玖堂は日本刀を抜き放ってソードボンバーを放つ。回り込んで下の庭に向かって放たれたもので、屋根の被害は最小限だ。
 ダメージ自体はさほどないようだが、さしもの白溶裔もバランスを失って地面に叩きつけられる!
「お前等には恨みは無いが…人が悲しむのは見たくないんでな。力無き者に変わり、この俺が刃となろう! 天津蒼穹、いざ、参る!!」
「アイスブリザード‥‥水分が多いようだからよく凍るだろう!」
 天津と火澄が各々別の目標に攻撃を仕掛けるが、オーラパワー付きの槍はにゅるっとした体に大した効果がなく、アイスブリザードも体内の酸を活性化させて防いでいるのかいまいち効果が上がらない。
「まさに化け物だな‥‥ならば俺の必殺のこの攻撃、受けきって見せろ!」
 胤奏のダブルアタックとストライクEXを合成した超攻撃。ダブルアタックEXは基本的に頭を使って三発目放つため、このモンスター相手には自殺行為だ。
 だがそれでも充分‥‥あのタフな白溶裔が衝撃で十メートル以上吹っ飛んだ。
「ま、まだ生きてるのかよ!?」
「あれを喰らって無事だなんて‥‥あの妖怪って不死身なんじゃないんですか!?」
 星神と萩原が叫ぶのも無理はない。だが一見大したダメージはない様に見えるが、実はすでに中傷なのだ。スライム状のモンスターはダメージの判別がしにくいだけ。もっとも、『まだ中傷』というべきなのかもしれないが。
「もはや手段は選びません‥‥私の志士の誇りを、この一撃にかけます!」
「無茶ですよ! 左腕が使えないような傷で!?」
 バーニングソードをかけなおし、再び紅く染まる御神楽の刀。集中する意識‥‥そして、力! この状況でのスマッシュEXは、まさに一か八か!
 魂を込めた一撃が、今炸裂する―――!

●届かぬ返事‥‥届く想い
「よかった‥‥御神楽さん、傷は癒えたんですね。御神楽さんも女性ですから、大きい傷は残ったら嫌でしょうし」
 冒険者ギルドの若い衆はほっと胸をなでおろし、報告に来た星神、マリス、火澄の三人に茶を勧めた。
「あぁ‥‥それにしても凄いやつらもいたもんだ。素手であの化け物を追い込むやつがいたかと思えば、刀でぶった切るやつもいる。まぁどっちも一発でトドメとは行かなかったけどな」
「相手が頑丈すぎるのだ。あれを喰らって動けることがむしろ恐ろしい」
 御神楽の攻撃は確実に大きなダメージを与えたが、それでも即死にいたらないという恐ろしい強靭さを発揮した白溶裔を褒めるべきだろう。もっとも、ダメージが大きくて纏わりつくのもままならず、一行に大した損害も与えられず二匹とも抹殺されたのだが。
『私は殆ど役に立たなかったのう‥‥最後に火澄様と鎮魂の曲を吹いたくらいじゃろうか?』
「それだって立派なことですよ。御神楽さんには笛は吹けないですから、マリスさんがいてこそです」
 何故かマリスの言語を理解している若い衆が通訳をする。ギルドに勤めていると自然と身につくとは本人の談だが‥‥。
「萩原殿が家人の墓も造ってくれたし、花も供えた。我らが奏でた曲が、彼らに届くといいのだが‥‥」
「そうだな‥‥家ん中見たけど、酷い有様だった。一太刀なりとも叩き込めてよかったと思ってる」
 家人はどれだけ恐ろしかっただろうか。どれだけ悔しかっただろうか。その無念を晴らしてくれた彼らに、きっと感謝しているはずだ。
「あ、いたいた。これからまたお墓参りに行くんですが、皆さんもいかがですか?」
「あの時はまともなお供えもできなかったしなぁ」
 ひょいと顔を出したのは萩原と天津、そして数人の男女。どうやら以前の依頼を受けた面々らしい。
『よいのう。ジャパンではこの世に生きている人間が想う事で、死者は無事天国にいけるといわれておるのじゃろう?』
「ええ、そうですよ。私もギルドの仕事休んで行きたいくらいです―――」
 依頼主も墓参りに行くだろうし‥‥もうあの家の人々も寂しくなくなるだろう。
 願わくば、彼らに想いが届き‥‥安らかな眠りが訪れんことを―――