西洋からの悪魔狩り

■ショートシナリオ


担当:西川一純

対応レベル:11〜lv

難易度:普通

成功報酬:5 G 55 C

参加人数:6人

サポート参加人数:-人

冒険期間:05月26日〜05月31日

リプレイ公開日:2009年06月02日

●オープニング

世に星の数ほど人がいて、それぞれに人生がある。
冒険者ギルドでは、今日も今日とて人々が交錯する―――

「我々はローマより来た悪魔狩りの神聖騎士である! ニシヤマカズミという記録係はおるかっ!?」
「はい? 西山は私ですが‥‥」
 ある日の冒険者ギルド。
 突然西洋鎧と両刃の剣で武装した騎士たちが5人ばかりギルドに押しかけ、職員の西山一海を大声で指名した。
 見ず知らずの西洋人、とりわけ悪魔狩りなどと言い出す人間に縁は無いはずなのだが。
「おぉ、君か。君がこのギルドで一番カミーユ・ギンサという少女について詳しいと聞いた。話を聞かせてもらおうか」
 リーダーと思わしき口髭を生やした中年の神聖騎士は、ヘルムを取って一海の前に立つ。
 カミーユの名を出され、一海は瞬時に話の筋を理解し、心中穏やかではなくなった。
 断言しても良いが、彼らはろくな事を言い出さない。できれば関わりたくないものだが‥‥。
「カミーユという少女には悪魔ガミュギンが取り付き、我が物顔でタンバという国を闊歩していると聞く! 悪魔、それ即ち絶対悪であり、世界の敵だ! 所在が知れたものから始末していくことこそ世界の安定に繋がるのだ!」
「えっと‥‥つまり、ガミュギンを倒しに行くから情報を寄越せ、ついでに道案内もしろ、と?」
「ほう、話が早いな! 悪魔を討つのは犯罪ではない。冒険者ギルドとしても断る理由はあるまい?」
 確かに、正式に依頼として出されるのであれば一海に拒否権は無い。
 だが、カミーユといえばつい最近、埴輪大魔神をコントロールしつつ京都の味方っぽくなったばかり。
 いきなり悪魔狩りの連中が襲ってきたりしたら、へそを曲げたりしないだろうか?
 そうでなくても、埴輪大魔神で迎撃されるのは目に見えているわけで。
「情報を教えるのは構いませんけど‥‥止めておいた方がいいと思いますよ? 最近、強力なしもべを手に入れてますます強力になってますし‥‥」
「はっはっは、その程度で恐れをなす我々ではない!」
「き、京都の西には野良アンデッドがまだまだうろついてまして、丹波に行くだけでも結構危ないんですよ?」
「任せたまえ! 我々がついでに浄化してやろう!」
「駄目だこの人たち‥‥早く何とかしないと‥‥」
 止めても無駄なのはよく分かったが、彼らをただ行かせては色々厄介ごとが起きそうである。
 そこで一海は、依頼の内容を『悪魔狩り騎士団の道案内兼監視』とした。
 要は、彼らが無茶をしそうならさりげなく妨害し、カミーユがやりすぎて彼らを殺してしまいそうならせめて命だけは助かるように補助してやってくれ‥‥ということである。
 京都上層部にしても、せっかく協力してくれそうな存在であるカミーユを再び敵に回したくはないだろう。
 自信満々の悪魔狩り騎士たち。
 例え言葉通りの実力があるにしても、その行動が正義だとしても、状況を考えて欲しいものである。
 かくして、妨害・補助を同時にこなすという、奇妙な悪魔狩りへの同行依頼が出されたのであった―――

●今回の参加者

 ea0042 デュラン・ハイアット(33歳・♂・ナイト・人間・ビザンチン帝国)
 ea3891 山本 建一(38歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea6526 御神楽 澄華(29歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 ea9527 雨宮 零(27歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 eb2483 南雲 紫(39歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 eb3225 ジークリンデ・ケリン(23歳・♀・ウィザード・ハーフエルフ・フランク王国)

●リプレイ本文

●その実力は
「ゲーツ、ハイロは左へ回り込め! カウル、バーチカは私と右から攻める!」
『Yes Sir!』
 例の悪魔狩り騎士団のリーダー‥‥マーカスが剣を振りかざして指示をすると、他の四人は左腕を胸の前にやり、整然と小気味よく応え、素早く動いていく。
 その動きはよく訓練されたものであり、彼らが一朝一夕の付き合いではないことを如実に語っていた。
 京都から丹波への街道は、以前出された残党狩りの依頼のおかげか前よりは接敵頻度が少なくなっている‥‥はずだった。
 しかし、今回はちょっとばかり事情が違うのである。
「あちらへルートを取ればデビルの下へ辿り着くだろう。途中少々アンデッドがいるが、貴殿らの実力なら大した事はあるまい。他のルートよりは敵の数が少ないぞ」
 騎士団が三体の死人憑きを撃破した直後、グリフォンで空からの偵察に出ていたデュラン・ハイアット(ea0042)がタイミングよく戻ってきた。
 いちいち探さなくても遭遇する無数の不死者。だが、その言葉とは裏腹に、デュランはわざと不死者の多いコースを報告し、その道を辿らせているのだ。
「むぅ‥‥聞きしに勝る無法地帯ぶりであるな! しかし、デュラン殿ほどの騎士に案内をしてもらえるとは光栄である!」
 マーカス以下ローマからの騎士団は、大言を吐くだけあってその実力は確かであった。
 個々の実力ではこの依頼に参加している冒険者全員に劣るものの、その精錬された連携があれば実力差は充分埋まる。
 故に、うろついている野良不死者程度ではさしたる障害にならず、一行はずんずん進んでいく。
「こう言っては何ですけど、みなさん思った以上に強いですね。動機の方も、きちんとした正義感からのようですし‥‥」
「確かにね。でも、その正義感は今の日本には邪魔以外の何者でもないわ」
 雨宮零(ea9527)と南雲紫(eb2483)は、剣を抜くことすらなく道中を随伴している。
 これは別にサボっているわけではなく、騎士団の方が『手助け無用』と言い出したからである。
 実際問題、手を貸さずとも騎士団は負けなかったし、南雲にしてみれば手を貸したくは無いから丁度よかったが。
「‥‥やれやれ‥‥私の名声を信じて、索敵も一任か。余計なことをされるよりは良いが‥‥」
 デュランからしてみれば、騎士団が不死者を索敵する手段を持っており、自分の案内など要らないと言われてしまうのが一番困る事態であった。
 だが、著名な騎士であるデュランの言葉を騎士団は誰も疑いもしない。
 信頼されていることを喜ぶべきか、騎士団の無頓着さを責めるべきか、微妙なラインだ。
 そんな能天気とも言える騎士団との道中を、二人の女性は対照的な反応で進む。
「西の不死者も『ついでに』討つ、ですか‥‥。あの死に物狂いの決戦も、流された血と涙も、積み上げられた時間も知らぬ者が、何を‥‥」
「はぁ‥‥鬱陶しいこと。埴輪大魔神さんに会えないのでなければ、こんな茶番引き受けませんでしたのに」
 何度も振り返り、倒された不死者を悲しそうに見つめる御神楽澄華(ea6526)。
 騎士団にも不死者にも興味を示さず、つまらなそうに何度もため息をつくジークリンデ・ケリン(eb3225)。
 どちらも、今回の『監視込みの同行』という主旨は理解しているし、達成している。
 だが、どこの誰とも知らない、ましてや今までの事情も知らない者が突然現れて悪魔を倒してやるなどと言われても正直迷惑だと思っているのだ。
 野良アンデッドとは、それ即ちイザナミ軍の被害者に他ならない。それを『ついでに』などと言われて倒されては、例え正論でもいい気分はしないものである。
「皆さん、そろそろ丹波です。カミーユさんは神出鬼没だそうなので、気をつけてくださいね」
「はっはっは、悪魔とは大抵神出鬼没なものである。だが、その心配は素直に受け取ろう、少年よ!」
「‥‥僕、とっくに成人してるんですけど‥‥(汗)」
 休憩も適宜に取り、進んでいく騎士たち。あまり疲労度は高くないようだ。
 雨宮の言葉通り、いくらも歩かないうちに丹波藩との国境が見えてきた。
 青く晴れ渡る空とは対照的に、冒険者の心は微妙に暗い―――

●こっそり
「御神楽さん、あれは一体なんですの? 見たところこの国の人間ではなさそうですけれども」
「すいません、カミーユ嬢。私たちも連れてきたかったわけではないのですが、彼らだけで来させると要らぬ面倒を起こしてカミーユ嬢の機嫌を損ねてしまうと思ったもので‥‥」
「あら、わたくしのため? 嬉しいことを言ってくれるじゃありませんの♪」
 丹波に入ると、不死者と出くわす回数は微妙に増えた。
 そこで御神楽もグリフォンで偵察に出るということになったのだが、御神楽はこっそりと小さな森に降り立ち、目標であるカミーユ・ギンサと内密に会っていたのである。
 詳しい説明は省くが、カミーユは御神楽と南雲の気配を察知し、居場所を特定することが出来る。
 自ら会いに出てきたカミーユだったが、見慣れない騎士たちが五人もいることに疑問を持ち、こうして姿を隠して御神楽と密会することにしたのだった。
「彼らはローマからの悪魔狩りと名乗り、カミーユ嬢を討伐すると息巻いています。実力の方も、個々では劣りますが連携するとなれば私でも苦戦は必死でしょう。どうします?」
「どうって‥‥埴輪大魔神でぷちっと―――」
「そ、それは駄目です! 人死にが出ないようにと私たちが付いて来ているのですから!」
「えー。じゃあわたくしが直接手を下すのも駄目ということですわよね‥‥」
「あ た り ま え で す」
 首を捻りながら悩むカミーユを見て、御神楽は来て本当に良かったと確信する。
 断言してもいい。御神楽か南雲が説得しなかったら、カミーユは絶対に騎士団を全員抹殺していただろう。
「言っておくけど、姿を隠したままやり過ごすって言うのも無しよ。会えるまで何度も来られても嫌でしょ?」
 木々の間から、南雲がひょいと姿を現す。
 御神楽の目配せで事情を察知した南雲は、怪しまれないように時間差でカミーユに会いに来たのだ。
「ならどうすればいいんですの? 殺さない程度に痛めつけて追い返せ、と?」
「それが無難かしらね。もしくは、また来る気が起きなくなるくらい精神的に追い詰めるとか」
「嫌ですわよ。わたくし、そんな器用な真似出来ませんわ。多分、追い詰める前に殺しちゃいますもの」
「相変わらず、相手が男だと容赦ないわね‥‥」
「当たり前ですわ。男なんて、馬鹿で阿呆で臭くて汚くて下劣で卑猥でデリカシーがなくて勝手で無神経などうしようもない生物じゃありませんか」
「いや、全部が全部そういうわけでもないでしょ‥‥」
「過去に何か嫌な思い出でもあるのですか?(汗)」
 お前にもいくつか当てはまるだろ、というツッコミはとりあえず飲み込んでおく御神楽と南雲であった―――

●劇場型
「お〜っほっほっほ! そんな状態でわたくしの前に現れるなんて‥‥勇気と無謀を履き違えているのではなくて!?」
「くっ‥‥貴様がガミュギンか! 例えどれだけ消耗していようと、我らの正義の心は折れはしないのであるッ!」
 高い岩場から、一行と騎士団を見下ろすように現れたカミーユ。
 そして、荒い息を吐きながらも果敢にそれを見上げ、戦う意思を曲げない騎士団。
 はたから見れば盛り上がりのあるカッコイイ場面なのかもしれないが、御神楽と南雲から大筋を聞かされた冒険者からしてみれば茶番以外の何物でもない。
 御神楽と南雲がやはり時間差で戻ってきた後、一行はカミーユ探索という名目の下、騎士団をひたすら不死者と戦わせ続けるためにあちこち連れ回したのである。
 総数百近い不死者と断続的に戦闘を繰り返し、流石に体力をすり減らした騎士団。そして、それを狙いすましたかのようにタイミングよく現れたカミーユ。
 勿論これは御神楽と南雲とカミーユによる打ち合わせの結果であり、カミーユは姿を消したまま一行の近くに常に居た。
 そして頃合を見計らって姿を見せたという流れなのだが‥‥これ以上ない出来レースであろう。
「よろしくてよ‥‥その暑苦しさに免じて、埴輪大魔神の相手をすることを許しましょう。来なさい!」
 パチン、とカミーユが指を鳴らすと、上空から巨大な物体が垂直落下してきて、大音響と共に地面に降り立った。
 輝く白い鎧に神の文字。顔に描かれた黒いヒゲ。
 音に聞こえた埴輪大魔神を前に、さしもの騎士団にも焦りが見て取れた。
 と、そこに!
 ゴゥン、と巨大な火柱が立ち、騎士団とカミーユの間を遮った。
 その強力なマグナブローを放ったのは‥‥ジークリンデである。
「その辺でよいでしょう? それとも石化がお好みでしょうか? 何か御座いますか?」
 静かに‥‥それでいて迫力のあるジークリンデの言葉。
 本来ならば冒険者の仲間内と騎士団がもめた時に使おうと思っていた文句らしいが、彼女も仕方なく茶番に付き合うことにしたようだ。
「あら‥‥あなたがたもわたくしと戦うおつもりですの? くすくす‥‥埴輪大魔神を突破できるかしら」
「いざとなれば腕の一本もいただきます。できなくても、誰も死なせはしません!」
「‥‥あなたも可愛いけれど男ですのね‥‥まったく、最近はどうなっているのでしょうか」
「な、何のお話ですかっ!?」
「別に。兎に角、今のわたくしは倒されるわけにはまいりませんの。丹波を守るためにはね!」
 ジークリンデを庇うように前に立ち、白刃を向ける雨宮。勿論これも打ち合わせの内。
 デュランも内心あきれつつ参加してくれる。
「丹波を守るだと‥‥? 悪魔がどういうつもりだ!」
「わたくしは自由を尊びますの。そしてわたくしは丹波という藩が気に入った。それを守って何が悪いんですの?」
「解せませんね。ジャパンの岐阜に第六天魔王、江戸には七大魔王のマンモン。そんな大物がこの国を脅かしているというのに、あなたは守るというのですか?」
「イザナミの封印を解けという指令はもう終わりましたので、後は知ったことじゃありませんわ」
 ジークリンデがさりげなく他の悪魔の居場所を吐露し、カミーユがあくまで丹波を守る姿勢であることを誇示する。
 この間、騎士団は完全に蚊帳の外。
 冒険者とカミーユのやりとりを、呆然と見ていることしかできなかったのである。
 彼らの信じてきた悪魔討つべしという教えの中では悪魔は絶対悪であり、破壊者である。それが人類を守るなどと言い出したらそれは驚くだろう。
 しかし、リーダーのマーカスは信じきれない様子。
「馬鹿を言うな! そんなことを言って、気が変わればその丹波を自ら滅ぼすつもりであろう!」
 それに対し、怒りマークを浮かべたカミーユは、ちらりと南雲を見る。
 ヤッチャッテヨロシイカシラ?
 オネガイガマンシテ。
 そんな無言のやり取りをしているのを悟り、デュランがフォローを入れた。
「マーカス、ここは戦略的撤退だ。いずれ討つにしても順番を考えた方がいい。他に危険なデビルはごまんと居る。脅威度の低い悪魔を無理をして討つこともあるまい」
「しかし、デュラン殿!」
「状況を考えろと言っている。卿ら程の神聖騎士をこんなところで失うのは惜しい」
「むぅ‥‥疲弊してさえ居なければ! わかりました、マーカス殿。ここは退くぞ!」
「‥‥我ながらよく言ったものだ」
「は? 何か?」
「何でもない。ストームで隙を作る。急げ!」
 ため息を吐きつつ、魔法を埴輪大魔神にぶつけるデュラン。
 ジークリンデだけをその場に残し、一同は素早く撤退する。
 何故彼女が残ったのかというと‥‥
「‥‥あなたには名前が無いのですか? それとも‥‥砕かれた心と共に、失くしてしまったのですか‥‥?」
「こんな物体の名前を知ってどうするんですの? 埴輪大魔神でいいじゃありませんか」
「‥‥放っておいてください」
 リシーブメモリーで埴輪大魔神の真の名前を知ろうとしたジークリンデだったが、失敗。
 言葉少なに冷たく言い放ち、カミーユの前から立ち去っていった。
 騎士団はというと、とりあえずカミーユよりも他の悪魔を優先させようという結論に至ったらしく、京都に戻ると東の方へ旅立っていったという。
 茶番も丸く収まるなら悪い手段ではない。そう考えさせられた一件であった―――