誠の在処
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■ショートシナリオ
担当:西川一純
対応レベル:11〜lv
難易度:普通
成功報酬:5 G 55 C
参加人数:6人
サポート参加人数:1人
冒険期間:06月17日〜06月22日
リプレイ公開日:2009年06月25日
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●オープニング
その日、冒険者ギルド職員の西山一海は、晩飯を食べるべくとある飯屋の暖簾をくぐった。
別に贔屓にしているわけではない。ただ単に、腹の虫が鳴いたときに近くにあったというだけの理由だ。
注文した焼き魚定食をつついている時、近くの座敷の会話に聞いたことのある名前が話題に出ていると気付く。
よーく耳を澄まして聞いてみると‥‥
「おいおい、そのまま置いてけぼりにしたのかよ? 結構いい女だったんだろ、蝗(ホアング)姉妹って」
「ツラはよかったんだけどなぁ。あいつら性格がすんげぇ暗くてさ。『どうせ私たちなんて‥‥』とか、『太陽なんて‥‥汚してやる!』とか、怖いんだよな」
どうやら先のイザナミ軍京都来襲時に戦った冒険者の一部のようだ。
ちなみにホアング姉妹とは、蝗蹴(ホアング テイ)と蝗殴(ホアング ツォウ)という拳法家姉妹のこと。
腕は立つがどうにもネガティブ思考で、近隣住民とトラブルを起こすことも少なくないという。
話によると、どうもそのホアング姉妹もイザナミ軍との戦いに参加していたらしい。
この冒険者たちと同じ遊撃部隊に組み込まれ、戦っていたらしいのだが‥‥圧倒的な敵の数の前に、善戦虚しく部隊は崩壊、各員バラバラに逃げた。
「しっかし、お前も酷ぇよなぁ。普通女に殿なんてやらせるかぁ?」
「うっせい。姉貴の方の‥‥テイだっけか? あいつ、『‥‥今、私のことを笑ったわね?』とか因縁つけてきてさ、問答無用で蹴りやがったんだぜ!? ちったぁ世間の厳しさを知ろってんだ」
「小っちぇー!」
「だろ!?」
「いや、お前もだっつーの(笑)」
この話を聞き、一海はギルドで話題に上っていたある依頼の事を思い出す。
二人の女格闘家が、とある小さな村を野良不死者から守るべく滞在して戦っているという。
しかし、敵はあまりに多く、流石の二人でもそろそろ限界に近くなってしまった。
村人からは、世話になっている恩人の負担を少しでも減らすためにと、ギルドへ増援願いが出されていたのだ。
小さい逆恨みから戦場に残され、また新たな地獄と人の醜さを見たホアング姉妹。
それなのに村を守っているというのはどういう心境なのだろう?
一海は定食を平らげると、冒険ギルドへと踵を返したのだった―――
●リプレイ本文
●ねがてぃぶ
「‥‥いいわよねぇ、あんたたちは。華やかな活躍ができ‥‥てっ! どうせ私たちなんか‥‥」
「同情なんていらないわよ。あんたち、ホントはあたしたちを笑いに来たんで‥‥しょっ!?」
凄まじいスピードの蹴りと拳が怪骨に直撃し、その体をいともたやすく砕く。
件の村に着いた冒険者たちは、例のホアング姉妹が丁度不死者と戦っているところに遭遇した。
服のあちこちが破れたままだったり薄汚れていたりするのが、こう言ってはなんだがみすぼらしい。
「久しぶりだというのにご挨拶だな‥‥。少なくとも私は懐かしい名を助けに来た。それだけだ」
カノン・リュフトヒェン(ea9689)は手始めにストームを使用、ホアング姉妹に向かっていた後続の死人憑き三体と怪骨四体を吹き飛ばして距離を取らせた。
しかし、面識のあるカノンを前にしてもホアング姉妹は頑ななままだった。
「あぁ‥‥私たちに冒険者になればいいとか勧めたやつだっけ。助けに来た? 笑わせないでよ」
「冒険者になったって良いことなんてなかった! 光を求めてイザナミ軍と戦ってみれば捨石にされるし! ‥‥そうか‥‥わかったわよ。あんた、あたしたちが冒険者としても成功しないのを予想した上で勧めたんでしょ!? それを影でほくそ笑んでたんだ!」
「うっわー‥‥からかう気もなくなるくらいドン引きするわ‥‥。ネガティブって言ったって限度があると思うのよね」
姉のテイ、妹のツォウともども、攻撃の後にふらつくほど疲労が溜まっている。
それが更に思考を悪い方向へ導くのか、インタビュゥを得意とするヴェニー・ブリッド(eb5868)でさえ迂闊に話しかけるのを躊躇ってしまうほど二人のオーラは沈んでいた。
「これほどの陰の気‥‥守られてる村人の方々もネガティブ思考になってないといいんですが‥‥」
「うー、同郷だから少しは話せそうかと思ってたけど、無理っぽいかなー。ってゆーか、めんどーい」
「それを言うたらお終いですやん。とりあえずうちらは野良不死者を倒しときましょか」
「そう、それ! その『野良』っていうのもおかしいと思うのよね! 野良よ野良! 犬か猫感覚なのかってゆーのよ。この依頼人、バっカみたーい!」
「最近はイザナミ軍の指揮の下、軍団を形成していることも多いですから。野良が駄目ならはぐれ不死者辺りでいかがです?」
「いや、そんな真面目に返されてもねぇ‥‥(汗)」
琉瑞香(ec3981)や王冬華(ec1223)はホアング姉妹と同じく華仙教大国の出身である。
別に同郷だから同情したというわけでもないのだろうが、あまりのとっつきの悪さにやはり引き気味。
即刻諦めるかのような王の言葉を受け、ニキ・ラージャンヌ(ea1956)はとりあえず不死者の撃破を進言する。
依頼の目的はあくまでホアング姉妹の救援だ。彼女らが戦わずに済むよう、敵を撃破してしまうのもいいだろう。
野良、つまり明確な目的を持たない不死者には琉やニキのホーリーフィールドが良く効く。
見えない壁に阻まれ、怪骨や死人憑きが滑稽にもがいていた。
そこをアンデッドに滅法強いオーラ魔法使い、王が鉄扇で華麗に撃破していく。
「私にも残しておいて欲しいものだな。話は邪魔な連中を片付けてからの方がいい」
「邪魔な連中、か。間違ってはいないが、こうなる前に彼らを助けてやりたかったものだ‥‥」
南雲紫(eb2483)やカノンもまた、刀や剣を手に敵を撃破する。
ヴェニーなどは、魔法を扇状にする必要も無い。
一人一匹屠ればいい計算なので、重たいのを一匹に集中してやればそれで済む。
今回集まった面々からしてみれば、十匹にも満たないアンデッドなど準備運動程度だろう。
野良不死者は組織的行動を取らない。つまり、襲撃も小規模が散発的にといった具合になる。
とりあえず、今のところはこれ以上の襲撃はないようであった―――
●留まる理由
「それじゃ、一応インタビュゥ。話じゃ殿として取り残されて酷い目に遭ったって聞いたけど、何でこの村を守ってるのかしら? 別に故郷ってわけでもないでしょうに」
その日の晩。
ホアング姉妹に提供されているという家に押しかけた冒険者たちは、村人たちが差し入れてくれた料理をホアング姉妹と一緒に食べることにした。
それは質素ではあるが、確かな感謝の意の込められたもので、冒険者にもホアング姉妹にも分け隔てなく振舞われた。
初めて食べた一行にも分かるくらいなのだから、いくらひねくれていると言っても姉妹にも分かっているはずだが‥‥?
「‥‥理由はこれよ。ここで不死者を倒していれば食べるのに困らないもの」
「ふん。あたしたちだって、好きでこんなちっぽけな村にいるんじゃないわ。でもね、町がでかければでかいほど人の心は醜くなるのよ。あたしたちみたいな闇の住人には、でかい町には敵が多すぎる」
「敵、ね‥‥。あなたたちの意見にも一理あるけど、村人たちは心からあなたたちに感謝してる。それは分かるでしょ?」
「だから? 感謝じゃお腹はいっぱいにならないのよ。結局、人は人を利用することしかしない。なら私たちだってこの村を利用させてもらうわ。それが世の中の仕組みだって骨身に染みたものね」
「ず、随分頑なになってもうてまぁ(汗) あんたら、ゲンを担いで服の色でも変えてみたらどないです? 今の緑と茶色から金と銀にでも変えれば金運付くかも知れへん。色んな意味で」
「そんなんで人生が変わるならみんなやってるわよっ!」
南雲やニキの言葉にも、姉妹は聞く耳を持たない。
だが、頑固に反発するその言葉とは裏腹に二人の顔色はあまり良くない。
夜の闇の中、蝋燭の火に照らし出されているにしても微妙に冴えないと、今まで数多くの怪我人や病人を見てきたニキや琉には感じられる。
こんな時、魔法で人の性格を救うことができたらどんなに楽だろうかと思うこともある。
しかし、メンタルリカバーなどはあくまで一時しのぎにしかならないし、魔法で無理矢理性格を変えられたとしてもそれは本人のためにならないような気もするのだ。
と、そんな時である。
「テイさん、ツォウさん、大変だよ! また不死者が!」
一人の中年女性が、慌てて家に入ってきてそう告げた。
野良不死者はいつでも現れる。こちらの都合など考えてはくれない。
「なるほど‥‥こうやって体調を崩していくわけですね」
「わぉ。お肌にも悪そうだし、まさに乙女の敵ねぇ」
琉とヴェニーがあきれたように呟く間にも、ホアング姉妹は戦闘の準備をする。
立ちくらみを起こしたかのようにふらつくその足取りは、見ていて不安だ。
「お前たちはゆっくりしていろ。私たちが片付けてきてやる」
「何よ!? 手柄を横取りして、あたしたちの居場所を奪うつもり!?」
「‥‥少し‥‥頭冷やそうか‥‥? 私たちはお前たちを助けてやってくれという村人たちの想いに応えてここに来たんだ。仕事はキッチリこなすつもりだし、村人の優しさを理解できないというなら殴り倒してでも休ませるぞ」
カノンの言葉は厳しい。だが、その裏には確かな心配と優しさがある。
ツォウが言葉に詰まったのも、それをなんとなくでも感じ取ったからだ。
「優しくされていないのに慣れてないのね。でもね、仮に人の九割が優しくなかったとしても、残りの一割は優しいものよ。全部優しい人なんてことはないし、全部優しくないなんてこともないの。そしてあなたたちは今、優しい人たちの中に居る。それだけは確かだから‥‥覚えておいて」
「難しい話はパスパ〜ス。冬華さんたちは急いでアンデッドを倒しに行かなきゃ! それがみんなのためになるの!」
南雲も王も、笑顔を見せて素早く家を出て行った。
一人だけ、優雅なしぐさで家を出るヴェニーの背中に、テイは問いかけた。
「‥‥あなたたち‥‥何者なの?」
「通りすがりの冒険者よ。覚えておいて♪」
やがてヴェニーの気配も遠のき、家に残されたテイとツォウ。
しばしの沈黙の後‥‥テイは、ポツリと呟いた。
「‥‥もう一度求めてみましょうか‥‥。光を‥‥」
「姉さん‥‥!」
●誠の意味
「カノン‥‥『誠』というのは難しいものだな」
「‥‥そうだな。あの姉妹にとってはこの村はただの食い扶持だったのかもしれないが、村人からしてみれば救世主に見えただろう。それこそ『誠の人だ』とな」
「打算無く守る、打算無くありがたがる。どうして全てがそうなれないのか‥‥悲しいものだ」
夜に襲ってきた不死者はわずか三体。怪骨が二体と怨霊が一体。
無論言うまでも無く南雲やカノンの敵ではない。話しながらの戦闘など朝飯前だ。
人の価値観がそれぞれ違うように、誠の基準も人それぞれ。
とりあえず、打算で守っていたものが打算抜きに変化していくことを望むしかないのだろうか?
「バっカみたーい。悪いことばっかり考えるより、楽しいこと考える方がよっぽど気が楽なのに」
「自分で自分を追い込んでまう人たちもおるんですわ。誰が悪いわけでもないんです」
「そ・れ・で・も! 辛い事だって、その辛いことそのものがだんだん気持ちよくなって―――」
「そないマゾい考え、万人に通用しまへんから! 無茶言わんといてくださいな!?」
前衛組みである王とカノン、南雲で敵を蹴散らしてしまったので、ニキや琉は手持ち無沙汰だ。
そうなるのを予想していたのか、ヴェニーは少し遅れてゆったりと登場した。
「どうでしたか、お二人は。まだ戦うと息巻いておられましたか?」
「んー? んーん、大丈夫じゃないかしら。人には、インタビュゥしなくても分かる時があるものよ♪」
何が嬉しいのか、扇で自分をパタパタ扇いで笑顔を浮かべ、姉妹の家のほうをみやるヴェニー。
質問した琉は首を傾げるばかりであったが。
自分のことを心配してくれる人がいる限り、人は生きていける。
星空の下、冒険者たちはホアング姉妹の今後に幸あれと願うのであった―――