バトルファイトだ!
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■ショートシナリオ
担当:西川一純
対応レベル:フリーlv
難易度:普通
成功報酬:0 G 65 C
参加人数:4人
サポート参加人数:1人
冒険期間:06月30日〜07月05日
リプレイ公開日:2009年07月06日
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●オープニング
世に星の数ほど人がいて、それぞれに人生がある。
冒険者ギルドでは、今日も今日とて人々が交錯する―――
「というわけで、仔神傀竜(ea1309)さんという方からバトルファイトを開催したいとの御依頼をいただきましたっ!」
「君が唐突に話題を振るのはいつものことだが、あえてツッコむぞ。バトルファイトでは『たたかい』という言葉が二回連なっていて、『闘い戦い』という意味合いになってしまうのだが」
「こまけぇこたぁいいんですよ!」
ある日の冒険者ギルド。
職員の西山一海と、その友人である京都の何でも屋、藁木屋錬術によるボケとツッコミのやりとりは、周りの職員は勿論、足を運んでいた冒険者にすらなじみのやり取りとなっていた。
これできちんと仕事はしている二人であるが、初見の者には何事かと思われることも多い。
「要は武闘大会のような、腕試しの場を設けたいということなのだろう?」
「ぶっちゃけて言えばそうです。依頼書にもあるんですが、武闘大会って魔法が禁止されてて、魔法を主力としてる方々には縁遠いものなわけじゃないですか? ペットも連れて行けませんしね。そこで、仔神さんは魔法あり、素手戦闘あり、ペットでの攻撃すらありの何でもありの試合をしたいということらしいんです」
「まぁ、武闘大会には向かない戦闘スタイルの人も多いからね‥‥。諸々の規定は?」
「勝敗条件は、相手に『参った』と言わせることだそうです。ただし、相手を重傷以上にしては駄目で、逆に失格になってしまうとか。ついでに場外もありで、決められた範囲から外に出ると失格。飛行手段で場外を回避するのは禁止。と、こんなところですかね」
「ふむ。相手を必要以上に傷つけてはいけないルールとなると、いかにして相手に『参った』と言わせるか、場外に弾き飛ばすか‥‥だな。中々奥深そうだね」
「ですよねー。試合はトーナメント形式で、勝ち進んで優勝をもぎ取るという形になります。勿論、賞金も出るそうですよ。最近腕がなまったと思っている方も、純粋に腕試しをしたい方も、知恵と実力をフル活用して頑張っていただきたいと思います!」
「陰謀も決死の覚悟も要らない試合、か。今のご時勢では貴重な機会だ。私も参加したいくらいだよ」
戦いにも色んな種類がある。
何かを守る戦い。勝ち取るための戦い。より高みを目指す戦い。
優劣があるわけではないが、どうせやるなら純粋に憂いなくやれるほうがいい。
達人同士であるならば、加減しながらの駆け引きは‥‥意外と難しい―――
●リプレイ本文
●第一試合
「神聖騎士のソペリエ・メハイエ(ec5570)です。よろしくお願いします」
「なまった体をほぐす程度の心積もりでしたが‥‥どうやらいい勉強が出来そうです」
七月某日、晴れ。
暑すぎず寒すぎずといった絶好の行楽日和の中、特設会場が設けられたとある神社には五十人ほどの見物客が陣取っており、試合開始を待っていた。
混沌とした情勢下にあって、娯楽の少ない昨今‥‥面白そうなことは何でも見ておきたいのかもしれない。
予め引いておいたくじの結果、第一試合はソペリエとディファレンス・リング(ea1401)の戦いとなったようだ。
両者礼をして距離を取り‥‥やがて、審判が開始の声を高らかに上げた。
それと同時にディファレンスが動き、ウインドスラッシュでソペリエを攻撃する!
武闘大会では見られない魔法攻撃が早速炸裂したとあって、見物人から歓声が上がった。
「いきなりですか。しかし!」
ブロッケンシールドを構え、魔法を防御するソペリエ。
バチィンと耳障りな音を立て、真空の刃が霧散する。
「くっ!」
小さくうめいたディファレンスを尻目に、ソペリエはブロッケンシールドを構えたままその効果を発動。
予め用意してもらった灰を利用し、アッシュエージェンシーを連続発動して二体の身代わりを製作する。
ソペリエそっくりとはいえ、それらはさほど知性の無い紛い物。吹けば飛ぶような儚い存在だ。
その二体に前に出ろと命じ、自らも同時に駆け出す。
接近戦となれば、神聖騎士であり経験も上のソペリエが圧倒的に有利なのは言うまでもない。
だが!
「接近戦は遠慮したいところです! 真牙壬!」
ペットもOKなこの試合、ディファレンスは柴犬をけしかけて時間稼ぎをしようとする。
臭いで本体を嗅ぎわけ、真牙壬は真っ直ぐにソペリエに噛み付きにかかる!
「そうはいきませんっ!」
またしても盾で防御するソペリエ。だが、足を止めてしまったことにより身代わりと同時に進むという作戦は失敗に終わり、身代わりたちはただただ前へと進んでしまう。
そして‥‥!
「真牙壬!」
主人の叫びの意図を察し、真牙壬が素早くソペリエから離れる。
そこにディファレンスが準備していたトルネードが発動、ソペリエは竜巻に巻き上げられて宙を舞う。
地面に叩きつけられたソペリエだが、そこは騎士の防御能力と体力がものをいう。
まだまだ余裕ありげに立ち上がり、今度は身代わりなしで直進する!
「ウインドスラッシュ!」
「残念ですが、火力が足りませんね!」
苦し紛れに放たれた魔法を盾で防ぎ、急接近。そしてコアギュレイトでディファレンスの動きを束縛する。
参ったと言わせるまでも無い。こうなっては場外に落とされるのも時間の問題だ。
「いやぁ‥‥参りました。己の未熟さを知る次第です」
「お気を落とさず。相性が悪かったのです」
こうして、いきなり魔法を駆使した戦いが展開され‥‥第一試合はソペリエの勝利となったのであった―――
●第二試合
「ミーはシワヨセを運ぶブル〜キャットネ♪ バトルファイトでハッスルアル♪」
「ん〜、遠目から見てる分には楽しそうだけれどお近づきにはなりたくないかしらね。好みのタイプじゃないもの」
第二試合は、サントス・ティラナ(eb0764)と企画者である仔神傀竜(ea1309)の組み合わせ。
片や全身青い猫のような衣装に身を包み、片や物腰の柔らかそうな僧侶。ちなみにどちらも『男性』である。
そのあまりのギャップというか相反する属性に、会場からは『傀竜さ〜ん!』という女性からの黄色い声と『サントスおじちゃ〜ん!』という子供からの声援が起こるというどうにも珍妙な光景となっていた。
そして、審判から開始の合図が出されると‥‥!
「ムーフーフーフーフー。レッツダンシンネ〜♪」
開始と共にいきなり踊りだすサントス。
外見もさることながら、いきなりの奇行に仔神は何かあるのではと攻撃に二の足を踏む。
一方のサントスは、踊りながらライトの魔法(基本的に無害)を発動し、招き猫のようなポーズで決めっ☆
その行動の意図が理解できず、仔神も大半の見物人もポカンとしてしまう。喜んでいるのは子供たちだけだ。
「相手はラブリ〜チャァ〜ミ〜なミ〜に戦意喪失ヨ〜♪ オゥピチョン! ココは張り手ボンバァ〜ヨ〜!」
サントスのペット、スノーマンが主人の声に反応して仔神に近づいていく。
が、そのまま殴られてやるほど仔神もお人好しではない。
「はっ。もう、意味が分からないことしないで欲しいわ‥‥ねっ!」
すんでのところで我に返り、手にした錫杖でピチョンを殴り飛ばす!
ごろごろごろ〜、と派手に転がっていき、丸いだけにそのまま場外に転げ落ちてしまった。
「オゥ、ピチョン〜! ナンタルチア〜!」
頭を抱えてピチョンの心配をしているサントス。その背後に仔神が近づき‥‥
「はいっ」
「オゥッ!?」
すぱーん、と錫杖で足を払われ、サントスは受身も取れず横倒しとなる。
「あら、小柄なだけに意外と軽いのね。慶ちゃ〜ん、手伝って〜」
ペットの慶翁(ボーダーコリーという犬)を呼び、転がったサントスを一緒にごろごろと押していく。
ピチョン同様、丸いだけによく転がるサントス。
一応人間なりの抵抗として、場外ギリギリで態勢を立て直そうとしたのだが‥‥
「ごめんあそばせ、狸さん♪」
「ミーは狸じゃないアル〜!」
げしっと蹴り落とされ、哀れサントスは抗議の声と共に場外負けとなったのである―――
●決勝戦
さて、決勝戦は勝者であるソペリエVS仔神のカードが組まれることとなった。
お互い、前の試合で相手の実力や作戦は大方把握している。
会場の見物客からも、屈強な騎士であるソペリエ相手では仔神に勝ち目は無いという雰囲気が漂っており、開始前から消化試合との見方が多かった。
それは勿論、戦う当の本人たちが誰よりも理解している。普通に戦えば、どう頑張っても仔神に勝ちはあるまい。
だが‥‥
「棄権する‥‥という雰囲気ではありませんね。その闘志は賞賛に値します」
「そんな大層なものじゃないわ。ただ、ちょっと意地張ってみたくなっただけよ♪」
ソペリエは盾を。仔神は錫杖を構え、開始の合図を待つ。
真剣にやりあうのだという二人の雰囲気をさっしたのか、いつの間にか観客からはわずかなどよめきが置き始める。
そして、注目を浴びる中‥‥審判が開始の声を高らかに上げた。
ソペリエは今回もブロッケンシールドの効果で灰による身代わりを作り出す。
しかし、第一試合と違って相手が先手必勝を仕掛けて来ないのを確認し、次々と身代わりを増やしていく!
総計五体ものそっくりさんを作り出したソペリエ。
折角魔法の使える大会なのだから、有効活用しない手は無い。
実力の差を知っていてなお、戦うと決めて挑んで来た相手に全力を出さないのも失礼というものだろうから。
六人のソペリエが一斉に駆け出し、仔神へと肉薄する。
普通ならばこれで決まりだ。仔神に抗う術は無い。‥‥そう、普通ならば。
「こういうのはどうかしら!?」
「なっ!?」
目前まで迫ってきた六人のソペリエの中から正確に本物を見抜き、ダークネスの魔法を仕掛ける仔神。
不意に視界が真っ暗闇になり、足を止めようとしたが、先に何かに躓いて地面に手をついてしまう。
場外ではないので負けではないが、足先に感じたのは肉のような質感だった。
要は仔神は魔法を使うとほぼ同時に、ソペリエの進行方向と垂直になるように地面に転がったのだ。
十秒ほどで効果が切れてしまうことを知っている仔神は、ソペリエの下から這い出て‥‥
「晴れた! ‥‥っ!?」
視界が戻ったソペリエが一番に見たのは、目の前に突き出された仔神の手の平。
爪にもしっかり手入れが行き届いた、僧侶より先に男としてありえないような綺麗な手。
そこから何らかの魔法が発動されたかと思うと、ソペリエの身体からがくっと力が抜けていく。
急速に体温が奪われていくような脱力感‥‥ビカムワースの魔法だ。
仔神は深追いせず、魔法を使用した後すぐさま飛びのいて距離を取る。
武装に関係なく中傷を追わせられたソペリエは、逃すまいと必死に手を伸ばしたが空を切った。
「さ、流石発案者ですね。重傷にさせず私をこうも翻弄するとは‥‥!」
「さっきの試合で魔法を使ってたら多分通用しなかったでしょ。猫騙しみたいなものよ」
仔神の表情は、飄々としたそれではなく‥‥奇襲はもう使えないという焦り交じりのものだった。
不意打ちは何度も通用しない。後はもう実力で立ち向かうしかないのだ。
「‥‥一つ、お聞きしたいのですが‥‥六人の中からどうして私を判断できたのですか?」
「そりゃ、いくらそっくりって言っても目の前で偽物作られてもねぇ。本物から目を離さなければいいだけの話でしょ」
「あ‥‥。こ、こほん。覚えておきましょう」
「それに‥‥本物のあなたの目は、身代わりにはない意思の光があったもの♪」
くどいようだが、仔神は男である。まぁソペリエが女性なので問題はない気もするが。
さて、今度はソペリエが知恵を使う番のようだ。
盾を構えつつしばし考えたソペリエは、不意に警戒を解き、あまりに無防備に、普通にすたすたと歩を進めた。
一瞬あっけにとられ、すぐに魔法の詠唱に入り‥‥そこで気付いて、仔神の表情が強張る。
待ち構えて魔法で迎撃するのはいいが、すでにソペリアはビカムワースで中傷を負っている。
そこにもう一度ビカムワースを撃ち込めば、相手を重傷にしてしまうことで仔神自身が失格となってしまうのだ。
それに考え至ったソペリアは、勝利を確信して悠々と歩くことにしたのである。
こうなってしまっては流石にもう手詰まり。健闘したのは確かだが、最後は自分が提案したルールに足元を掬われる結果となってしまったのは残念なところ。
かくして‥‥一位、ソペリエ。二位、仔神。三位決定戦の結果はディファレンスが勝利という結果を以って全試合が終了。
観客からの暖かい拍手の中‥‥魔法やペットに彩られた武闘大会は、和やかに幕を閉じたのだった―――