たからのちずをてにいれた!

■ショートシナリオ


担当:西川一純

対応レベル:1〜5lv

難易度:普通

成功報酬:1 G 35 C

参加人数:4人

サポート参加人数:1人

冒険期間:08月23日〜08月28日

リプレイ公開日:2009年08月28日

●オープニング

世に星の数ほど人がいて、それぞれに人生がある。
冒険者ギルドでは、今日も今日とて人々が交錯する―――

「ねんがんの たからのちずを てに いれたぞ!」
「ころしてでも うばいと‥‥りはしないが、何だね、急に」
 ある日の冒険者ギルド。
 職員の西山一海は、基本的にお祭り行事が好きな人物である。
 最近は暗い話題が多いので特にその傾向が顕著で、そこに宝の地図などという面白そうな話が舞い込めばテンションが上がらないはずがない。
 それを重々承知している彼の友人、京都で何でも屋を営む藁木屋錬術は、半ば呆れたように聞き返した。
「実はですねー、とある村にある神社の宝物殿から、古い地図が出てきたそうなんですよ! 神主さんの一族にも伝わっていないっていう謎の地図! しかもそれには、目的地と思わしき場所に『宝』って書いてあったんだとか! いやー、テンションあがりますわー!」
「いや、恐ろしく怪しいじゃないか。普通、宝などとわざわざ書くか? 子供のいたずらの可能性のほうが高い」
「ふっふっふー、わかってませんね藁木屋さん。それくらいは私にも分かります。しかしですね‥‥この地図、紙なんですよ。ほら、実物も預かってたりします!」
 そう言って一海が広げて見せたのは、まっ茶色に変色したごわごわの紙。
 随分薄くなってしまっているが、そこには墨で山と思わしき地形と、確かに『宝』と書かれていた。
 今でさえ紙は安くないのに、時代が遡ればそれだけ紙の価値は上がっていく。
 それを鑑みれば子供がいたずらで書いたという可能性は低いし、いたずらにしてはかなり細部まで描き込んである。
「これは‥‥京都の南というより、もう奈良に近い場所かな? しかし、こんなに在処が明白なのに何故ギルドに依頼を‥‥と、言うだけ野暮か」
 今のご時勢、片田舎の村人に山を探索しろというのはかなり危険だ。
 どこに不死者や妖怪がいるか知れないし、黄泉人などとかち合ったら最悪だ。
 そういうことも含めて、村は冒険者ギルドに依頼をしてきている。
「そういうことです。さぁ、どんなお宝が飛び出すか‥‥興味津々ですよっ♪」
「まぁ、私も興味が無くもないが‥‥さて、何が見つかるのやら‥‥」
 神社の宝物殿で見つかったという宝の地図。
 それが指し示す先にあるのは、いったいなんだというのだろうか?
 村の宝? 神社の宝? 真相を知るためには、冒険者の力が必要不可欠―――

●今回の参加者

 ea6215 レティシア・シャンテヒルト(24歳・♀・陰陽師・人間・神聖ローマ帝国)
 eb0655 ラザフォード・サークレット(27歳・♂・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 ec4935 緋村 櫻(27歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 ec5127 マルキア・セラン(22歳・♀・ファイター・ハーフエルフ・ビザンチン帝国)

●サポート参加者

ラヴィサフィア・フォルミナム(ec5629

●リプレイ本文

●ドキドキキャンプ
「はぁ〜い、皆さんご飯ですよぉ。出来上がりましたぁ」
 フリフリのメイド服を身にまとった一人の女性が、おたまを片手に仲間に呼びかける。
 マルキア・セラン(ec5127)。家事も戦闘もお任せの万能メイドさんだが、彼女が今居るのはお屋敷でも食事処でもなく‥‥大分涼しくなってきたとはいえ夏の山である。
 夕暮れの山にメイドさん。ぶっちゃけ違和感バリバリだ。
「これはありがたいです。申し訳ないです、任せっきりにしてしまって」
「あ、いいのいいの、好きでやってるんだし。西洋風の味付けがお口に合うといいけど」
 召集の声に応えて戻ってきた緋村櫻(ec4935)。彼女は付近の安全確保のために離れすぎない程度の距離を警戒していた。
 マルキアと同じく調理を担当していたレティシア・シャンテヒルト(ea6215)は、マルキアとの料理の腕の差に内心愕然としつつもパンなどの用意に余念がなかった。
 そして、最後に‥‥。
「はっはっは、山中にまでメイドさんを引き連れて食事を作ってもらうとは‥‥中々出来ない体験だな。空気はいいし、眺めはいいし、たからのちずのロマンにメイドさん付き。いやぁ‥‥いいなぁ」
 噛み締めるように呟きながら戻ってきたのは、ラザフォード・サークレット(eb0655)というウィザードである。
 気持ちは分かるが、ちょっと気を緩めると口元がにやけているのが気持ち悪い(酷)。
「ろまんですか。男性ってその一言に弱いですよね」
「何を言うんだ。ロマンというのは男も女も関係なく、人間なら誰しもが追い求めるべき真理だぞ? ロマンを追い求めるのが若さの秘訣と言っても過言ではない。ほら、人間、夢や希望を失くすと途端に老けるだろう?」
「いや、言いたいことは分かるんだけどここで熱弁振るわれてもね。ほら、料理が冷めちゃうわよ」
「OKマルキアさん。あんたにはお礼もかねてこれを進呈しよう。共にロマンを味わおうじゃないか!」
「うさぎさんの耳‥‥ですかぁ?」
「あぁそうさ。これで君は『メイド』から‥‥『うさ耳メイド』に超変身なのだよ。まさにうさ耳脅威のメカニズム。これさえ着ければ君の戦闘力は色んな意味で数倍にべばらっ!?」
 何故か懐からラビットバンドを取り出しながらマルキアに迫るラザフォード。
 しかし、見かねたレティシアは調理の際に余っていた小型の鍋を使い、ラザフォードを殴り倒した。
「料理が冷めるって言ってるのに‥‥なんで分かってくれないのかな? 私の言ってること‥‥そんなに間違ってる? 少し‥‥頭冷やそうか‥‥?」
「待ってください! 何かすごーくヤバい予感がするのでその辺にっ!?」
「レティシアさん、そのヤンママみたいな表情はあとで修正されかねませんよぉ!?」
「う、うさ耳を! マルキアさんに被せてやる! 私とてうさ耳好きの男だ! うさ耳公国に栄光あれぇぇぇっ!」
「いつまで引っ張るつもりよ、そのネタでぇぇぇっ!」
 果たして、四人は冷めるまでにシチューを口に出来るのであろうか―――(ぇ)

●宝?
「‥‥緊張して眠れんかった」
「あら、随分繊細じゃない。確かに目的地は目の前だけど」
「四人用のテントに女性三人男一人! あぁ、分かっている‥‥変な気など起こさないさ。しかし、眠っている女性たちにこっそりうさ耳をつけてみたいという欲求が次から次へと沸き起こり、その欲望に理性がいつ負けてしまうのかという緊張が常に私の中に‥‥」
「充分変な気起こしてるんじゃないの! しかもより変態チックに!?」
「違う、私は変態でも狼でも無い! 仮に変態だとしても逸れは変態と言う名の紳士であってだな‥‥!」
「‥‥あのお二人、朝から元気ですねぇ。ラザフォードさん、もっとクールな人かと思ってたんですけどぉ」
「ネタになる要素が多すぎたんでしょうね‥‥。お二人とも、遊んでないで進みますよ!」
 マルキアと緋村はさっさと荷物をまとめ、まだ喧々囂々としているラザフォードとレティシアに声をかけた。
 旅の末、奈良一歩手前の山地‥‥つまりはたからのちずに描かれた場所までやってきた一行。
 道中、猪に追われたりはしたが特に妖怪などに襲われることはなく、旅は順調であった。
 一応、出発前に陰陽寮で地図の場所にまつわる伝承や霊的価値などを聞いてはみたのだが、特筆することはなく。
 つい昨日、依頼元の村にも立ち寄って聞いてみたが、その村では地図に描かれた山にはあまり近づかないのだという。
 別に妖怪がどうとか縁起が悪いとかではなく、『そこまで行かなくても充分村周辺で自給自足できる』かららしい。
 要は、無理して遠出をしても得るものがない‥‥ということのようだ。
 逆に言えば、そういう場所だからこそ何かを隠すには丁度いい‥‥のかも知れない。
「さて‥‥ここからどうしますか? この付近ではあるのでしょうが、地図が大雑把過ぎて詳細な場所は依然不明ですよ」
「洞窟とか無いですかねぇ。滝の裏側とか。多分、目印になるようなものがあると思うんですよねぇ」
 緋村の言うこともマルキアの言うことももっともである。
 そこに至るまでは非常に役に立つ地図だが、場所についてからの情報が一切ない。
 宝と書くのはいいが、地図として残すからには誰か他の人間も見ることを想定していたはずなのだ。
 そういう場合、現地に行けばすぐに分かる目印のようなものがあるか‥‥口伝で確かに後世に残すかする必要がある。
 今回の場合、後者の可能性が潰えているので目印を目視で探すしかあるまい。
「そろそろ本気を出すか。あまり裕福とは言えない村から出た宝の地図だ‥‥金銀財宝ではないと推測する」
「宝は物とも限らないわ。この景色が宝‥‥っていうのもありえるけど、そこまでいい景観じゃないわね‥‥」
 ラザフォードを先頭として、辺りをざっと調べてみる。
 素人でも宝を隠せそうな場所となると、そう険しい所ではあるまい。
 レビテーションで空中から見回してみるラザフォード。
 すると、目の端に何か動くものを捉えた。
 仲間の姿ではない。犬鬼(コボルト)と呼ばれる妖怪の一種だ。
 それが、ただの崖と思われていた場所からひょっこり出てきたのだから妙といえば妙だ。
 地上に戻り、そのことを仲間に知らせるラザフォード。
 そういうことならと、緋村が先陣を切って犬鬼に向かい、あっさり斬り捨てた。
「ちょっ!? テレパシーで話を聞けたのに! 問答無用で斬り捨てるってどうなの!?」 
「犬鬼は鉱物毒を扱うんです。会話している間にやられたらどうします。で、これがどこから出てきたんですか?」
「あっちの崖だ」
 件の場所へ行ってみると、草が生え放題になっていて、崖にも蔓状の植物が大量に引っ付いていた。
 よくよく調べてみると、太陽光が当たらないせいか草のせいか‥‥周りと同化してしまっている空洞を発見。
 かろうじて人が一人通れるくらいの草の隙間の奥に、ぽっかりと洞窟のようなものが口をあけていた。これは地上から見たのでは気付けないし、空から見ていても犬鬼が出てこなければ分からなかっただろう。
 一行は内部に更なる気配を感じ取り、慎重に歩を進めた。
 すると‥‥
「て、敵ですっ! い、いきますよぉ!」
「だから待ってってば! 話くらいさせてよ! 余計に戦う必要はないでしょ!?」
 マルキアがコボルトを見つけて身構えるが、レティシアがそれを止める。
 が、ラザフォードは肩をすくめて口を挟んだ。
「無理無理。あれ見てみな」
 コボルトたちの更に奥。レティシアが持っていたランタンの光に照らされて、何かがキラキラ光っている。
 それを確認した瞬間、確かに話し合いは無理そうだと感じた。
 暗闇の中で光を受けて輝く透明な物体。
 この洞窟の温度を下げ、快適にしている‥‥
「こ、氷が宝ですか!?」
「いやぁ、無理もないだろ。水系の魔法使いでも常駐してなきゃ、夏の氷なんて至高の一品なのだよ」
「犬鬼さん、夏は鱗が乾いちゃいそうですもんねぇ」
「そういう問題じゃなくて! あの大きさじゃ持って帰るのも無理そうだし、無理に持って帰ろうとしても溶けちゃうだろうし‥‥無理矢理コボルトたちを追い出すのも酷いし‥‥」
 要はここは氷室とでも言うのか、苦悩するレティシアの身長よりも高く積まれた氷目当てで犬鬼が集まっているようだ。
 長い間放置されていたせいなのか、想像以上に立派な氷。それこそ用途などいくらでもあるだろう。
「で? どうするかな、歌姫さん」
「こんな時ばっかり真面目に聞かないでよ‥‥。仕方ないわね、必ず持ち帰れって言われたわけじゃないんだし帰りましょ。帰り際に村に寄って事情を話せばいいと思うわ」
「後の処遇は村人の考え方次第ですか。それが無難でしょうかね」
 緋村に殿を任せ、洞窟を出て行く一行。
 中には手にした剣を投げつけてくる犬鬼もいたが、ラザフォードがサイコキネシスで防御する。
 かくして、宝の正体は真夏の氷という答えを以って閉幕した。
 氷の処遇、犬鬼との折り合い。
 後の判断は、村人に委ねられたのであった―――