【京都のアイドル】ライブの陰で
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■ショートシナリオ
担当:西川一純
対応レベル:1〜5lv
難易度:普通
成功報酬:1 G 35 C
参加人数:6人
サポート参加人数:1人
冒険期間:10月23日〜10月28日
リプレイ公開日:2009年10月29日
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●オープニング
「いやー、随分好評みたいですね、例のアイドルの皆さん方」
「そうだな。お堅い上層部が考えた割にはいい案だったようだね。まぁ、いつの時代も偶像は必要なものだよ」
ある日の冒険者ギルド。
職員の西山一海とその友人である京都の何でも屋、藁木屋錬術は、最近巷で話題のアイドルについて話していた。
京都公認との触れ込みで開催されたオーディションにより誕生した四人のアイドルたち。彼女らはその魅力によって人々を魅了し、あっという間に口コミで浸透していった。
貴族にもファンが居るとさえ言われる彼女たちは、歌や踊りという分かりやすいパフォーマンスで知られる。
それも、浪曲とか日本舞踊といった格式高い‥‥つまりはとっつきにくいものではなく、誰にでも口ずさめる歌やちょっと真似すれば子供でもできそうな振り付けが評価されているらしい。
「しかーしですね‥‥どうやら人気が出すぎるのも問題なようでして。徐々に舞台を見に来る人が増えるにつれ、どうしてもマナーの悪い人とか、勝手に舞台に上がろうとする人とかが出てしまっているようなんです」
「それは私も聞いたが‥‥今の京都に、アイドルの歌舞台に警備の人間を裂いている余裕はないだろう。というか、一海君がやればいいではないか。気になっている娘がいるのだろう?」
「そうしたいのは山々なんですが、一応私にもギルドの仕事がありまして‥‥。休みの日だったらいくらでもやりますが!」
「ふむ、先が読めたぞ。折角仕立てたアイドルたちの活動を円滑に続けてもらうために、冒険者に警備を頼もうと言うことか。そういえば近々、また歌舞台があるそうな」
「はい。結構作詞が大変です」
「だから何故君が作詞担当なんだ!」
「他にああいう曲調に作詞が出来る適当な人材が居ないんです! 雅楽に合わせて歌うアイドルなんて私は嫌ですよ!? 今のロックやポップでキュートにヒラヒラ、ダッシュでウフンで萌え萌えキュンな路線が大衆に好かれてるんですから!」
「日本語で頼む」
「日本語ですっ!」
兎に角、要約すると『ライブ当日の警備を頼む』という依頼が京都上層部から出たと言うことである。
客の大半は純粋に楽しむために来ているが、中には酔っ払いや妨害目的に来るものもいるらしい。
そういう輩からアイドルを守りつつ、円滑にライブを進めるのが目的となるだろう。
もしかしたら、楽屋でアイドルとお近づきになれるかもしれない―――
「‥‥真面目な話、既存の芸術家の中にはアイドルをよく思っていない者も居るという。自分たちに向けられていた大衆の目を奪われてしまった格好になるわけだからね」
「人を雇って嫌がらせでもするつもりだ‥‥と? ならまた振り向かせる努力をすればいいのに‥‥!」
「感情論さ。そう簡単なものではない。後は、何事も起こらないか‥‥参加者が上手く捌いてくれるのを期待するしかない」
●リプレイ本文
●見解の相違
「私達は伝統を蔑ろにするつもりは毛頭ありません。むしろ互いを意識し、競い合うことでそれぞれを高めていきたいと思っています。優劣などつけようとは思いませんが‥‥私達としても、目標は高いところに居て欲しいのです」
京都内のとある日本舞踊の家元宅にて、鹿角椛(ea6333)を筆頭とする冒険者が話し合いを求めた。
礼儀作法に則ったきちんとした服装で挑んだアイドルの姿に、先方も無下にはできなかったようだ。
厳格そうな老人を前に、鹿角は一歩も引かない気構えで臨んでいる。
黙って鹿角の言葉を聞いていた老人は、ややあって口を開いた。
「‥‥あなたがたが京都でも権力ある方々の発案で『アイドル』とかいうものになったというのは、遺憾ながらも存じております。その関係上、我々も無理に辞めてくれとは申しておりません」
「しかし、現実問題として私たちは何者かの嫌がらせを受けることがあります。自白した犯人の中には、こちらのお名前を出した者もいるようですが‥‥?」
「妄言でしょう。あるいは性質の悪い貶めですな。伝統も格式もある我々が、品のないぽっと出の輩相手にそんなことをする必要などありません」
「流石、格式が高ければ鼻っ柱もお高い。では眼中にない我々へのやっかみは今後無くなるのでしょうね」
「さぁて‥‥どうですかな。人気者はいつの時代でもやっかみの一つや二つ受けるものですぞ。わしも若い頃などは、他の舞手を贔屓にしていた女子や兄弟子などから素敵な仕打ちを受けたもの」
「それはお気の毒に。まぁ、今は誰にも興味を持たれないでしょうから気楽でよろしいのでは?」
「ふっふっふ‥‥!」
「はっはっは‥‥!」
丁寧な中にもあからさまに込められた刃物が煌く言葉の応酬。
気まずい以外の何物でもないこのやりとりは、場所は違えど本日三回目である。
所々台詞の内容は違うものの、最終的な結論や流れはほぼ同じ。
「要は『目障りだから潰す』って言ってるのと同じよねェ。あれは折れる気無いわね」
「思ったより根が深そうですね。しかし、強硬的なのは踊りや音楽と言った方々だけで浮世絵の方々などは理解をしてくださっているようです。この辺りは鹿角さんの交渉術もあったかもしれませんが」
先ほどの屋敷を後にし、直接ライブ会場に向かう最中、同行していた頴娃文乃(eb6553)と長寿院文淳(eb0711)がやれやれといった具合で呟く。
長寿院が言ったように、舞台系の芸術家はどうしてもアイドルたちを受け入れられず反発する。
浮世絵などの芸術家は仕事が増えると最終的には好意的ですらあったが、やはり嫌がらせは続くのか。
「金の流れができるなら話は纏めやすいんだけどなぁ‥‥日本舞踊とかとアイドルはまるで方向性が逆だから利権を回すこともできない。向こうには向こうの自尊心なんかもあるしさ。厄介なもんだ」
互いに人々に見られる立場であるが故に起きる見解の相違。
でしゃばるなと言われてはいそうですかと控えられる職業ではないし、それはファンのためにもならない。
平行線を辿るアイドルたちと芸術家たち。
あまりお上の威光は借りたくないのだが―――
●フィーバー(熱狂)
「み、みなさーん! 今日は、集まっていただいて、ありがとうございまーす!」
「日ごろの疲れ、少しでも癒していって欲しいねェ。あぁ、物理的に怪我してるなら魔法でも構わないよ」
「みんな待ちきれないって顔だな。それじゃ早速、景気のいいやつからいこうか! 新曲『加速!』」
ライブ会場に無事辿りつき、他のメンバーと合流した鹿角たち。時間も迫っていたので、すぐに準備を整えた。
水葉さくら(ea5480)を筆頭にアイドル三人が次々と舞台に現れ、軽く百人は超す観客のボルテージが一気に上がる。
今日はアイドルの一人はお休みとのことで、彼女のファンは残念であろう。
しかし鹿角が歌うスピード感のある歌が流れ出すと、新しい音楽の波にその身を委ねていくのだった。
『朝焼けの空 冷たい風に 光が今日も 温もり与えてく
悲しい思い 昨日に捨てて 新しい日の 希望信じてく
振り向くことだって 無駄じゃないけど 進んでいこう 辛さを振り切るくらいの加速で
心振るわす 希望の欠片 すぐそばにだってあること 見失いがち 無理にでも引き寄せるさ
待ってるだけじゃ 掴めはしない 動き出せ幸せに向かって 輝く日まで 続き続けるDays―――』
とにかく速い曲調を、伴奏役を買って出た長寿院(黒子の格好で裏方に徹し中)も三味線で見事に演奏しきる。
力強い鹿角の歌声が響きわたり、着流しのすそが華麗に舞う。
ワンコーラス歌い終わったところでお約束の歓声が上がり、会場は一つに纏まっているように見えた。
が、それはあくまで90〜95%くらいの観客の話。
わざわざ依頼として京都上層部が出してくるだけに、ただで終わるわけがなったのだ。
まだ歌い続けている鹿角に向けて、正面右斜めから石が飛んでいく! 鹿角はそれに気付いていない!
「しふしふー!」
しかし観客席の中からシフールを乗せた犬が飛び出して、その石を空中キャッチしてどこかへ走り去ってしまった。
一瞬何事かと思った客は少なからず居たが、今は楽しむことを優先させたようである。
楽屋へと入ってきた犬とシフール‥‥ナリル・アクトリス(eb4648)とその愛犬エンフェルメラは、控えていた仲間にすぐさま報告した。
「舞台右斜め辺りに居た、紺色の着物の若い男です。舞台の妨害だけでも許せないのに、下手すれば殺人ですよ殺人!」
「‥‥あれね。まったく、逃げる様子がないってことはまたやるつもりかしら。これはおしおきが必要かもね」
客席を縫うようにして怪しい人物を警戒していたナリルと、客席を見渡せる場所にある楽屋から監視していたステラ・デュナミス(eb2099)。それぞれ怪しいと目していた人物は同じであった。
それが思ったとおりに行動を起こしたものだから、被害を未然に防ぐことは出来た。出来たが、男が逃げる様子がないとなると今後の対処には困る。
魔法で狙い撃ちするにも、周りの罪のない観客に被害が及ぶのは望むところではないし、ライブが滅茶苦茶になってしまう。
「ふふ‥‥ここはあたしの出番だねェ。僧侶のホーリーは伊達じゃないさね」
ばれないように楽屋から狙いを定め、山形の軌跡を描くホーリーを発射、犯人に直撃させたあやの。この魔法なら範囲攻撃ではないし、火花などの二次被害もない。
酷く狼狽して辺りを見回した若い男は、後ろに居た客を掻き分けて必死に逃げ出そうとする。
が、それをそのまま逃がすほど冒険者は甘くない。
「逃がしません! 踊ることは私も好きですから、こういった舞台を妨害しようとする輩を見過ごす訳にはゆきません」
「ちっ!」
楽屋から素早く移動していたナリルと愛犬が男の前に立ちふさがり、ダガーを構えて行く手を阻む。
そうやってとろとろしているうちに、ステラも現場にたどり着く。
「はぁい。悪いんだけどちょっとこっちに来てもらえる? 警備の者よ」
男はステラの顔を見ると、ぎょっとした表情を見せてその場にへたり込んだ。
著名な魔法使いであるステラがこんなところで警備員をしているなどとは夢にも思わなかったのだろう。
情けなく口をパクパクさせたまま、ナリルに縄でふん縛られ連れて行かれたという。
舞台上では鹿角の出番が終わり、水葉が再登場したところである。
「あ、改めまして、こんばんは‥‥です。元気が出る歌の後は、ちょっと優しい歌を歌いたいと思います」
ぺこりとお辞儀をして、まだちょっとぎこちないステップと緊張した歌声を披露する。
しかし、その完成されていないぎこちなさがよいというファンも多く、より身近にアイドルを感じる要因ともなっている。
会場がふんわりした雰囲気に包まれる中、二曲目を歌い終わった水葉が呟いた。
「そ、それでは、私にも新曲があるんです。聞いてください。『遠くと近くの恋心』」
長寿院が奏でる三味線が、ゆったりとして優しい‥‥そしてどこか物憂げな旋律を紡ぎだす。
アイドルの活動には、どんな曲でも弾きこなせる楽器の達人も必要かもしれない。
『遠い地の あなたへと 夢で会える事願って 同じ星見上げて 優しい歌を口ずさんだ
でも寂しい 揺れゆく気持ち あなた以外の強い想い 真っ直ぐすぎる 『愛してる』に 引き込まれてく私がいるわ
すぐそばに居て欲しいの 離れては不安になる この想い語り合う あなた今居なくて
あなた以外のあの人 好きになり愛されてゆく 気付いたの 手を繋げる 距離に愛があること―――』
ワンコーラス終わっても拍手はない。皆、その歌に聞き入っている。
しかし、二番の途中で歌が止まった。正確に言えば、水葉が涙ぐんで歌えなくなってしまったのだ。
水葉には思い当たる節が無い。自分が何故今泣いているのかも分からない。
もしかしたら、心から歌ううちに歌詞に込められた想いが流れ込んできたのかも知れない。
「あう‥‥ご、ごめんなさい‥‥! ぐすっ‥‥その‥‥あの‥‥!」
舞台上で泣くまいと必死に堪える水葉。
観客席からは『泣かないでー!』とか『頑張ってー!』との声。でもそれは、更に水葉の感性を刺激する。
アイドルとして、このまま舞台を降りることはできない。かといってこのまま突っ立っているのも意味が無い。
その時だ。
「遠い地の あなたへと 夢で会えること願って」
「同じ星見上げて 優しい歌を口ずさんだ」
ナリルとステラが舞台に上がり、急遽一番の歌詞を歌い、水葉の肩を優しく抱いた。
長寿院も急遽、二人が歌いだした部分から演奏を再開する
二人笑顔が、無言の頑張ってが、水葉に勇気をくれる。
「でも寂しい 揺れゆく気持ち あなた以外の強い想い」
「真っ直ぐすぎる 『愛してる』に 引き込まれてく私がいるわ」
あやのと鹿角も加わり、水葉のために作られた歌を繋いでいく。
二人とも、ガラじゃないなァと苦笑いしつつも歌いながら手を差し伸べてくれる。それがどんなに嬉しいことか。
確かに歌が達者な者ばかりではない。しかし、水葉を助けるべく想いを繋げるその行為に観客の胸が熱くなる。
長寿院も黒子の頭巾を取り、弾き語りで歌に加わった。
「みな、さん‥‥」
『すぐそばに居て欲しいの 離れては不安になる この想い語り合う あなた今居なくて』
五人に優しく促され、若干涙声ながらも最後は水葉一人に戻る。
アイドルとしての責任を果たすべく‥‥そして今日、この日に集まってくれた仲間のためにも。
「あなた以外のあの人 好きになり愛されてゆく 気付いたの 手を繋げる 距離に愛があること―――」
こうして、大盛況のうちにライブは終了した。
相変わらず敵視する者は多いようだが、妨害を表ざたにせず最後には珍しくも嬉しいハプニングで締めたのである。
ある意味伝説となった今回のライブ‥‥それぞれの胸には、どのような想いが去来したのであろうか―――
「‥‥私‥‥なんで泣いたんでしょう、か‥‥。この気持ちは‥‥何‥‥?」