【京都のアイドル】想いは力に依らず

■ショートシナリオ


担当:西川一純

対応レベル:11〜lv

難易度:普通

成功報酬:5 G 55 C

参加人数:5人

サポート参加人数:-人

冒険期間:12月17日〜12月22日

リプレイ公開日:2009年12月24日

●オープニング

世に星の数ほど人がいて、それぞれに人生がある。
冒険者ギルドでは、今日も今日とて人々が交錯する―――

「というわけで不肖私、西山一海! 冒険者さんたちのおかげで何とか生還いたしました!」
「いやなにより。危なかったね‥‥あと少し人数が少なかったり状況が悪かったりしたら君は今頃ここにいない」
「まったくです。感謝してもしたりません!」
 ある日の冒険者ギルド。
 職員の西山一海は、今日も今日とて友人である京都の何でも屋の藁木屋錬術と一緒にだべっていた。
 いきなり命を狙われ、わりと本気で死にかけたりしたが、冒険者の活躍により辛くも命を拾った。
 その犯人は嫉妬に狂ったファンではなく、何者かが雇った手練の忍者。同業者の弁によれば、『いやはや、あれは一般人に雇えるような安い腕ではありませんね』とのことである。
「どさくさ紛れに告白までしたそうじゃないか?」
「ぎくっ。いや、その‥‥本当に死ぬと思ったんですもん。でも、やっぱりあの人は天然さんで‥‥いいお返事を貰えるかどうか。彼女もいっぱいいっぱいみたいで‥‥はう‥‥」
「生きろ。それはともかく忍者の雇い主が判明したぞ」
「どこのどいつですか!?」
「以前、ロックアイドルのあの娘が舌戦を繰り広げた日本舞踊の家元がいただろう? あそこだ」
「‥‥もしかして貶されたのが悔しかったから本気で殺しにかかったと?」
「だろうね。しかしアイドルは全員冒険者で滅法強い。返り討ちにあっても困るから、一般人かつアイドルの活動に大きな支障の出る君を標的にしたのだろう。実に理にかなっているね」
「納得せんでください! しかしそうなると証拠はないんですよね? 向こうも格式のある家なんでしょうから、ドジを踏むような事はしないんでしょうし‥‥」
「そういう事だ。私が掴んだ証拠はあくまで状況証拠。しかも上層部と繋がりが深いから白洲でも便宜が図られ無罪になる可能性の方が高い」
「どうしろと!?」
「陳腐な台詞だが実力で認めさせるしかあるまい。無論、腕力ではなくアイドルとしての魅力でね。丁度近々またライブがあるそうじゃないか。そこに頑なな態度をとる芸術家連中を招待してやればいい」
「なるほど‥‥民衆にどれだけ支持されているかとか、彼女らの歌とかがどれだけ素晴らしいかとかを見せつけてやるんですね!」
「大まかに言えばそうだ。それに‥‥彼らが真の芸術家なら、目の当たりにすれば認めざるを得ないはずさ」
「何をですか?」
「本当に大切なものは何か。自分たちは何を誰にどうしたかったのかを‥‥だよ」
 人々を癒し、楽しませるために生まれたアイドル。その根源にあるものは芸術家にとっても同じはず。
 力ではない実力で認めさせよう。その、原初の想いを―――

●今回の参加者

 ea0020 月詠 葵(21歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea5480 水葉 さくら(25歳・♀・神聖騎士・人間・ジャパン)
 ea6333 鹿角 椛(31歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 eb0711 長寿院 文淳(32歳・♂・僧兵・人間・ジャパン)
 eb6553 頴娃 文乃(26歳・♀・僧侶・人間・ジャパン)

●リプレイ本文

●答え
「一海さま‥‥ごめんなさい。一海さまの事は信頼しておりますが、一海さまのお気持ちに応える事は出来ません」
「あ‥‥」
 本番前の控え室。二人しかいないその空間で、少女ははっきりとそう言った。
 気を利かせて先に部屋を出た仲間たちの気配がなくなってからしばらくして、水葉さくら(ea5480)は西山一海に嘘偽りのない本心を吐露したのである。
「さくらには‥‥心に決めた方が居ります。その方を、お慕いしています。この気持ちはさくらのどんな物よりも大切なものです」
 それは確かな拒絶の意思。傷つけると確信を持てる言葉の刃。
 それでも言わなければならない。是非は別にしても、この状況を望んだのは他ならぬ一海だ。
 好きですと告白して必ずOKが貰えるなら恋愛とはどれほど楽か。
 いや、違うか。そうならないからこそ尊く、人の心に深く響くのだろう。
「ありがとう‥‥ございました」
「い、いえ‥‥こちらこそ。例え駄目でも、きちんとしたお答えをいただけて良かったです」
「一海さま‥‥」
「いいんです。さ、ファンの方々が待ってますよ」
「はい‥‥!」
 そう言って、水葉は控え室を出て行った。
 笑顔で行ってきますと語った彼女に、一海も笑顔で手を振って送り出した。
 後に残ったのは、フラれた男が一人だけ。
 と、そこに。
「失礼します。盗み聞きするつもりはありませんでしたが、私の役目には一海殿の護衛もありましたので」
 長寿院文淳(eb0711)がゆっくりと姿を表し、控え室に入ってくる。
 どうやら部屋のすぐ外で話を聞いていたらしいが、まだ一海が狙われている可能性もあるので致し方ないところか。
 一海を気遣ってか敢えて何も言わない長寿院。話を聞かれていたというのもあり、一海には沈黙が辛い。
 だから一海は自ら喋った。ひたすら明るく笑い話のように。
「はは‥‥いや、最初から駄目元だったんですよ〜。水葉さんには好きな人がいるって知ってて告白したのは私ですしね? なんていうか、間男みたいかなーとか思わなくもなかったんです。いやぁ、逆にすっきりしましたよ、バッサリ断られましたからね。やっぱり駄目ならとどめ刺してもらえないと、他の人を好きになれませんからねぇ」
 からからと笑う一海。それを聞いていた長寿院は、優雅な立ち居振る舞いで一海に近づいていく。
 そして‥‥その横っ面を殴り飛ばした。
「あぐっ‥‥! な、何するんですか!?」
「何を我慢しているんですか」
「はぁ!?」
 殴られた上に胸ぐらを掴まれ、一海は思わず悪態を吐いた。
 しかしそんなことお構いなしに長寿院は続ける。
「あなたは今泣いていい! 泣いていいんですよ!」
 クールに見える長寿院から迸る熱い言葉。
 真っ直ぐな視線を向けられたからこそわかる長寿院の本気さ。
 だからもう言葉は出なかった。一海の口からは、今まで必死に押し留めていた嗚咽が溢れ出る‥‥。
「うっ‥‥うぅっ‥‥! 好きだったんです‥‥水葉さんの、こと‥‥ホントに‥‥好きで‥‥! うわぁぁぁっ‥‥!」
 アイドルの活動を影で支える者の一人、長寿院。
 彼のおかげで、散った恋がそのまま腐らないで済んだようである―――

●原初の想い
「はぁい、みんな元気してたかしら? 今日は日頃の辛いことを忘れて、アタシたちの舞台で楽しんでもらいたいねェ」
 最近、モデルとしてだけでなく司会進行の勉強もしているという頴娃文乃(eb6553)。
『あやの』として人気を博している彼女だが、その嫌味のないサバサバしたトークには女性ファンも多いという。
 水葉が少し遅れるということもあり、しばし客にインタビューしたり客いじりをしたりで場を繋ぐ。
 やがて水葉もステージに姿を表し、久々にアイドル全員集合となったわけである。
「みんなー、中々時間取れなくてごめんねー♪ 今日は久々のライブだから緊張してるけど‥‥その分全力で歌っちゃうからね! お前もメロメロにしてやろうかっ☆」
「おいおい、飛ばし過ぎて歌の前にへばるなよ? 今日は私と一緒に歌うっていうのはわかってるだろ? お前一人だけの責任ってわけじゃないんだからさ」
「はい‥‥練習の時から見てましたけれど‥‥お二人の新曲、素敵‥‥です」
 月詠葵(ea0020)と鹿角椛(ea6333)。そして水葉さくら。
 月詠は身分を隠し、禁断の指輪で女性に変身して風間楓と名乗ってまでアイドルを演じてくれていた。
 ステージ衣装に身を包んだ歴戦の冒険者。しかし彼女たちは、武力ではなくエンターテインメントで京都に住まう人々を救おうとしている。
 人は楽しみが無くては生きていけない。緊張続きではすぐに糸が切れてしまう。
 数々の修羅場の中でそれを学んできた冒険者だからこそ、優しい歌や癒しの時間が大切なのだと知っている。
「はいよ、それじゃ折角話題に出たことだし、早速二人に歌ってもらおうかな?」
「い、いきなりなのですか!? あやのさん容赦ないの☆」
「いいじゃないか、どうせやるんだ。それにあの曲なら掴みとしても悪くない」
 話がまとまり、まずは風間と鹿角が歌うことになる。
 黒子衣装の楽士たち(長寿院も混ざっている)が準備し、満員御礼の観客たちの声援が辺りに響き渡った。
「それじゃ聞いてくださいなの!」
「楓と椛‥‥合わせて『秋風』! 歌は『勇壮烈火』!」
 複数の三味線が鳴り響き、笛の音も混じり始める。
 時代を先取りするアップテンポの曲と歌声が魔法で増幅され、会場をまるごと包んでいく。
 この会場の一体感。それを招待された芸術家たちはどう見るか‥‥?
楓『走りだす』
椛『心は強く熱く』
楓『思い望む勇気』
椛『かざした手で』
二人『掴むそのため!』
楓『悔しさなんて溜め込まないで行こうよ』
椛『立ち止まった時間が勿体無い』
楓『すぐ答えが出るわけなんてないから』
椛『振り返って笑えるように生きる』
楓『くじけない、いつだって』
椛『心にある情熱』
二人『いつもずっとずっと求める!』
楓『メロメロに! 素敵だと感じたい、いつだって 愛と平和をいつも夢に描いて!』
椛『燃やしてけ! 辛い時ばかりじゃないって知ってよ、笑顔がほら』
二人『君を待ってる―――!』
 合宿でさんざん練習しただけあり、二人の息も踊りもバッチリ合っている。
 助走からどんどん加速していく曲と交互に織りなす二人のパフォーマンスが観客を魅了してやまない。
 老人には分からない。この音楽の良さも、どこの踊りとも知れぬ創作ダンスの魅力も。
 老人‥‥つまり件の日本舞踊の家元である彼はプロである。プロだからこそ、分からなくても直感で理解した。
 あぁ、彼女らは自分たちの力を見せびらかしたいのではない。自分たちの力で観客を楽しませたいのだ。
 最初にあやのが言っていたことを内心鼻で笑った家元だったが、風間と椛、水葉と歌が進むにつれ考えが変わった。
 芸術とは、自分が修めてきた日本舞踊とは本来何のためにあったのか。
 難しい型を覚えるためか? 否である。
 日本舞踊の素晴らしさを理解させるためか? 否である。
 自分の舞を観客が見て、美しいと心を動かしてもらう。それだけでよかったはずなのに。
 いつからだろう‥‥『見て欲しい』が『見せてやる』に変わってしまったのは。
『晴れ渡る空、そよ風と 暖かな光、お出かけ日和 手を取って
 お弁当持ってゆっくりと お気に入り優しい時間(とき)
 出会いまで、悔やまないでと、心から願う 時間は、嘘じゃない 今も優しい気持ち覚えてる
 ありがとう 私、祈っています 私より素敵な人が現れる あなただけの大切な人が あぁ、もう一度 あぁ、ありがとう―――』
「はは‥‥お株を奪われちゃいましたね」
 舞台袖から見ていた一海は、水葉が歌っているのを見て苦笑いしてしまう。
 歌の三行目からは水葉のオリジナルの歌詞であり、一海が考えたものではない。
 おかげで前半と後半で内容がちぐはぐになってしまっているが、細かいことはどうでもいい。
 いつ考えたのかは知らないが、歌に乗せられた水葉の想いが伝わってくる。
 恋人になれなくてもいい。長年想ってきた日々を消し去ることなんてできないんだ。
 これからも良き友人として接していきたい。これで絶縁なんて悲しすぎるから。
「まこと、人生とは面白いわい。この年になってなお教えられることがあるとはのう‥‥」
 舞台では鹿角があやのを無理矢理引っ張ってきてデュエットをさせている。
 不意に家元と鹿角の視線が交錯し‥‥鹿角はニカッと笑ってVサインを送る。
 それにたどたどしくも同じVサインで返した老人。
 人々に癒しを与える職業に、確執も忍者も必要ないのだ。それを立証するかのように、とうとうステージに乱入者が現れることはなく‥‥以後、アイドルや一海への嫌がらせや襲撃はピタリと止んだ。
 正義なき力はただの暴力だが、力なき正義はただの非力である。
 力も正義も、いつも両方を持ち合わせていたい。そう願う冒険者兼アイドルは、これからも愛され続けていくだろう。
「じゃあ大サービスで楓とあやのお姉ちゃんの新曲も披露しちゃうよ!『めろめろタイム』!」
「だーかーらー、アタシはそういうのガラじゃないんだってばさァ!? 水葉さんとやればいいじゃないのさ!?」
 今日も今日とて、冬の夜空の下で熱気が渦巻くのであった―――