神前新年会

■イベントシナリオ


担当:西川一純

対応レベル:11〜lv

難易度:難しい

成功報酬:1 G 80 C

参加人数:19人

サポート参加人数:-人

冒険期間:01月09日〜01月09日

リプレイ公開日:2010年01月19日

●オープニング

世に星の数ほど人がいて、それぞれに人生がある。
冒険者ギルドでは、今日も今日とて人々が交錯する―――

「‥‥‥‥‥‥‥‥」
「‥‥ちょっと。もう始まってるわよ」
「はぅあっ!? あぁすいません、ついつい茫然自失としていました」
 ある日の冒険者ギルド。
 職員の西山一海は、上から送られてきた依頼書の内容を読んだ体勢のままあんぐりと口を開けて固まっていた。
 横に座っていたアルトノワール・ブランシュタッドという友人にツッコミを入れられてようやく我に帰ったようだ。
「‥‥で? 何読んでたの?」
「いえまぁ、ギルドの上役からこの依頼を担当しろっていうお達しがありましてね? それ自体はよくあることなんですが、その内容がまた妙ちくりんで我が目を疑いました」
「‥‥どれどれ‥‥『イザナミから再び冒険者の呼び出しがあった。此度はより多くの者と接見の機会を持ちたいとのことで、一人一つまで質問することも許すとのことである』。‥‥‥‥新年会?」
「か、かも知れません‥‥」
 イザナミ。
 西日本を外巻し丹波に居を置く黄泉女神であり、九州での戦いも彼女の部下が指揮を取っている。
 そのイザナミは最近、不死者でありながら生者である人間の赤ん坊を産み、我が子と同じ生物である人間と戦うことに迷いを生じさせている。
 一度冒険者と接見したことと、丹波で跋扈する悪魔との戦いに冒険者が協力したことで今一度その機会をということなのだろう。前回の去り際に不愉快な話題を出されたことは水に流してくれたのだろうか。
 詳細な注意事項は以下の通り。

 一つ、質問はあくまで質問。意見を求めるタイプでもいいが嘆願の類であってはならない。
 二つ、武装するのは自由だが揉め事を起こす気であるなら六体の八雷神たちが容赦しない。
 三つ、イザナミの機嫌を損ねるような質問をするのは自由だが、他の人が割をくったり自身を危険に晒す。京都上層部としてはイザナミを刺激するのは控えて貰いたい。

「‥‥また参加資格は冒険者であること?」
「です」
「‥‥相当嫌われてるわね、京都上層部」
「そりゃあ、封印される前にあんなことされちゃ私だって人間不信になりますよ」
「‥‥は? 聞いたの?」
「はい。例のインタビュゥをする魔法使いさんから」
「‥‥そういえば最期まで残って何か話してたとか言ってたっけ。後で聞かせなさいな。暇つぶしくらいにはなるでしょ」
「りょーかいです」
 年が開けていきなり舞い込んだイザナミとの接見。
 豪華な料理は出ないだろうが、前代未聞の新年会となることだろう。
 黄泉女神に聞きたい質問。それは冒険者の数だけ存在することだろう―――

●今回の参加者

月詠 葵(ea0020)/ 琥龍 蒼羅(ea1442)/ 山王 牙(ea1774)/ 結城 友矩(ea2046)/ 島津 影虎(ea3210)/ アラン・ハリファックス(ea4295)/ 草薙 北斗(ea5414)/ 御神楽 澄華(ea6526)/ 井伊 貴政(ea8384)/ 雨宮 零(ea9527)/ 室川 太一郎(eb2304)/ 南雲 紫(eb2483)/ 鳳 令明(eb3759)/ セシリア・ティレット(eb4721)/ ヴェニー・ブリッド(eb5868)/ 鳴滝 風流斎(eb7152)/ レベッカ・カリン(eb9927)/ 琉 瑞香(ec3981)/ リーリン・リッシュ(ec5146

●リプレイ本文

●女神の御前にて
 激動の年が終わり、時は嫌でも新たな年へと移り変わった。
 今だ数多くの問題を残す日本国であったが、多くの人々は新年を祝うことで束の間の平穏を感じている。
 丹波藩中央部に位置する東雲城。黄泉女神であるイザナミに占拠されて久しいこの城も例外では無かった。
 謁見の間にはお節料理を載せた膳がいくつも並び、多くの人が新年会の開始を待っている。
 ‥‥いや、それには語弊があるか。謁見の間に存在する人影のうち、半分以上は人ではないのだから。
「あえて言わせて貰おう‥‥イザナミ様の御成りであると!」
 八雷神の火雷の声が謁見の間に響き、イザナミが静かに姿を表す。
 そう、この場はごく普通にある新年会とは異なり、神と呼ばれる存在の前で行われるものなのだ。
 しかも言い出しっぺがイザナミからであるというのも、ある意味信じがたいものではあるが。
「皆の者、苦しゅうない。無礼講とまでは言わぬが肩の力を抜くがいい。折角の新年と料理じゃ‥‥硬いままでは楽しめぬというものよ」
 絶世の美女と謳われるイザナミ。いつもどおり人間と同じ姿を保ち、扇子で厳かに指示を出す。
 並べられた料理の数は合計21。冒険者の分とイザナミ、そして丹波藩主山名豪斬の分だけである。
 台所を借りて料理を拵えた井伊貴政(ea8384)は八雷神たちや他の黄泉人の分も作るかと聞いたが、材料の関係やそもそも普通の食事を摂らない者が多いとのことで断られていた。
 琉瑞香(ec3981)が音頭を取り新年の挨拶を行おうとしたがイザナミに止められる。
 目出度いと言ってしまうにはまだまだ問題があるからということらしい。
 とりあえず目の前の料理に箸を伸ばし、新年気分に浸ろうということになった一同は、井伊の腕前に舌鼓を打ちつつしばし歓談する。
 イザナミもまた料理を口に運び、人の作ったものを食すのは数百年ぶりの事になるかとたおやかに呟いた。
 神にまで美味いと言わしめる井伊の腕前は相当なものなのだろう。
 と、そんな時である。
「‥‥食わぬのかえ?」
「‥‥は。先日致したことを思えば、本来はどの面下げてこの場に来られたのかというところでござる故」
 結城友矩(ea2046)は料理に手をつけず、正座のままじっとしているだけだった。
 冒険者を見回しその姿を見つけたイザナミは、呆れの混じった声で聞く。
「本来ならば新年早々うぬの顔など見とうないと言いたいところではあるがのぅ‥‥まぁ許そう。そちへの怒りで場を白けさせるのも無粋というものじゃ。集まりし他の冒険者達に感謝するがいい」
「は。先日は真に失礼した。武辺者ゆえ人生の機微には疎うござる。真、失礼致した」
「もう良い。では折角じゃ‥‥そちから質問をするがよい。他の者は食しながら聞けば良い。ただし、質問は簡潔にな」
 そう言われては結城に断る権限はない。かくして、思わぬ形で質問タイムへと移行する。
 食べながら聞けと言われても、何気ない一言で場の状況が一変しかねないだけに嫌が上にも緊張感は高まっていく。
「では‥‥返答要求。イザナミ殿、如何すれば兵を引いて下されるのかな。和議を結ぶ事は不可能なのでござろうか」
「返答しよう。人間の条件次第である。我から取り立てて要求することは今のところ無く、和議を結ぶもあり得ることである」
「では―――」
「待ちや。質問は一人一つまでと言うてあったはず。続けての質問は違反行為じゃぞ」
「‥‥は。申し訳ござらぬ」
 漠然とした質問には漠然とした回答が帰ってくる可能性が高い。そう認識させるに充分な場面であった。
 結城は大人しく姿勢を戻し、イザナミに促されて料理に手をつけ始める。
「次の者は誰か。時間はある故急かしはせぬ。聞きたくなったら挙手するが良い」
「室川太一郎(eb2304)です。俺はいつも話し合いで解決することを望んでいました。その機会を下さったイザナミ殿には感謝を申し上げたいと思います」
「世辞は良い」
「では返答要求。お子様の世話で何か困ったことはありませんか?」
「‥‥それでよいのかえ? 一度の質問の機会をそんなことのために使ってしまうのか」
「はい。俺は男手一つで子供を育ててきました。子育てで分からないことがあったら教えます。子育てするにしても側近に人間の育て方を知って頂ければと」
 これには流石のイザナミも不意を突かれたらしい。扇子で口元を隠してはいるが、驚きを隠せぬ表情である。
「返答しよう。まずはやはり、迂闊に我が子に触れぬことが困りものじゃ。今までの子はそのような気遣いをする必要は無かったのじゃが、人間となるとどうもな‥‥。それ以外のことは教わらなくとも熟知しておる」
 黄泉人の生気吸収の問題は室川にもどうしようもない。
 黄泉女神ともなれば吸収の多寡など自在にコントロールできるが、それでも万が一のことを考えているのだろう。我が子を遠慮がちに抱く母親というのも不憫な話ではある。
 てっきり政治的な質問ばかりと思っていたイザナミは、自分と我が子のことを思いやる質問が飛び出て面食らうと同時に、また少し心の揺れ幅が大きくなる。
「じゃあ次は私。リーリン・リッシュ(ec5146)よ。政治的な質問になっちゃいますけど」
「構わぬ。元からそう思っていたからのぅ」
「じゃあ返答要求。イザナミ様の配下の黄泉人の勢力は、西国方面以外にも存在するのでしょうか?」
「返答しよう。倭国大乱の後に東国に逃れたものがいなければ存在しない。基本的には我と共に封印された者たちが主だった者たちじゃからの。丹後などはまた別の話じゃが」
「そうですか、ありがとうございます。微力ながら平和への道が開けるよう祈っています」
「ふ‥‥そうじゃな。そういう道があれば良いの」
 それは嘲るような感じではなく、しみじみとした息と共に紡がれた言葉であった。
 人間の子供が生まれる前なら一笑に付したかも知れないが、今のイザナミにはリーリンの言葉は重い。
「はいはーい! 草薙北斗(ea5414)だよ! 次は僕の番で!」
「元気なものじゃ。よいよい、聞こうぞ」
「うーん、赤ちゃんにも興味はあるんだけど‥‥やっぱり鳴雷さんについて聞きたいかな。返答要求、八雷神の鳴雷さんはどんな人? じゃない、どんな方なのかな?」
「また妙な質問じゃな‥‥。何故その質問を選んだ?」
「『写し』でその場その時に見た人物になれて、姿だけじゃなくて技や力まで体現しちゃう術を使える方らしいって聞いてね♪ 人遁の術じゃ姿だけだから、憧れと羨望を抱いてるんだ♪」
「ふむ‥‥面白いといえば面白い。どうじゃ鳴雷。お主から直に答えてやると良い」
「お言葉ですがね‥‥俺も俺が何者なのかよくわかっていませんでね。俺は戦えればそれでいい」
「だ、そうじゃが?」
「はっ、戦ってみるか? 戦ってみれば少しは分かるかもしれないぞ」
「今は止めとくよ。折角の新年会だもんね♪」
「何者か分からぬから他人になりきれるのかも知れぬのぅ。さぁ、次は誰じゃ」
「では僕が。雨宮零(ea9527)と申します」
 恭しくお辞儀をした雨宮。彼も鳴雷には思うことがあるらしく、草薙に便乗する形となった。
「返答要求。ご子息は、どの様に育てていくおつもりでしょうか。不死人の様にはいかないでしょう?」
「室川という者と似た流れじゃのう。返答しよう。確かに勝手は違うが我の子に違いはない。種族の違いはあれど、我ら不死者の中で育てるつもりじゃ」
「はい‥‥僕もそれがいいと思います。そのためにもこの戦い、早く終わらせたいものですね。これ以上お互いが傷つく前に‥‥」
「‥‥そうじゃな」
 すでに人類側にも黄泉人側にも大きな被害が出ているのは周知の事実。
 それでも手を取り合えないかという話をするには、お互いプライドなど色々なものが絡んでくる。
 それを思うと、雨宮もイザナミも手放しで仲良くとは言えなかった。
「じゃあ便乗させてもらっちゃおうかしら。ヴェニー・ブリッド(eb5868)よん」
「そちか。此度は質問は一つじゃぞ。以前のように根掘り葉掘りは堪えるでな」
「分かってますって♪」
 ヴェニーはイザナミにインタビュゥした経験があり、顔もよく覚えられている。
 穏やかに応対するイザナミ。もし人類全てとこうなれたらきっと素晴らしいことなのだろう。
「返答要求。黄泉人は精気吸収しないと生きれなくて、人間からしか精気を吸収できないのかしら? 遥か古みたく黄泉人が人を殺さないのなら、人と黄泉人が新しい未来を構築できるかもって、ね」
「返答しよう。生気を吸収しなくとも我らが滅びることはない。そうじゃな‥‥おぬしたち人間に例えると何になるのか。無理に例えるなら『酒』かの」
「お酒? あぁ、無理に摂らなくても生きていけるけど飲むと美味しいみたいな‥‥」
「‥‥やめよう。我が子を酒に例えているようで我自身の気分が滅入る」
「そ、そうよねー。でも、それなら人死が出なくてもやっていく道はありそうよね」
 餌と言わないまでも、数多の命を生気吸収で奪ってきたイザナミたち黄泉人。
 しかし我が子も人間となっては、イザナミは今までのように人の命を奪えない。
 少なくともここ最近人間の姿を保つために吸収した生気は数人から分けて吸い、死人を出していないらしい。
「質問をよろしいでござろうか。鳴滝風流斎(eb7152)にござる」
「ふむ。河童とはまた珍しい来客であるな」
「恐れ入りまする。返答要求。宜しければ、赤子のお名前を教えて頂きたいでござる」
「‥‥名か。返答しよう。実のところまだ決めかねておる」
「いけませんな。呼び名がなくては不便でござろう」
「それはそうなのだがな‥‥中々良い名が思い浮かばぬ。ニギスベツチと名付けようかとも思うたが、人間には人間に相応しい名を与えるというのも悪くないからのぅ」
「母親でござるな」
「母親じゃからのう。名は一生ついてまわるものである。適当な名付けはできぬわ」
 この名付けに悩む母親。それは黄泉人であっても同じということか。
 穏やかな雰囲気で進む新年会。不穏な行動を取る者もおらず、極めて良好である。
「それでは島津影虎(ea3210)、質問させていただきましょうかな。他の方と似たところがありますが」
「あまり同じようなら他の質問に切り替えても構わぬぞえ?」
「いえ、大丈夫です。返答要求。お子様の育成に人間‥‥冒険者を関わらせる気はございますか?」
「返答しよう。それは考えておった。我は京都の者共は信用しておらぬが、そちたち冒険者は信用に足る者が多いと思うておる。黄泉人ではどうしても手詰まりになることもあろう‥‥冒険者に助けを求めることもあるかも知れぬ」
「いやはや、光栄なお話ですね」
「でなければこのような場は設けぬ。無論全ての冒険者が善人とは思うておらぬが」
 当たり前の話ではあるが重要なことである。
 こういうことを分かっているということは、自分たちの中にも良いもの悪いものがいると理解していることでもある。
 自浄作用の無い種族は必ず他の種族と諍いを起こすことを思えばありがたい話ではある。
「僕も質問よろしいでしょーかー? 井伊貴政です〜」
「確かこの馳走を作ったのはそちであったな。美味であるぞ」
「料理人として光栄です〜。返答要求〜。丹波と山名様の今後はどーするおつもりでしょーか?」
「ふむ‥‥仮に和議が結ばれたのであれば返しても構わぬ。我は出雲に戻ればよい話じゃからな。豪斬についても開放しても構わぬ。人質と扱ったこともあるが、そちはそちで面白いからのう?」
「お戯れを」
 豪斬は短く言うと軽く笑った。
 人質生活が長く、少しやつれたように見えるが元気でやっているらしい。
 安否を心配していた者も多かったので、無事を確かめられただけでも意義はあろう。
「‥‥山王牙(ea1774)でございます。俺は草薙さんと同じで、イザナミ様への直接の質問ではありません」
「ほう。言うてみよ」
「山名様とお話をさせていただきたいのですが構いませんか?」
「よきにはからえ。認めようぞ」
「ありがとうございます。お元気そうで何よりです、豪斬様」
「久しぶりだな。余はまだ生き恥を晒しておる」
「いいではありませんか。生き恥を晒したおかげで、丹波が許されるまで生き延びられたのですから」
「何と!? それはどういうことか」
「京都上層部のお墨付きです。八卦、八輝もお咎めなしとなり、京都のために戦うのであればこれまでの丹波藩の罪は問わないとのこととなりました」
「何とありがたい‥‥。やはりそなたら冒険者が動いてくれたのか?」
「はい。それに付随して、山名様に今後どうなさるかお伺いしたく」
「ならば余はイザナミ様との和議が成るよう尽力するのみ。罰せられるのが余だけとなれば思い残すこともない」
 今までもイザナミに人との共存を勧めてきたという豪斬。しかし迂闊に突っ込みすぎて不興を買い殺されてしまえば、未だ自分に忠誠を誓ってくれている者たちのフォローができなくなってしまう。
 その恐れがなくなれば、もっと手段が増えるというものである。
「それでは私もよろしいでしょうか。セシリア・ティレット(eb4721)です」
「うむ。あちらは喋らせておけばよい」
「返答要求。停戦協定の提案という形になるでしょうか、イザナミ様の御心について。可能であれば他の勢力との争いは避けたいと思っている。イエスかノーか二択で」
「先程も似たような質問があったのう。しかし、その『いえす』と『のー』というのは何じゃ?」
「失礼しました。是か、否かという意味合いです」
「なるほど。返答しよう。極論を言えば否である」
 その一言に、冒険者にどよめきが起きる。
 予想内のリアクションだったので、イザナミはため息を吐きつつ扇子をパタパタ振った。
「早合点するでない。そちは『他の勢力』と申したであろう? この世には人間と黄泉人だけがおるわけではない。悪鬼の類や天津神の生き残りなど争いが避けられぬ者共も多かろう。そういう輩とは戦うしかあるまいて」
 あえて人間とはどうなのかの明言を避けたが、確かにセシリアの質問に答えるならこうなる。
 江戸のマンモンや第六天魔王などイザナミであっても戦わなければならない相手は多いのだ。
 それは勿論、冒険者にとっても同じ事であるのだが‥‥マンモンたちはイザナミと違って交渉の余地が無さそうなのが何とも言えないところである。
「話の流れ的に今聞くしか無さそうだ。質問構わないだろうか」
「順番は好きにせよと申したはずじゃ。遠慮は要らぬ」
「では返答要求。九州に侵攻中の黄泉軍は、イザナミ殿の制御下にあるのだろうか?」
 アラン・ハリファックス(ea4295)は藤豊秀吉の家臣であるが、今回は一個人として参加しているようだ。
 冒険者であれば参加は自由だが、あまり政治色を全面に押し出しすぎると他の者に迷惑がかかると思ったのだろう。
 それでも聞くべきことは聞く必要がある。そう考えたアランは、争い関連の質問が出たことに便乗する。
「返答しよう。その通りである。ただし、指揮を取っているのは八雷神の伏雷と若雷じゃがの」
「やはりそうか‥‥。質問を重ねられればいいがルール違反は無礼に当たるな」
「聞きたいことの見当はつく。指示を出したのは大分前のことでな‥‥言い訳がましいが一任したままじゃ」
「いや、追加のコメント痛み入る。充分だ」
 これまでの他の冒険者とイザナミとのやりとりを見てきて、アランは思う。これが本当に京都に迫った不死者の大群の総大将なのかと。
 当たり前といえば当たり前だが、喜び、驚き、呆れ、憤慨し‥‥イザナミも感情豊かな存在なのだ。
 そんな黄泉女神が激昂し、滅ぼすと決意させるに至ることがなければ今の戦いは無かったかも知れないと。
「では私も重ねて。琉瑞香です」
「構わぬがそちの話は長いことが多い。特に簡潔にするよう心がけよ」
「申し訳ありません、気づきませんで。では‥‥そうですね、返答要求。イザナミ様は現在この地で暮らす住民達をどの様にお考えでしょうか。今後も命を奪い続けるおつもりですか?」
「返答しよう。すでに丹波内には無駄な殺生を禁ずる触れを出してある。指揮下にない不死者も配下の者に管理するよう申し付けた。とりあえずしばらくは丹波内で人死は出まい」
 イザナミ自身が人を殺さないのであれば部下たちも従わざるを得ない。
 不殺を申し付けたということは、少なくともこれ以上は無下にするつもりはない。そういう事だろう。
「にょ〜。それじゃおりも質問するにょ〜」
「‥‥妙な語尾の者じゃのう。まぁよい、申してみよ」
「返答要求にょ〜。帝に直接伝えたい言葉があったら承るにょ〜」
 鳳令明(eb3759)の質問を聞いたイザナミは、一瞬怪訝そうな顔をした。
 しかしすぐに納得して、あぁ、と呟いた。
「なるほどなるほど、そういう意味での『返答要求』か。面白いことを考えるのう」
「にょ? おり、なんか面白いこと言ったかにょ〜?」
「くっくっく‥‥よいよい。そうじゃな‥‥今の神皇にか。悩むものよ」
 扇子で口元を隠し、愉快そうに笑うイザナミ。
 しばし悩んだ後、こう呟いた。
「『貴殿自身がどうしたいか‥‥それを考えよ。周りの意見は関係ない。決めるがいい‥‥この国の主たる己の意思で』まぁ、こんなところか」
「確かに承ったにょ〜」
 自身を裏切った神皇家の末裔に贈るにしては随分寛大な言葉である。
 いや、これは試しているとも取れるか。傀儡の神皇では困るし、トップに和する意思が無いのでは話にならない。
「そろそろ数も少なくなってきたわね。それじゃ私からも質問させて貰おうかしら」
「ふむ、南雲とかいう女傑はおぬしか? 火雷や土雷から聞き及んでおるぞ」
「光栄ね。南雲紫(eb2483)よ。良ければ覚えておいて。返答要求。貴女は自身の子供に何を望むのかしら? 人間としての幸せを望むのか、それとも黄泉人としての幸せを望むのか」
「なるほど‥‥鋭い切り口よ。返答しよう。我が子が成長し、その時に望む生き方をすればよいと思うておる。多くは望まぬが、ただ不幸にだけはなって欲しゅうない。それだけじゃ」
「あらあら‥‥ずるいわね」
「ずるい?」
「そんな答えを返されちゃったら意地でも探したくなっちゃうじゃない。共存への道を、ね」
「ふ‥‥許せ。久方ぶりの子でな‥‥つい甘やかしとうなるのよ」
 軽く笑う二人の女性。
 もう言うまでもなく、イザナミは和平路線を視野に入れている。
 後は人間の出方次第。様々なことに納得ができるかできないか‥‥それだけだ。
「参ったな。機を逸し続けていたら質問の答えを聞いたも同然になってしまったな」
 そう言ってお猪口を膳の上に戻したのは琥龍蒼羅(ea1442)。
 彼は戦いを止めることはできないのかと問うつもりだったのだが、今更聞くのも野暮な流れになっていた。
「ならば別の問いでも構わぬぞ。我も悪くない時間を過ごしておる。大抵のことには答えようぞ」
「いや、止めておこう。それよりも子守唄などを教えたい。楽士として機会をそれに使うのも悪くない」
「ほう‥‥良いな。子守唄というのはいくつ知っていても損にはならぬ」
「歌ならば触れる事が出来なくても問題無い。母の愛を聞かせてやればいい」
 そう言って、琥龍は静かに穏やかな歌を歌いだす。
 子供を眠りへと誘う慈愛の歌。神に子守唄を教える楽士というのもそうそういまい。
 その歌が終わり、拍手が鳴り響く中‥‥後で詳しく教えると琥龍は一礼した。
 そんな中、イザナミは一人の少年に気がついた。
 先程から他の冒険者への返答にオーバーにリアクションをとってはいたが、自分が質問しようとする気配が無い。
 むしろヴェニーと共に土雷が抱いている赤ん坊と遊ぶほうに気が行っているようである。
「そこの童子。そちは質問は無いのかえ?」
「童子じゃないよ! こう見えても奥さんいるし、お酒だって呑めるですよ〜!?」
「当たり前じゃろう。そちくらいの歳で伴侶がいない方がおかしいわ」
『は?』
 その間抜けな声は月詠葵(ea0020)だけが発したものではない。
 その場にいた冒険者と山名豪斬がこぞって同じリアクションをしたのだ。
 月詠は十六とのことだが、かなり幼く見える。しかしイザナミが封印される前は十二、三での結婚も当たり前の時代。
 つまりイザナミは、この場にいる全員がすでに結婚していて当然と思っているのだろう。
「え、えっとぉ‥‥ごめんなさい、ぐさっと来てる人が多いと思うの‥‥」
「何故か? 男女問わず十五を過ぎて婚儀の一つも行っていないなど行き遅れであろうが」
 ぐさぐさぐさっ!
 会場のあちこちからそんな音が聞こえたような気がし、微妙に空気が沈む。
「へ、返答要求と言うかお願いなのです! この話題はもうやめて、次の人の質問を受け付けてあげて欲しいのですよ!?」
 それを敏感に感じ取った月詠は、慌てて先を促した。
 首を捻りながらも、イザナミはそれ以上ツッコむことなくレベッカ・カリン(eb9927)に話を振った。
「えっと‥‥それじゃあまず、不愉快な質問になるかも知れないことを先に断っておくわね」
「‥‥できれば最後まで和やかでありたいものじゃが‥‥まぁ申してみよ」
「同じくそう思ってる。‥‥返答要求。古代の倭大戦の真実を聞きたいの」
 緊張の面持ちで呟いたレベッカ。それは周りの冒険者も同じ事だ。
 どんなヤバい質問が飛ぶかと思われたが、まぁ場がブチ壊しにはならない程度だろう。
「ふむ‥‥まぁ確かに愉快な話ではない。そして話せば長くなる。詳しい話を聞きたければそこのヴェニーという女子に聞くがいい。以前、多少なりと話した」
「じゃあ簡潔にでいいから。和平の可能性があるなら、真実をあなたの口から直接聞きたいの」
「‥‥‥‥わかった、返答しよう。我ら黄泉人は人間と共に悪鬼どもと戦い、倭国大乱に勝利した。しかし、時の神皇家の裏切りにより出雲に封印されたのじゃ。魔王と呼ばれる者との戦いでは我らにも多くの犠牲者が出たというのにのう‥‥」
「うぅ‥‥質問を続けたい。ヴェニーさん、お話聞かせてもらえる?」
「モチのロンよ。よかったらお仕事の手伝いもして欲しいかな♪」
 さて、これで全員かと場を見回したイザナミは、ふと一人の女志士に目を止めた。
 折角の膳にもほとんど箸をつけず、虚ろな目で新年会の成り行きを見つめていたのだ。
 その表情に覚えがあったイザナミは、できるだけ穏やかに御神楽澄華(ea6526)へと声をかける。
「‥‥そちは良いのか?」
「え‥‥あ、その‥‥」
「この際以前のように怒鳴っても構わぬぞえ?」
「いえ‥‥もうそのようなことは。返答要求‥‥貴女様のお子が育ち、自分が生者で母やその周りが生者でないことを知り、その違いを忌み、思い悩む事があった時‥‥それでも貴女様は子を愛し、壁を越えるために尽力出来ますか?」
「‥‥返答しよう。我が子が悩むのであれば共に悩もう。猛ることがあれば身を呈して包もう。我は今までの子もそうしてきた。国生みの女神と呼ばれた我を侮るでないぞ」
「‥‥っ‥‥!」
 元は慈愛の女神とも呼ばれたイザナミ。しかしこの返答は御神楽には辛い。
 彼女は理不尽な暴力の前に命を散らせた人々を忘れられない。また、その引き金の一端となった自分も許せない。
 だから‥‥
「‥‥過去を捨てられぬ私は、きっと貴女様の子を許せない。次に来る時は恐らく敵です‥‥躊躇わず討って下さい」
 しん‥‥と静まる場。
 イザナミは少し目を閉じて考えると、扇子を閉じて口を開いた。
「我からも返答要求を出そう。そなたは一体何と戦っておるのか?」
「‥‥え?」
「我か? 黄泉人そのものか? それとも‥‥己自身か?」
「‥‥!?」
「自惚れるでない。そなた一人が犠牲になって何が変わるか。そなたらがやらずとも遅かれ早かれ我は復活し同じ悲劇が起きていたわ」
「しかし‥‥!」
「おぬしからは復讐の念に駆られていた頃の我と似た気配を感じる。さぁ答えよ。そなたは何と戦っておる?」
「‥‥‥‥へ、返答を拒否します‥‥‥‥」
「‥‥まぁ追々考えれば良い。我が言えた義理ではないが‥‥そなたが死ねば悲しむ者もあると思うがの」
 冒険者の中から『散々人を殺しておいて何を』と怒鳴る声があったとしても仕方がない台詞だ。
 しかし、彼らは知ってしまった。原因の根本が人間にあるかも知れないことを。
 過去の罪が現在の悲劇を引き起こしたのなら、それは自業自得とも言えるのではないか‥‥?
 和やかに進んでいた新年会は、ほろ苦さを残してお開きとなった。
 その帰り際、イザナミは以外な人物に声をかける。
「待ちや、結城とやら」
「は? まさかイザナミ殿から声をかけていただけるとは」
「おぬし‥‥死相が出ておるな。精々気を付けるがいい。死んでも我の配下には加えぬぞえ」
「‥‥は。ご忠告ありがたくいただきましてござる」
 それぞれ収穫はあっただろうか? 自らの質問の答えにはなくとも、他の冒険者の質問にはあったかも知れない。
 果たして、人と黄泉人の和平は成るのであろうか?
 それとも‥‥怨嗟の鎖を断ち切れず、血で血を洗う戦いを再開してしまうのであろうか―――