平和への道

■ショートシナリオ


担当:西川一純

対応レベル:11〜lv

難易度:難しい

成功報酬:5 G 42 C

参加人数:10人

サポート参加人数:-人

冒険期間:01月13日〜01月16日

リプレイ公開日:2010年01月23日

●オープニング

世に星の数ほど人がいて、それぞれに人生がある。
冒険者ギルドでは、今日も今日とて人々が交錯する―――

「一海君、大変だ。カミーユ嬢から連絡があった」
「なんと。新年早々穏やかじゃありませんね」
 年が開け、お正月ムードもそこそこに営業を再開している冒険者ギルド。
 そこにやってきた京都の何でも屋である藁木屋錬術は、新年早々神妙な面持ちであった。
 応対したギルドの職員、西山一海は藁木屋の友人であり、カミーユ=ガミュギンという悪魔に対する認識も深い。
 年末、仮契約した人間たちの説得によって一時的に撤退したとはいえ、それはあくまで本人だけ。
 裏で手駒である埴輪大魔神を砦に差し向け、壊滅させたのは記憶に新しい。
「で、カミーユさんは何と?」
「それがね‥‥『そろそろイザナミを直接叩きに行きますので、邪魔をするにしろ協力してくださるにしろ現地へおいでくださいな』とのことだ」
「‥‥はぁ?」
「気持ちはわかるが埴輪顔になるのはやめてくれ。要は『最終決戦をやるから来い』と言っているのだよ」
 カミーユは人と黄泉人が仲良く手を取り合うことなど不可能だと言い切った。
 事実、イザナミは過去に人類に裏切られ封印されたと主張しているし、カミーユもさもありなんと言っている。
 下手な講和をされ『自分の契約における丹波を救うこと』が出来なくなるのが怖いカミーユは、単身であろうとイザナミと雌雄を決することを決めたようだ。
 どうせそんな平和など長く保たないのにと憤りながら。
「あー、うー‥‥この場合、どっちの味方をするのが正しいんでしょうね?」
「カミーユ嬢の味方をすればイザナミとの和平の道は潰える。この場合、イザナミを倒せればまぁいいが‥‥逆にイザナミの味方をするのなら、カミーユ嬢を完全に滅ぼす必要が出てくるね」
「完全に!?」
「当たり前だろう。命を断たないとカミーユ嬢は何度でもイザナミを狙うぞ」
「で、でも、今までなんだかんだと助けてもらってきたわけじゃないですか。そりゃあ痛い目に合わされたことも結構ありますが、それを状況が変わったからと言ってあっさり殺すんですか? っていうか殺せるんですか?」
「言葉で彼女の気持ちが変わらないのは前回で分かっただろう? 後はもう行動しかないのだよ」
「うーん‥‥上層部はなんて言いますかねぇ」
「無視するさ」
「はい!?」
「京都上層部としてはどちらが倒れてもいい。どちらにも手を貸さなければ手を貸した方が負けるというパターンは無いわけだからね。後は生き残った方と手を結べばいいのだから」
「汚い。流石上層部汚い」
「この国の基本となるものを改革しなければ永遠に変わらんよ。私たちはその機会があるのに選択していない。それだけのことさ」
 冒険者がやったこと。そう言って自分たちは責任逃れするつもり満々である。
 片や丹波を救うためにイザナミに挑み、片や和平を考えるためにも悪魔を迎撃する。
 どちらが正しいのかは分からない。しかし両者の激突は避けられないのだ。
 どういう選択をするか。どういう歴史を紡ぐのか。それは勿論、冒険者次第―――

●今回の参加者

 ea0020 月詠 葵(21歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea1442 琥龍 蒼羅(28歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea3210 島津 影虎(32歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ea6526 御神楽 澄華(29歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 eb2483 南雲 紫(39歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 eb3936 鷹村 裕美(36歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 eb4721 セシリア・ティレット(26歳・♀・神聖騎士・人間・フランク王国)
 eb5868 ヴェニー・ブリッド(33歳・♀・ウィザード・ハーフエルフ・フランク王国)
 ec0129 アンドリー・フィルス(39歳・♂・パラディン・ジャイアント・イギリス王国)
 ec3981 琉 瑞香(31歳・♀・僧兵・ハーフエルフ・華仙教大国)

●リプレイ本文

●涙を隠して
 ギィンッ!
「っ‥‥!」
「くぅっ‥‥!」
 晴れ渡った空の下、その戦いは開幕した。
 丹波藩中央部に位置する東雲城を遠くに見る平野にて人知れず。
 イザナミとの和平の道を信じ、迫り来る獄炎の悪魔カミーユを食い止める側に回った冒険者。
 そして、カミーユと運命を共にすると言った宣言を尊守しカミーユ側に付いた冒険者。
 あくまでイザナミを倒しに行くと言ったカミーユたちとの悲しい戦いは、互角と言うには厳しい戦況であった。
 槍と刀とをぶつけ合う御神楽澄華(ea6526)と月詠葵(ea0020)。言うまでもなく、同じ依頼を何度となくこなし、共に笑い共に修羅場をくぐり抜けてきた仲である。
 それでも今は戦うしかない。自分たちの信念がそうせざるをえなくさせているのだ。
「澄華お姉ちゃん! このままじゃ、ボクたちが紡いできた『絆』が無駄になっちゃうのですよ!?」
「承知の上です‥‥。しかし、イザナミに付くのもカミーユ嬢との『絆』を無駄にすることになりますから!」
「このっ‥‥! わからず屋ぁぁぁっ!」
「そう思うなら、殺していただいて結構です‥‥!」
 単純な腕だけで言うなら月詠の方が圧倒的に上だ。しかし、御神楽は捨て身の覚悟と遠慮を一切排除しているのに対し、月詠はどうしても御神楽への攻撃に躊躇を覚えてしまう。
 加えて‥‥
『さぁさぁ、あまり近すぎると燃やしてしまいますわよ?』
 御神楽が騎乗するのは、彼女が愛情を注いできたグリフォンではなく、悪魔ガミュギンである。
 馬としては小型の部類だが、近づくと身に纏う漆黒の獄炎が月詠の肌を焼くのだ。
 任意で効果を及ぼす対象を決められるらしく、乗っている御神楽には何の影響もない。
「くっそ‥‥! 敵に回すとこんなに強いのか!」
「まさかあなたまでカミーユさんの味方をするなんて‥‥!」
「謝るつもりはない。私はカミーユの友でありたい。それが例え、未来を敵に回してでも!」
 鷹村裕美(eb3936)とセシリア・ティレット(eb4721)の二人は、南雲紫(eb2483)と交戦中。
 イザナミにさえ一目置かれる女傑は、二人の手練を相手にしながら余裕さえ感じる立ち回りを見せる。
 再度の説得を試みた冒険者たちであったが、カミーユはそれを一蹴。即刻戦闘に入ってしまったため、あれこれ工作をするために場を離れているメンバーが欠けた状態は流石に厳しい。
「いやはや、またしても私たちがお相手なわけですが‥‥避けるだけでは後始末になりませんよ?」
「そんなこと言われたって! 一応隙を見てちょっかいは出してるんだけど‥‥!」
 カミーユが操る埴輪大魔神の足止めを担うのは、島津影虎(ea3210)とヴェニー・ブリッド(eb5868)の二人。
 以前にも相手をしているため、島津が避けてヴェニーがライトニングサンダーボルトで援護というパターンは確立されている。
 が、如何せん火力どころか人員そのものが足りない上、カミーユには大勢のしもべが呼べるのだ。
『さぁさ、おいでなさい。楽しく踊りなさい。無念を忘れ去るくらいに一心不乱に』
 ごぅ、とカミーユの炎が勢いを増し、地面から多数の怨霊が出現する。
 言葉通り踊るかのような円を描き、敵側を正確に攻撃する怨霊たち。
 不死者のコントロール能力も強化されているらしく‥‥
「そこっ!」
『無駄だとお分かりになりませんの?』
 ヴェニーが放つLTBに怨霊をぶつけ相殺する。
 この器用な芸当と続々と量産される怨霊の前に、月詠たちはどんどん押されて行く。
「あぐぁっ!?」
 怨霊に軸足を攻撃され、揺らいだところに御神楽の槍がヒットする。
 月詠はもんどり打って地面に倒れ伏し、眼前に槍を突きつけられた。
「く‥‥動けない。カミーユのやつ‥‥!」
「さ、流石にこの数ではホーリーフィールドで粘るしか‥‥」
「そこで大人しくしていてくれ。私も命を取りたくはないからな」
 何十という数の怨霊に包囲され、鷹村とセシリアはHフィールドに篭って耐えざるを得なくなる。
 南雲が巧みに二人を怨霊の只中に誘導した末のことである。
「ヴェニーさん!?」
「ちょっと待って、今ソルフの実を‥‥」
「待てませんって‥‥ごふっ!?」
 島津が埴輪大魔神の拳の直撃をもらい、まるで木の葉のように吹っ飛ぶ。
 LTBを連発していたヴェニーはすぐに魔法力を枯渇させ、ソルフの実で回復を図ったが、その間にも埴輪大魔神の猛攻は続く。
 疾走の術込みでも島津が埴輪大魔神の攻撃を避け続けることは難しい。援護込みでようやくといった所なのだ。
『さて‥‥では通していただきますわ。ごきげんよう』
「ま、待って‥‥。このままじゃ‥‥みんな、不幸に‥‥!」
 月詠の声も伸ばした手も、カミーユや御神楽たちには届かない。
 このまま見送ることしかできないのだろうか‥‥。
『‥‥感謝しますわ、御神楽さん、南雲さん。本当にわたくしの味方をしてくれるなんて思いませんでした』
「‥‥約束だけではありません。間違いでも、私はあの子を許せない。これは志士の志を捨てての私闘。失くしながら戦い続けた過去を、無にしない為にも‥‥」
「正直言えば、待って貰いたいっていう気持ちはまだあるわ。でも、あなたが決めたのなら一蓮托生でいいと思うの。それが、友人でありたいって言った私が示せる誠意だからね」
『‥‥本当にあなたがたは奇特な人ですわね。これまでの契約者は、わたくしを恐れるかただ利用するかのどちらかでしかなかった。悪魔と等身大で付き合いたいと‥‥運命を共にしようと本気で行動してくれる方がいるなんて思いませんでしたわ。もっと早くあなた方と出会えたなら‥‥人間があなた方のような人ばかりなら、悪魔が悪魔と呼ばれることもなかったでしょうに』
「‥‥往きましょう。決着をつけるために」
 二人と一匹と一体が、東雲城へと歩を進めようとしたその時―――

●絆
「残念だが待ってもらう。生憎俺は諦めが悪いんでな」
「悪魔と対するが我が使命。何とか間に合ったようだ」
 上空からの声に視線を上げると、スモールホルスに乗った琥龍蒼羅(ea1442)の姿があった。
 そして地上にはパラスプリントで瞬間移動してきたアンドリー・フィルス(ec0129)が出現している。
 二人とも工作をするために遅れた制止側の冒険者。南雲たちを食い止める気なのだろう。
『あら‥‥遅刻とはマナーがなっていませんわね。パーティーはすでにお開きでしてよ?』
「そう言うな。特別な招待客を呼んでいたんでな」
「俺はあまり面識が無かったからな‥‥説得に思った以上の時間がかかった」
「‥‥まさか‥‥本当に呼んできたの!?」
 南雲の声を合図にしたかのようなタイミングで、四方から何かが近づいてくる。
 月精龍、風精龍、蛟、大蛇、炎龍。丹波に存在する五行龍と呼ばれる精霊龍たちだ。
 そして同時に、数多くの人影。それぞれ馬に乗り、こちらを目指してくる。
「八卦衆‥‥そして八輝将の方々‥‥!」
 丹波に散っていた山名家家臣の魔法戦士たち計十五人もまた、招集に応じて馳せ参じたのだろう。
 かつて、精霊龍という異種族として対立してきた五行龍。
 かつて、裏八卦を名乗り丹波を騒がせた八輝将。
 かつて、冒険者と共にそれらの問題を解決してきた八卦衆。
 いわばこの集まりは冒険者達の絆と歴史そのもの。奇跡の軌跡と言えるものだ。
 これによりあっという間に数の差は逆転する。例え怨霊がどれだけいようと、二十を超える特殊戦闘要員と冒険者が相手ではカミーユ側の分が悪い。
「諦めろとは言わん。どうせ無駄だからな。悪魔ガミュギンよ‥‥その生命、神に返せ」
『丹波を救おうとするわたくしたちの前に丹波の戦力が立ちふさがる‥‥ですか。別に皮肉だとは思いませんわ。前にも言いましたが、勝てようが勝てまいがわたくしは進みます。この身が滅びるまで!』
「よく言ったガミュギン! ならばパラディンの名の下に、お前を滅する!」
 瞬間移動でカミーユの直前に現れたアンドリーは、その剛腕で青龍偃月刀を振り下ろす。
 が、その切っ先はあわやと言う所で弾かれカミーユに届かない。
「カミーユ嬢は私がお守りいたします‥‥!」
「馬鹿な‥‥平和への道を潰すつもりか!?」
「最早救われる事の無き身。死出の旅路であろうとカミーユ嬢と共に往く所存!」
「前から言おうと思っていたが、お前は目標を履き違えている。原因がどこにあるにせよ、お前はお前が背負った悲しみや悲劇を他人にも押し付けようとしているんだぞ。戦が続けば更に多くの人が死ぬ!」
「澄華はそんなことは分かっている! それでも納得できないんだ! 許せないんだ! 理屈じゃない!」
「個人の感情で他人を巻き添えにすることが間違いだと言っている! 悲しみを知る人間が、悲しみの連鎖を止められるかも知れない未来に刃を向けてどうするというんだ!」
 琥龍の言葉に南雲が反論し、珍しく琥龍が激昂する。
 迫り来る怨霊をLTBでたたき落とし、南雲のソニックブームをペガサスのHフィールドで防ぐ。
 悲しい‥‥あまりにも悲しい戦いだ。お互い、何かを守るために戦っているはずなのに。
「致し方なし。全力をもって排除する!」
 アンドリーはそう息巻くが、五行龍や八卦・八輝たちは乗り気ではない。
 相手に御神楽たちがいる上、カミーユも丹波のために動いてきたからだ。
 月詠たちも戦線復帰し、背後で陣形を立て直している。いくら歴戦の冒険者と地獄の悪魔と言えど、最早年貢の納め時。誰もがそう思った時である。
「待てい!」
 戦場に響く若かりし声。アンドリーたちの更に後方から馬で駆けてきたのは、丹波藩主の山名豪斬と、彼の開放をイザナミに要請していた琉瑞香(ec3981)であった。
「お待たせしました。何とかお許しをいただくことができました」
 長きにわたりイザナミに捕らえられていた藩主、山名豪斬。
 彼こそがカミーユと丹波を守ってくれという契約を交わした男であり、唯一言葉だけで止められる可能性を秘めている。
 身なりを整え騎馬にまたがる若き藩主は、馬から降りるとカミーユへ声をかけた。
「久しぶりである、カミーユ殿」
『本物ですわね‥‥。お久しぶりですわ』
「あの時の約束を今でも尊守しようとしてくれること、嬉しく思う。しかし、丹波は京都上層部に『許す』という約定をいただいた。もうそなたが躍起になって無理をすることはない」
『お言葉ですが、わたくしはあの連中を信用しておりませんの。それに、丹波や家臣はお目こぼしされても、豪斬様ご自身は違う。必ず責任を問われ、処断されるでしょう? それでは駄目なのです』
「良いのだ。余の至らなさが多くの人々を不幸にした。処断されて然るべきだろう」
『ですから、それでは契約が果たされません。わたくしに契約を果たせない三流の汚名を被せる気ですの?』
「‥‥よかろう。では契約内容の変更を申し入れる」
『はい!?』
「丹波を救うため、冒険者らと協力しイザナミ殿との和平実現に尽力せよ。和平が成った時に契約完了とし、我が魂でも何でも持っていくが良い」
 開いた口がふさがらないとはよく聞くフレーズだが、馬がぽかんと口を開けた表情をするのはなかなか見られない。
 丹波を救ってくれという趣旨は変わっていない。ただ明確な方針と契約完了の瞬間が定義されただけだ。
 問題は山名豪斬が処断されることを回避してはいないということだが、契約完了後に豪斬がどうなろうとそれは契約外の事と言ってしまえるのだ。
「申し訳ございません。種を明かしてしまえば、これは私の入れ知恵です。どうしても丸く収められる方法を探したかったのです。わざわざ私達を呼び出したということは、カミーユさんの行動以外で事を解決してもいいということだと解釈させていただきました」
 琉はぺこりと頭を下げ、カミーユからの返答を待つ。
 予めカミーユが退かない時の対処法を豪斬に教え、言いくるめるつもりだったようだ。
 彼女に限らず、参加している冒険者の多くも、五行龍や家臣たちも丸く収まるなら勿論その方がいい。
 そう考えているところに、島津が更に言葉をつなげた。
「それではこんな条件ではいかがでしょう? 和平成立後はイザナミ様に丹波の鎮守・氏神となっていただき、カミーユ嬢はイザナミ様やその配下の者が暴走しないよう見張る抑止力となっていただくというのは。これを飲まなければイザナミ様と協力して京都に攻め込むなどと言えばあちらも了承するのではないでしょうか」
『ですから、わたくしはイザナミの子を認める気は‥‥』
「契約に反してもですか? 契約の障害となるからこそ無理をしてでも対立していたのでしょう」
『うぐ。こ、このつるぴか、なかなか鋭いですわね‥‥』
「いやはや、後始末のこととなれば知恵が回るものでして」
「どうでしょう、カミーユ様。私は丹波に関わって日も浅いですが、かつての敵味方が共に歩み、精霊龍が人と共存するこの藩は奇跡的とさえ思っています。その奇跡の中に、悪魔と黄泉人を混ぜてみても面白いと思いませんか? 人間と黄泉人だけなら裏切りが起きても、他の種族もいればそうならなくすることもできますよ」
 紡いできた絆がある。踏みしめてきた歴史がある。冒険者達はいつでもこうして来たのだ。
 だから悪魔にも手を差し伸べる。黄泉女神と和したいと堂々と言える。それだけの実績があるから。
 セシリアの言は夢に夢を重ねる妄想かも知れない。でも‥‥
『‥‥いいでしょう。やるだけやってみましょう。ただし、京都が約束を違えるようなら今度こそ容赦しなくてよ』
 歓声が巻き起こり、一同はようやく緊張の糸を緩めた。
 まだ和平が決まったわけではないが、信じてみたい。悪魔にさえそう思わせる何かが冒険者にはあった。
 カミーユの背で呆然としていた御神楽は、虚ろな目で獄炎の悪魔を見下ろす。
 許すのか。許さないまでも認めるのか。悪魔でさえも壊れかかった自分の味方になってくれないのか。
 自我崩壊の寸前で、御神楽はもうどうにでもなれと思う。
「聞いてください、澄華お姉ちゃん。ボクたちは誰かが同じ理由で泣かなくて済むような選択をできるのです。今までだってできるだけそうしてきたじゃありませんか」
「‥‥私は‥‥もう、許し方を忘れてしまいました‥‥」
 食いしばるように言う御神楽。そういうリアクションを予想していた月詠は、最後の手段を使うことを決意する。
 容赦のない阻止行動を辞さないとしていた月詠は、不意に刀を高く掲げた。
 すると‥‥
『許したる!』
 男の声が響きわたり、小高い丘に人影が現れる。
『他の誰が許さんでも、俺が澄華はんを許したる! せやから―――』
「あ‥‥ぁ‥‥う‥‥!」
 千客万来の丹波に、最後の客人が現れる。
 新選組に属する月詠だからこそ取れた、残酷で優しい手段。
 一人の女の涙と共に‥‥丹波での物語は、一先ずの幕を降ろしたのであった―――