衝撃の黒歴史
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■ショートシナリオ
担当:西川一純
対応レベル:11〜lv
難易度:易しい
成功報酬:2 G 74 C
参加人数:3人
サポート参加人数:-人
冒険期間:01月20日〜01月25日
リプレイ公開日:2010年01月31日
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●オープニング
世に星の数ほど人がいて、それぞれに人生がある。
冒険者ギルドでは、今日も今日とて人々が交錯する―――
「うふふ‥‥悪い子ねぇ。オシオキしちゃうわよ?」
「もしかしてライトニングサンダーボルトですかー!?」
「YESYESYES! Oh My God!」
「どぉあぁぁぁっ!?」
ある日の冒険者ギルド。
いつものように仕事をしていた職員の西山一海。彼の元に珍しい客がやってきていた。
ヴェニー・ブリッド(eb5868)。神にもインタビュゥする好奇心旺盛な魔法使いである。
笑顔でLTB(初級)を一般人に撃ち込んだが、周囲の人間は特に気にした様子はない。
「あらら? みんなリアクション薄いわねぇ」
「まぁね。一海君はその程度では堪えんよ」
「ふっふっふ‥‥そう、私の特殊能力発動! ギャグー空間が発生したことにより、私の能力は十倍に、ヴェニーさんの能力は十分の一に減少したのです!」
「な、なんだってー!?」
「うむ。充分適用範囲内のノリの良さだね」
一海の友人であり、隣で茶を啜っていた京都の何でも屋の藁木屋錬術も、何事も無かったような態度だ。
この際、一海の特殊能力云々はスルーするとして、ヴェニーが直接一海を訪ねてきた理由を聞きたいところだ。
「それで、今日は何のご用で? まさか本当に私にオシオキしに来たわけじゃないでしょう?」
「それも目的の一つよ。あのことはヤバイから他人に話しちゃ駄目って言ったでしょ?」
「アルトノワールさんにしか話してませんよぅ」
「そのアルトノワールさんは他言しないって保証は?」
「あぁ、それなら大丈夫だ。彼女は秘密をペラペラ口外したりせんよ。私以外にはね」
「ということは藁木屋さんもご存知、と。まぁある意味話は早いけど」
ため息を吐きつつも、しょうがないかと納得するヴェニー。
一海と藁木屋は顔を見合わせて首を捻るしか無い。
「‥‥今日は依頼をお願いしたくて来たの。なるべく秘密にしたい感じのをね」
「ほう、それはそれは。じゃあちょっと移動しましょうか」
一海に案内され、三人は訳ありの依頼人が通される座敷へと移動した。
座布団にちょこんと座ったヴェニーは、軽く咳払いをして依頼の内容を告げた。
「先の大戦とは何だったのか? 何故、神皇は裏切り、神は封印されたのか? 古の昔何があったのか。今は明らかに出来ないけれど、真実は残さなければダメだと思うの。その編纂のお手伝いを募りたいわけ」
「うーむ‥‥ギルド的にどうかは知らないが、上層部には大変面白くない作業だね」
「そうですよ。下手すると消されちゃいますよ!?」
「分かってるわよ。だから表向きは現代の戦史を残していくという感じで。私だって京都の闇に殺されるのはまっぴらだもの。それでも、公にできなくても、過去の真実を闇に葬ったままじゃ駄目だわ。イザナミと和平を結ぶのであれば尚更ね」
現在人々が信じている歴史では、黄泉人が悪者で人間はそれを制し封印したということになっている。
しかし、封印された本人であるイザナミや黄泉人たちは、自分たちは神と呼ばれ人間たちと力を合わせ倭国大乱に勝利したというのに、人間が裏切って自分たちを封印したのだと主張している。
誰かが言っていた。『生き証人が出てきてしまったら歴史など容易く覆り、研究する価値を失う』と。
しかし求心力を失いたくない京都上層部は、意地でも過去の真実を隠蔽なり否定なりしたいようである。
「っていうか昔のことじゃないですか。自分たちが裏切りを決定したわけじゃなし、『祖先が悪いことをしてすいませんでした。でも今からは仲良くやっていけませんか?』って言えないんですかね?」
「言えないから私がお願いしてるの! いっそフィクションの物語だっていう名目でもいいから。ね、お願い!」
「分かりました。ですがくれぐれも内容は周囲に漏れないようにしてくださいね。編纂の仕方はヴェニーさん次第ですけど」
「りょーかい。ここまでの私のインタビュゥの集大成だもの。しっかり完成させてみせるわ!」
闇に葬られた真実。人間と黄泉人の争いの原点。
それを後の世に残すたため‥‥一人のインタビュアーが立ち上がった―――
●リプレイ本文
●Sin
「はぁ‥‥」
カタンという軽い音ともに、ヴェニー・ブリッド(eb5868)は筆を置いた。
ようやく完成した歴史書。まさに黒歴史と呼ぶに相応しいその内容は、現在知られている歴史を完全に否定している。
これを世に出せば、日本が崩壊するかヴェニーたちが稀代の大ぼら吹きとなじられるかのどちらかだろう。
「お、思った以上にとんでもないにょ。今起こったことをありのままに話すにょって感じにょにょ」
「そのネタはまた今度な。ま、文の時代が来たとしても、こいつは評価が分かれるだろうなぁ」
数少ない協力者である鳳令明(eb3759)と鷲尾天斗(ea2445)もまた、その内容には驚きを禁じえない。
「そんじゃ、最初の方から総括と行くか」
鷲尾は完成したばかりの本をぺらぺらめくっていたが、先頭のページで手を止めた。
それは黄泉比良坂での出来事。全ての始まりにして、悲しみの始まり。
「この辺りは神話とあまり変わりが無いよな。イザナミが死んで、それを悲しんだイザナギが黄泉の国にイザナミを連れ戻しに行く。しかし振り向いては駄目だと言われたのに振り向いてしまい、黄泉人となっていたイザナミの姿を見てイザナギが逃げ出したから夫婦喧嘩になった‥‥と」
「逃げ出したっていうならまだしも、奥さんに『化物め、イザナミをどこへやった!?』とか言っちゃ駄目にょ‥‥。あげく攻撃したとか洒落にならないにょ」
「いやぁ、俺はイザナギに同情するけどなぁ。振り向いたら奥さんがミイラになってるんだろ? そんなん俺だって驚くわ」
「イザナミさんも、愛していたからこそその言葉が辛かったんでしょうね。今でも人間の姿にこだわるのはその時のトラウマが原因で、他の誰かに黄泉人の自分を見られて怖がられるのが怖いんだそうよ」
「乙女心だねぇ。そういうのは嫌いじゃないが」
「んで、夫婦喧嘩って言っても二人は強大な力を持ってたにょ。長引くその戦いを良しとしなかった何者かが割って入って仲裁という名の封印をしたってわけだにょ」
「その何者かっていうのはイザナミさんも分からないみたいね。ただ、人間ではないことだけは確かみたい」
「まーた人外登場か‥‥ってまだ神話の時代だから仕方ないな。別種の神か、天使か悪魔か。何にせよ、イザナミが封印された後、イザナギもバラバラにされて東国に封印された。これはイザナミが知らなくて当然だな」
「時は流れて、人間の時代。倭国大乱の近辺ね。封印の劣化で復活したイザナミさんは、倭国大乱にさして興味は無かったみたい。出雲の根の国で静かにくらしていたかったみたいね」
「でも、戦いは想像以上に拡大していったにょ。天使や悪魔といった、本来この国にいないはずの勢力まで加わって、天津神と呼ばれることになる神様たちも戦っていくにょ」
「ちなみに埴輪大魔神は倭国時代のもので、古代魔法王国朝時代から伝わる遺産らしい。専用の勾玉を持つものを主として認識し、スサノオなんかとも戦ったことがあるらしいな」
「スサノオの正体は、マンモンが言うとおりドラゴン・ボーン・ゴーレム。その操者がスサノオっていう神様なんだけど、悪魔の計略により天津神から離反、第六天魔王とかと同様、強敵になっちゃったってことね」
「操者の死後、ゴーレムの方もスサノオ呼ばれるようになって後世に伝わっちゃったにょ」
「んで? 時に神皇家に助力を乞われたイザナミは、倭国大乱末期に戦いに参戦、初代酒呑童子であるタケミカヅチたちとも手を組み、人間側に付いて悪魔たちと戦い、勝利した‥‥と」
「その後、イザナミさんは京都に賓客として招かれ暮らしていた。でも時が流れるにつれ、精霊魔法を独占していた神皇家の力は肥大していった。火雷や土雷と出会ったのは封印されるちょっと前。二人はそれぞれ、警護隊と世話人だったらしいわよ」
「天使の裏工作がどうこうって話もあったみたいだにょ。でも結局決めたのは‥‥」
黄泉人は眠る必要が無い。そのため、イザナミが住んでいた屋敷は常に明かりが灯っていた。
黄泉人と人間、双方から選ばれた警護隊が常駐しており、いつものように夜は過ぎて行く‥‥はずだった。
しかし‥‥
「イザナミ様、大変です! 何者かの軍勢がこちらへ押し寄せてくるそうです!」
「甲羅茶話? 何を言っておる、そのような大それたことをする愚か者などおらぬわ」
「すでに目指されているそうなんですよ! お逃げください!」
「馬鹿な‥‥」
そうこうしているうちに、屋敷の門が破城槌代わりの丸太で破壊された。
怒声と共になだれ込んでくる兵士たち。圧倒的な数の差と、魔法武器や精霊魔法をもって黄泉人すら倒して行く。
人間側の警備隊も問答無用で斬り殺して行くその様子から、皆殺しにする気が満々であることが伺えた。
「我をイザナミと知っての狼藉か! 何者の指示であるか!」
そう叫んでみたが、イザナミにはある予感があった。
これだけの魔法武器を用意するのは簡単なことではないし、何より精霊魔法を使うものが多数いるということは神皇家にかなり近しい者の企みであろう、と。
屋敷のあちこちで火の手が上がり、剣戟の音と絶叫が上がっては消える。
そんな中、イザナミの声に応えるかのように馬に乗った二人の男が姿を現した。
イザナミにはその二人に見覚えがある。というより、かなり見知った間柄だ。
「ほう‥‥まさかそちまでが首謀者とはの。名に似あわず黒い企みが得意と見える。のう‥‥聖徳太子よ」
聖徳太子と蘇我馬子は答えない。ただ冷徹な瞳をイザナミに向けたままだ。
その間にも屋敷の被害は増大して行く。元々警備隊の数はそんなに多くはないのだ。
「イザナミ様、お逃げください! ここは我らが押しとどめます故!」
「具良公(ぐらのきみ)であったか。そちこそ逃げよ。人間では無駄死にするだけぞ」
「構わないと言わせていただきましょう! 私が忠誠を誓ったのはイザナミ様です。生きている身ではありますが、死んでもお供する‥‥そう仲間の屍に誓いました!」
「一人だけ格好つけんなよ! 俺だって同じですよ、イザナミ様ぁ!」
人間に襲われながら、それでも味方をしてくれる人間もいる。
しかしそんな嬉しさを飲み込んでしまうくらい、静かながらもイザナミは腹を立てていた。
「うぬら、これは立派な反逆ぞ。我と神皇殿との仲を知らぬわけではあるまい。不忠も甚だしい!」
現神皇は女性であり、イザナミはその神皇が赤ん坊の頃から傍にいた。
もう一人の母とも呼ばれお互いを大事に想い合っている、仲睦まじい親子のような関係だ。
神と崇められているイザナミは、京都の防衛役の面もある。それを討ち取ろうなど正気とは思えないが‥‥。
しかし、聖徳太子が発した一言はあまりに残酷だった。
「これは神皇様の勅令にございます」
「なん‥‥じゃと‥‥!?」
「要はあなた方は用済みということです。倭国大乱から時も経ち、人間は人外の者に対抗出来る力をつけてきました。あなた方に守っていただかなくても大丈夫になったのですよ」
イザナミは混乱していた。
つまりはどういうことだ? 必要なくなったから、過去の恩も何もなく切り捨てるということか。
我らが人間の生気を吸うから余計になのか。それとも鬼や天使にまで同じ事を言うつもりか?
いやしかし、我は神皇に母とも慕われているというのに‥‥
「信じぬ‥‥信じぬぞ! 推古がそのような真似を許すものか! 貴様らの独断であろう! そうに違いない!」
「では‥‥ご本人にお伺いすれば良いでしょう」
「っ!?」
聖徳太子たちの後方から、一台の牛車が進んでくる。
そこから降り立ったのは‥‥間違いなく現神皇。イザナミが娘とも思って付き合ってきた女性だ。
「す、推古‥‥嘘じゃろう? 嘘じゃと言うてくれ‥‥!」
推古と呼ばれた女性は、辛そうな顔をして目を逸らす。
しかし、涙を流しながら震える声で告げた。イザナミに聞こえるくらいにはハッキリと。
「‥‥申し訳、ありません‥‥」
「何が申し訳ない!? 謝るな、謝ったりなどするでない! 一言でいいのじゃ‥‥こやつらが謀反人であるとそう言っておくれ! なぁ、推古よ!」
「母様‥‥申し訳ありません。これが、人の未来のためなのだそうです‥‥!」
「〜〜〜ッ! それはどこの誰が決めたのか!? 本当にお前の意思なのか!? 違うであろう! だからこそ『なのだそうです』などと言うのじゃ! 推古よ、お主の本当の心はどこにある!?」
「っ‥‥! 母様‥‥私だって、本当は―――」
「神皇様、お下がりを。これ以上は辛い場面になるかと」
「忠臣ぶるな下郎が! 貴様が辛い想いをさせているのであろうがぁぁぁっ!」
「天津神の皆様方。後はよろしくお願いいたしますぞ」
聖徳太子と蘇我馬子が下がり、代わりに天津神と呼ばれる神たちがイザナミの前に立ちふさがる。
流石に人間だけでイザナミを討ち取れるとは思っていなかったらしい。準備はあまりに万端だったのだ。
「おのれ‥‥おのれぇぇぇっ!」
「イザナミ様、ここはお退きを! あなた様に万が一のことがあってはいけません!」
「くっそ‥‥! 八雷神の方々がいてくれれば、こんなことにはならなかったのによぉ!」
「くっ‥‥! 分かった、そちたちを無駄死にさせるわけにはいかぬ。出雲へと落ち延びる! 我の傍を離れるでないぞ!」
『はっ!』
「おのれ聖徳太子‥‥蘇我馬子! この恨み、晴らさでおくべきか‥‥!」
苛烈な魔法の撃ち合いの末、屋敷から逃げおおせたのはイザナミたち三人だけであった。
天津神が口にした『ゴクロウサマデシタ』という台詞と、嘲るかのような薄ら笑い。イザナミは今でもその日のことは忘れられないという―――
「‥‥この後、戦いの中で具良公と甲羅茶話は死亡、言葉通り不死者となってもイザナミに仕えて八雷神になるまで出世したわけだ。俺たちと同じように、信念で戦ってたんだな‥‥」
「しかもこの後が酷いもんだにょ。戦いが長引くのを気に病んだ推古神皇が和平会談を持ちかけて、イザナミさまがそれを了解した。でもそれは罠で、天津神の力を借りて出雲でイザナミさまや黄泉人たちを封印したんだにょ」
「裏切りの上に騙し討ちか‥‥そりゃあ恨まない方がどうかしてるわよ」
大分割愛したが、この後イザナミが現代に復活するまではおよそ歴史のとおりだ。
酒呑童子との盟約も忘れられ、多くの人々は大きな罪があったことを知らされずに生きてきたわけである。
知らないことが罪とは言えない。だから彼らが犠牲になったことは仕方がないでは済まされないが‥‥。
「‥‥もし和平が成らずにまた戦いが始まったらさ、もう立派な第二次倭国大乱だよな」
「そして歴史は繰り返し、政治的な思惑で戦いは泥沼に‥‥って? 冗談じゃないわ!」
「もう訳が分からないにょ! 政治配慮とか、国とか、なんなんだにょ。クソのよ〜な権力者が搾取を続けて、泣くのは最下層の国民で‥‥!」
「この事実を多くの人が知らないことが悔しいし、表に出せないのはもっと悔しいわ‥‥!」
歴史の生き証人、イザナミとその配下の黄泉人たち。
勿論、自分たちに都合のいいよう歪んだ事実を話している可能性もある。しかし、今までのイザナミの言動や人への怒りを思えば嘘であるとは言い切れなかった。
この歴史書は、よほどのことが無い限り表立って公表されることはないだろう。
願わくば、真の平和が訪れ‥‥誰もがこの書物を読める日が来ることを願って‥‥。
書物の最後は、鷲尾によって加筆されこう締めくくられている。
『記憶は人の心を時として縛る。だが、心は幾ら縛られても新たな人との出会いで世界を広げる事が出来る。これを読むものはこの記録に縛られる事なかれ。この記録との出会いで新たな世界を開いてほしい』
この一文は、果たして未来の人々のためだけに書かれたのだろうか? 現代を生きる者たちにも十分通用するのではないだろうか‥‥そんな気がしてならない。
第二次倭国大乱は、この歴史書に載っているような悲劇にならないことを祈るのみである―――