堕天狗党暗躍 〜青い巨刀、嵐馬〜

■ショートシナリオ


担当:西川一純

対応レベル:1〜3lv

難易度:難しい

成功報酬:0 G 78 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:10月09日〜10月14日

リプレイ公開日:2004年10月12日

●オープニング

世に星の数ほど人がいて、それぞれに人生がある。
冒険者ギルドでは、今日も今日とて人々が交錯する―――

「た、大変ですよ! 今巷を騒がせている黒い三連刀はご存知ですよね? どうやら以前三連刀が撤退に追いこまれたのを見て『堕天狗党』が本格的に動き出したようです! 江戸近郊の‥‥一日も歩けばすぐ着けるような宿場町で、堕天狗党を名乗る男が暴れているとのこと!」
 今入ってきたばかりの依頼の紙を見て、冒険者ギルドの若い衆は酷く慌てる。たまたまギルドに来ていた冒険者たちに向けて一気に捲くし立てていた。
「その男は『青い巨刀、螺流嵐馬(らりゅう らんま)』と名乗り、中年で髭を生やしています。大型の日本刀である野太刀を主武器とし、たまに鞭も使うとか。勿論持っている武器は両方真っ青に塗られています」
 さらに手強い部下を二人を護衛として引き連れており、その二人は異様に士気が高く、嵐馬に心酔しているのかちょっとやそっとでは逃げようとしない。そこそこの手錬が惚れ込む事ができるほどの人物、ということだろうか。
「具体的な被害としては、商人の積荷の強奪、警備の役人への暴行が主です。三連刀と違って一人の死人も出てはいませんが、商人はたまったものじゃありません。例えそれが悪徳商人ばかりだとしても、一応江戸の流通の一端を握ってるわけですから。‥‥いや、役人さんには悪いんですがわりといい気味だと思ってるんですけどね、悪徳商人に対しては」
 どういう情報網があるのかは知らないが、基本的に堕天狗党の面々は悪徳商人ばかりを狙う。そういった連中から金や物資を巻き上げて自分たちの戦力を強化しているらしい。元々物資や資金に乏しいのか、現地調達を旨としているようである。
「部下まで連れていても、一人も死人を出していない‥‥やってることは勿論極刑級の犯罪ですが、なんとなく根っからの悪人じゃないと思うんですけどね‥‥いや、ホントになんとなくですけど、実際はどうなんでしょう。でもかなりの手練とのことですので、充分気をつけてください」
 どんなに崇高な理想があったとしても彼らのやっている事は騒乱の元だ。大っぴらには動けずとも黙って放っておくこともできないのが江戸の支配者なのだろう。
 交じり合えぬ想い‥‥江戸の平穏を守るためには、今は戦うしかない―――

●今回の参加者

 ea2984 緋霞 深識(31歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea3210 島津 影虎(32歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ea3813 黒城 鴉丸(33歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea6269 蛟 静吾(40歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea6657 ルー・エレメンツ(29歳・♀・ナイト・人間・ノルマン王国)
 ea7029 蒼眞 龍之介(49歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea7246 マリス・エストレリータ(19歳・♀・バード・シフール・フランク王国)
 ea7367 真壁 契一(45歳・♂・志士・人間・ジャパン)

●リプレイ本文

●邂逅
「ふ〜‥‥着いた着いた、ここが問題の宿場町だな。思ったより近いじゃないか」
「そうですね‥‥保存食の心配は杞憂でした」
 青く晴れた空を見上げ、緋霞深識(ea2984)と島津影虎(ea3210)が伸びをする。
 朝早くから出かけた一行は昼をちょっと過ぎたくらいに依頼場所である宿場町に到着した。しかし辺りを見回しても平和そのもの‥‥人々が行き交い、少し早い宿の客引きや土産物屋が賑わっているのである。
「先生‥‥どう見ますか? すでに嵐馬たちはこの地を去ったか、それとも‥‥」
「‥‥もしくは居ても悪徳商人以外には害にならない人物か‥‥ということだな」
 蛟静吾(ea6269)と蒼眞龍之介(ea7029)の疑念は急速に現実味を帯びてきている。即ち‥‥『螺流嵐馬は武人である』という憶測に過ぎなかった感慨。
「どうも‥‥本当はどうでも良いんですが‥‥不器用にしか生きられない人間、嫌いにはなれませんな‥‥」
「宿場町でギルドに依頼が来る様な騒ぎを起こしていながら、来て見ればこの様子。どうにかして説得できませんかな‥‥」
 真壁契一(ea7367)の頭の上にちょこんと乗りながら、マリス・エストレリータ(ea7246)は溜息をつく。この平和な光景を見て、一行の頭には一つの選択肢が色濃く浮かんできていた。それは螺流たちの説得。どうにかして彼らを堕天狗党から抜けさせる事は出来ないものか、と。
 そう‥‥たった一人を除いては。
「他人を傷つけ、命を奪うモノを持ちながら、本当に説得する気ですか、それも極刑級の犯罪者に対して‥‥そもそも説得なのでしょうか?」
 黒城鴉丸(ea3813)。蛟や蒼眞、緋霞と共に黒い三連刀と戦った男であるが‥‥どうやら団体行動が苦手らしく、思想も他の6人とは正反対のようだ。もっとも必要以上に和を乱す気もないのでさらっと流したのだが。
「‥‥何か一人足りなくないかのぅ‥‥」
「あー! 見ろよ、飯屋があるぜぇ! 決戦に備えて何か喰っておいたほうがいいよなぁ〜!」
「‥‥触れるなということか。事情は人それぞれあるものだよ」
「‥‥了解したのじゃ」
 誤魔化すように(実際に誤魔化したのだが)近くにある飯屋に入る七人。だがその敷居を跨いだ瞬間‥‥戦慄が走る。一般人にはどうか知らないが、冒険者である彼らにはひしひしと感じられるこの感覚‥‥!
「こ、これは‥‥まさか、あの人が‥‥!」
 じわりと嫌な汗を流す島津。一行が視線を移した先に居たのは、髭を生やし、がっしりとした体格をした男と、その部下らしき二人の男。
「さて、今日は何を食いましょうかね螺流様」
「毎日同じものじゃ飽きちまいますからね‥‥回転させていかないと」
「ふむ‥‥そうだな。おやじ、出来るものをなんでもいい。10人分頼む」
「10人前? 数が多すぎやしませんか?」
「ふっ‥‥あそこに居る7人の分さ」
 くいっと手だけでこちらを示す螺流。店のおやじは愛想良く返事をし、すたすたと台所へと消えた。
「‥‥や、やめてくれよ。俺らは乞食じゃない。あんたに奢ってもらう理由はないぜ」
「ほう‥‥そこまではっきりものを言うとな。気に入ったよ、ますます奢らせてもらいたくなった。‥‥それに」
 緋霞の言葉にカタンと椅子を鳴らせて立ち上がる螺流。蛟のすぐ傍に寄り、ゆっくりと懐に入れられた蛟自身の手を取った。
「‥‥それに度胸もいい。ますます気に入ったよ。‥‥飯はまた後にしたほうがよさそうだ」
 蛟は動けなかった。横を通り過ぎていく螺流たちを見送ることしか出来ず、7人とも振り返ることが出来たのはややあってのことだ。
 一同も移動を開始する。威圧感を闘志で振り払い、螺流たちが向かった人気のない草原の方へと―――

●螺流嵐馬、特攻!
「多くを聞く必要はないだろう。私が追われるもの‥‥君たちが追うもの。それ以上は必要ない」
 一行が草原に着くと同時に陣形を組む螺流たち。勿論一行もそれに応じ、構えを取った。マリスは上空へと上昇してムーンアローの詠唱に入り、黒城は以前と同じように少し離れたところに陣取る。
 そして島津は一小臼、真壁が弧突を押さえ、蛟が二人のサポート。緋霞、蒼眞が螺流にぶつかり‥‥黒城は‥‥例によって今は日和見のようだ。
「貴方が乱嵐殿を崇めるように、拙者にも譲れぬものがある。ここを通す訳には参りませんな!!」
「あなたに手間取っている暇はないのです‥‥申しわけありませんが一気に行きます!」
「先生たちの援護をしなければ‥‥行くぞ!」
「ついでじゃ、これも喰らっておけぃ!」
 マリスがムーンアローで口火を切る。かすり傷程度とはいえ一小臼と弧突を怯ませる!
「ぐおっ!? 俺たちが‥‥ら、螺流‥‥様‥‥!」
「がぁぁぁぁぁっ! ど、どうか‥‥御無事で‥‥!」
 島津のスタンアタックでの攻撃で一小臼が吹っ飛び‥‥真壁の連続攻撃で疲弊した弧突を蛟がスマッシュで行動不能に追いこむ。
 それはまさに一瞬‥‥一行の連携は並みの冒険者を一瞬で戦闘不能に追いこめるほどの物らしい。
「一小臼! 弧突! むぅ‥‥どうやら甘く見ていたようだな。あの二人がこうもあっさりと‥‥」
 うろたえるわけでもなく冷静に状況を見る嵐馬。歴戦の経験がそれを感じ取るのか‥‥オフシフトで回避を試みた緋霞を納刀状態の野太刀で殴り倒した直後、神経を集中する。
「‥‥戦いの中において戦いを忘れるな、ある尊敬する武人の言葉だ。嵐馬殿‥‥何故あなたほどの実力者が堕天狗党等に手を貸す? 民衆を巻き込まないという貴殿の心意気は堕天狗党の行動理念と一致するのか?」
「そうか‥‥貴殿は蒼眞龍之介殿だな? 噂は聞いている‥‥敬意を払うに値する腕と心の持ち主と。確かに私の理想と堕天狗党の理想には多少の食い違いはある。だがそれもこの国を平定するためには飲み込まねばならぬ些事‥‥。三人でこの国をひっくり返せると思うほど私は愚かではない」
「ラ、ライトニングアーマー!? 嵐馬‥‥あんた、魔法まで!?」
「ほう、流石に丈夫だな。そう‥‥私はこれしか使えないが、この技は便利なのだよ!」
 突如魔法を詠唱し、全身に雷を纏う嵐馬。じりじりと間合いを計るように周りを囲む5人に対し、嵐馬は少しも引こうとしない。
「嵐馬殿、部下を助けたくば引け! ‥‥時が経てば、助かる命も助かりませんよ‥‥」
「ほぅ‥‥意見が合いますな。動かないでいただきたい、螺流嵐馬殿。状況はおわかりでしょう、武器を捨ててください」
「なっ‥‥黒城、君はまたそんな! 僕はそんなつもりで言っているんじゃない!」
 短刀を弧突に突きつけて嵐馬を脅迫する黒城。伺っていた機会が到来した‥‥そんなところだろうか。
「わかっているさ。そして、黒城君というのか。私は引かない‥‥それを弧突たちも望まないからな」
「そんな‥‥あなたの大事な部下でしょう!? 黒城さんは本当にやりかねませんよ!?」
「それも運命‥‥弧突、命をもらうぞ!」
「なっ‥‥ちぃっ!」
 アースダイブで逃げようとする黒城。しかし螺流のスピードは思いの他俊敏で、射程の長い鞭に捕まってしまう! ライトニングアーマーで帯電している螺流から鞭へ、鞭から黒城へ電流が流れ込み、彼を麻痺させた。
「もうやめるのじゃ! こんな事を続けて居ればいずれ末路は見えて居るじゃろうし‥‥イコウス様やコトツ様みたいに尊敬して慕う者が居るのに、本当にそれで良いのかの? 悪徳商人が人を騙し、財を奪い取るのは悪い事じゃが‥‥ラリュウ様達がしている事も、盗賊行為に違いはありませぬ。せめて、此処で敗れたなら命は既に失ったと思って、せめて盗賊行為からだけは身を引いて貰えませんかのぅ。私の知ってる方も、どうしようもない時は人を斬りますじゃ。でも、殺さない事はとても難しいと言われておって‥‥ラル様はそれが出来るなら、もっと別の方法で、世の中を変える事も出来るんじゃないかの?」
「‥‥ふ‥‥いい漢のようだな、君の知り合いは。だが踏み出した道‥‥おいそれと違えるわけにもいかん」
「違う場所で出会えたなら、偉大な先達として仰ぎ見ることになったでしょうに‥‥」
 真壁や島津も戦わずにそれでいいと思っているらしいが‥‥嵐馬の取った行動は意外なものだった。
「‥‥先も言った‥‥個人的な感傷は大事の前の小事。それを飲み込んででも達成せねばならないことがあるのだ‥‥。一小臼、弧突‥‥どうにか生き延びてくれ。だが勘違いするなよ! 君たちの腕で勝ったのではない‥‥数と連携で勝ったということを、忘れるな!」
「何っ‥‥!? くっ、迂闊には追えないか‥‥!」
 一番の手練であろう蒼眞を突破し、撤退する嵐馬。二人の部下は意識を失ったまま残されている。魔法が効いたままの彼に斬りかかれば感電は必死‥‥手を出すには覚悟がなければいけない。
「‥‥すげぇよ。ここしかないって引き際だ。この人数相手に手間取って、鴉丸が動けるようになったら厄介だしな‥‥あの強さ、恥を忍ぶ強さも武人の証拠‥‥ってか」
 青い巨刀、嵐馬‥‥今回は刀を抜くことはなかったが、その実力は7人にしっかり刻まれた。もし本気で戦われたら。青く塗られた愛刀を抜かれたら。『部下の身を案じること』をする必要がない彼と出くわしたらどうなるか。
 一小臼と弧突がどうなるかは想像に難くないが、それも二人は覚悟しているのだ。それが少数精鋭の堕天狗党の中でも螺流に忠誠を誓った二人の生き様‥‥そして死に様。
 何はともあれ‥‥部下二人を捕らえたことで、今回の依頼は概ね成功だろう―――