埴輪の憂鬱?

■ショートシナリオ


担当:西川一純

対応レベル:1〜3lv

難易度:易しい

成功報酬:0 G 65 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:08月01日〜08月06日

リプレイ公開日:2004年08月04日

●オープニング

世に星の数ほど人がいて、それぞれに人生がある。
冒険者ギルドでは、今日も今日とて人々が交錯する―――

江戸から3日ほど離れた所にある小さな村。
普段静かで事件とは無縁なはずのこの村から依頼が来たのは、3日ほど前だった。
「実はね、最近その村に埴輪がうろつくようになったらしいんです。それがまた変な話で、暴れる様子もなくひょっこり現れては村の中をぶらぶらして帰っていくとか」
冒険者ギルドの若い衆は楽しげに依頼内容を語る。
近頃このギルドに入った、野次馬根性の高いむしろ冒険者向きと評判の男だった。
閑話休題、その村にの近くに古代の遺跡があるというような話は聞かないが、埴輪が現れると言うことはそういうことなのだろうか。
「村人が埴輪の後を追ってみたら、村からちょっと行った森の中に洞窟があったそうなんですよ。そうしたらその洞窟に埴輪が入っていくって言うじゃありませんか! しかも交替交替で村に来てるのか、五種類の埴輪が確認されているそうです」
何をするでもなくうろつく埴輪。村人たちにしてみればいつ暴れだすかも分からないという危惧がある以上、放っておくわけにもいかずに今回の依頼となったらしい。
「要約すると埴輪の撃滅ですね。まぁ今回の埴輪は大人しい分類らしいですから、大きな仕事にはならないでしょう。村人が石を投げつけたって無反応なくらいですから。そうそう、滅殺しなくても埴輪が村に来ないようにしてくださってもいいそうですよ。子供たちには人気者だそうですからねぇ、必殺しちゃ可哀想かも知れません」
戦うも追い払うも冒険者次第と言うことか。さぁ‥‥判断はいかに―――

●今回の参加者

 ea0648 陣内 晶(28歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea0901 御蔵 忠司(30歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea1467 暮空 銅鑼衛門(65歳・♂・侍・パラ・ジャパン)
 ea1856 美芳野 ひなた(26歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 ea2046 結城 友矩(46歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 ea2438 葉隠 紫辰(31歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ea2722 琴宮 茜(25歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 ea4889 イリス・ファングオール(28歳・♀・神聖騎士・人間・神聖ローマ帝国)

●リプレイ本文

●冒‥‥険?
 某月某日。空は青く晴れ渡り、トンビがぴ〜ひょろろ〜と呑気に鳴いている。
「のどかですねぇ‥‥」
 ズズズ、とお茶をすすりながら、陣内晶(ea0648)は流れる雲を見つめていた。
「‥‥確かに、暇といえば暇ですね」
 同じくお茶をすすりながらではあるが、琴宮茜(ea2722)もマイペースに空を見上げる。
 二人が座っている腰掛から数メートル離れた場所では、今日も今日とて子供たちが埴輪と楽しそうに戯れていた。
 この村に来て調査を開始したものの、一行が知りえた情報といえば『子供たちは埴輪と遊ぶことを日課としている』とか、『埴輪は本当に村の中をうろうろしているだけ』ということくらいだ。
「しかし、本当に大人しいですね。あの子供なんて蹴ってますよ?」
「あ、あっちの子は石投げつけてますね」
 埴輪は広場でくるくる踊るような仕草をしていて、子供たちが何をしようと決して襲ってきたりはしないようだ。それは陣内や琴宮に対しても同じで、会釈をすれば会釈を返すような始末である。
「陣内さん、だからってアレはやりすぎでは? ここは観光地じゃないんですよ?」
「いや、ほら、観光地になればいいかなー、なんて思ったわけでして」
「埴輪の手に花を持たせたり、背中に『千客万来』ののぼりを括り付けたりするのは観光地となんら関係ないと思います」
「ありゃま‥‥手厳しい」
 昼下がりの村は平和そのもの。
 なんだか二人は、このまま埴輪を放っておいてもいいんじゃないかと思い始めていた―――

●だんじょん?
「‥‥つまらない。斥候をするまでもないぞ、この洞窟」
 葉隠紫辰(ea2438)が単身洞窟に潜入し、戻ってきての第一声だった。
 その後残りの洞窟探索組み‥‥すなわち、
 御蔵忠司(ea0901)
 暮空銅鑼衛門(ea1467)
 美芳野ひなた(ea1856)
 結城友矩(ea2046)
 イリス・ファングオール(ea4889)
 を含めた計6人で再突入したが、それはまさに『つまらない』洞窟だったのだ。
「ぐぉぉ、これではミーがマッピングをするまでも無いでござる! 非常に欲求不満でござる!」
「ホントです〜、せっかく銅鑼衛門さんの秘滅道愚で松明点けたのに‥‥照明係のやりがいも無いですぅ〜」
 二人が叫びたくなるのも無理はない。洞窟自体は人が3人は並んで歩ける広さだが、問題はその構造。埴輪が迷わないようにするためなのかは分からないが、『ただ真っ直ぐ一本道』なのである。
「貴殿ら、もう少し静かにしてもらえないか? いくら埴輪が何もしてこないとはいえ、緊張感に欠けるでござろう」
「でもでも、楽しくていいですよ。辛いより楽しい方がいいに決まってます」
「ふふ、そうですね、俺も賛成ですよ。あの埴輪を見ていたら緊張感なんてどこかへ行ってしまいます」
 結城は少々不満なようだが、御蔵とイリスは意外と乗り気らしい。
 前方でぴょこぴょこ跳ねながら奥へと進む埴輪の姿は、それこそ戦いなどとは無縁のように思えるから不思議だ。
 実際これ見よがしに後をつけても追い抜いても、振り返ることすらないのだから。
「村の方も琴宮殿と陣内殿に任せておけば大丈夫だろう。緊迫感が無いのはこの際仕方なしというところだ」
 葉隠までそんなことを言い出し、一同は今までに無い妙に明るい気分で洞窟を進むのだった。

●望むものは
「おや、少し開けたところに出ましたね」
「おお、これはよいでござる! 秘密結社ぐらんどくろすの旗を立てるのにおあつらえ向きな場所でござるな!」
「やめておけ。ここが最深部のようだから、埴輪を刺激しかねないでござろうが」
 マイペースにつぶやく御蔵をよそに、暮空は妙な効果音と共にどこからともなく旗を取り出した。無論、結城に冷たくあしらわれたのだが。
「え〜、村には立てたんですから、こっちでも記念に‥‥」
「村で顰蹙を買ったからやめろと言われているんだ」
「ひなたちゃん、流石にここはやめておきましょう。ほら、あれ‥‥」
 だだをこねるように暮空を援護していた美芳野は葉隠にツッコまれる。そして美芳野だけでなく全員を導くように、イリスが奥を指差した。
 そこには困ったように(?)ぴょこぴょこ跳ね回る埴輪が4匹と、無残に崩れ去った石造りの墓のようなものが転がっていた。
「あれは‥‥護墓石ですね。昔の遺跡、特に地面に埋められてしまう型の古墳の目印兼お守りとして作られるものです」
「ミーも知っているでござる。あの護墓石は墓への入り口であるそうでござる」
 御蔵と暮空は護墓石に近づくと、黙って手を合わせた。美芳野、イリス、葉隠、結城もそれに倣って手を合わせる。
 埴輪はあいも変わらずぴょこぴょこ跳ねるだけで、敵対意思は微塵も無い。むしろ何かを期待しているように、一同の周りを跳ねていた。
「どうする? 入り口はこの護墓石の下だ。それでも貴殿はお宝を手に入れたいでござるか?」
「まさか、いくらミーでもそんな無粋な真似はしないでござる! ここまでくればこれが壊れた故に埴輪たちが動き出したことは明白! 早速直して事件を解決するでござる!」
「でもどうするんですか? 銅鑼衛門さん、秘滅道愚でなんとかしてください〜」
「もう〜、しょうがないでござるなひなた殿は〜‥‥と言いたいところでござるが、流石にそんな便利なものはないでござる」
「あ、なら私のリカバーでなんとかなりませんか?」
『ならないならない』
 とりあえず今度はイリスが全員にツッコまれる。流石にリカバーで建造物は直らないだろう。
「そうでござるな‥‥やはりここは」
「決まりでござるな!」
「私じゃ力になれないみたいですし‥‥神の思し召しかもしれません」
「‥‥何故そこで俺たちを見るんだ」
「はぅぅ、私もですか?」
 この場にいる全員の視線が、こぞって葉隠と美芳野に集中していた。
「君たちが工作ができるからさ。工作といっても戦場での工作なんだろうけど、多少不恰好でもいいからやってみてくれませんか? 大事なのは直そうとする努力だと思いますから」
 御蔵にやんわりと言われ、葉隠はため息をついて、美芳野は元気に作業に取り掛かった。
 ある程度予想していたのか‥‥それとも性格か。
 なんにせよ、全員と埴輪の期待を一身に背負い‥‥事件は解決を見ようとしている―――

●時を越える想い
「結局事の発端は、いつだかにあった地震みたいですよ。きっとその時護墓石が崩れて、それを護る役目を負っていた埴輪たちが助けを求めて村まで出てきたんでしょう」
 江戸に戻った一行は、ギルドへの報告を陣内と琴宮に任せて解散していた。
 活躍する場面が少なかったために、彼ら自ら志願したのだが。
 最終的に手に入れたものといえば、正規の報酬と護墓石を治し終わった後に埴輪が差し出した木箱のみである。
「で、役目を終えて動かなくなった、村に来ていた埴輪を名物として祀り上げたわけですよ。題して『忠陶・ハニ公』。僕にしてはいい案でしょう」
「そ、それはそれは‥‥」
 やたら嬉しそうに話す陣内と、ちょっと頭痛を堪えるような琴宮。
 この事件を紹介したギルドの若い衆は、報告を受けて少々引き気味であった。
「そういえば私、葉隠さんが埴輪から貰ったという木箱を預かってるんですよ。中に入っていた木簡を専門の人に見てもらって、内容を教えて欲しいそうです」
「どれどれ‥‥これですか。随分古めかしいものですね」
 琴宮から木箱を受け取った若い衆は、それを開けて中の木簡をしげしげと眺める。
 一定の命令を受け、それに順ずることしかできない埴輪が冒険者に贈った物。
 助けられたら礼をしろとでも言われていたのだろうか?
「なるほど‥‥そういうことですか。二度と埴輪が動き出さないことを祈りますよ」
「読めるんですか? 僕にも教えてくださいよ」
「よろしければ私にも」
「いえ、全然読めません。でも、なんとなく伝えたいことはわかりましたよ。いつの時代も、こうあってほしいですね」
 楽しそうにはぐらかすギルドの若い衆。本当に読めていないのか‥‥思いの他侮れない人物かもしれない。
 後日、木簡は陣内、琴宮たちの要望により専門家に解読され、今回の依頼の参加者全員に伝えられた。その内容は、およそ以下のように読めたらしい。
『ありがとう、遠い未来の人よ。愛しい妻の墓の異変を正してくれて感謝に絶えない。最愛の妻を失って早幾年‥‥私は自分が死んだ後も彼女を護ってやりたかった。その想いをこめて造った従者たちは‥‥埴輪たちは無礼なことをしなかっただろうか? 彼らは私の想いを受け継いで、妻を守っていてくれているだけなのだ、許してやって欲しい。最後に、もう一度ありがとう。願わくば‥‥君たちにも、心から愛せる人が現れんことを祈って―――』
 時を越えた想いに‥‥今を生きる冒険者たちは、何を思うのだろうか―――