堕天狗党暗躍 〜赤と紅〜

■ショートシナリオ


担当:西川一純

対応レベル:1〜3lv

難易度:難しい

成功報酬:0 G 78 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:10月20日〜10月25日

リプレイ公開日:2004年10月24日

●オープニング

世に星の数ほど人がいて、それぞれに人生がある。
冒険者ギルドでは、今日も今日とて人々が交錯する―――

「えっと‥‥これはどうしたらいいんでしょう。まぁ募集しないわけには行かないですし‥‥あ、実はですね、正式な依頼ではないんですが‥‥堕天狗党を名乗る人から奉行所に挑戦状とも取れる文が届いたんです。勿論所在は書いてませんのでどこの誰かは特定できないんですが」
 問題の文を手に取ったまま、冒険者ギルドの若い衆は首を捻る。奉行所の上層部は悪戯の可能性もあるからおおっぴらには動けないらしく、仕方無しにギルドへ依頼が流れてきたとのこと。受けてくれる人間が居なくても『一応依頼はした』との言い訳が立つし、参加者が集まればギルドの正式な依頼として認定され、『解決のために動いた』と面目が立つわけだ。
「で、ですね‥‥文の内容はこうです。『この度、我ら堕天狗党は二面作戦を展開する。青い巨刀、黒い三連刀が次々と敗れている今、江戸守護の無能なる者どもに裁きの鉄槌を下さねばならない。場所は以下に記載された二箇所‥‥神の放った浄化の炎は、最早誰にも止める事は出来んのである!』‥‥うわ、しっかり作戦予定地が書かれてますよ。もっとも、日時は予定となってますけど」
 何故か演説風に内容を読み上げる若い衆。最後の方は拳を振り上げて、誰かの真似の如く妙に熱が入っていた。
「こちらの依頼の場所は江戸から西へ半日ほど行った村ですね。文の内容に嘘がなければ『赤い流星』と『真紅の雷鳴』の二人が相手だそうですが‥‥」
 流石にどれ程の腕かまでは書いていないが、挑戦してくる以上かなりの手練なのだろう。作戦目的は村を制圧して堕天狗党の支配下に置くとしか書いておらず、詳しいことは分かっていない
「住んでる人はたまったものじゃありませんよね‥‥相手はかなり手強いかと思われますが、皆さんの頑張り次第で奴らの野望をくじけると思うんです。よろしければ受けていただけませんか?」
 堕天狗党の二面作戦‥‥どちらか片方はかなりの規模の作戦になるという。
 本命となるのはこちらか‥‥それとも―――

●今回の参加者

 ea4387 神埼 紫苑(34歳・♀・志士・パラ・ジャパン)
 ea6130 渡部 不知火(42歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea6194 大神 森之介(33歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 ea6269 蛟 静吾(40歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea6381 久方 歳三(36歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea6717 風月 陽炎(31歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea7029 蒼眞 龍之介(49歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea7692 朱 雲慧(32歳・♂・武道家・人間・華仙教大国)

●リプレイ本文

●対峙
 今日も今日とて空は快晴‥‥夜ともなれば寒さすら感じてくるこの季節に、予告場所である村はただひたすら平和であった。
「あかんなぁ。いや、本来ええ事なんやけど、めっちゃ平和やねん。伏兵みたいなのもおらんし、浄化の炎に繋がりそうな仕掛けもあらへん‥‥もちろん堕天狗党のことも知っとる村人は皆無や」
 斥候から戻ってきた朱雲慧(ea7692)は拍子抜けしたように仲間と合流する。村の入り口近くの森で待っていた7人は一先ず安堵の息を吐いた。
「拙者は奉行所に掛け合って、先に捕らえられた二人から情報を聞き出そうとしたのでござるが‥‥『この者たちの取調べはこちらでする。お帰り願おう』の一点張りでござったからなぁ‥‥」
 江戸での久方歳三(ea6381)の努力も徒労に終わり、堕天狗党の情報は手に入っていない。
「道中にも詳しいことを知る者は無し‥‥風の噂で手練の集まりということくらいか」
「ある意味凄いわよねん、こうまで情報が入らないと。こうなったら本人達に直接聞き出すしかないわよねぇ」
 途中何やら仕掛けらしきものを作っていた大神森之介(ea6194)と渡部不知火(ea6130)もすでに作業を終えていた。
「そんなもの用意しなくても、あたしが魔法でなんとかするよ?」
「いえ、念を押すに越した事はありませんよ。何せ相手はあの黒い三連刀の仲間なんですから‥‥」
 神埼紫苑(ea4387)の台詞を受けて風月陽炎(ea6717)が辺りを見回す。流石にこの状況で不意打ちはないだろうが、それこそ念には念をというところだろう。
「さて‥‥先生、来たようですよ。十中八九あの二人でしょう」
「だろうな‥‥旅人とは空気が違う」
 振り返りもせずに言う蛟静吾(ea6269)。蒼眞龍之介(ea7029)もまた、その姿を確認してはいない。しかし分かる‥‥その独特な雰囲気。
 そうなのだ‥‥自分たちがやってきた街道の方から二人の男が近づいてくる。威風堂々としたそのいでたちは、武芸者のそれだ。
 片方は面頬をつけているので顔は分からないが、日本刀を所持している。もう片方は刃の部分が血の様な紅色に染められた薙刀を装備しているのが見て取れた。
「ふぅん‥‥お前らが俺達の相手をしてくれるってわけか。自己紹介するぜ、俺はトニー・ライゲン。真紅の雷鳴って呼ばれることもある」
「私は安綱牛紗亜。赤い流星などという大層な異名を付けられて困っているよ」
「お互いその筋に有名だと困るよなぁ。特に俺達は紅と赤だろ? よく間違われるんだから、煉魏のやつも別々に配置すりゃいいものを」
「いや、私は間違われた事はないが‥‥」
「何? よく思い出してくれよ、『真紅の雷鳴じゃないか?』とか言われたことあるだろ?」
「‥‥すまないが記憶にない」
「そ、そうか‥‥」
 一行のことはとりあえず置いておくつもりなのか、何やら問答を始める二人。トニーはなんだか落ち込んだようだったが。
「聞かせてくれ。君達の目的はなんだ? この村を占領して何になるんだ。そしてお前達を統べる者は誰だ」
「折角だから答えてやるよ。村の占拠は資源確保のため‥‥党の目的は『統一された日本を作る事』。頭領の事は流石に言えない」
「何時また妖怪が襲ってくるかも判らないのに‥‥。今は人間同士争ってる場合じゃないと言うのが、何で判らないんですか!」
「わかっているさ。だからこそ一刻も早く日本は統一されなければならないのだよ」
「権力の移転はそこに住んでる人間が迷惑を被る‥‥。一般人に被害をを与えてまで為そうと言うのなら‥‥。力づくで止めて見せます!」
「‥‥だってよ。どうする紗亜、どうせこっちは囮だ‥‥村の占拠も義務じゃあない。戦う必要はないんだけどな」
「戦うしかないさ‥‥何せ螺流嵐馬に『穏やかなる伏龍を見た』と言わしめた男がいるようだからな。実際、戦ってみたいと思っている自分もいる」
「同感。やっぱり気が合いそうだな、『アカ』同士」
「見せてもらおうか‥‥君たち八人の実力とやらを!」
 蒼眞の存在に触発されたのか、二人はゆっくり構えを取る。冒険者達も一斉に戦闘体制を取った。
 男として、武芸者として‥‥ただ『戦ってみたい』という理由だけで―――

●交わらぬ志
「ぐっ‥‥よ、読まれていた‥‥!」
「い、いやぁねぇ‥‥珠のお肌に傷がついちゃうわ‥‥」
「ごふっ‥‥え、ええ手やと思ったんやけどなぁ‥‥」
 トニーに連携攻撃を仕掛けた大神、渡部、朱は、彼の壮絶な反撃を受けて負傷してしまう。即ち‥‥大神を無視して朱の攻撃と交錯するように放たれたカウンターアタックとソードボンバーの合成技。ジャンプしていたため無傷で済んだ大神が追撃するも、軽傷を負わせただけで更なる反撃を受け撃沈。
 大神と朱は中傷、渡部にいたっては朱の後ろにいたためモロに衝撃波をくらい、重傷状態だ。
「仲間の技を真似されてもなぁ‥‥あれはあいつらじゃないと出来ない代物さ。そんな紛い物じゃ俺は倒せない‥‥っと!?」
 息をつく暇もなく、トニーへの攻撃を任されていた二人が攻撃を仕掛けてくる。スタンアタックの風月‥‥そして久方。
 分断するまでもなく自分達から単独行動を取った紗亜とトニーだが、それが単なる侮りでないことを痛感させられる強さである。
「速い!? 本当にナイトですか、あなたは!」
「オフシフトがなくてもこれでござるか!?」
「いやいや、結構きつい。特にそっちの‥‥銀髪のあんたの攻撃は当たったらやばそうだから必死だぜ!」
 風月の拳も久方の刀も器用に避けて回るトニー。本当は忍者なのではないかと疑いたくなるくらいの回避を見せるが、反面命中力はあまりよくないのが救いか。
 一方、紗亜を相手にしている三人は‥‥。
「避けてしまえばどうということはない!」
「まだだ、まだ終らん!」
 瀕死状態の蛟と、緊急的に彼の応急処置に専念する神崎。そしてただ一人、蒼眞がソニックブームで遠距離から紗亜と戦っていた。
 当初連携攻撃で紗亜を攻めようとした二人だったが、蛟が危険を察知し蒼眞を制止。自分だけが斬りかかるもオフシフト+カウンターアタック+シュライクの複合技の直撃を受け、大きく右切り上げに血を吹いたのである。
 ただでさえ赤く塗られていた紗亜の愛刀の刀身が、別の赤で彩られていた。
「ごほっ‥‥せ、先‥‥生‥‥!」
「喋っちゃ駄目だよ! あぁもう、血が止まらない‥‥!」
 それこそ神崎がいなければすでに死んでいる可能性もある‥‥そんな傷だ。だがもし彼が止めなければ、こうなっていたのは蒼眞かも知れない。
 それを見て接近戦を不利と見た蒼眞はソニックブームで応戦‥‥だがそれではお互い近づけず、決定打にならないため、いたずらに時間だけが過ぎていく。
 紗亜もまた回避力は人並みはずれているが命中力が低いタイプらしく、特にこうして間合いを外されてしまうと厳しくなる。惜しむらくは神埼が応急処置のために矢も魔法も放てないこと‥‥。
「何‥‥トニー!? ちぃぃっ‥‥! くっ、蒼眞殿、停戦を申し入れる! ‥‥あなたの力はよく分かった。だが今はそちらの彼を治療してやった方がいい‥‥死ぬぞ」
 突然避けるのを止め、紗亜がソニックブームの直撃を受ける。多少の傷を負ってでも停戦交渉を行いたいようだ。
 どうやらトニーが風月のスタンアタックで意識を失ってしまったのを直感的に悟ったらしい。
「こちらもトニーを失うわけにはいかない‥‥そちらも負傷者が多い。どうだろう、ここは痛みわけとしていただけるとありがたいのだが」
 見れば、トニーを気絶させたのはいいが風月も久方も傷が深く、軽く見積もっても中傷だろう‥‥無傷なのは蒼眞と、応急処置に奔走する神埼だけだ。
「ま、まだやれる! 俺達だってまだ動けるんだ!」
「せやな‥‥この程度でおねんねしとったら、鍛えとる意味ないさかい‥‥!」
「む、無茶はおよしなさいよ‥‥わ、私よりは軽くても、その傷で赤い流星とやりあうつもり? 無駄死にするわよ‥‥」
 大神も朱もまだ中傷だが、紗亜は軽傷。刀を杖代わりに立ち上がった渡部の言うとおり、あまり攻撃を当てられるとは思えない。
「はぁっ、はぁっ、はぁっ‥‥人質のようで嫌ですが‥‥トニーさんの処遇は私達が決められるんですよ?」
「ぐぅっ‥‥し、しかし蛟殿が‥‥回復手段がない以上、立場は同等でござるよ‥‥」
 風月も久方も息が上がっている。まともに戦えというには酷である。
「せん‥‥せい‥‥だめ、です‥‥僕は‥‥い、いいです、から‥‥!」
「‥‥仕方あるまい‥‥お互い命には代えられん。だが聞きたい。何故君から止める? どう見ても不利なのはこちら‥‥君が赤い流星と呼ばれる男なら‥‥きっと別の思惑もあるのだろう、いやそれは問うまい」
「ふふ‥‥私達は殺戮がしたいわけではない。よりよい日本‥‥民も武士も商人も、全てが今より幸せになれる国を作りたいだけなのだよ。それにはトニーの力も必要‥‥言い方は悪いが、あなた達の命よりトニーの命が大事なのだ」
 肩を貸すようにトニーを担いだ紗亜は、振り返りもせずに去っていく‥‥まるで絶対に追撃されることがないと分かっているように。
「‥‥蛟君‥‥すまない。君が身を挺して教えてくれたのだが‥‥やはり、私は君を見捨てるわけにはいかない」
「そうと決まったら速く村へ! ほんの少しでもマシな治療してあげないと、本気で死人が出るよ!」
 神崎の言葉で一行は急いで村に入り、各々治療に回った。トニーを捕まえるチャンスではあったが‥‥やはり拾える命を捨てるわけにもいかない。
 ただ強いだけではない堕天狗党‥‥その信念は、冒険者と交わる事はないのだろうか―――