●リプレイ本文
●星屑の記憶
「‥‥と、いうわけだ。俺が調べた限り桜田門付近で起きた事件は3件‥‥そのうち牙闘に関係ありそうなのは一つだけ」
予定より少し速く村に着いた一行は、作戦の最終確認をすると共に穴鈴のことを調査していた緋霞深識(ea2984)の報告に耳を傾けていた。
「へぇ‥‥いいじゃんいいじゃん、たった一人で10人もの武士を撃破‥‥それも一人も殺さず、目標の悪徳家老だけを殺害か。どこかの暴れん坊藩主みたいだぜ」
よく分からない例えを引き合いに出した虎魔慶牙(ea7767)だが、牙闘のやっていることが犯罪であることに違いはない。
「俺も共感を覚えるな‥‥屑は始末しないと増える一方だ。行動する分評価できる」
「体制に反抗するってのは嫌いじゃないけど、裁きの鉄槌の先は占領する村じゃねぇだろ」
鎌刈惨殺(ea5641)は肯定的だが御堂鼎(ea2454)は否定的な意見だ。そこはまぁお互いの思想だが。
「シマーとキバトー捕まえろ♪ ガンバレ、ガンバレ、ぴょんぴょんぴょん」
「‥‥すまない、できればやめてくれ。頭痛がする‥‥」
一人激励(?)の踊りを踊るラヴィ・クレセント(ea6656)に、こめかみに怒りマークなど浮かべつつも冷静にツッコむリオン・ヴァンスレット(ea7789)。『アラビア語の方言』というラヴィの言葉尻があまり好きではないようだ。
「なんだっていいだろう、コイツの踊りは本物だ。見た目や口先はどうでもいい‥‥実力が備わってりゃな」
実力第一主義の風峰司狼(ea7078)‥‥誰よりも剣速の早い剣術家を目指す彼の、自分にも他人にも厳しいところ。
「結局イコウス殿とコトツ殿に面会はかなわず‥‥奉行所は『この者たちに関して君達の仕事はもう終わっている。次も期待しているぞ』みたいな事しか言ってくれんしのぅ‥‥取り付く島がないとはこのことじゃ」
マリス・エストレリータ(ea7246)‥‥もう堕天狗党とは因縁じみたものを感じるくらい深く関わっている彼女だが、そのマリスにも奉行所は情報を開示しようとしない。以前捕まえた二人がどうなっているのかは、奉行所しか知らないのだ。
今更だが、今一行が居るのは村の中心部から少し離れたところにある、開けた荒地である。ここならリオンの魔法も使えるし、派手な戦いをしても村に被害は出ないだろう。
堕天狗党が挑戦状に書いていた場所はここであり、それを信じて待っているわけだが‥‥
「ぐぅッ!?」
突如リオンが苦悶の声を上げて倒れこむ。遠方から仕掛けられた轟く雷鳴‥‥ライトニングサンダーボルトだ!
「何!? どこからだ!?」
「鼎、あそこだ! あの女が魔法を!」
風峰が指差した方向‥‥長い黒髪をなびかせ、魔法を放ったと思われる日本刀を手にした女と‥‥髪を後ろで縛り、同じく日本刀を持った銀髪の男が一行を嘲笑うように立っていた。その距離、およそ百メートル。
二人は何事もなかったかのようにすたすた近づいてくると、一行の数メートル前で立ち止まった。
「あぁ‥‥当たったのは魔法使いかい。運がなかったねぇ。挑戦状には『不意打ちしない』とは書いてなかったはずだから、警戒してないあんた達が悪いのさ」
「志摩‥‥不意打ちなどという卑怯な手は感心せんぞ。仕掛けた方が悪いに決まっている」
「はっ、奇麗事をお言いでないよ。それとも何かい、奇襲も卑怯な戦法とでもいうのかい、あんたは」
間違いない‥‥この二人が今回の相手だ。
「さて‥‥さっさと始めようかねぇ。こっちも忙しいのさ、色々とね」
「待て。おまえたちの真意を聞きたい‥‥何が目的だ?」
「語る舌を持たん‥‥と言いたいところだが、どうやら貴様も真剣なようだ。言葉少なげだが答えよう‥‥『よりよい日本を作る事』だ。そのためには今は不要な人間が多すぎる。それだけのこと‥‥」
「直接城を攻める気概も無いんなら大言吐くんじゃないよ、このぺやんぐ党!」
「そうだピョン、意気地なしのオバサン!」
「あぁ、悪いねぇ。そういう安い挑発はアタシの専売特許だ‥‥他の奴にやるんだね」
鎌刈の問いから始まった応酬‥‥御堂やラヴィの挑発も二人には効果がないようだが。
「あーもう面倒臭ぇ! ここまで来たら戦うだけだろ! 俺は戦人、虎魔慶牙! アンタを武士として見込んで、勝負!」
虎魔と穴鈴の鞘をつけたままの日本刀が激しくぶつかる。それを合図としたかのように、この場にいる全員が戦闘体制を取った。
それはまさに、駆け抜ける嵐のように―――
●駆け抜ける嵐
「っははははは! 悪いねぇ‥‥アタシは剣は苦手だけど魔法が得意でね! 刀はお飾りみたいなもんなのさ」
「くっそ‥‥ストームだと‥‥!?」
魔法の範囲外にいた虎魔と、何とか突風を堪えた鎌刈、風峰以外は15メートルほども吹っ飛ばされ、地面に転がっている。ダメージ自体はないに等しいが、体重の軽いマリスなどはかなり盛大に飛ばされたようだ。
悪態をつきながらも立ち上がる緋霞‥‥当初の目標とかなりズレが生じている!
「ちっ、弓使いじゃないってか‥‥依頼の絵や噂なんて信用できないぜ! 鎌刈、風峰、他の皆が合流するまで俺達で抑えようじゃん!」
「戸惑いはあるがな‥‥わかった」
「本当は蜻蛉相手だったはずだが、そうも言っていられないか!」
「おっと、アタシは下がる! 牙闘、任せたよ!」
魔法を放ったと思えばすぐに距離をとる。牙闘は不承不承といった風にため息をついたが、三人の前にしっかりと立ちふさがった。
「‥‥強い‥‥闘い慣れた者にしか無い闘気。それも強者と死闘を繰り広げ生き残った者のみがもつ圧力‥‥これは命懸けだな」
迂闊に動けない緊迫感‥‥だが時間を与えれば志摩がまた魔法を撃ってくるだろう。こちらが合流するメリットもあるが‥‥どうする!
「くっ‥‥巻き込むような無茶な事だけはしたくないが、な‥‥マリス、お前も魔法を」
「わ、わかったのじゃ〜‥‥」
中傷を負っているにもかかわらず、魔法の詠唱に入るリオン。この際仲間に少しくらい被害が出ようが、火事にならなければいいかもしれない。何せ命がけなのだから。
ふらふらと飛んで戻ってきたマリスもムーンアローを放ち、牙闘に直撃させる!
「この程度のかすり傷で私が引くものか!」
「分かっている‥‥三人とも、全力でこっちに走って来い!」
『!』
リオンが火の玉を放つと同時に風峰たちは牙闘に背を向ける。勿論その隙を見逃す牙闘ではなかったが‥‥
「うぉぉぉぉッ!? ファ、ファイヤーボムかっ‥‥!」
球形に爆裂する炎が牙闘を焼く‥‥。燃え盛る炎のほぼ中心に捉えた!
「はんッ! 愉しくてたまらないねぇ‥‥こうなれば計画とは違うけど、全員で先に牙闘を叩く!」
「わかったピョン! みんなで囲んでタコ殴りですピョン!」
御堂の指揮の下、消えかかる炎に向かってマリスとリオン以外が身構える。
だが炎が消えた後立っていた牙闘は、軽傷程度に過ぎないようだ。
「ふ‥‥中々の連携だ。だが、これをどう凌ぐ!」
「ま、まさか! みんな、避け‥‥」
「遅いッ!」
ゴアッ‥‥! 青緑色に塗られた刀身から放たれる波動‥‥ソードボンバー+ソニックブーム+スマッシュの複合技だ!
手元からではなく一定距離置いてから扇状に発生する強烈なソードボンバー‥‥固まっていたため、マリスやリオンまで巻き込んで炸裂したのである。
「畜生‥‥先に言っておくべきだった! 10人をいっぺんに倒せるような攻撃があるかもしれないってことを‥‥!」
「ぐ‥‥だがまだ動ける‥‥やるしかないだろう!」
一人だけ回避した緋霞を叱咤して立ち上がる風峰。重傷の人間もいくらかいるが、まだやるようだ。
「くっ‥‥思いの他頑丈か! 志摩、援護を!」
「かったるいから嫌さね。自分で何とかしな」
「なんだと!? 貴様!」
「あぁ‥‥流石のあんたでもその数を一人で相手するのはきついか。それじゃ、こいつの出番かねぇ」
後方で日和見していた志摩は懐から皮袋のようなものを取り出した。どうやら堕天狗党の本命はこちらのようだが‥‥!?
その時、騒ぎを聞きつけたのか村役人と思わしき男達が戦場にやってきた。その数、数十名。
「ふふ‥‥有象無象。まさにおあつらえ向きじゃないか。牙闘、作戦通りいくよ!」
「志摩‥‥勝手なことを! ええい、避ける!」
牙闘が志摩から直角方向に逃げると同時に、志摩は袋の中身を撒き散らしてストームを発動する。突風で一行と村役人たちに粉のようなものが吹き付けられる‥‥!
「あれは‥‥皆、息を止めて風と直角に逃げろ!」
毒草知識を持つ鎌刈の言葉に、全員聞き返す前に行動する。幸い8人は眩暈がする程度で済んだが、毒の風を長時間吸い込んだ役人達は痺れたように倒れこんでいく!
「ど、毒だと!? あんたら‥‥これが本当の目的かよ! 単なる虐殺じゃんか!」
虎魔の叫びを志摩は聞いていなかった。小刻みに震えて、蒼白なその表情‥‥。
「き、聞いていない‥‥アタシは聞いてないよ! 毒だと知っていれば、こんなことしなかったんだっ‥‥!」
「こ、こんな馬鹿な‥‥こんな作戦をあのお方が許したのか!? 志摩、ここは引くぞ! ‥‥何をしている、立て!」
「牙闘‥‥こ、こんな‥‥こんなのアタシは、知らなかったんだ‥‥! こんな‥‥!」
「分かっている! ‥‥煉魏殿‥‥何を考えている!」
取り乱す志摩を何とか立たせ、牙闘はこの場を去った。冒険者達も傷つき、少しなりと毒の影響を受けているため、追撃は危険だろう。
これは後で分かったことだが、役人に死人はでなかったそうだ。神経系の毒で、麻痺はしても命に関わる毒ではないとのこと。
「‥‥見せしめ‥‥体制批判。そんなところか。ふざけてるよ、まったく!」
吐き捨てた御堂の台詞は、役人の応急処置に奔走する7人の声にかき消されていった―――