堕天狗党暗躍 〜妖を祓う雷鳴〜
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■ショートシナリオ
担当:西川一純
対応レベル:1〜3lv
難易度:やや難
成功報酬:0 G 65 C
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:11月08日〜11月13日
リプレイ公開日:2004年11月10日
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●オープニング
世に星の数ほど人がいて、それぞれに人生がある。
冒険者ギルドでは、今日も今日とて人々が交錯する―――
「さて‥‥今日ご紹介する依頼は、なるべく速く解決して欲しい部類に入るものです。あぁ‥‥村人達のことを思うと不憫で不憫で‥‥」
冒険者ギルドの若い衆は、依頼の紙を机にそっと置くと、手拭で涙を拭くような仕草をして見せた。
本当に泣いているわけではないが、とりあえずいつものような一歩ズレた厄介事らしい。
「いや、実はですね‥‥江戸から2日ほど北に行った村に、『豚鬼』と呼ばれる妖怪が集団でやってきたというんです。どこからやってきたのかは不明ですが、村中で暴れ放題暴れ、食料等を食べてしまうとか。ただ単にお腹が空いたのかなんなのか‥‥とりあえず原因は不明です。身体が大きく、力もある妖怪である上に、数が多くて」
村にやってきた豚鬼の総数、4匹。村役人が総出で抵抗しているそうだが、連中の武器である槌に苦戦し、一匹も倒せていない。
怪我人は役人にも一般人にもかなり出ているが、幸いにも死人はまだ出ていないとのこと。
事態を重く見た村役場は、急遽ギルドへこの依頼を提出したのである。
「このままではいずれ死人が出てしまうかもしれません‥‥野菜や家畜への被害も馬鹿にはなりませんし、どうか村を救ってあげてください。ちなみに追っ払うだけでもいいそうですが、仕留めた人に一匹につきいくらか追加報酬が出るそうですので、胸に留めておいてください」
弛んだ体に下顎から長い牙の突き出した、豚の頭のついた大柄の妖怪、豚鬼。西洋名はオークで、彼らがどうして4匹も揃って村に現れたのかは分からない。
何者かの差し金なのか‥‥それとも、若い衆が言うように腹が減っただけか。
「あ、それとこれは全くの勘なんですが、現場に堕天狗党の一員が来るかもしれません‥‥その時はよろしくお願いします。ひょっとしたら彼らが村に豚鬼をけしかけてるかもしれないわけですから、ギルドにも皆さんにも落ち度はありません! きっとそうです! そういうことに決まりました! そういうことにして置いてくださいっ!」
若い衆は後の責任追求を恐れてか冒険者達から目を逸らし、何故来ると思うのか理由を言わず、あまつさえ遭遇した際の対処の指示さえ拒否した。
奴らの活動が活発になってきたこともあり、妖怪に襲われた村を堕天狗党の構成員が助け、冒険者がギルドから報酬をもらうかのように村人から礼金をもらって帰ったというような事例が、最近になって奉行所の調べで明らかになってきている。
もっとも、場所が江戸近郊に限り、報告例も少ない。
堕天狗党は人助けもするようだが‥‥その真意は未だ不明な点が多いのである。
だが今は、村を救うことに専念して欲しい―――
●リプレイ本文
●孤軍奮闘
「くそっ‥‥流石に他人を守りながら戦うには限界がある! 牙闘か螺流のダンナ辺りが来てくれると助かるんだけど‥‥なっ!」
4匹の豚鬼と対峙し、槌攻撃を回避しながらトニーは叫ぶ。攻撃を控え、避けることに専念しながら、一般人から豚鬼を引き離していっているのである。
彼が村にやってきたのはつい数十分前‥‥あわや村役人の一人が槌で頭をかち割られそうになったところを愛用の刀身を真紅に塗った薙刀で受け止め、そのまま4匹の相手をしていた。
「わ、我らも助太刀を‥‥」
「駄目だ! 理由はどうあれ、俺達堕天狗党は罪人の集まりだ‥‥罪人と役人が協力してたら体裁が悪いだろ!? ここは俺に任せて、あんたらは村人の避難を促してくれりゃいい!」
「‥‥すまん‥‥!」
役人達はトニーの言葉どおり、怪我した体に鞭を打って村人の救護に向かう。トニーはといえば、また一つ槌攻撃を回避したところだ。
「こいつら頑丈なんだよな‥‥ったく、煉魏のやつ無茶言いやがって。あのお方に言いつけてやる!」
悪態をついても状況は打破できない。煉魏というのがどんな人物かは分からないが、どうやら首領というわけではないようだ。
「さて‥‥カッコつけたはいいが、どうしたもんかね‥‥!」
その額にうっすらと汗が浮かんでいたのを見たものは、まだこの場にはいない―――
●到着
「なんだって‥‥!? 先生、また豚鬼がやってきて、村役人と小競り合いをしてるみたいです!」
「まずいな‥‥急ごう。役人に被害が出るぞ」
村から逃げてきた村人の話を聞き、蛟静吾(ea6269)と蒼眞龍之介(ea7029)は頷き合う。一般人は勿論、村役人にも被害がないほうがいいのは当たり前だ。
「ついでに言うなら薙刀を持った外国人が戦ってるらしいじゃん。俺は会った事ないけど、真紅の雷鳴ってやつじゃねーの?」
「だな。けど今回は槌狩りっていう第二目標もあることだし、まずは村を救うって言う第一目標を達成しようか!」
虎魔慶牙(ea7767)は別の依頼の方を請け負っていたため、トニーとは面識はない。それは緋霞深識(ea2984)も同じことではあるが、既に蛟や蒼眞から話は全員に行き渡っている。
「‥‥ふむ、色々と釈然としない依頼だけど、村に被害が出てる事は事実なんだしね‥‥今はオークを倒す事に集中‥‥後の事はそれから」
「そうでござるな‥‥旅の疲れは抜けていないでござるが、しっかり準備しておいた甲斐あって体調自体に問題はないでござるし」
今回が堕天狗党と初遭遇のヘルヴォール・ルディア(ea0828)と、歳ちゃんこと久方歳三(ea6381)。久方の用意したテントのおかげで、8人全員道中風邪を引くような事はなかったのは幸いである。
「堕天狗党か‥‥一枚岩ってわけでもなさそうだな。こっちはきっちり協力して、スパッと村を救おうじゃないか、はっはっは!」
「既に戦闘中とはの‥‥豚鬼と会話も難しいじゃろうか‥‥」
やたらに明るく高笑いをする鎌刈惨殺(ea5641)。その頭の上に乗っていたマリス・エストレリータ(ea7246)は、どうやら豚鬼達と話し合いをしたかったらしいのだが、そうも言っていられないらしい。
「皆、おしゃべりはここまでだ。急がなければ最悪の事態もあるかも知れんしな」
蒼眞の言葉に全員が頷く。走り出す8人‥‥死闘は、既に始まっている―――
●死闘の村
「これで‥‥どうだっ! サンダーウェイブ!」
トニーの得意技、ソードボンバー。勝手な名前を付けてはいるが、ただのソードボンバーである。
しかしその攻撃も、頑丈な皮膚を持つ豚鬼の前では軽傷程度に止まってしまう!
「嘘だろ‥‥本気で誰か連れてくるんだった!」
避けるだけならば、トニーの回避力を持ってすれば豚鬼の攻撃を喰らうことはまずない。だが体力が無尽蔵でない以上、与えるダメージが小さいのはかなり痛い。
「君は‥‥赤い流星!」
「誰がだっ!? ‥‥って、お前らは‥‥!」
「冗談だ‥‥真紅の雷鳴」
トニーが死闘を繰り広げているその現場に、冒険者達が現れる。蛟の台詞に振り向いたトニーの表情が、一瞬で驚愕のそれに変わる。
「この戦場に牙闘はいないのかい。残念だねぇ。けど、苦戦してるみたいじゃん。俺らも戦うぜ!」
「待て待て待て! 確かにあんたらが加わってくれれば心強いが、冒険者ギルドから派遣されてきたやつらが堕天狗党と協力したなんてことがばれたらヤバイだろうが! ギルドが奉行所に目を付けられて一番困るのは、助けを求める民衆なんだぞ!」
「協力しなければいいのでござろう? 拙者たちは拙者たちで勝手にやるでござる」
「‥‥私達は村に来て、たまたま先に来てた堕天狗党員の獲物を横取りした‥‥それだけよ」
それは、砂上の楼閣のような脆い論理。すぐにでも崩壊してしまいそうな、頼りない理由付けだ。
「ぐだぐだ言っている暇があったらさっさと倒すぞ! 役人が来る前になんとかすりゃいいだろ!」
「はっはっは、今は豚鬼を潰す方が先ってな!」
緋霞と虎魔、蛟と蒼眞、マリスと鎌刈、久方とヘルヴォールが組に別れ、さっと豚鬼を分断してしまう。トニーは呆然と一行の動きを見送っているだけだ。
「トニー様‥‥あなたの配慮は嬉しいがの、正直あなた一人で4匹の豚鬼の相手は厳しいのではないじゃろうか? 意地を張ってここで死んでは元も子もないと思いますのじゃ‥‥」
「しかし、評判を決めるのは当事者の俺達じゃない‥‥奉行所とか役人だ。俺達はいい、元々評判なんて地の底だからな。だがあんたらやギルドはそうはいかない!」
「話は後だ‥‥トニー君、協力が駄目だと思うなら君は手を出すな。そうすれば少なくとも協力ではない。蛟君、いくぞ!」
「はい、先生!」
蒼眞がソニックブームを放ち、蛟が同時に間合いを詰める。直撃してよろめく豚鬼に蛟がブレイクアウトで体勢を崩し、返す刀でスマッシュEX! 重傷を負って息も絶え絶えのところに、蒼眞がブラインドアタックで更なる追撃‥‥!
それはまさに一陣の風のように、師弟の見事な連続攻撃が豚鬼を打ち崩す。
「こっちもいくでござる! ヘルヴォールさん!」
「‥‥OK、歳ちゃん」
こちらはヘルヴォールが突っ込み、オークの攻撃をオフシフト+カウンターアタックで避け、反撃。その隙を突いて接近した久方がスープレックスで豚鬼の脳天を石に叩きつける!
傷自体はまだ中傷だが、倒れた状態で喉元にロングソードを突きつけられては豚鬼といえどもうお終いだろう。
「どうだ! 自慢の槌がなければどうってことはないだろう!」
「さぁ、楽しい戦にしようじゃないかぁ!」
緋霞の金属拳によるディザームで槌を落とした豚鬼はあたふたするだけで、虎魔の攻撃をただただ受ける事しかできない。もっとも、皮膚が頑丈な豚鬼には軽傷にしかならないのだが。
どちらにせよ、二人の連続攻撃を受ければ攻撃手段を失った豚鬼に勝ち目はもう無い。
「そ、そんな‥‥無傷じゃと!? どういう皮膚をしておるのじゃ!」
「むむ‥‥こいつはきついな、はっはっは! こっちの攻撃もあんまり効いてないか!」
ムーンアローを受けても豚鬼は全くの無傷。鎌刈の攻撃も軽傷程度で、他の組みに比べると正直厳しい。だが現状ではどの組も交戦中なので、まだ協力は求められない。
『弱い者イジメは止めてさっさと帰らないと、人間に退治されますぞ! 数の上でもこちらが上じゃ!』
マリスがテレパシーで話しかけると、周りを見て不利を悟った豚鬼は錯乱状態に陥って槌を振り上げる!
「危ない! 喰らえ、スカッドライトニングバスタァァァッ!」
不意に突き飛ばされるマリス。トニーがマリスと入れ替わり、豚鬼と対峙する結果になった。当然トニーは豚鬼の攻撃を回避し、また勝手な名前を付けたカウンターアタック+ソードボンバーで反撃する!
「トニー様、何故助けたのじゃ!? 協力は駄目だと、自分で‥‥!」
「知るか、体が勝手に動いたんだよ! あぁもう、これ以上は助けないからな! 後は知らないぞ!」
また距離をとるトニー。だが今のやり取りと豚鬼が起き上がる間に他の三匹は撃破され、8人全員が最後の一匹を取り囲んでいた―――
●平穏
最後の豚鬼はマリスの説得により、二度と悪さをしないと誓って逃げて行った。村人達を避難させて戻ってきた村役人も、数人いる。
「‥‥助かった、と言うべきなんだろうな‥‥。けど悪いが俺は捕まるわけには行かないんで逃げさせてもらうぜ。けど、これでギルドは‥‥」
「さて‥‥なんのことだろう。たまたま通りがかった善意の武芸者に、ギルドから来た方々が力を貸した‥‥それだけのことだったと思うが、私の記憶違いかな?」
役人の一人が問うと、他の役人は全員首を振って微笑むだけだ。
「あんたら‥‥。‥‥役人があんた達のような人間ばかりなら、俺達も行動を起こしたりはしなかったのにな‥‥」
そう言ってトニーは踵を返す。
「‥‥また、何処かで逢おう‥‥『赤い流星』」
「違うっつーの!?」
「‥‥冗談だよ‥‥では、またな『真紅の雷鳴』」
気を取り直し、村の外に止めてあったと思われる馬で帰っていくトニー。謝礼金をもらえなかったので、オークが持っていた三本の槌を手土産にしたのだが。
「慶牙、いいのか? 槌、欲しがってただろう?」
「いいんじゃねーの? 一本あれば充分さ」
豪快に笑う虎魔。一行もつられて笑みをこぼしていた。
澄み渡る秋の空‥‥平和の象徴である笑い声が、村に戻ってきていた―――