でぃーぷ・いんぱくと
|
■ショートシナリオ
担当:西川一純
対応レベル:1〜4lv
難易度:難しい
成功報酬:1 G 20 C
参加人数:6人
サポート参加人数:-人
冒険期間:11月02日〜11月07日
リプレイ公開日:2004年11月05日
|
●オープニング
世に星の数ほど人がいて、それぞれに人生がある。
冒険者ギルドでは、今日も今日とて人々が交錯する―――
「でーでん♪ でーでん♪ でんでんでんでんでんでんでん‥‥♪」
よくわからない鼻歌を歌いながら、冒険者ギルドの若い衆はさも当然の如く依頼の紙を机に置く。
いつもと変わらない風景のようにも見えるが、一つ違うこと‥‥それは彼があからさまに目を逸らしていることだ。
「‥‥わかりました、白状します(泣)。実はこれ、とある好事家からの依頼で‥‥江戸の海岸に姿を現したという鮫を捕まえて欲しいとのことなんです。‥‥私、こういうタイプの依頼って好きじゃなくて‥‥」
どうやら仕事だから仕方ないと自分を納得させているらしい。愛用のトランプのハートの3を見て気を紛らわしているようだった。
「‥‥なんとか落ち着きました。で、内容は先ほども言いましたように鮫の捕獲です。鮫が発見された海岸まで行き、どうにかして捕まえてください。その海岸は入り江になっているとのことで、手段、鮫の生死は問いません」
何でも『鮫を食べてみたい』という動機で依頼したため、詳しい事はすべて冒険者任せのようだ。依頼中の食料や宿は向こうで用意してくれるそうだが。
「待遇はいいんですけどね‥‥狙われる鮫やそれと戦う皆さんのことを考えていただきたいものです。まぁ放っておくと鮫が人を襲う可能性も無きにしも非ずなので、丁度いいといえばいいのかもしれませんが」
件の海岸に姿を見せた鮫は2匹‥‥一匹捕獲すれば依頼成功だが、もう一匹も捕獲できれば追加報酬が出る。
しかし比較的浅い海辺で戦うと言っても、海中にいる鮫と戦うにはそれなりの工夫が必要だ。
いっそ遠距離からの射撃や魔法を駆使した方が安全かもしれないが、それでは捕まえられる保証はない。
「とりあえず私から一つだけ。お願いですから『食べられないで』くださいね?(汗)」
鋭い牙、獰猛な性質。
青い海を朱に染めるのは鮫の血か‥‥それとも―――
●リプレイ本文
●太平洋血に染めて
今日も今日とて江戸は快晴‥‥依頼場所の海岸やその近海も、波が穏やかで日差しが気持ちいい。
だんだん寒くなってきたため泳ぐ気にはなれないが、波の音を聞きながらひなたぼっこも悪くない雰囲気だ。
だが‥‥その穏やかな海に潜む、獰猛な牙。
「さて‥‥そろそろ囮を海に投げ入れて岸に戻るか。あまり遠くに行き過ぎると逆に危険だ」
麻袋に入ったまま暴れる雄鶏や鮮魚を見下ろし、物部義護(ea1966)が呟く。事前に入江近辺の漁師達から入江の地形・潮の干満の情報を聞き、鮫を追い込めそうな場所が無いか聞いて回った彼らは、捕獲に必要な網や銛までしっかり借りていた。
「了解。‥‥ごめんね、君たちの命は無駄にしませんから」
一旦取り出した雄鶏3匹の首を切り落とし、再び麻袋に戻す橘月兎(ea1285)。よく男と間違われがちだが、クールなようで情熱家な女性である。
「ユイお姉さま‥‥お一人でやらなくても、言ってくれれば私も‥‥」
「ん‥‥聖書や十字架を持ってる人間が無闇に殺生しちゃいけません。こういう仕事は俺の方が向いてますよ」
「ユイお姉さま‥‥(ぽっ)」
頬を主に染めるのは、エルフのキサラ・シルフィール(ea5986)。
どうやら二人はごく親しい友人らしい‥‥キサラは友人以上の感情を持っているのかも知れないが。
「じゃれ合うのもいいが‥‥急いで帰るぞ。海上の船に絶対安全ということはない」
物部の言葉に、二人も定位置に戻って作業に戻る。
今三人が乗っているのは漁に使う丈夫なタイプの船ではあるが、それで確実に鮫から身を守れるかというと疑問が生じる。ほんの少しの穴でも沈んでしまうのもまた、船の道理なのだから。
キサラが麻袋を海に投げ込み、物部と橘が舟を漕いで全速力で岸を目指す。
だが数分も立たないうちに、不気味な気配と緊迫感が三人を包む。
「き、来たわ! あの黒い影‥‥きっと鮫よ! 随分大きい‥‥!」
キサラの声に二人も海中を見やる。体長5メートルはあろうかという二つの黒い影が、ロープで牽引している麻袋の辺りに蠢いていた。血の臭いに惹かれ、昂ぶっているのか‥‥!?
突然鮫の一匹が海中から跳び上がり、麻袋めがけて飛び掛る! キサラがロープを引いて食いちぎられる事は避けたが、船自体に体当たりを食らったりしたら沈没は免れない。
「あんなに大きいのか‥‥! 冗談じゃない、急ぐぞ!」
「異論ありません。キサラ、今みたいに麻袋を取られないように調整してください。岸にいる人たちにもそろそろ見えるはずですから‥‥!」
「は、はい、ユイお姉さま!」
岸も大分近くなってきたが‥‥それでもまだ距離はある。二匹の鮫がかわるがわる顔を出すその様は、見ていて決して気持ちのいいものではなかった―――
●浅瀬の死闘
「見えました。こちらも準備しましょうか」
岸で網に錘をつけたりロープ付きの銛を浜に運んだりしていた紅龍寺氷雨(ea0171)が、こちらへ向かってくる船を確認してあくまでクールに呟く。
「鮫か。この季節ならば子供等が海に入るような危険は少なかろうが、近隣の者にとっては不安なことであろう。二匹とも何とかしたいところだ。ひいては依頼人殿の希望に足るのであれば万事事も無しであろう」
浜辺で穏やかな風を受けながら、天羽朽葉(ea7514)は刀を引き抜いた。今三人がいるところは、狭い入り口さえ封じてしまえば、海中からは逃げられなくなるような入り江の海岸である。
「そうですね。一応ボク達も撒き餌をしておきましょうか‥‥」
月詠葵(ea0020)もまた、海上の三人と同じように殺した雄鶏やら鮮魚やらが詰まった麻袋を入り江内に投げ込んだ。あとは、仲間が無事に鮫をおびき寄せてくるのを待つだけ‥‥。
三人が万全の体制で身構えていると、キサラが麻袋を繋いだロープを切断したのが見て取れた。一瞬でそれを食い散らかした鮫は、予定通り入り江内に配置した方の麻袋に引き寄せられてくる‥‥!
「あの距離から血の臭いを嗅ぎ分けたんですか‥‥凄いですね。さて、二匹同時は厳しいかもしれませんが魔法の準備でも」
「入り口は誘導班が網で塞いでくれます。あとは三人が陸に戻ってくるまでボクらが頑張らないと!」
「戻ってくる前に倒しても構うまい。まずはこれでも‥‥喰らえっ!」
天羽がロープ付きの銛を海中の鮫に投げつける。だが浅いとは言っても流石に海に生きる生物、器用にするりとそれを避けた。
「あ、封鎖は終わったみたいですね。よぉし、ボクが仕留めます!」
網の配置が完了したのを見て、月詠が膝くらいまで海に入り、構えを取る。しかし穏やかなはずの波はいざ海に入るとかなりのうねりで、水の抵抗もあって動きがかなり鈍くなってしまう!
「あ‥‥危ないですよ、月詠さん」
「え‥‥うわっ!?」
紅龍寺の言葉に右を見ると、目で追っていたのとは別の鮫がブーメランのような軌道を取って大口を開け、飛び掛ってきていた!
「はぐっ‥‥ごぼごぼ‥‥!」
「‥‥南無」←クール
「縁起でもないことを言うなっ! 月詠殿はまだ生きているのだから、魔法でも何でも撃って助けるぞ!」
中傷の傷を負い、噛み付かれたまま海中に引きずり込まれた月詠。天羽はオーラショットで鮫の口を開かせようと連続攻撃を敢行する。
「いいんですか? 電撃魔法撃ちますよ?」
「いいに決まってるであろう!? 早くしろ!」
「では‥‥」
ライトニングサンダーボルトを放つ紅龍寺。月詠を咥えた鮫に直撃し、確かに鮫は彼を放した事は放したが‥‥。
「ぷはっ! うぅ‥‥し、痺れます‥‥」
「なっ‥‥月詠殿にも効果があるのであるか!?」
「だからいいのかって聞いたのに。海中で拡散しなくても、咥えられていたら流石に電流は流れるでしょう」←クール
「そういうことは先に言えぇぇぇっ!?」
「漫才をしている場合ですか! 俺が奴らの気を逸らしますから、キサラは月詠さんの治療を!」
「わかりました、ユイお姉さま! 葵様‥‥今行きます!」
「これも気を逸らす程度には役に立つだろう‥‥!」
船から降り、岸に上がっていた誘導班が合流する。橘は紅龍寺たちが用意していた銛を投げ、キサラは浜に打ち上げられた重傷の月詠の回復に回り、物部は余っていた魚や雄鶏を次々と海に投げ込んでいく。
鮫たちは入り江から出ることもできず、6人が確実に与えていくダメージにだんだん動きが鈍くなっていく。
特に紅龍寺の電撃魔法は、海中にいる鮫に安全かつ確実なダメージを与えていったのだった―――
●命の価値は
「いやー、お疲れ様でした。結局二匹とも捕獲していただいて、依頼人は大変喜んでたそうです。ただ、鮫の肉自体はお世辞にも美味しいとは言えなかったそうですが。ま、それはどうでもいいことですね♪」
内心ちょっといい気味だと思っている冒険者ギルドの若い衆。思わずにやけてしまうのも人間として仕方のないところか。
「やっぱり‥‥肉食動物の肉は基本的に美味しくないはずですから」
紅龍寺はいつものように、いたってクールに呟く。
「やれやれ‥‥網で引き上げて台車で運んでと結構苦労したのだがな。酒も漁師に振舞ってしまったし」
「まぁ仕方ないであろう‥‥元々そういう依頼だ。付近の住民が安心できたと思えばいい」
物部と天羽も不満ではあるようだが、全員が無事であったことで達成感は生まれただろうか。
「傷はもう大丈夫、葵様?」
「うん、もう大丈夫です。避けられると思ったんですけど‥‥やっぱり水に足を取られちゃって」
「やっぱりキサラに来てもらえてよかったですね。俺も誘った甲斐がありましたよ」
「ユイお姉さま‥‥私、役に立てて嬉しい♪」
あれから数日‥‥キサラの治療の甲斐もあって月詠の傷もすっかり癒え、6人は報酬の受け取りにギルドにやってきていたのだが、そこで若い衆に呼び止められたのである。
例によって橘、キサラ、月詠は仲がいいようだ。
「‥‥橘さん。よかったらダディヤーナザァーンって呼んでいいですか?」
「‥‥断固お断りです」
「しくしく。冗談はさておき、これは依頼人からのおすそ分けだそうです。追加報酬も預かってますので、一緒にどうぞ」
干した鮫の鰭や、結構な量の皮。そして、報酬の入った袋だ。
「でも‥‥鮫や鶏たちには本当に災難でした。こんな勝手な依頼でも紹介しなければならないとは、因果な商売です‥‥」
勿論他の職員に聞こえないようにぼそっと呟いたのだが‥‥若い衆はどうしてもこの依頼を命の無駄な搾取と考えてしまうようだった。
だが天羽が言った様に付近の漁師が安心して船を出せるようになったのも事実だし、人が喰われたりする前に退治できたのは丁度よかったのかもしれない。
それでも、いっそ命を守るような依頼ばかりならいい‥‥それは、甘い幻想だろうか―――