史上最強の生物‥‥?

■ショートシナリオ


担当:西川一純

対応レベル:1〜4lv

難易度:普通

成功報酬:1 G 0 C

参加人数:6人

サポート参加人数:-人

冒険期間:11月13日〜11月18日

リプレイ公開日:2004年11月16日

●オープニング

世に星の数ほど人がいて、それぞれに人生がある。
冒険者ギルドでは、今日も今日とて人々が交錯する―――

「えっと‥‥はい、これはどうしたものか。気持ちは非常に分かるというか、なんと言うか‥‥」
 冒険者ギルドの若い衆は依頼の紙を机に置くと、愛用のトランプを一枚机に投げて突き刺した。
 そのカードには『ジョーカー』と書かれている。
「今回の敵は非常に厄介です‥‥ある意味、どんな妖怪や動物よりも狡猾かつ残忍で、耐久性に富み、隠密性や増殖率も抜群という凄まじい相手なのです‥‥!」
 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ←空気の重みが増した音
 拳を握り、額に汗を浮かばせながら若い衆が一瞬濃い顔になったように見えたが、とりあえず錯覚だろう。
「ある意味史上最強の生物‥‥その名は『ゴキブリ』です! あの黒光りした体色‥‥ぬめっとした質感! 最終兵器とも形容できる飛行形態! あぁ‥‥とりたてて嫌いな私は考えるだけでぞっとします!」
 なんでも江戸内のとある武家屋敷でゴキブリが大量発生し、家人や使用人も気が気でない様子。特に不潔にしていたわけでもないので何故ゴキブリが群れを成して現れたのかは分からないが、家の者だけでは駆除が追いつかないのは事実らしい。
「放っておけば奴らは無限に増殖し続けるでしょう‥‥例え一時の打開策に過ぎなかったにしても、今は件の屋敷に蔓延るゴキブリたちを滅殺して、撃滅して、必殺しちゃってくださいっ! あ、でも屋敷内に被害は出さないでくださいね?」
 一応最後の理性で注意を添える若い衆。どうやら本気でゴキブリが嫌いなようだ。
 人類よりも古い歴史を持つというこの昆虫相手に、冒険者はどう立ち向かうのか―――

●今回の参加者

 ea0648 陣内 晶(28歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea0731 紫城 狭霧(34歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 ea0967 紅李 天翔(38歳・♀・武道家・ジャイアント・華仙教大国)
 ea2088 一 一(30歳・♀・僧兵・パラ・ジャパン)
 ea7777 望月 美弥子(28歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 ea8214 潤 美夏(23歳・♀・ファイター・ドワーフ・華仙教大国)

●リプレイ本文

●武家屋敷の黒い奴
 今日も今日とて江戸は快晴‥‥勿論雨が降っている日もあるが、基本的に日本晴れだ。
 そんな気持ちのいい日差しの下、とある一軒の武家屋敷ではある意味壮絶な死闘が繰り広げられようとしている。
「あっちゃあ‥‥どうやらうちの相方は所用で来られん見たいやわ。まぁしゃーないわ‥‥見るだけでも背中のあたりが痒うなるさかい、ちゃッちゃとあの黒いの叩き潰してかえろか」
 様々なゴミ捨て場を漁り(人聞きが悪い)、傘と残飯を調達してきた一一(ea2088)は頭をかきながら苦笑いする。まぁ今回は生死に関わるような依頼ではないので何とかなるだろう。
 ちなみに彼女の名前は、『にのまえ・いち』と読むらしい。
「あれま‥‥それは残念。ではこのハリセンが『ヤツら』の血を吸う確率も上がっちゃったわけですねぇ。僕の体がボロボロになる前に燻し出しましょう♪」
 足元に家人に借りた七輪を用意し、お手製のハリセンを手でぺしぺし叩くのは陣内晶(ea0648)。一の分も作ってあり、共に『天誅』と書かれていたりする。
 団扇と松の枝も準備万端で、後は作戦開始を待つだけだ。
「ふむ‥‥仕方ないな。アレは気配が掴みづらいが、気をつけていればどうとでもなる。後はよく出没するという台所と屋根裏近辺を重点的に探せばいい」
 盲目の武道家、紅李天翔(ea0967)は気配で相手の位置を察知するようだが‥‥『ヤツら』は気付くと傍にいたり、非常に隠密性が高い。果たして、彼女の心眼は『ヤツら』に通用するのか?
「ちょっと勘違いもあったみたいだけど、金持ってる人間が困ってるのは確かよね。せいぜい困るといいのよ♪」
 育ちのよさそうな顔をしている割に毒舌家な潤美夏(ea8214)。『ヤツら』を毛嫌いしているのは依頼人ではなく、依頼を紹介した冒険者ギルドの職員である。無論、家人も嫌には違いないのだろうが。
 平べったい棒を調達してきたようで、軽快に素振りをしていた。
「がんばりますえー。水と桶ばっちりやし、トリモチもぎょうさん用意したんどす」
 望月美弥子(ea7777)が用意した、妙に縦長な桶とそれ一杯に汲まれた水。さらに、傘の内部に仕掛けるトリモチがずらっと並ぶ。
 傘に塗られた油に『ヤツら』が上手く引っかかってくれるといいのだが。
 何にせよ、今回はこの5人で『ヤツら』と戦うのだ。一匹ならともかく、ぞろぞろ数がいられると恐怖感も倍率ドン、さらに倍。
 勇気ある彼らの、ゴキブリとの対決が今始まる‥‥!
 『ゴキブリかよっ!?』というツッコミは無しの方向性で―――

●叩け! 叩け! 叩け! サンドバックじゃないけれど
 まずは台所から始める一行。陣内が七輪で松の枝を焼き、団扇で台所中に煙を充満させる。
「ごほっ、ごほっ! うわー‥‥これって思ったよりもキツいのね。私たちまで燻されそうよね」
「我慢してください。天翔さんが聞いたところによると、ここが一番でやすいらしいんですから」
 各々口に手を当てて煙を吸い込まないよう努力する。窓などの隙間に目張りがしてあるため、効果はほぼ100%この部屋に及ぶだろう。
 望月は家のあちこちにトリモチ内臓傘を設置し、一は『ほな、うちは天井裏探してみるわ』と天井裏へと上っていったため、台所にいるのは陣内、潤、紅李の三人だ。
 やがて充分に煙が行き渡ったと思われる頃、異変は起こった。
 カサカサカサーーー! 盛大な音を立て、数十匹はいると思われるゴキブリの大群が、台所から廊下へと逃げようとする!
「出たー!? このこのっ、踏むわよ!?」
「む‥‥何匹か飛んだな。‥‥そこかっ!」
 潤が群れからはぐれたゴキブリ一匹を踏みつけ、右手に持った棒で更に一匹叩き潰す。一方、紅李は自分に向かって飛び掛ってきたやつを正確に金属拳で叩き落していく。
「相手がゴキブリなら人間じゃ無いんだ。僕だって! そぉれ貧弱貧弱ゥ! URYYYYYYYYッ!」
 よく分からない奇声を上げながら、天誅ハリセンで滅多矢鱈にゴキブリを叩き潰していく陣内。何故か非常に楽しそうである。
「ちっ、かなりの数が他の部屋へ逃げたぞ。追うしかあるまい」
「わ、草鞋履いててよかったわよ‥‥流石に素足で踏みたくないし」
「ゴキを潰した後って思った以上に汚れますね‥‥やっぱり、最後の大掃除は必須のようで」
 どうやら20匹くらいは廊下に出て行ってしまったらしい。逆に言えば約20匹ほどここで潰せたのは、陣内の提案である燻り出しの賜物であろう―――

●天井裏は‥‥
 こちらは天井裏を探索しようとしている一である。箪笥に登って天井の板を外すと、ひょこっと顔を天井裏に覗かせた。
「ん〜、真っ暗でよう見えへん‥‥ちょいと失礼」
 提灯に火を灯し、再度天井裏を覗き込む。‥‥すると。
「ごっ‥‥!?」
 カサカサカサーーーー! やはり盛大な音を立て、大量のゴキブリが屋根裏で蠢いていく。あっちにもゴキブリ、こっちにもゴキブリ、そっちにもゴキブリと、まさにゴキブリパラダイスだ。
「て、天井裏は埃がたまり放題やさかい、ぎょうさんおるとは思うとったけど‥‥予想以上やな、これは」
 左手で自分の首筋辺りを掻く一。さして嫌いでない人間でも嫌だろうに、嫌いな人間にこの光景は正直拷問である。
 それでも天井裏に踏み込み(土足)、天誅ハリセンを構える一は流石冒険者といったところか。
「ったく、お前ら見てると痒いねん! 容赦せぇへんで!」
 集団で逃げ回るゴキブリに対し、半ば錯乱したような一の攻撃は意外と効果があり、次々と天井裏にゴキブリの死体が転がっていく。‥‥もとい、潰れて死体になっていく。
 一匹一匹ではよく狙わないと当たらないだろうが、こうも集団行動していると逆に狙わない方が当たるものだ。
 ゴキブリは相手の行動を読むような節があるため、尚の事である。(何)
「あっ、くそ、逃げるんやない! 待ちぃや!」
 不利と悟ったのかは知らないが、ゴキの群れは一が入ってきた一階への抜け道を通り、次々と出て行ってしまう。あれよあれよと言う間に、天井裏には一と彼女が叩き潰したゴキの死骸だけが残される。
「むっかぁ〜! こうなれば全滅や! 絶対全滅させたるっ!」
 一応天井裏にこれ以上のゴキブリがいないことを確認してから、一もまた一階へ戻っていった―――

●一撃殺虫ホイホ‥‥げふんげふん
「踏みますえ! 叩き落しますえ! いねー! 落ちてくんなさいましー!」
 彼女自身が目指す京美人とは少々方向が違うような叫びを上げながら、望月は孤軍奮闘していた。
 何故か突然二方向からゴキブリの大群がやってきて、望月が持っていた傘に突進してきたのである。思わず手を放してしまったが、構わず傘の内部に潜り込んでいく大量のゴキブリの姿はお世辞にも気持ちのいいものではない。
「食いつきはええみたいどすなぁ‥‥せやけど、入りきらんで余ったこの連中はどないしましょ!?」
 自分で言ったとおり踏んだり(土足)叩いたり(素手)しているのだが、ちょこまか動くのでイマイチ効率がよくない。やはり棒切れくらいは用意したほうがよかっただろうか。
「あ、こっちですよ! 望月さん、お手伝いします!」
「ねぇ、さっきより増えてるわよ、これ!?」
「一さんが追い払った分だろうな‥‥丁度いい、一網打尽だ」
 これほどの数のゴキブリが飛んだり跳ねたり逃げ回ったりしているのを目撃した人間は、彼ら以外にはいないだろう。そう思えるくらいこの部屋に居るゴキブリの数は尋常ではなかった。
 陣内たちが合流したことにより、潰す数は増えたが‥‥やはり何匹かは逃げ出しているようだ。
「騒がしい思たらここやな! ほれ、こっちにもあるでぇ!」
 罠の傘を手に持った一も合流し、部屋の真ん中にそれを投げ込む。すると吸い込まれるかのように‥‥あるいは隠れるようにして、ゴキブリたちが傘の中に入っていった。
「あや〜‥‥地獄の一丁目とも知らず我先にと入っていくとは‥‥哀れどすなぁ‥‥」
 動くゴキブリが部屋にいなくなったのを確認して、望月が息を吐く。あとは、死骸の後始末や罠の傘を丸ごと水に漬けて最後の仕上げをするだけだろうか。
 何にせよ、今は屋敷の外に避難していた家人を呼んで、清掃作業をすべきだろうか―――

●原因は?
「ご苦労様でした‥‥あれからゴキブリの姿はすっかり見なくなったそうですよ。ついでに天井裏も含めた大掃除ができてよかったとか言ってました」
 数日後、冒険者ギルドにて事後報告が行われていた。潤が小銭を発見して家人からもらったとか、望月が『勝利』と書いた看板を掲げてそこら辺を歩き回ったとかもその範囲である。
「ちなみに原因なんですが‥‥どうやら瓦屋根に油を含んだ接着剤のようなものが使われたらしく、それが雨で溶け出して天井裏に染みていったからだとかなんとか。台所にたくさんいたのは、文字通り台所だからでしょう」
 屋根の瓦を葺き替えたのも功を奏したらしい。もうあの家に大量のゴキブリが発生したりする事はないだろう。
 そして栄えある今回の撃墜王は一一。総計17匹(叩き潰した数)で、30匹ほどは溺死していた。
「1さんには依頼主からこれを渡してくれと言われましたんで、どうぞ受け取ってください♪」
「待ちや。うちは1やのうて一やて」
「えー、なんか『1さん』のほうがしっくりきませんか?」
「来うへん来うへん」
 なんだかんだ言っても依頼は成功‥‥特別報酬を得た1さんの明日はどっちだ―――(ぉぃ