堕天狗党暗躍 〜巨星と憎悪の騎士〜

■ショートシナリオ


担当:西川一純

対応レベル:1〜4lv

難易度:難しい

成功報酬:1 G 0 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:11月19日〜11月24日

リプレイ公開日:2004年11月21日

●オープニング

世に星の数ほど人がいて、それぞれに人生がある。
冒険者ギルドでは、今日も今日とて人々が交錯する―――

「こんにちは‥‥今日は、悪い知らせと‥‥気の進まない依頼です」
 どんよりとした表情で冒険者を出迎える若い衆。ため息までつき、普段とはかなり違うテンションだ。
「実はですね‥‥依頼に参加してくださった方々のおかげか黒い三連刀がなりを潜めたのはいいんですが、最近江戸内でまた別の辻斬りが横行しているそうなんですよ。ただ今回の辻斬りは名乗ったりせず、的確に悪徳商人や暴利を貪る武士を襲うんです」
 ただ、その辻斬りが黒い三連刀と決定的に違うのは、随行している護衛や番頭なども斬り殺すこと。目撃したりその場に居合わせただけの一般市民は見逃しているが、その誰もが恐怖でそのときの状況を語ろうとはしない。
 死体は見るも無残で、バラバラにされているものも珍しくなく、絶命した後も散々刃物で突いているような跡もあるらしい。
 そして金や装飾品は盗らず、日本刀や小太刀といった武器関連だけを持ち去っていくのである。
「辛うじて証言した町人が言うには、『外国人だった‥‥あ、あの目は‥‥まるで、憎悪の塊‥‥!』とガタガタ震えながら呟いたそうです。‥‥残念ですが、それ以上の事は」
 そう、分かっているのは、犯人が外国人であることだけ。どんな武器を使うか、どんな技を使うか、それどころかどこの誰かすら不明なのだ。
 すでに依頼先である奉行所が偽の噂を流しておびき出しを計画しているため、依頼を受けた人間は指定された日時にその場所へ向かえばいいだけだ。しかし、後は冒険者任せらしく援護はできないとのこと。
「例によって生死問わずらしいですね。奉行所からの情報では、また堕天狗党の一員ではないかという見解を強めているとのこと。なお、以前捕らえた堕天狗党の構成員二人が厳しい尋問の末、磔の計が執行される直前に獄中で自決したそうです。舌を噛み切り、血文字で遺言を残して‥‥」
 なんにせよ、戦ってみなければその正体は掴めない。
 もし堕天狗党が絡んでいるのであれば、増援が来ることも考えられなくはないので注意が必要だ。
 ちなみに‥‥件の二人が残した最後の言葉は、以下のようなものである――― 
 『憂国に心血を注ぐ我らが主、螺流様。無様な我らをお許しください。このまま敵の手にかかり、更なる屈辱を受けるは痛恨の極み‥‥そうなる前に、自ら命を断ちましょう。どうか、良き理想の日本を―――』

●今回の参加者

 ea0828 ヘルヴォール・ルディア(31歳・♀・ファイター・人間・ノルマン王国)
 ea2756 李 雷龍(30歳・♂・武道家・人間・華仙教大国)
 ea5641 鎌刈 惨殺(36歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea6269 蛟 静吾(40歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea6381 久方 歳三(36歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea6717 風月 陽炎(31歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea7029 蒼眞 龍之介(49歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea7767 虎魔 慶牙(30歳・♂・ナイト・人間・ジャパン)

●リプレイ本文

●月は出ているか?
「君たちか‥‥そして直接会った事はなくても、噂を聞いたことがある人間が大半だな」
 月夜の江戸の町内‥‥奉行所が流した偽情報のポイントである路地に到着した一行を出迎えたのは『青い巨刀』と呼ばれる歴戦の戦士の姿だった。
「螺流嵐馬殿‥‥まさかあなたがこの場にいようとは。丁度いい機会だ‥‥言わせていただこう。人を斬っても貴殿の憂いは取れぬと私は思うのだ、青い巨刀‥‥螺流嵐馬」
「‥‥嵐馬殿‥‥あなたの部下のお二人が自害なさいました。最後まであなたのことを案じ、想いを託していた‥‥良い部下に恵まれていたのですね‥‥」
 彼と面識のある蒼眞龍之介(ea7029)と蛟静吾(ea6269)が話を切り出す。遺言を伝え、ただ静かに‥‥穏やかに嵐馬と相対していた。
「‥‥すまないね‥‥奉行所に二人の遺髪を分けてもらおうと掛け合ったんだけど‥‥冷たくあしらわれてね。ちゃんと弔ってくれる人が居るのに‥‥無縁仏に入れられるのは可哀想だと思ったんだけどね‥‥」
「僕はあなたたち堕天狗党のことはよく分かりません‥‥しかし、大切な人を失ったあなたの悲しみは、少しは分かるつもりです」
 ヘルヴォール・ルディア(ea0828)と李雷龍(ea2756)が嵐馬に言葉をかけると、嵐馬は目を瞑ったまま空を仰ぎ見る。
「そうか‥‥二人は、逝ったか‥‥」
 しばし沈黙が続く‥‥冷たくなってきた秋の夜風が吹き抜けていくことなど、この場の誰も気にしてはいない。
「俺は最近あんたらに関わり始めたからあんたのこともあんたの部下のことも知らねぇ。だから、あんたが敵対しないならわざわざ戦おうとは思わないぜ?」
「そうです‥‥私たちは辻斬りさえ捕縛できればそれでいいんですから。どうか、ここは‥‥」
 普段喧嘩っ早い虎魔慶牙(ea7767)が一歩引いた案を提示し、風月陽炎(ea6717)も不干渉を提案しているにも関わらず‥‥螺流嵐馬は愛用の野太刀を抜刀して構えを取る!
 真っ青に塗られたその刀身は、月明かりに不気味なほど映えているように見えた。
「‥‥二人の遺言を伝えてくれたこと‥‥そして、私のことを案じてくれたことには心から感謝しよう‥‥。だが、それを聞いては益々このまま帰るわけにはいかん。ここで私が信念を翻したとして、どのツラ下げて二人に地獄で会えと言うのだ。この命尽きるまで‥‥先に逝った二人の分まで、我が信念貫き通すのみ!」
「堕天狗党には色々な方がおられるでござる‥‥。巨刀殿‥‥拙者、何が堕天狗党の真実の姿なのか解らぬでござるよ‥‥」
「なあ‥‥堕天狗党に入ると言ったら。入れるもんなのかね?」
 久方歳三(ea6381)の言葉はともかく、7人と少し距離を置いていた鎌刈惨殺(ea5641)が発した言葉は、その場の誰もが予想しない台詞だった。
 その言葉を聞いた7人に動揺が走ったのは当然の事ながら、嵐場でさえ一瞬構えを崩して鎌刈を見つめたくらいだ。
「君も何か思うところあり‥‥か。そうだな‥‥君たちの実力と心根を鑑みれば、足手まといにも獅子身中の虫にもなるまい。君たち八人が望むなら、私があのお方に掛け合ってみてもいい‥‥考えてみてはもらえないだろうか」
 嵐馬の言葉に、更に動揺が広がる。青い巨刀と呼ばれる猛者が、その実力を買い、同志にならないかと誘ってきているのだ。
 命のやり取りをした者だからこそ分かる、その意味。その言葉の重さ‥‥だが、決断を下す時間はないようだ‥‥!
『ふっ‥‥血迷ったか嵐馬。この様な連中を勧誘とはな』
「っ!? 風月君、後ろだ!」
「えっ‥‥!?」
 月下に血飛沫が舞う。倒れこむ風月が見たのは、柄だけが真っ赤に塗られ、刀身が青く塗られた二本の忍者刀だった―――

●ニグラス・シュノーデン
「ふははははっ! お前は厄介な技を使うと聞く‥‥先に潰しておくのが上策だ!」
 蛟の声も虚しく、路地裏に隠れていたと思われる金髪の男に風月が不意打ちを受けて崩れ落ちる。忍者刀の二刀流以外は随分軽装だが‥‥この男が辻斬りに間違いないだろう。
「この掠めるような太刀筋‥‥シュライクでござるか!?」
「‥‥そして二連撃‥‥ダブルアタックも使ったね。この男‥‥強い‥‥!」
 久方とヘルヴォールは勿論、全員が戦闘体制を取る。蒼眞は嵐馬に気を払いながら‥‥だったが。
「不意打ちか‥‥相変わらずだな、ニグラス・シュノーデン。今回の凶行‥‥あのお方の望むところではあるまい」
「遊撃屋風情が聞いた様な口を叩くな! 私は選ばれた堕天狗党の騎士なのだ‥‥私が裁くのは、あのお方の意志の元だ!」
「くっ‥‥不意打ちが騎士のすることとは到底思えませんが!」
「お前に問いたい‥‥蒼き水龍と呼ばれた男のことを知っているか?」
「貴様ら如きに私の行いが理解できるものか。それに‥‥ふっ、殺した人間の数や名前などいちいち覚えて‥‥いないっ!」
 李の台詞にも蛟の台詞にも全く耳を貸さない。それどころか、一気に鎌刈との距離を詰めて至近距離まで近づく。あれは‥‥スタッキング!
「ぐふっ‥‥! な、なにがあったか知らんが、納得できぬものよなあ‥‥しかしお前の行く道は常にギルドとの戦い。斬らずに通れぬ地獄道よ。ならば斬るしかない‥‥さりとて、そう易々といくものでもない‥‥無情というものだ‥‥」
 胸部をシュライクで斬りつけられ、風月と同様重傷状態に陥る鎌刈。
「みんな、迎撃に回るんだ! 虎魔くんと僕で先陣を切る! 李くんはオーラ魔法の準備を! 久方君とヘルヴォール君は、風月君と鎌刈君を見てやってくれ、人質にされかねない!」
「お、的確な指示ありがとよ。さぁ、ド派手に暴れようじゃねぇかあ!」
「わかりました。このまま逃がすわけにはいきません‥‥!」
「了解でござる! かなり深い傷でござるが‥‥何とかせねばならんでござる」
「‥‥OK。李、回復薬をもらうよ。‥‥自分の不甲斐無さが‥‥恨めしいね」
 蛟の声に、四人が行動を開始する。
 不意打ちを‥‥というか挟撃されるとは持っていなかった冒険者たちは、陣形が崩れて上手く動けない。嵐馬を無視すれば済む事なのかもしれないが、抜刀したままの嵐馬を放っておくのはあまりに危険だ‥‥!
「嵐馬殿‥‥やはりやるのか? あのような意見の合わぬ男を助けるために我らと剣を交えると‥‥」
「‥‥穏やかなる伏龍‥‥私は貴殿のことをそう評した。凄まじき実力を秘めた貴殿と争うのは得策ではないが‥‥以前にも言ったはずだ。個人的な感情など大事の前の小事と‥‥!」
 一行の背後を守っていた蒼眞が、嵐馬の言葉を受けてソニックブームを放つ。それをあえて避けず、喰らいながらも距離を詰める巨刀!
「ぬぅぅぅぅぅぅんっ!」
 キィンッ‥‥! 甲高い音を立てて、蒼眞の日本刀が真っ二つに折られる。スマッシュ+バーストアタックだ‥‥!
「くっ‥‥!」
「あんな男でも堕天狗党の名の下に集った仲間だからな‥‥助けないわけにはいかん。‥‥だが」
 突然嵐馬が鞭を取り出してニグラスを絡め取る。必死で応戦していた虎魔、久方、李、蛟、ヘルヴォールも何事かと動きを止めた。
「嵐馬!? 貴様‥‥何の真似だ!? 早くこれを解け!」
「あんた、コイツを助けるんじゃねぇのか? それとも俺らを助けてくれるとか?」
「勘違いしてもらっては困る‥‥私はニグラスを助けたのだよ。君と蛟君の攻撃で傷を負って注意力が散漫になったようだな‥‥武道家の彼がキツイのを準備していたようだぞ」
 見ればヘルヴォールと久方が上手く隠していた後ろで、李がオーラパワーを纏った上、龍飛翔の体制に入っていた。
「ちっ‥‥だがもういいだろう! 後は貴様と私でこいつらを皆殺しにすればいいこと‥‥ぐあっ!?」
 ニグラスの台詞が終わる前に、嵐馬がライトニングアーマーを詠唱して帯電する。鞭から流れた電撃で、さしもの憎悪の騎士も動きを止めた。
「あぁ、すまん。絡めていたままだったな。だが覚えておけ。戦いにも規則があるということを。規則のない虐殺をするのは堕天狗党の仕事ではない」
「き‥‥きさ‥‥ま‥‥! わ、私は‥‥こんなヤツらに負けるわけには‥‥! と、父様‥‥母、様‥‥!」
「‥‥あんたが殺してきたのは、確かに殺されても当然の相手なのかも知れない‥‥でも、このやり方は‥‥認める訳にいかないね」
「言っている事はもっともだ‥‥許してくれとは言わないが、あんまり責めないでやってくれ。彼は彼でいろいろあったようだからな。さて‥‥どうする? このまま私の相手をするか‥‥それとも‥‥」
 久方が蒼眞の表情を伺う。だが蒼眞は、全員の視線が集まったところでゆっくりと首を振った。
「‥‥かたじけない。それと‥‥先の件、心に留めておいてくれ―――」
 ニグラスを背負って去っていく嵐馬。どこか悲しそうに見えるその後姿は、部下の死を悼んでの事だろうか‥‥それとも‥‥。
「私の愛刀がああも簡単に折られるとはな‥‥以前は見られなかったが、あれが巨刀の実力か‥‥」
「先生‥‥多分、あのニグラスという男は僕の友の仇です。それでも‥‥ここは見送るのが、螺流嵐馬という漢に対する礼節でしょうか‥‥!」
 悔しそうに歯噛みをする蛟。だが蛟が堕天狗党を追う限り、再び相対することもあるだろう。
「くっ‥‥やはり、私の事は筒抜けだったわけですね‥‥」
「あの男の目‥‥深い憎悪の中に悲しみを宿らせていた。‥‥ホントに似ているかもな‥‥」
 重傷状態だった風月と鎌刈も、荷物の中にあった回復薬で何とか動けるようになっていたが、依頼としては失敗だろう。
 それぞれの胸に様々な思いを残しながら‥‥月下に、寒風が吹きすさんで行く―――