堕天狗党暗躍 〜海上の蜻蛉〜

■ショートシナリオ


担当:西川一純

対応レベル:1〜4lv

難易度:難しい

成功報酬:1 G 20 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:11月29日〜12月04日

リプレイ公開日:2004年12月03日

●オープニング

世に星の数ほど人がいて、それぞれに人生がある。
冒険者ギルドでは、今日も今日とて人々が交錯する―――

「こんにちは。突然ですが‥‥私、京都の冒険者ギルドへ転職することになるかも知れないんです。いや、別にこっちのギルドをクビになるとかそういうのではなくて、ちょっと色々ありまして‥‥まぁ、お知らせまでに」
 嬉しそうな寂しそうな、複雑な表情で頭をかく若い衆。
 家庭の事情か何なのかは知らないが、結局ギルドで働く気らしい。
「っと、そんなことより、また奉行所から例の依頼が入っていますよ。今回の依頼は江戸近海‥‥場所的には浦賀の辺りでしょうか。その海域で堕天狗党の一員、『天(あまつ)の蜻蛉』こと、柄這志摩さんが海賊行為を行っているようなんです。奉行所が極秘に調査したところ、これも例によって襲われても仕方ないような悪徳商人の船とか密漁船を襲ってるらしいんですけど‥‥誤解しないでくださいね? 江戸の商人全てが悪いわけじゃありませんし、江戸の治安が悪いとかじゃないんです」
 依頼の紙を参照すると、航行する船に志摩が指揮する船舶が奇襲をかけてくるとのこと。
 奉行所が密輸等を摘発するために計画した取締りの情報をどこからか入手しているらしく、奉行所の船が目標に接近した時にはもう被害にあった後なのである。被害と言っても元が取り締まり対象の船のため、奉行所としても対処に困ってしまう。
 ちなみに普通の漁船や商船が襲われたと言う事例は報告されおらず、死人も出てはいない。
 しかしいつ一般の船が襲われるかも分からない以上、奉行所としては放置しておくわけには行かないようだ。
「どうやら船の人足はそこら辺の漁師を雇っているようですね。志摩さんが使っている船は商船のような大きい船らしいですから、顔を見られる心配もなくて人足をしている人にとってはいい儲けかも知れませんが。堕天狗党の戦闘員と言うわけではないようですから、戦うとすれば志摩さんと堕天狗党の誰かくらいでしょう」
 流石に志摩一人で船一つを占拠したりするのは難しいだろうから、もう一人くらい一緒にいる可能性は大きい。
 また、仕事が終わったあと志摩の船はどこへともなく姿をくらませてしまうので、いつ出没するか、どこから現れるかなどが特定できていない以上、例によって奉行所が偽情報を流して冒険者を乗せた船を航行させる以外に接触の方法はないだろう。
「当日が晴れだといいんですけどね‥‥荒れた海の船上では、戦うのに難儀しそうですし。てるてる坊主でも作っておきます♪」
 今日の江戸は快晴‥‥だが、いつもそうとは限らないのである―――

●今回の参加者

 ea5414 草薙 北斗(25歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ea5641 鎌刈 惨殺(36歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea6269 蛟 静吾(40歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea6381 久方 歳三(36歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea7029 蒼眞 龍之介(49歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea7078 風峰 司狼(31歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea7246 マリス・エストレリータ(19歳・♀・バード・シフール・フランク王国)
 ea7767 虎魔 慶牙(30歳・♂・ナイト・人間・ジャパン)

●リプレイ本文

●30分前のこと
 空はどんよりとした黒い雲に覆われ、激しい雨が甲板を打ち付ける。
 雨脚に比べて風や波はさほどではないが、穏やかな海と比べればその差は歴然‥‥慣れない人間はまともに直立していることも難しい。
「海の天気も気まぐれさんだね〜。まぁ船の操舵とか人足さんとかは奉行所が用意してくれたから、僕たちは依頼に専念できるよね‥‥おっとっと」
 船内の一室で、草薙北斗(ea5414)がぐらつく。まだ出航してさほど経っていないためか。
「私は飛んでいるから感じませんがの‥‥問題は戦闘になった時ですじゃ。嵐の海で飛行は自殺行為じゃろうか(汗)」
 冷や汗をかきながらも、愛用の笛を再開するマリス・エストレリータ(ea7246)。海に落ちたら、それこそ彼女では助からないかもしれない。
「船酔いが心配でござるな‥‥薬はいただいたでござるが、なるべく早く志摩殿たちが来てくれるといいでござる」
「三度笠仕入れたから顔もある程度隠せるぜぇ。いつでもどんと来いってわけだ!」
 久方歳三(ea6381)と虎魔慶牙(ea7767)の対照的な反応も、堕天狗党と剣を交えた面々には慣れたものである。
「どうだ、蛟君。波の間隔は覚えられそうか? あの連携は間が重要だ‥‥他人事ではないのだがね」
「正直、まだなんとも。神経を集中すれば何とかなりそうなんですが、いざ戦って‥‥昂ぶっている最中に読みきれるかどうか」
 もはや堕天狗党追跡の第一人者と言ってもいい師弟コンビ‥‥蒼眞龍之介(ea7029)と蛟静吾(ea6269)もまた、状況に応じた連携を考えているらしい。
「鎌刈。以前あんたの戦いを見たが、本来はあんな戦いじゃないだろ。あんたの毒の知識から見て、名のある流派とは少し違うように思えるが‥‥」
「‥‥昔‥‥伝承の鬼狩りの巫女の舞を剣術に組み込んだ一派があったそうだ。なんでもその剣術は不殺の鬼剣と呼ばれていた、背後から突然現れ舞うような一撃で相手を戦闘不能に陥れる。もっとも‥‥家を断絶されその剣術は今や幻‥‥そう、幻さ」
 一方、風峰司狼(ea7078)と鎌刈惨殺(ea5641)の二人は他の六人と少し離れた壁に寄りかかり、会話をしていた。その内容は、果たして誰のことであろうか‥‥。
 その時、人足の一人が船室のドアを開けた。どうやらそろそろ準備に入ってくれとのことらしい。
「さて、雑談はこれくらいにして、しっかりやれよ小僧!」
 そう言って、鎌刈を含め、七人はそれぞれ準備に入る。風峰だけが船室に残ったまま、しばし風の音に耳を傾けていた。
「‥‥風が慌しい‥‥どうにも荒れそうだな」
 その言葉は、すでに荒れきっている海の天候に向けたものか‥‥それとも―――

●そして現在
「やれやれ‥‥『穏やかなる伏龍』に『若き猛虎』、『柔術剣士』、『嘆きの鎌華(なげきのれんげ)』とまぁ、知った顔やらよく聞く人相ばかりじゃないか。癇に障る連中だよ、まったく」
 ゆっくり近づいてきた船に横付けされた一行の船。敵船から乗り込んできたのは長い黒髪の女志士と、面頬を付けた浪人。
「ふっ‥‥奉行所の偽情報にしてやられたわけか。さて、どうしたものか。私はできれば彼らとはやりあいたくないのだが」
 天の蜻蛉、柄這志摩。そして赤い流星、安綱牛紗亜の二人が今回の相手らしい。
 二人は船の端に陣取り、紗亜が志摩の前に立ち、彼女を護衛するような形を取る。彼女たちを乗せて来た船は一旦離れ、こちらの船から30メートルほど先で待機しているようだ。
「海賊行為が日本を正す為に必要でござるのか? ‥‥その行為は、罪無き人々に不安を与えるだけでござる!」
「女とて刀を持ち相対する以上戦士と見なす‥‥もとより君もその覚悟があるのだろう?」
「また会ったな‥‥まあ、そろそろ潮時だぜ。退きな」
 各々言いたい事は山ほどあるようだが‥‥流石にいきなり斬りかかろうとする者はいない。
「ふん‥‥お説教なんてまっぴらさね。この船が密輸品や密漁船でないならアタシには興味も義務もない。勝手にやっておくれよ。今日は引き上げだ」
「うーん、『はいそうですか』って逃がすわけにもいかないんだよね。僕たちもこの依頼を引き受けちゃった手前さ」
「私は‥‥まぁ、この船には奉行所の役人が乗っているわけでなし、争わないで済むならとは思いますがの」
「牙闘とは今回も会えなかったか‥‥けど、赤い流星とやりあうのも楽しそうかもなぁ」
 草薙、マリス、虎魔の意見もバラバラであるが‥‥個人の思想にケチをつける人間はこの場にはいない。
「とりあえず、目的を聞かせてもらえないか? あんたら程の実力の持ち主が、ただ海賊をしてるわけじゃないだろ」
「いくら立派な大義名分を掲げていようと、悪徳商人を狙っていたとしても、お前達の行動を野放しにはできない。お前達の行動は新たな戦火を呼ぶ火種だ」
 その蛟の台詞がいけなかった。志摩はキッと蛟を睨むと、腹の底から搾り出すように言う。
「‥‥ならお前たちは当然知ってるんだろうね‥‥今までアタシたちが襲ってきた船に何が積まれていたのか! 人買いの船には売られた‥‥あるいは誘拐された女子供が! 密漁船には希少動物や、漁師たちの食い扶持である魚介類が乱獲されてわんさか闇に流れていくところだったんだ! それを知っていてみすみす見逃せって言うのかい!?」
 紗亜が制しなければ、今にも小太刀(刀から代えたらしい)を引き抜かんばかりの剣幕。
 静かに‥‥言葉だけを引き継いで、紗亜が続けた。
「奉行所はしっかりと理詰めをして、証拠を握らないと動けない‥‥そんな悠長なことをやっている間に、どれだけ泣きを見る人間が出てくると思う? だが奉行所が私たちのようにすぐに行動を起こすようでは政治は成り立たない‥‥だからこその私たちなのだよ。『義を見てせざるは勇無きなり』‥‥とは、正当化させすぎのような気もするが」
「そこのシフール‥‥確か『シフール・パイパー』とかいう通称を持つ凄腕の笛吹きだったね。女のあんたなら想像に難くないだろ‥‥売られていく女の行き着く先。さらわれた子供の恐怖。そして、身内を失った家族の悲しみ! アタシは許せない‥‥アタシと同じような気持ちを味わう人間を一人でも減らすのが、アタシが今生きてる意味なんだ!」
「志摩殿‥‥まさか、あなたも‥‥?」
 熱くなって思わず口走った自分の言葉に、志摩が慌てて口を押さえる。だがそれは久方の問いへの肯定でしかない。
「確かに正当化させすぎの感は否めない‥‥だが、君たちの行動が全て間違っているとも思えない。得てして宮仕えは迅速に行動できないもの‥‥例え越権行為であったとしても、君たちは民衆を守るのか」
 蒼眞は口に手を当てて考える仕草をする。こういうときの蒼眞はいたって真剣に物事を考えているのだと、蛟は知っていた。
「‥‥先生、ここは僕に任せてもらえませんか? 紗亜君には借りもありますし‥‥ちょっと案があります」
「その案に差し支えなければ、俺も混ぜてくれないか? ヤツらの言葉‥‥その実力を以って、真偽を推し量りたい」
 蛟と風峰が刀を抜き、紗亜と志摩の二人と対峙する。
「‥‥で? 蛟、作戦は?」
「今のところ、やるべき事は一つ。切り結ぶだけだ!」
「はっ、いいな! 乗った!」
 堕天狗党の二人が得物を抜いたのを確認した後、二人は駆け出す。一見、何の策もないようだが‥‥?
「二人とも速い!? だが蛟殿、それでは以前の二の舞だぞ!」
「構わない‥‥片方が抜けるなら」
「ちぃっ‥‥!」
 紗亜たちがいるのは船の縁付近‥‥8人で取り囲むわけにはいかない以上、少数が突っ込むしかない。直接戦闘に向かないマリスは論外として、向かったのがたまたま発案者の蛟と名乗りを上げた風峰だったのだ。
 結果、紗亜は風峰の攻撃を刀で受け止め、蛟は志摩に直進する。志摩は到底避けも受けもできそうにない。
「鎌刈君! 草薙君! 今だ!」
「了解っ! 僕はここだよ♪」」
「はっはっは、やはりそういうことか」
 忍び足でこっそり移動していた鎌刈と、微塵隠れで志摩の背後に回る草薙。流石忍者、荒れた海の船上で、縁というバランスの悪いところでもなんとか落ちずにいる。
 二人はさっと志摩に接近すると、蛟を含めて三人がかりで捕縛にかかった。
「くっ‥‥蒼眞殿と虎魔君を残したのは、自分たちが失敗した時のためか! やるっ‥‥!」
「冗談じゃない‥‥捕まってたまるかい! アタシには‥‥アタシはまだ、死ぬわけにはいかないんだ!」
「志摩殿は三人が押さえたでござるか‥‥何か、複雑でござるな‥‥」
「ま、待って欲しいのじゃ! あ、あの‥‥み、見逃すわけには‥‥行きませんかのう? 私には、志摩様の気持ちが分かるのですじゃ‥‥分かっていてても中々できないことを志摩様たちはやっておられる‥‥例えそれが世間的に見て悪いことでも、それで助かった人間が何人もいるのなら‥‥私も、以前トニー様に助けられたことがありますし‥‥」
 久方の台詞を遮って、マリスは必死に叫ぶ。同じ女故か‥‥風や雨に必死で耐えながら、それでもじっと蛟の目を見ていた。
「マリスよぉ、言いたい事は分かるぜ。けど、それをやっちまったらこいつらに失礼じゃねぇか? 信念の元に動いている連中相手なら‥‥こっちも、自分の信念を貫いていかねぇと」
 虎魔の言葉に、マリスは勿論のこと蛟も黙っている。迷い‥‥それを、蛟も捨てきれないでいる。
「志摩‥‥今は無理だが、必ず助ける‥‥! しばし耐えてくれ!」
 紗亜は志摩に向かって叫ぶと、荒れ狂う海に飛び込んで自分の船へと必死に泳いで行った。
 それを追おうとは、流石に一行は思わない。
 何にせよ‥‥天の蜻蛉は地に落ち、柄這志摩は罪人として奉行所に引き渡されたのであった―――