●リプレイ本文
●紅葉の山
晴れた秋空の元‥‥赤く色づいた葉もそろそろ見納めになろうかと言う時期である。
依頼の村で一日英気を養った6人は、問題の裏山へと足を踏み入れたのだった。
「村人の話じゃ、動物たちは特定の地域に固まってるらしい。一匹見かけたらその辺りに8匹全部潜んでると思っていいだろう。あたしの担当は『蠍』‥‥尻尾に毒があるって言っても、刺される前に倒しちまえば平気だろ?」
劉紅鳳(ea2266)。華仙教大国出身の武道家である彼女は、昨日のうちに目標となる動物たちがどの辺に出没するか、また体格などを聞き込んでいた。
「拙者は『蝶』だ。この弓にかかれば、虫程度どうと言うこともない」
愛用の長弓の弦をチェックしながら、同じく華仙教大国出身のファイター、黄由揮(ea4518)も呟く。
「俺が相手取るのは『土蜘蛛』だぜ。地面に注意‥‥てか」
「僕は『蝮』担当ー♪ 準備は昨日のうちにしたし、解毒剤は用意してるけど、やっぱり出来るだけ使わずに済ませたいしねー♪」
神聖騎士のモードレッド・サージェイ(ea7310)と、風月明日菜(ea8212)もやる気が充分のようで、特に風月は前日に餌を撒いたり長めの小枝を入手していたりと余念がない。
「私は『猪』をなんとかしようか。例え獣相手とはいえ‥‥真っ向勝負あるのみ」
「んー、俺ぁ『鷹』だべな。さくっと終わらせて珍しい石でも探すだよ」
思い込んだら一直線、闘志を燃やす雪守明(ea8428)に対し、山師を生業とするイワーノ・ホルメル(ea8903)は趣味である鉱物採集も兼ねたいらしい。
蛇足だが、イワーノはジャパン語を理解していない。だがモードレッドが通訳をすることでどうにかなっている。
『鹿』と『毒蛙』の担当がいないが、どうやら各々の目標撃破後に全員で当たるようだ。
なだらかな山道は木の密度を増し、そろそろ目標のポイントへと近づいてきていた―――
●ラ○ズせよ!?
「いた‥‥猪だ。と言うことは近くに他の7匹もいる可能性が高い。散開して自分の担当する動物を各個撃破。いくぞ!」
雪守の音頭に従って全員が頷く。目前の猪を彼女に任せ、他の5人は辺りの捜索へ走った。
一方、腹が減っているのか、猪は後ろ足で地面を蹴り、殺る気充分と言うところである。
「いきなり仕掛けてこないか‥‥魔法を使う暇があって助かる」
オーラパワー、オーラエリベイションを使用して準備を整える雪守。猪は二十メートル程離れたところで鼻息を荒げている。
「いくぞ‥‥後はぶつかるのみ! ホォォォ‥‥チェーーイッ!」
日本刀を構え、チャージングを試みる。だが呼応して猪も走り出し、チャージングを行うようだ! お互いがぶつかり合うのは、恐らく真ん中の十メートル地点。牙が勝つか、日本刀が勝つか!
ビシィッ‥‥! 交差する二つの影。リーチの差で一瞬速く雪守の日本刀が猪を捉え、一呼吸の後倒れ伏した。
流石に一撃で倒すことはできなかったようだが、オーラパワー+チャージングから生み出された破壊力の前に流石の猪も瀕死‥‥すでに立ち上がることでやっとのようだ。
「まだ立つかッ。ならば、いくぞッ!」
再び距離をとってチャージングを敢行する雪守。その時点で、すでに勝負は決していた―――
「‥‥む。あれか」
黄がひらひらと空中を飛ぶ蝶を発見するのに、それほどの時間はかからなかった。
話に聞いていた通り、体長十センチ程の美しい模様を纏う虫ではあるが‥‥毒の燐粉を撒き散らしたりする以上、倒すべき敵でしかない。
「距離は充分‥‥近づかなければ燐粉など」
矢を番え、長弓を引き絞る。彼の腕前を以ってすれば蝶くらい小さいものでも当てる事は造作もない。
ヒュオッ! 風切り音を立て、放たれた矢が蝶を打ち抜き、木に磔状態にする。
一応生きてはいるが、すでに瀕死‥‥羽ばたけない以上、燐粉も出せないわけで‥‥。
「すまんな。これで終わりだ」
長弓をダガーに持ち替え‥‥黄は、蝶に止めを刺した―――
「ぐぅっ‥‥! こ、こんなかすり傷どうってことないぜ!」
常に注意して歩いていたため不意打ちは回避したモードレッドだったが、切り結んでいるうちに土蜘蛛に噛みつかれてしまった。
だが毒を流し込まれる前に振り払えたのか、土蜘蛛が持つと言う麻痺毒の効果は受けていない。
「けど、何回も噛まれる訳にはいかないみたいだな‥‥。一か八か、やってみようじゃねーの!」
突如木を背にして、土蜘蛛を誘うような仕草を見せるモードレッド。土蜘蛛はあっさりとその策に乗り、牙をむき出しにして迫ってくる!
紙一重で攻撃を避けると同時に、背にしていた木によじ登る。枝の上に立った時、土蜘蛛はモードレッドの姿を探してキョロキョロしていた。
「地を這うものは神のおわす天上を知るまい。網にかかったのはお前の方だぜ。覚悟しやがれ、地蟲野郎」
すでに中傷を負っている挙句、木の上からの不意打ちだったため、土蜘蛛は避けることなど微塵もできずにクルスソードの洗礼を受けた。
落下速度を追加した突き攻撃は、あっさりと目標を重傷に追いやったのである。
「毒を持った相手に油断はできないってな。このまま止めいくぜ!」
動くこともままならない土蜘蛛の運命は、推して知るべし―――
「おー、あれだべ。流石に速いだなや」
晴れた空を木々の間から見上げるイワーノ。素早く飛び回る鷹を目視したのはいいが、上空すぎてローリンググラビティの射程内に捉えることができていない。
かといって上空の鷹に届くような武器もないため、目標が地面に下りてくるなりしてくれないと非常に困るのである。
もっとも、鷹はイワーノに気付いておらず、興味は全くないようだ。
「困ったべなぁ。こうなったら石でも投げてみるべか」
本気で石を手に取った瞬間、鷹が急に方向を変えて地面を目指す。何やら不自然に餌が置かれているような場所があり、そこに鷹が降り立ったのだ。
「あれー、イワーノさんだっけー? あ、鷹見つけたんだねー♪」
声に振り返ってみれば、風月がひょこっと現れていた。まだ蝮は見つけていないようだが。
「言葉が通じないんだったべな‥‥これで通じるかや?」
身振り手振りで状況を説明しようとするイワーノ。その間鷹が逃げなかったのは、ひとえに前日風月が餌を撒いておき、偶然にもそれに鷹が興味を示した結果である。
「んー、なんとなくわかったー♪ じゃ、僕も手伝うー♪」
オーラエリベイションとオーラパワーを身に纏い、小枝を捨てて戦闘装備に切り替える風月。さっと駆け出して、短刀を鷹に向けて投げつけた!
ギリギリで避けられなかった鷹は軽傷を負い、風月に向けて突進してくる!
「イワーノさん、今だよーっ♪」
振り返って叫ぶ風月‥‥意味は分からなくても、何を言わんとしているのかはイワーノにも理解できた。
「なるほど、感謝するべよ!」
ローリンググラビティを高速詠唱し、低空飛行していた鷹を地面に叩きつける。ダメージ自体はさほどないようだが、急に天地が逆になったことで混乱しているようだ。
飛び上がることを忘れたように地面をよたつく鷹が、イワーノの鉄鞭に打ち据えられて動かなくなるまで、さして時間はかからなかった。
「ふぅ‥‥こんなもんだべか。助かったべ‥‥よっ!?」
振り返ったイワーノが見たのは、風月の右後方に位置し、今にも飛び掛りそうな蝮の姿‥‥!
言葉が通じない以上、危ないと言うだけ無駄。そう踏んだイワーノは、風月を左方向に突き飛ばして魔法を高速詠唱する!
「えっ!? えっ、何ー!?」
なんとか魔法の範囲外に出た風月も、蝮が地面に落ちてきたのを見て気付く。イワーノが助けてくれたこと‥‥そして、倒すべき相手が目の前にいることを。
「今度は僕が助けられちゃったー♪ 村の人達が困ってるみたいだから、ごめんねー」
イワーノの魔法で重傷状態とはいえ、まだ動ける蝮に、小太刀が閃いた―――
「うぐっ‥‥くそっ、見つけられなかった‥‥!」
事前に大きさなどを聞いてはいたが、いざ実戦となると10センチ程度の蠍を見つけ出すのは困難だった。
劉は蠍が茂みの中に隠れていたのを気付かずに、毒の針を喰らってしまったのである。
「だが、あたしはやられたらやり返す主義だ。一撃であたしを倒せなかったのは致命的だったね!」
槌を振り上げ、叩きつける劉。このサイズの昆虫が無事で済むわけがなく、一気に瀕死状態へ。
相手のことを事前に調べてあった上、蠍のもつ毒が死に至るようなものではないのも大きくプラスだった。
何を思ったか、劉は槌を捨てて金属拳で蠍に追撃をかけるようだ。
というか、もう何もしなくてもそのうち死ぬかもしれないが。
「昨日果物を振舞われた今、やる気が三倍増しなのさ!」
よく分からない決め台詞を言いながら‥‥劉は、蠍に止めを刺した―――
●結果
残った鹿と毒蛙も6人全員で始末し、一行は無事依頼を成功させたのである。
ちなみに村人から報酬として貰ったものの内約は以下の通り。
劉紅鳳:長弓
黄由揮:仕込下駄[暗器]
モードレッド・サージェイ:風車[暗器]
風月明日菜:樫木のちゃぶ台
雪守明:真鉄の煙管
イワーノ・ホルメル:重斧
何にせよ、これで村人も安心して収穫の追い込みができることだろう。お土産にいくばくかの果物をもらったのはナイショだ。
倒しやすい虫を相手にしていた人の活躍が少ないのは、御愛嬌ということで―――