何も考えずに‥‥割れ!

■ショートシナリオ


担当:西川一純

対応レベル:1〜3lv

難易度:普通

成功報酬:0 G 65 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:08月11日〜08月16日

リプレイ公開日:2004年08月17日

●オープニング

世に星の数ほど人がいて、それぞれに人生がある。
冒険者ギルドでは、今日も今日とて人々が交錯する―――

「最近人生に爽快感が足りないと思いませんか?実はですね、面白そうな依頼というか催し物が入ってきてるんですよ」
 実は侮りがたいと評判の冒険者ギルドの若い衆は、楽しそうに依頼内容を説明する。
 広告用の紙を広げて、バンッと机を叩いた。
「題して、『陶磁器早割り大会』! 高級品である陶磁器を思う存分叩き割っちゃってください!」
 元来庶民には手の出ない高級品の陶磁器であるが、なんでもとある陶芸家が提供をして行う盛大な催し物らしい。農民であろうと武士であろうと商人であろうと、身分に関係なく参加できるとか。
「あ、もちろん商品を割るわけじゃありませんよ? 提供してくださる陶芸家さんというのがすごく貧乏性な方らしくて、商品にはできないような失敗作‥‥つまりひび割れたりしたものも捨てられないそうなんですよ。ですがいい加減その数も膨大なものになってきて、倉庫に入りきらなくなったとかで‥‥」
 一念発起というか、涙を呑んで破棄することにしたらしいのだが、ただ捨てるのではつまらない。折角だから大勢の人に楽しんでもらったほうが作品たちも喜ぶだろう、とのことだった。
「手段は問わないそうです。手で割ろうが刀を使おうがかまいませんが、広範囲魔法等で周りの参加者や観客に少しでも被害を与えたら即失格。予選を行い、上位8名が決勝戦に進み、一番速く50個の陶磁器を割ることで優勝者が決まります。上位8名には普通の依頼同様の賞金、優勝者にはさらに別途に賞金が出るそうですから、頑張ってくださいね♪」
 自分も出たいとでもいうようにうきうきしているギルドの若い衆。いや、実際出るつもりなのかもしれないが。
 戦うばかりが金を得る手段ではない。見世物的な催し物でも金がもらえることに違いはないのだ。
 たまには戦いの技を道楽に使うのも、悪くないのではないだろうか―――

●今回の参加者

 ea0648 陣内 晶(28歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea1628 三笠 明信(28歳・♂・パラディン・ジャイアント・ジャパン)
 ea1874 虎 玲於奈(30歳・♀・武道家・人間・華仙教大国)
 ea2001 佐上 瑞紀(36歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 ea2727 鳳 夜来(33歳・♂・武道家・人間・華仙教大国)
 ea3082 愛染 鼎(32歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 ea3829 跳 夏岳(33歳・♀・武道家・人間・華仙教大国)
 ea4591 ミネア・ウェルロッド(21歳・♀・ファイター・人間・イギリス王国)

●リプレイ本文

●おまえはいったいなんなんだ?
「さぁ、盛り上がってまいりました! 第一回陶磁器早割り大会もついに大詰め、あとは決勝戦を残すのみとなりましたぁっ!」
 司会者の大声をかき消すように、観客たちの歓声が江戸の町に響きわたる。
 会場はとある河川敷で、周りは勿論土手の上にも対岸にも人が溢れていた。庶民には縁のない陶磁器をただ叩き割るというこの大会が、よほど珍しいらしい。
「決勝の司会は私、『冒険者ギルドの謎の若い衆』がお送りいたします! 何故私などが司会なのかといいますと、実は選手として参加していたのですが、準決勝で割った陶器の破片が前司会者に直撃! 当然私は失格となり、前任者も再起不能(りたいや)となってしまったため、責任を取って急遽抜擢された次第でございます!」
 なんだかんだ言って凄まじく乗り気なギルドの若い衆。ひょっとしたらわざと失格になったのかも知れない。
「さぁてここで、決勝戦に進んだ八名をご紹介しましょう! まずは陣内晶(ea0648)選手! 物腰の柔らかな十七歳、人を笑わせたりウケを狙うのが大好きとのこと! 決勝ではどんな笑いを生んでくれるのでしょうか!?」
「あ、どうも、どうもです」
 頭をかきながら観客に大きく手を振る晶。観客からも『いいぞー!』などの声が飛んでいる。
「続いて三笠明信(ea1628)選手! 大柄な身長に似合わず端整な顔立ちの十六歳で、今回の大会のために槌を新調したという気合の入りようであります! その長身から繰り出される一撃はいかほどの破壊力か!?」
「あ‥‥頑張ります」
 物静かに小さく手を振る明信。どうやら目立つのはあまり得意ではなさそうだ。
「三番手は虎玲於奈(ea1874)選手! 華仙教大国出身の武道家さんの模様です! なんでも同じく決勝に残っている人の中に恋人が居るとか!? 六角棒での華麗な技に期待です!」
「このフー姉さんに任せておきなよ」
 彼女はジャパン語を操れないため、通訳が入っての自己紹介と相成ったのだが。
「中間地点の四人目は佐上瑞紀(ea2001)選手! 教師をなさっているそうで、今日は教え子さんたちも応援に来ているのでしょうか!? 最下位の一つ上の人間が後始末をするという妙な追加事項の提唱者でもあります!」
「ソードボンバーを撃ちまくれるんだから、かなりオイシイ催し物よねぇ‥‥」
 瑞紀は愛用の日本刀を握り締め、開始の合図を今か今かと待ち構えている様子。
「続いてまいりましょう、五人目は鳳夜来(ea2727)選手! この方も華仙教大国出身ですがジャパン語がおできになるそうです! 金属拳を用いての我流拳法はまさに未知数の力と言えるでしょう!」
「フォン・イエライと申します。私の近くにいる観客は巻き添えを食わないように注意してくれ」
 落ち着き払った様子で握った拳を空に掲げる。観客への警告は派手な技への伏線だろうか?
「終わりも近づいてきました六番手! この方が玲於奈選手の恋人のようですね、愛染鼎(ea3082)選手です! 女性同士の恋人というのもぐっと来るものがありますが、注目すべきはそのはだけた胸! 会場の男衆の視線はまさに釘付け、見えそで見えないこのもどかしさ!」
「どこを見ておる! うちの胸は玲於奈殿のものじゃぞ!」
 少しだけ着物を整える鼎。しかし口ぶりのわりに完全に前を閉じないのは何故だろうか。
「えー、次にいきましょう。七番目の登場は跳夏岳(ea3829)選手です! またまた華仙教大国出身の武道家さんで、雑技役者を生業とされている変り種! 身体を動かすことが大好きだそうです!」
「やっほ! よろしく♪ 夏岳って呼んでね?」
 元気よく回りにアピールする夏岳。明信とは逆にこういう場は得意そうである。
「そしてトリを飾るのはミネア・ウェルロッド(ea4591)選手! 唯一のイギリス王国出身のファイターさんですが、特筆すべきはその年齢! わずか齢十歳ながら決勝にまで残ったツワモノであります!」
「えっへへ〜、ミネアがみぃ〜んなデストロイしちゃうよ〜♪」
 無邪気にはしゃぐミネア。鼻歌など歌いながらぴょんぴょん飛び跳ねていた。
「以上、この八名で決勝戦を行います! それでは、選手の皆さんは早速準備に取り掛かってください!」
 決勝戦では陶器の配置、壊す手順を自分で決めることができる。十分間の準備時間をどう使うかが勝敗の分かれ目といったところだろうか。
 割りやすいように皿を並べるもよし、台を用意するもよし。各々慌ただしく準備にかかる参加者たち‥‥いざ、勝負の時―――

●見敵必殺?
「それでは準備期間も終了したところで‥‥決勝戦、始めッ!」
 司会であるギルドの若い衆の合図により、参加者たちは一斉に陶磁器割りを開始する。
 各々の作戦は吉と出るか‥‥凶と出るか。
「でぇぇぇぇいっ!」
「おおっと、まず目に止まるのは明信選手! 手にした槌を振り子のようにして止まらない連続攻撃! 次々と陶磁器を割っていきます、これは速い!」
 一度に2〜3個は割れている。振り子の軌道から外れていて割り切れないものは、短刀でのダブルアタックを使った補助が上手くいっている様だ。
「わーいわーい、デストロ〜イ♪」
「こちらはミネア選手、両手の金属拳でただひたすらに殴りつけております! さ、作戦はないようです、あえて言うなら我武者羅が作戦でしょうか!?」
 身軽さを活かして壺だの皿だの関係なく‥‥それでもきちんと正確に目標を砕いていた。両手利きでないのが少々惜しいかも知れない。
「玲於奈殿! 好きじゃ! 好きじゃ!」
「おおっと、鼎選手はなんと頭突きで割る作戦! お皿は纏められますが壺や狸はどうするのか!? また見えそうで見えない‥‥じゃない、豪快であります!」
 瓦ではないので下まで一気に割れるということはないようだが、そこそこ速い。しかし刀の峰でも使ったほうが速くはないだろうか?(汗)
「ほあたたたた、ほあっちゃあ!」
「一方、その恋人玲於奈選手は重そうな六角棒を振り回して、壺など当てやすいものを狙う作戦の模様! 蹴っていなくてもオーラパワーが鍛え上げられております!」
 参加者一人につき一つ配置されている狸の焼き物も、彼女にかかれば一撃粉砕であった。ただ、破片を使っての連鎖はイマイチ上手くいっていないようだ。
「よい‥‥しょっ!」
「これは上手い! 夏岳選手、用意した台の上に陶磁器を置き、それをひっくり返して一網打尽! 台に乗り切れなかった分は引っかき集めて地面に叩きつけたぁ!」
 問題のデカい狸の焼き物は中が空洞であり、持ち上げることもできなくはない。投げ飛ばすことで破壊し、それに巻き込まれた陶磁器もいくらかあるようだ。
「ふぅぅ‥‥破ぁっ!」
「な、なんと夜来選手、準備時間に自前のスコップで穴を掘っていたのはこのためか! そこに陶磁器を纏めて放り込み、気合一閃、強烈な闘気の拳ぃ!」
 流石に入りきらなかった分や狸は無理だったが、かなりの数を粉砕することに成功したようだ。しかし、衝撃が下まで伝わりきらず割れなかったものもあるかも知れない。
「さぁて、ガンガン壊すわよ!」
「うわわ、凄まじい破壊力! 並べられた陶磁器をソードボンバーで盛大に巻き込んで砕いていく瑞紀選手! 扇形の配置にはこんな意味があったぁ!」
 ソードボンバーの威力を耐えた(!)狸の焼き物はスマッシュで見事に粉砕。観客に被害が行かないことを念頭に置いた配置で、多少の無理が利くのも優位な点だろうか。
「おや? 晶選手はまだ一つも割っていません‥‥これはいったいどうしたことでしょう」
「さーて皆さんお立会い。僕の作戦は‥‥これです!」
 布の敷かれた台を数個用意し、全ての陶器を配置した晶。おもむろに観客の注目を集め、一気に布を引き抜いた!
 皿ばかり集めてあった一つ目の台は、見事一つも落ちることなく引き抜ききったのである。これには観客もどよめきと拍手を贈るばかりだ。
「あ、晶選手は趣旨が違うような気がしますが‥‥これはこれで凄いので良しとしましょう! 個人的に狸だけが置かれた台が成功するか気になります!」
 白熱する決勝戦‥‥一番速く五十個割り切ったのは‥‥!?

●栄光とブービーと
「というわけで、優勝は佐上瑞紀選手でした! 広範囲攻撃も観客への被害を出さないよう注意を払えば一番有効な破壊方法だということが証明されましたね! 続けて優勝賞金の授与に入ります!」
 結局、ソードボンバーで纏め壊しを試みた瑞紀に勝利の女神は微笑んだ。ちなみに、瑞紀が割り終わった時点のその他の参加者の結果はというと‥‥
 陣内晶:終始布を引き抜く作業に没頭。狸やいくつかの壺で失敗したものの、破壊総数4個なのに6位
 三笠明信:一番のペースだったが観客への配慮が足りず、破片で怪我人を出し、失格。無念の8位。総数は35
 虎玲於奈:破片が下向きに散らばるために怪我人は出ないが、連鎖も上手くいかず、終始安定。総数42、3位
 鳳夜来:穴の底の方の陶磁器の確認に手間取り、涙を呑む結果に。総数46、2位
 愛染鼎:狸に頭突きをし、出血多量で気絶。総数は晶より多いが再起不能(りたいや)と判断され、7位。総数は23
 跳夏岳:最初の大量破壊以降はスピード上がらず。浴びせ倒しは自分にも被害大の模様。総数37、5位
 ミネア・ウェルロッド:終始マイペースに楽しむ。両手利きだったらもっと効率がよかっただろう。総数39、4位
 そして事前の取り決めどおり、ブービー賞である鼎は気がついてから後片付けを宣告されたのである。もっとも、結局乗りかかった船で決勝のメンバー全員が手伝ったあたり‥‥この八人には奇妙な連帯感が生まれたのかもしれなかった。
「これにて第一回陶磁器早割り大会を終了します! 二回目があるかは知りませんが‥‥みなさん、またの機会に〜!」
 予想以上の好評を博したこの大会は、陶芸家の有志を募って続いていくことになるのだが‥‥それはまた、別の話―――