大江戸弾き語り!? その名は三味線侍!

■ショートシナリオ


担当:西川一純

対応レベル:フリーlv

難易度:易しい

成功報酬:0 G 65 C

参加人数:9人

サポート参加人数:-人

冒険期間:12月11日〜12月16日

リプレイ公開日:2004年12月14日

●オープニング

世に星の数ほど人がいて、それぞれに人生がある。
冒険者ギルドでは、今日も今日とて人々が交錯する―――

「いやー、面白いですよね、『三味線侍』! 最近人気の大道芸人ですので、ご存知の方も多いんじゃないでしょうか♪」
 やたら上機嫌で依頼の紙を差し出してくる冒険者ギルドの若い衆。
 いつもより三割り増しのテンションで、すらっと依頼の紙を机に置く。『うた』にでもされたのだろうか?
「さてさて、今回の依頼なんですが‥‥なんとその三味線侍こと、波少陽之助さんからなんです。冒険者の皆さん自身を、今度江戸内のとある神社で行われる芸披露で使う『うた』にさせて欲しいそうなんですね♪」
 波少陽之助と言えば、武家の次男坊という気ままな立場から大道芸人になった、変り種と有名な人物である。
 『〜でござる! 無念!』を決め台詞として、少しばかり毒のあるネタが人気だ。
「皆さんのお仕事は実際に三味線侍に会って、取材に応じてもらうだけです。今までどんな冒険を潜り抜けてきたか‥‥あるいは、これからどんな冒険をしたいか。自分の信条、得意技、何でもいいから、じかに冒険者の実態を知りたいらしいですね。ただ、ちょっと覚悟していただきたいのは‥‥」
 先も触れたが、その大半が『毒』を含んだ芸風であるということ。
 本人を知らない人間には笑い事で済むかもしれないが、『うた』にされた本人にとっては腹だたしいこともあるかもしれない。
 実際、題材にした人間から文句が来たことも2〜3回あるようだ。
「まぁ本人が本気でそう思ってるわけでなし、『あくまでお笑い』ということで笑って許していただける方々が参加していただけることを祈っています♪」
 取材を引き受けてくれた人は無料で芸披露の場に御招待らしいが‥‥さてさて、どんな『うた』が出来上がってくるのだろう。
 もし面白くなかったとしたら‥‥残念!(ぉぃ

●今回の参加者

 ea0076 殊未那 乖杜(30歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 ea1467 暮空 銅鑼衛門(65歳・♂・侍・パラ・ジャパン)
 ea3547 ユーリィ・アウスレーゼ(25歳・♂・バード・エルフ・ロシア王国)
 ea3829 跳 夏岳(33歳・♀・武道家・人間・華仙教大国)
 ea3914 音羽 でり子(30歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 ea7767 虎魔 慶牙(30歳・♂・ナイト・人間・ジャパン)
 ea8213 佐上 和樹(33歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea8950 ジャイケル・マクソン(51歳・♂・ジプシー・ハーフエルフ・ビザンチン帝国)
 ea9275 昏倒 勇花(51歳・♂・パラディン候補生・ジャイアント・ジャパン)

●リプレイ本文

●芸披露って‥‥言うじゃな〜い?
 本日の江戸は快晴‥‥今人気の三味線侍を一目見るべく、会場となった神社の境内は人で溢れていた。元旦でもあるまいに、お守り等を売る売店も大忙しである。
 2日ほど前に、依頼を受けた冒険者たちの取材は終了‥‥現在特別招待席に座っている8人もどのような『うた』になったのかは知らない。
 べべん、と一弾きあった後、いよいよ三味線侍‥‥波少陽之助が登場し、観客は静まり返る。彼の芸風の特徴の一つに、『前置きが短い』というものがあり、いきなり芸に入ってしまうためだ。
「拙者‥‥三味線侍にてござ候‥‥。斬った拙者が悪いの‥‥か。斬られたおぬしが悪いの‥‥か」
 べべべべんべべべべんべべべべんべべべべん♪
「『俺は殊未那乖杜(ea0076)♪ 最近記憶喪失だ♪ 目的のためにゃ手段は問わず、手段のためにゃ目的も問わず♪ とにかく気分で生きている♪』‥‥と‥‥言うだろう‥‥?(べべんっ!)されどおぬし‥‥自負するくらい気分で動かれると、いざという時依頼人が不安になるでござる! 無念!(べべんっ!)記憶が戻っても、多分あんまり変わらない‥‥斬り!」
 会場にどっと笑いが巻き起こる。ちなみに本人の反応は‥‥。
「毒を含む、ねぇ…つまり、芸をするたびに敵を増やす事になる訳か。わりと命懸けっぽいな。ある意味では冒険者と言えなくもないような気がする」
 何故か同情しているようだった。少し笑いが収まったところで、『うた』が続行される。
「『ミーは暮空銅鑼衛門(ea1467)♪ 秘密結社の新入社員♪ グランドクロスに改造されて、出向中の若葉屋の、褌で補完計画でござる♪』‥‥と‥‥言うだろう‥‥?(べべんっ!)されどおぬし‥‥新品ならともかく中古の褌なんて誰も買わないでござるっ! 無念っ!(べべんっ!)目指せ、世紀末褌救世主‥‥語呂が悪すぎ、斬りっ!」
「古褌を馬鹿にしてはいけないでござる! 若葉屋は信頼と実績の浪漫輝く営業をしているでござる!」
 暮空の男泣きの叫びをキッパリと無視し、波少は続ける。
「『オイラ、ユーリィ・アウスレーゼ(ea3547)なのだ♪ ジャパンが大好きなエルフ〜なのだ♪ 好きな言葉は『漁夫海苔』なのだ、こないだ花嫁修行〜をし〜たのだ♪』‥‥と‥‥言うだろう‥‥?(べべんっ!)されど‥‥色々間違ってる以前に花嫁修業も何もおぬしは男でござるぅ! むねぇん!(べべんっ!)それは白ムックではな〜く〜、白無垢というのですぞぉ〜‥‥斬りぃ!」
「へ? 男って白ムック着ちゃいけないものなのだ?」
 誰もツッコまないのは、似合うかもしれないと思っているからだろう。
「『ボクは跳夏岳(ea3829)♪ 江戸に〜知れ渡る雑技役者♪ 動物関連の仕事が多くて、ついたあだ名は牛殺しに虎忍♪ なんで江戸浴衣小町って騒がれないの♪』‥‥と‥‥言うだろう‥‥?(べべんっ!)それはおぬし‥‥雑技役者なのに身長176に比べて63と体重が重すぎるからでござるぅぅ! むねぇぇんっ!(べべんっ!)豊満は‥‥行き過ぎるとただのデブ、斬りゃっ!」
「あはは、そりゃそうだ!」
 彼女は許容範囲が広いらしいから笑って済ませてくれるが‥‥あくまで『行き過ぎると』である。
「『俺は虎魔慶牙(ea7767)♪ 俺は『戦人』『喧嘩人』♪ 強い奴と戦うために、今日も今日とて頑張ってるぜ♪ 戦いたいぜ穴鈴牙闘、ド派手に喧嘩しようぜぇ♪』‥‥と‥‥言うだろう‥‥?(べべんっ!)されど‥‥本当に頑張っているのは死ぬほど武器やら荷物やらを持たされてるおぬしの愛馬のほうでござるぅぅぅっ! むねぇぇぇんっ!(べべんっ!)江戸の中心で動物愛護を叫ぶ、斬りゃあっ!」
「ありゃま。やっぱ載せ過ぎか?」
 載せ過ぎである(きっぱり)。
「『私は佐上和樹(ea8213)♪ 姉〜が家出し、母〜に連れ戻せと追い出され♪ 2年かけて探し出せば、当人全く帰る気なし♪ 本当、いい迷惑ですよ♪』‥‥と‥‥言うだろう‥‥?(べべんっ!)おぬし‥‥そういう考え方してる限り、激怒したって姉君には勝てず、家にも戻れないでござるぁ! 無念んっ!(べべんっ!)姉さん、事件です‥‥私、姉さんの所為で家を追い出されたわけで‥‥斬りゃぁぁ!」
「‥‥何一つ間違っていないだけに、逆に腹立たしいような気がします‥‥」
 あくまで芸です、芸(汗)
「『ボクはジャイケル・マクソン(ea8950)♪ 子供好きで踊りの達人、2人組みでも『マクソン5』♪ 白い肌は化粧じゃないよ、生まれつき♪』‥‥と‥‥言うだろう‥‥?(べべんっ!)されどおぬし‥‥日光に当たってポゥポゥ言ってる様は、色んな意味で『すりらー』でござるっっっ! 無念っっっ!(べべんっ!)拙者は男色を否定しない。しかし近寄っては来ないでくれ、斬りっっっ!」
「ポゥゥッ!? 何のことだい? ボクにはサッパリ分からないよ」
 突然立ち上がったために、袖から大量の白粉が落ちたことも当然のようにスルーした。
「『あたし昏倒勇花(ea9275)♪ 身体(からだ)は男でも、精神(こころ)は乙女♪ こんとーちゃんって呼んで頂戴♪ 夢は本当の乙女になる事、日々精進しているわ♪』‥‥と‥‥言うだろう‥‥?(べべんっ!)されどおぬし‥‥達人級の格闘技術より前に、その顔と体格であたしとか言われるだけで普通の人はまさに昏倒するでござるぅぁっ! 無念んんんっ!(べべんっ!)拙者は女装も否定しない。しかし近寄っては以下略、斬りゃぁぁぁっ!」
「ま、失礼しちゃう。でも否定しないなら構わないわ♪」
 どうやら身体面だけでなく、精神面でも打たれ強いらしい。
 本来なら一人一ネタのはずだが、人数が揃わなかったこともあって、時間的にも余裕がある。お客の反応も上々‥‥どうやら全員分ではないようだが、予備の『うた』を続けるようだ。
「『体を動かすのが大好きで♪ 腕を磨いて大勢の、人を助けてあげたいな♪ それにはもっと依頼をこなして、経験積まなきゃいけないね♪』‥‥と‥‥言うだろう‥‥?(べべんっ!)されどおぬし‥‥今まで受けた依頼の半分くらいが戦わないものなのだから、こんな依頼で大道芸人に協力してる場合ではないでござるっ! 無念っ!(べべんっ!)それでも段位が高い‥‥跳夏岳、斬りっ!」
「‥‥うわー‥‥自虐的(汗)」
 苦笑いをする本人。流石に有名な冒険者に対する毒は客の食いつきも違うようだが。
「『出身は、関西圏の播磨♪ 笑いを取るためならば、毒があっても怒れない♪ 姉さんの耳に入るのは嫌ですが、曲げられないです笑いの根性♪』‥‥と‥‥言うだろう‥‥?(べべんっ!)その気概と協力はありがたいが、そもそもおぬし自体に『笑い』が足りないでござるっ! 無念っ!(べべんっ!)笑う門には福来る‥‥笑え佐上和樹、斬りっ!」
「う。耳が痛いですね‥‥」
 苦笑いも笑いの内に入るのだろうか。彼が本当に笑えるのはいつの日か。
「『特技は特に無し♪ 広く浅く、色々と♪ 良く言えば万能、悪く言えば半端♪ やりたい事も特に無く、当たり障りなく続けていこう♪』‥‥と‥‥言うだろう‥‥?(べべんっ!)大丈夫‥‥おぬしの特筆すべき特技は、無意識のうちに着物を左前にするその縁起の悪い着こなしでござるぁっ! むねぇんっ!(べべんっ!)もしかして黄泉がえり‥‥殊未那乖杜、斬りぃっ!」
「む。言われてみれば今も左前だったか」
 傍に座っていた人間がちょっと後ずさったのはナイショだ。
「『護身の技も乙女のたしなみ♪ 会ってみたいわ堕天狗党♪ 弱気になってる仲間の代わりに、やつらと刀を交えるわ♪』‥‥と‥‥言うだろう‥‥?(べべんっ!)大丈夫‥‥おぬしなら刀を交えなくても、流し目や投げ接吻だけで充分人が殺せるでござるぅっ! 無念んんっ!(べべんっ!)基礎を制するものは全てを制す‥‥こんとーちゃん、斬りゃあっ!」
「なんだかんだ言って愛称で呼んでくれるのね‥‥終わった後が楽しみだわ♪」
 その時、波少の背中に薄ら寒いものが走ったかどうかは‥‥定かではない。
「『笑顔の三味線弾き参上なのだ♪ オイラも一緒に三味線弾くのだ♪ 三味線に侍、これこそ素敵なジャパン文化♪ よろしくお願いするのだ〜♪』‥‥と‥‥言うだろう‥‥?(べべんっ!)されど‥‥今回のおぬしの仕事はあくまで『うた』製作の補助でござるぁぁぁっ! 無念っっ!(べべんっ!)ある意味大道芸人殺し‥‥ユーリィ・アウスレーゼ、斬りっ!」
「残念なのだ〜。でもオイラ、三味線侍チャン殺してなんていないのだ?」
 やはりどこかズレているようなコメントである。
「『ミーの流派は我流♪ しかしそれは世を忍ぶ仮の姿♪ 背嚢に入ったあらゆる道具を活用する、一子相伝の流儀♪ 『秘滅道愚(ひめつどうぐ)』がミーの流派でござる♪』‥‥と‥‥言うだろう‥‥?(べべんっ!)されどおぬし‥‥戦闘中にそんな背嚢背負ってたら、戦うどころかまともに動くこともできないでござるッ! 無念ッ!(べべんッ!)き、君は一体誰なんだい? はいはい〜、暮空銅鑼衛門です〜、斬りッ!」
「暮空銅鑼衛門でござる! 若葉屋の褌は世界一ィィィッ! でござる!」
 途中でキャラが変わったような気がするのは気のせいである。
 べんべべんべんべん‥‥
 ‥‥と、どうやら『うた』がそろそろ終わるようだ。三味線の音が緩やかになり、波少が顔を上げた。
「拙者‥‥まともな三味線の曲、一曲も弾けないでござる‥‥。切腹ぁっ!」
 べべんっ!
 こうして大好評・大歓声の中、波少の芸は終わりを迎えた。この調子なら次の『うた』が披露されるのもそう遠くないかもしれない。
 もっとも‥‥楽屋を訪れた昏倒に思いっきり抱きしめられて負った重傷が回復したら‥‥の話になるだろうが。
 芸の道は、長く、厳しいものである―――