転売商人の競売会!
|
■ショートシナリオ
担当:西川一純
対応レベル:1〜4lv
難易度:やや易
成功報酬:5
参加人数:6人
サポート参加人数:-人
冒険期間:12月21日〜12月26日
リプレイ公開日:2004年12月25日
|
●オープニング
世に星の数ほど人がいて、それぞれに人生がある。
冒険者ギルドでは、今日も今日とて人々が交錯する―――
「うーん‥‥ちょっと釈然としませんが‥‥まぁ、悪いことじゃないというか‥‥なんというか」
微妙に納得がいかない様子で、冒険者ギルドの若い衆こと西山一海は依頼の紙を机に置いた。
冒険者への説明もないまま、しばし唸り続ける。
「まぁ正規の依頼として認定されてるわけですから、紹介しないわけにも行きませんか。‥‥皆さんは福袋ってご存知ですよね? そう、武道会場とかでも売られていたアレです。珍しいものが入ってるからお得感があって、私も好きです」
こういうとき、普段なら小躍りしそうなくらいテンションが高いはずの一海は、何故かバツが悪そうに頭を掻く。
依頼の紙を覗いてみると、『貴重! 福袋道具競売致します!』との文字がでかでかと書かれていた。
「この依頼主、どうやら今までに国内で販売された福袋を買い込んでいたようなんですね。いつか転売するつもりだったらしく、商売の機会を狙っていたものの、中々好機が訪れない。この際宣伝も兼ねてギルドに客集めを依頼し、競りという形で販売する気らしいです」
本人曰く、『需要あっての供給』とのこと。実際福袋に入っていたアイテムを欲しがる人間は多いのである。
ちなみに、競りにかけられるものは以下の物品だ。
『イカサマ賽「弐」
陶器人形「酒買い狸」
巫女装束
般若面
ひょっとこ面
太刀
ふさふさな根付
天晴れ扇子
名酒「うわばみ殺し」
樫木のちゃぶ台
木刀
朱塗りの櫛』
「結構種類に富んでますね‥‥個人的には巫女装束なんか欲しいかもしれません。‥‥いや、自分で着るわけじゃないですよ、勿論(汗)」
慌てて否定する若い衆はともかく、競売というからには一番高い値をつけた者がその商品を手に入れることに違いはないだろう。
「あ、そう言えば‥‥溜め込んだ福袋の中身を盗人が狙ってるとか言ってたような。それの対応策としての一環でもあるんですかね‥‥冒険者の皆さんが一緒なら盗人くらい軽く撃退してくれるでしょうし、さっさと売りさばくこともできますから一石二鳥と」
どうやら単純に和やかな買い物とはいかなそうな感じではあるが‥‥さて、この中に皆さんが欲しがっている物はあるだろうか―――
●リプレイ本文
●某月某日
「さぁ〜、よってらっしゃい見てらっしゃい! 買いたくても買えなかったあなた! 買ったけどお目当てのものが手に入らなかったあなた! 本日はそれが手に入るかも知れない大好機だぁ!」
依頼を寄越してきた商人は、ハリセンでバンバンと商品が乗っている台を叩く。
ここは江戸内のとある神社の前。夏祭りの時期などには出店がたくさん並ぶ場所で、普段の人通りもそこそこ多い。
快晴の天気の助けもあってか、露天の前には結構な人だかりができていた。
「へぇ‥‥やっぱり結構集まるもんなんだな。なんだかんだで福袋の中身は人気なのかねぇ。ま、俺は木刀さえ手に入れば文句はないけどさ」
「そりゃな。いつでも買える物ばかりってわけじゃないし。俺は般若面が欲しいところなんだが‥‥木刀なんてその辺の木の棒でだろーに」
緋霞深識(ea2984)と久世慎之介(ea3365)。競売会に参加すると同時に、警護も担当する手はずになっている二人だが、今のところ盗人らしき姿は確認できない。
「珍しいお酒が出品されているみたいだし‥‥是非競り落として、一緒に飲みたいよね」
「私は巫女装束が欲しいです。二人揃って競り落とせるといいですね♪」
ちょっと怪しい関係という噂の、女性二人組み‥‥設楽葵(ea3823)大曽根浅葱(ea5164)もまた、一応辺りを警戒しながら商品を見定めていた。
「うーん、やっぱり巫女服は激戦区みたいね。まさに目玉商品ってところかしら。櫛も欲しいところではあるんだけどね」
「競売楽しそうですね! 手早く泥棒を片付けて、ゆっくり楽しみたいです! 孫子もこう仰いました!「最後に生き残った一人が願いを叶えられる」と!」
雷炎鷹(ea5990)朱塗りの櫛にも目をやっているのに対し、香月八雲(ea8432)は巫女服にのみ着目しているようだ。
以上のような面々が、一般の参加者や見物客に混じって警戒している中‥‥果たして盗人は、どのように現れるのだろうか―――
●新たなる脅威!?
「さぁ、まずはこれ‥‥『木刀』だ! そん所そこらの木刀とはわけが違う逸品! さぁ、10Cから‥‥」
「5G」
「‥‥へ?」
「だから5Gだ。こればっかりは譲れん‥‥これを買いに来たみたいなもんだからな。‥‥不服か?」
「い、いえいえ、滅相もない! さぁ5G、5Gだ! 他にいないか!?」
依頼人の金額提示が終わる前に、緋霞が高額入札を行う。周囲からは感嘆のどよめきが巻き起こっていたほどで、当然それ以上の値をつけようなどと言う者はいなかった。
「では、5Gで決定っ! ありがとうございます!」
「他にいないのか‥‥ま、予算よりずっと安く手に入ったんだ、文句はない」
代金と引き換えに木刀を受け取る。とりあえず、当初の目的はあっさり達せられたわけだ。
「では次はこれ‥‥『般若面』だ! 勿論舞にも使えるが、頭部用の防具にもなる! では、1Gからどうぞ!」
今回はスパッと値段が提示される事はなく、ざわざわと悩むようなざわめきが多く、1G10C等、小刻みで進んでいく。
「じゃ、2Gだ。もっと出すこともできるが、様子見ってことで」
「お、流石はお目が高い! さぁ、2Gより上はいないのか!?」
久世に続いた商人の声に、静まり返る一同。どうやらこれ以上の入札はなさそうである。
「それじゃ般若面はお兄さんのものだ! 落札ありがとよ!」
久世もまた代金と引き換えに般若面を受け取り、目標を達した。
その後、太刀、イカサマ賽、ひょっとこ面、根付に扇子、果てには狸の置物からちゃぶ台までもが売れて行き、残す商品は後三つとなる。
「残り少なくなってきましたよ! 今度はこれ、『朱塗りの櫛』だ! 高級感溢れる赤漆で塗られた櫛は、髪をすくのに最適! 身だしなみが気になるお嬢さん方、いかがですか!? これは50Cから始めましょうか!」
これを狙っていた女性客が多いらしく、値段は60、70と見る見る上がっていく。流石に1Gを越えると入札数も減ってくるが。
「順番がねぇ‥‥ここで変に出費して本命が買えないと嫌だけど‥‥うーん、どうしようかしら」
雷が迷っているうちに、値は1G35Cで止まった。
「さぁこれで終わりかい!? 1G35C以上はないか!?」
「仕方ない、1G50Cまで出すわ!」
「はい、ギリギリでお姉さん! これでもっともっと綺麗になってくれよっ!」
と、朱塗りの櫛を渡してくる商人。雷も一品手に入れたのはいいが、本命の巫女服が手に入るかどうか。
「残るは二品! これは貴重ですよ‥‥『名酒「うわばみ殺し」』! どんなに酒に強い人間でも必ず酔わせてしまうと噂される、酒好き垂涎の逸品! これの開始金額は皆さんにお任せしましょう!」
「66Cでどうかな?」
「おいおいお嬢さん、そりゃあないだろ。こいつはただでさえ希少な酒だ‥‥下取りに出したって5Gはくだらないぜ?」
「う。そ、そんなにするものなの‥‥? 出せないこともないけど‥‥ちょっと厳しいかな」
「葵お姉さま‥‥すいません、私も欲しいものがあるので、お貸しすることもできなくて‥‥」
「仕方ないよ、私の見通しも甘かったし。こうなったら憂さ晴らしで、盗人に八つ当たりだね」
「そ、そうですね」
設楽と大曽根が苦笑いをするのは無理もない‥‥他の参加者も、そんな高価な酒なら飲んでみたいという思いはあるが、如何せん財布の中身がついていかない。
「居酒屋の店員として、是非にも飲んでみたいです! でも予算もないです!」
「‥‥誰もいないんじゃ寂しいよな。そう言えば酒好きが知り合いにいたな‥‥んじゃ、5Gでどうだ。売れ残るよりはいいだろ」
「勿論ですとも、ありがとうございます! ではでは、名酒の味をお楽しみください!」
またしても緋霞が落札し、大事そうに抱えられた酒瓶を受け取ったのである。
「さて‥‥お待たせしました。これこそが本日の目玉商品、『巫女服』でございます! 巫女服! それは男の浪漫! いやさ、全人類の浪漫と言っても過言ですらないでしょう! さぁ、これも自由にご設定くださ‥‥」
『ちょおっと待ったぁぁぁぁぁっ!』
商人の声を遮り、二つの絶叫が、境内への階段から響き渡る。
「そいつが出てくるのを待ってたぜ‥‥その巫女服は俺たちがいただく!」
「俺たちは栄光ある『大日本巫女服党』が一員! 全ての巫女服を我らの手にあべらがぐしっ!?」
「お前ら怪しすぎるんだよ。見てて笑えるくらい近寄ってるのに気がつかないしな」
二人組みの盗人(と思われる)は、密かに接近していた久世に背後から突き落とされ、盛大に階段を転げ落ちた。
だがずぐにがばっと立ち上がり、血を流しながらも高笑いする。
「ふははははははっ! この程度の痛み、巫女服を手に入れるためならばどうということもない!」
「無論ッ! なんか左腕があらぬ方向に曲がっているような気もするが、目の錯覚よぉ!」
あちこちボロボロで散々血を流しているが、今の彼らは気力で立ち上がっているようだ。
「あ、葵お姉さま‥‥あの方たち、物凄く恐いんですけれど」
「同感‥‥あれは絶対に救えないタイプだね」
まるでズゥンビのようにフラフラ歩きながら近づいてくる二人組‥‥そのあまりに奇妙な迫力に、冒険者たちもたじろいでいるようだ。
「むむ! 皆さん、巫女服にいくらまで出せますか!?」
「さっき少し使っちゃったから、13Gってところかしら」
と、雷。
「私は20Gまでなら‥‥。本当はそこまで行って欲しくないですけれど」
と、大曽根。
「俺も20Gかな。まー俺は木刀が手に入ったからどっちでもいいんだけどよ」
と、緋霞。
「ぐ! 皆さんお金持ちですね! 私は予算3Gまででした! では商人さん、大曽根さんに今すぐ売って上げてください!」
「は、はい? いや、こっちは大儲けですからいいけど‥‥」
「で、大曾根さんは大至急それに着替えてきてください! 少しでも速くお願いします!」
「は、はい‥‥」
何故か完全に場を取り仕切る香月の言葉に、全員が大人しく従う。二人組はといえば、大曽根を追おうとするところだったが‥‥。
「なーるほどね。おっと、そうはいかないぜ」
「八つ当たりするつもりだったけど‥‥気持ち悪いから足止めまでね」
「あたしもやるの? なんか嫌ね‥‥」
「殴り倒した方が速いんじゃないか?」
香月と大曽根以外の四人に取り囲まれ、身動きが取れなくなっていた。じりじりと時間だけを稼がれ、やがて大曽根が木陰から巫女服を纏って現れる。
「あ、あの‥‥葵お姉さま、いかがでしょうか‥‥」
大曽根のはにかむその姿を、盗人二人が見た瞬間。
「ごふっ!?」
「がはぁっ!?」
盛大に血を吐いて、ぱったりと倒れた。
「ふ‥‥ふふ‥‥こ、こういう時、外国ではこう言うらしいぜ‥‥『ぐっじょぶ』(がくっ)」
「へへ‥‥燃え尽きちまったぜ‥‥真っ白によ‥‥あ、あれは‥‥いいものだ!(がくっ)」
「成功です! やはり巫女服好きには似合う女の子に着せてみせる直接攻撃が一番効くと思ったです! これが巫女服の秘密なのですね!」
「いや、絶対に違うだろ」
「これで終わったとは思えない‥‥この世に巫女服がある限り、きっと第二第三のやつらが‥‥!」
「おまえさんも話をややこしくするなぁっ!」
久世に蹴りのツッコミを入れながら、緋霞は絶叫する。蛇足だが、この二人は命に別状はなく、番所に突き出されて散々説教された後、しばし牢屋行きとなったらしい。
かくして、競売会だったはずの依頼は無事に(?)幕を閉じた。なんだか分からない二人の乱入で、コントのようにして―――