堕天狗党暗躍? 〜峠に住まう天狗面〜

■ショートシナリオ


担当:西川一純

対応レベル:1〜4lv

難易度:普通

成功報酬:1 G 0 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:12月19日〜12月24日

リプレイ公開日:2004年12月21日

●オープニング

世に星の数ほど人がいて、それぞれに人生がある。
冒険者ギルドでは、今日も今日とて人々が交錯する―――

「大変です大変です! 江戸から1日ほど北西に行ったところにある国境の峠に、堕天狗党を名乗る8人の集団が現れるようになったそうです!」
 奥の方から、依頼の紙を持ってバタバタと出てくる若い衆。
 ばんっ! と机を叩き、しばし呼吸を整える。
「はー、落ち着きました。しかしですね、その武装集団が堕天狗党を名乗っているのは確かなんですが、どうにも変な点が多いんですよ。まず、その8人は通りかかった人間なら誰でも‥‥旅人だろうが商人だろうが農民だろうがお構い無し、無差別に襲い掛かるそうなんですね。身ぐるみ置いていけば命は助けてもらえるようですが、抵抗したりすると‥‥」
 自分の首を手刀でかき斬る様なジェスチャーをする。
 依頼の紙を参照すると、逃げ延びた人間の証言が纏めてあった。とりあえず以下の通りである。
『一つ、賊は8人居た。
 二つ、全員天狗の面をつけていて顔は分からなかった。
 三つ、堕天狗党を名乗った。
 四つ、なんだか刀の扱い方が素人臭かった』
「何々‥‥穴鈴牙闘、螺流嵐馬、安綱牛紗亜、トニー・ライゲン、大地丸、茸ノ丞、折手矢、柄這志摩‥‥とまぁ、豪華な顔ぶれで。‥‥って‥‥あれ? 柄這志摩さんは確か、今は奉行所に捕まっているんじゃ‥‥」
 賊が名乗ったという名前を読み上げながら、だらだらと嫌な汗を流す若い衆。
 最早彼の中で半分以上答えは出ているようだが。
「この依頼が出されたのは3日前‥‥。あ、あははははは‥‥と、とにかくよろしくお願いします!?」
 必死で誤魔化し笑いをする若い衆。無論誰も誤魔化されはしないだろうが。
 とりあえず‥‥大変だと言う時は、キチンと最後まで依頼の紙を熟読してからにして欲しいものである―――

●今回の参加者

 ea2246 幽桜 哀音(31歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 ea7078 風峰 司狼(31歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea8087 楠木 麻(23歳・♀・僧兵・人間・ジャパン)
 ea8793 桐生 純(26歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 ea8820 デュランダル・アウローラ(29歳・♂・ナイト・ハーフエルフ・ノルマン王国)
 ea9275 昏倒 勇花(51歳・♂・パラディン候補生・ジャイアント・ジャパン)
 ea9527 雨宮 零(27歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea9555 アルティス・エレン(20歳・♀・ウィザード・ハーフエルフ・イギリス王国)

●リプレイ本文

●登場!
「赤い流星、安綱牛紗亜!」
「桜田門の悪夢、穴鈴牙闘!」
「真紅の雷鳴、トニー・ライゲン!」
「青い巨刀、螺流嵐馬!」
「天の蜻蛉、柄這志摩!」
「そして黒い三連刀、大地丸!」
「同じく茸ノ丞!」
「同じく、折手矢!」
『堕天狗党八人衆、ここに見参!』
 ビシッとポーズを決め、様々な色の天狗面をつけた8人の人間が現れる。
 ここは件の国境の峠‥‥囮役を買って出た三人は、半分以上固まってしまっていた。
「ふっふっふ‥‥驚いて声も出ないようだな。まぁ我らも鬼ではない‥‥身ぐるみ置いていけば命までは取らん」
「へへっ、けどそっちのお嬢ちゃんにはちょいとばかり楽しませて欲しいもんだよなぁ」
 と、各々勝手なことを言う天狗面たち。
 作戦通り、桐生純(ea8793)をお嬢様役として、風峰司狼(ea7078)、昏倒勇花(ea9275)が護衛としてついている。もっとも、昏倒は女装+手拭の頬かむりと、非常に怪しいのだが。
(「‥‥私、そんなに可愛く見えるの、カナ?」)
(「応、そりゃ勿論。お前さんだけじゃなく哀音も美人だし、いたらもっと効果あると思うんだがな」)
(「あら、あたしをお忘れじゃなくて?」)
(「‥‥あんたは論外だ」)
(「んまっ、失礼しちゃう!」)
 こそこそ内緒話で会話する囮組み。天狗面の八人は、それを見て怒鳴りつけてくる。
「何こそこそやってやがるんだ! 身ぐるみ置いていくのか、いかねぇのか!」
「ちっ‥‥仕方ねぇ。こ、この荷物はお嬢様の大切な嫁入り道具で盗られたら私が旦那様に殺されるんです! 私の所持品で勘弁していただけませんか!?」
 風峰が気合の入った演技で叫ぶと、天狗面たちは顔を見合わせて頷き合う。
「そうはいかないわよ‥‥私たちは身ぐるみ置いて行けと言ったはず! 嫌なら死になさい!」
「まぁまぁそう言わず‥‥この巻物なんかいかがですか? ‥‥もっとも、偽者のお前らには高すぎる代物だがな」
 これ以上の時間稼ぎは無理と判断したのか、風峰が巻物に偽装した刀を抜いて戦闘体制を取る。同時に桐生が悲鳴を上げ、ついでに昏倒も『あーれー!』と叫んでいた。
「なっ‥‥お、お前ら‥‥!?」
「ただの商人じゃないな!?」
「‥‥着飾るのはここまで‥‥。あなたたちの演技も、ネ」
「もう少し乙女を満喫していたかったんだけどね‥‥仕方ないわ」
 桐生と昏倒も戦闘体制を取る。動揺し、たじろぐ天狗面×8だったが、そうこうしているうちに残りのメンバーが合流してきた。
「偽者‥‥ですか。困ったものですね(苦笑)」
 華奢な女の子にも見える浪人、雨宮零(ea9527)。
「俺が出ることもないかもしれないな‥‥どう見ても戦闘のプロには見えない」
 ハーフエルフのナイト、デュランダル・アウローラ(ea8820)。
「武士道とは正す事と見つけたり。あなたたちを許すわけにはいけません」
 これまた着飾れば人の目を引きそうな美少女志士、楠木麻(ea8087)。
「‥‥何だか‥‥よく分からないけど‥‥賊は‥‥討つのみ‥‥」
 同じく整った顔立ちの美女浪人、幽桜哀音(ea2246)。
 その時、突然火の玉が天狗面たちの後方で爆発し、吹き飛ばした。フォイヤーボムを放ったのは‥‥。
「はっ、ペラペラ話してるあんた達が悪いんだよ。バッカじゃな〜い? キャハハハ!」
 フレイムエリベイションをすでに身に纏ったアルティス・エレン(ea9555)である。
「あ、兄貴ぃ! こ、こいつら強そうですぜ!?」
「バカ、トニーって呼べって言っただろ!? 数は同じなんだ、戦うしかないだろーが!」
「こうなったら破れかぶれだぁっ!」
 口々に泣き言のような台詞を吐いて向かってくる8人。それに対し、冒険者たちも一人ずつ迎撃に当たった―――

●ニセモノの末路
「‥‥あなた‥‥赤い流星役だったよね? 素直に捕まるなら‥‥命までは取らない、ヨ?」
 桐生は繰り出される刀の攻撃を圧倒的な回避力で避け続けながら説得を続ける。
 刀を振り回している赤い天狗面の男の方が息を切らせ、フラフラになってしまっている。
「‥‥仕方ない、カナ。ちょっと痛い目にあってもらうね」
 手裏剣を投げつけるが、かすり傷程度にしかならない。それを見た桐生は、デュランダルが持ってきてくれた忍者刀に装備を切り替える。
「‥‥ごめん、ね。殺しはしない、カラ‥‥」
 赤い天狗面の男を直接攻撃する桐生。だがそれも峰打ちで、での話だ。どうやら本気で殺したくないらしい―――

「つまんないねぇ‥‥つまんないよ。こんなものかい、あんたは!」
 鞭で紫色の天狗面‥‥柄這志摩役の女を攻撃するアルティス。相手が短刀装備であるため、リーチの差で相手を翻弄していた。
「キャハハ、あたしが白兵戦で戦えるようじゃ、あんた相当弱いよ! つまらないからさっさと終わりにしちゃおうかね!」
 荒い息をつく紫の天狗面にも容赦なし、刀の射程外からなおも鞭で連打する。志摩役の女はまともに動けないのに‥‥だ。
 鞭を受ける女の旅装束が、どんどんボロボロになっていく‥‥!
「そういや桐生が『殺さないで』とか言ってたっけねぇ。いいよ、一応殺さないでおいてあげるよ」
 にやりとサディスティックな笑みを浮かべ‥‥アルティスは、重傷状態の女を見下ろした―――

「‥‥あなたは‥‥私を、殺して‥‥くれるの‥‥?」
 相手の刀を自分の刀で受け流しながら、幽桜が呟く。相手である青緑色の天狗面をつけた男は、何か薄ら寒いものすら感じているようだが。
「‥‥本物の穴鈴牙闘なら‥‥私を、殺せるのかな‥‥?」
 ブラインドアタックで軽く足を斬りつけてやるだけで、男は悲鳴を上げて倒れ伏す。彼女自身、避けるよりも受け止めるほうが得意であったし、何より攻撃もせずに相手の刀の直撃を受けるわけには行かないからだ。
「‥‥大丈夫‥‥殺さないから‥‥。逃げない限りは‥‥」
 喉元に突きつけられた刀に、青緑色の天狗面は降参するしかなかった―――

「武士道とは射抜くことと見つけたり。さぁ、もう観念しなさい!」
 青い天狗面をつけた男を短弓で攻撃しながら、楠木が叫ぶ。螺流嵐馬役の男は果敢に迫ってきていたが、矢を受けて苦悶の表情を浮かべ、その場に立ち止まる。
 もっとも、まだその目は敵意と闘士を失っていない。軽傷程度なのにフラフラしているのは、怪我をすることに慣れていないためか。
「諦めが悪いんだね‥‥なら、こうするしかないかな」
 矢を放つのをやめ、静かにストーンの魔法を詠唱する。矢のダメージで動きの鈍い天狗面‥‥術の完成にそれほどの苦労はない。
「石になって反省してなさい」
 足元から石化していく男を見やりながら、楠木は静かに呟いた―――

「刀を抜いたからには命を賭ける。でなくば‥‥それを納めて大人しくするんだ。(睨み目)」
 雨宮の迫力に押され、朱色の天狗面の男は思わず後ずさる。ともすれば少女と見紛う様な雨宮だが、その戦闘力はかなりのもののようだ。
 すっかり怯えているトニー・ライゲン役(どう見ても日本人)は、リーダー格という意地もあってか、一か八かで斬りかかって来る!
「その潔さを‥‥なんで正しい道に使えないんですか‥‥!」
 鞘に収めたままの刀を抜刀姿勢で構え、ブラインドアタックの準備をする。
「闇路への片道‥‥覚悟は出来ているか」
 普段は愛想がよく、お人好しの彼は‥‥殺さないように注意しながらも、その殺気を解き放った―――

「さて‥‥お前らには用は無い。ただ少し、本物が来るかもしれないので、それまでの暇潰しに‥‥ちょっと付き合え」
「‥‥年の瀬の忙しい最中、行きかう人々を問答無用で襲うなんて、あたしはとってもご機嫌斜めだわ」
「残るはお前たちだけだ‥‥悪党を野放しにしておくわけにはいかない」
 風峰、昏倒、デュランダル‥‥屈強な冒険者を前に、黒い天狗面を付けた三人‥‥黒い三連刀役の男たちの運命はもう決まっていた。怯えてガタガタ震えるその様は、最早戦闘の意思がないことを示していた。
「‥‥逃がしはしない。大人しくしていろ」
 逃げようとした一人のすぐ傍の地面に、正確に矢が突き刺さる。デュランダルの梓弓から放たれたものだ。
「お前らは確実に死罪だ。けれども一つ助かる手段がある。自分が堕天狗の一味だと言い張れ、そして志摩ならわかるはずだと主張しろ。堕天狗は実は影で上と繋がっていたりするから、ひょっとするかもしれないぜ」
 地面にへたり込んでいる男たちにそう耳打ちする風峰だったが、後ろで聞いていた昏倒が口を挟む。
「あら、そんな勝手なこと言っていいの? 可哀想じゃない、変な期待持たせちゃ」
「‥‥おいおいおい、そこはツッコまないでくれよ。本物が来ないかなと思って時間稼いでるんだからさ」
「稼いでどうする。来ないにこしたことはない‥‥刃を交えてみたいのは俺も同様だが、今はこいつらを役所に突き出すのが先だろう」
「まぁ、そうなんだけどな‥‥やっぱり本物さんもいちいちこんな連中のために出向きはしないか。今は色々忙しいみたいだし、な」
 そうして、世間を騒がせた8人の堕天狗党もどきは、近くの村の役所へと連れて行かれ、牢に入れられた。正式な裁きが下るのはまだ先だろうが、もうあの峠を天狗面が舞う事はないだろう。
 ちなみに連中のアジトであった山小屋を調べ、盗品やらを届け出た冒険者一行に特別手当が出たことも追記しておく。
 だがしかし‥‥結局、本物の堕天狗党のメンバーが現れる事はなかったのである―――