深く静かに戦闘せよ
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■ショートシナリオ
担当:西川一純
対応レベル:1〜5lv
難易度:普通
成功報酬:1 G 35 C
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:01月03日〜01月08日
リプレイ公開日:2005年01月07日
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●オープニング
世に星の数ほど人がいて、それぞれに人生がある。
冒険者ギルドでは、今日も今日とて人々が交錯する―――
「こんにちは、冒険者ギルドの若い衆こと、西山一海です。今日の依頼は至って単純‥‥とある場所からの提案で、『夜間戦闘訓練』が実施されるそうなんです」
いつものように、依頼の詳細が書かれた紙を机の上に置く一海。
そしていつものように続けようとした時、入り口付近から待ったがかかった。
「そこから先は私が説明しよう。この依頼は奉行所から出されたものでね‥‥新人の同心たちの成長を促すためと同時に、冒険者諸君との親睦を図るために企画されたものなのだよ。だから体面上、『奉行所が冒険者の鍛錬ために力を貸す』という形式となっているわけだ」
藁木屋錬術‥‥奉行所で堕天狗党の事件を担当し、毎度頭を悩ませている苦労人である。
クセなのか、袴の上から羽織ったマントを無意味にばさりと広げての御登場だ。
「‥‥藁木屋さん、私の仕事取らないでくださいよ。今回は堕天狗党の『だ』の字も出てこない依頼ですよ? あなた、最近ここに入り浸りすぎなんじゃ‥‥」
「いいではないか、茶飲み友達なのだし。それに、ここにちょくちょく顔を出しているからこそこんな伝達役まで任されてしまうのだから、いいことばかりではないさ」
ため息をつきながら向き直り、説明を続行する藁木屋。
「訓練というだけあって、真剣などは一切使わない。冒険者の諸君も新人同心も、総じて木刀や素手を使うことが義務付けられる。場所は江戸内の北東の方角にあるちょっとした雑木林だ。新人同心は8名参加の予定なので、出来るだけ一対一で戦って欲しい。なお、段位がそれほど高くない冒険者であっても、力試しをかねて参加してもらって構わない。『様々な相手、様々な力量の者との実戦』が今回の主目的だからな」
夜間で、しかも場所が雑木林ということは、視界は悪いし動き辛い事だろう。
そういう劣悪な環境でも戦えるように訓練しておくのは、武士たるもの当然の務めなのかもしれない。
それに冒険者ならば、戦士系でも魔法使い系でもいい実戦相手になるだろう。
「そんなに肩肘を張らなくてもいい。あくまで『新人研修の一環』なわけだからね。君たちが新人同心を叩きのめしたとしたら、それはそれで新人が『たるんどる!』等の小言を言われて再度しごかれるだけだからな。まぁ私の場合はそんな小言とは無縁だったが」
実にさらっと、あっけらかんと言ってのける。
そうなったらそうなったで色々角が立ちそうだが、『新人だから』という言い訳も充分できるからだろうか。
「うぅ‥‥ほら、私の出番がなくなっちゃったじゃないですか」
「仕事が楽になっていいだろう? では、よろしく頼む」
ふっと軽く笑い、またしてもマントを翻してギルドを出て行く藁木屋。
恨みがましい若い衆のジト目を、キッパリと無視して―――
●リプレイ本文
●風羽真(ea0270)
「‥‥へっ、模擬戦たぁ云え、お上を相手に喧嘩ァ売れるんだ。‥‥たっぷり楽しませてもらぜ?」
夜の帳が降りた森‥‥一本の木を背にして煙管をふかす男が居た。予め辺りに枯葉や枯れ枝を撒き、訓練相手である奉行所の新人同心を待ち構えている。
予想通りというかなんというか、地面を踏みしめる音が辺りに響き渡る。先に森へ散開した冒険者たちを新人同心が追うという形式であった今回の依頼は、風羽の待ち伏せ方法は効果的だろう。
「さて‥‥んじゃ、いくか!」
木陰から飛び出し、咥えていた煙管を新人同心に吹き付ける! しかし新人同心は意外に素早い反応を示し、煙管を木刀で弾き返した!
「おいおいおい‥‥愛用品だぜ、そいつは!」
嫌な音がした‥‥木刀とはいえ、曲がるなり壊れるなりは覚悟した方がよさそうだ。だが煙管を払ったために新人同心は体勢を崩し、風羽はその隙を見逃さず突っ込んでいく! 小太刀状の短い木刀を二本借りていた風羽は、ダブルアタックEXを敢行する。
一発目の突きをなんとか受け流したのはよかったが、新人同心は残りの二発を受け、中傷状態に陥った。
だが源徳武士団の一員である意地なのか、果敢に反撃する新人同心。一撃風羽に叩き込んだが、やはり木刀のため軽傷程度にしかならない。
「ちっ‥‥そこそこやるじゃねぇか!」
接近してきたのを逆手に取り、スープレックスを敢行する風羽。地面に叩きつけられた新人は、起き上がりざまに木刀を突きつけられ、凍りついた。
「‥‥あんたらみたいに、真正面から戦うんじゃなく‥‥正攻法が通じない奴、手前ェよか技量が上の奴を相手にする際、如何に優位に立つ為の手段を講じるか‥‥それが俺達、冒険者の戦い方だ」
新人同心も弱いわけではなかったが‥‥多彩な技、高度な格闘能力を持つ風羽には及ばなかったようである。
報酬の代わりに、藁木屋に丈夫な煙管をねだった等はどうでもいいことである―――
●物部義護(ea1966)&風森充(ea8562)
風が吹く。すっかり葉が落ちた枝を揺らし、寒風が吹きすさんでいく。
葉がない木々は月明かりもほぼ素通し‥‥とはいえ暗いことに違いはないし、追うより待ち伏せする方が有利なのは明らかである。物部と風森は近くを通った新人同心二人を一旦やり過ごし、遠距離からそこら辺に落ちていた小石を投げつけた!
ごんっ! といい音を立てて脳天に直撃する。
「ふっ、作戦通り行きそうだな」
「ぬるいですねぇ、あんなことで同心としてやっていけるんでしょうか?」
一撃離脱を念頭においている二人は、すぐさま闇夜を移動し始める。夜目が効くという利点を最大限生かした戦法だ。無論、新人同心は卑怯だと叫んだのだが‥‥。
「卑怯? 之もまた立派な戦術・兵法なれば。戦場では日常茶飯事な事柄を訓練で行ったからとて、卑怯者呼ばわりされる謂れは無いな!」
新人研修とはいえ、実戦訓練である。戦場では卑怯も糞もない‥‥生き残らなければ話にならないのだから、物部の意見はある意味正しい。安全でマニュアルだけの訓練で何が身につくというのだろうか。
物部の台詞で闘争心に火がついたのか、新人同心も迎撃しようと果敢に辺りを見回す。だが素早く場所を変え、時には石、時には後ろから蹴り飛ばす等、完全に相手を翻弄していた。
新人同心の一人が降参を告げると、風森は覆面を取って現れる。
「忍者がまともに戦うと思ったのかい? ま、訓練だったことを感謝するんだね。いきなり本番でこんな目にあわなくてよかったじゃないか、なぁ?」
2、3回運良く反撃できてはいたが‥‥すっかり疲弊したもう一人の新人同心が降参するまでに、あまり時間はかからなかった―――
●風月明日菜(ea8212)&グロリア・ヒューム(ea8729)
「やっぱり普段使い慣れてる長さの物が良いしねー♪」
短刀と小太刀状の木刀を借りていた風月は、相手である女性新人同心二人の姿を確認すると、オーラパワーとオーラエリベイションを続けざまに発動、その眼前に歩み出た。
「なるほど‥‥ジャパンの奉行所にもいい人材がいるみたいね!」
お互い木刀での攻撃‥‥しかも実力はほぼ同等。だが、デッドorライブを習得しているグロリアは、ダメージを巧みに軽減して無傷にしてしまう! 一方、女性同心その2は一撃くらったあと、スマッシュ+ダブルアタックを当てるが、グロリアはそのダメージも軽減し、重傷にはさせてくれない。
新人同心二人は子供と女が相手なのかと一瞬戸惑っていたが、すぐに考えを改める結果となる。何せ自分たちも女なのだから、ある意味で最高の腕試しともいえるからだ。
「同じ位の実力の人みたいだから、僕にとっても訓練になるよねー♪」
オーラパワーをかけられた少女の攻撃は、思ったよりずっと重い。ダブルアタックですれ違いざまに繰り出される二連撃は、気を抜いていればあっという間に打ちのめされてしまいそうだ。
流石の女性同心その1も脅威に思ったのか、身をかがめて近づいてくる風月をスマッシュで迎撃する!
「はぐっ!? さ、流石に奉行所の人もただでは負けてくれないよね‥‥!」
体重も軽いせいかかなり弾き飛ばされたが、まだやれる。闇に紛れて撹乱し始める風月‥‥一方、やりすぎたかなと少しばかり苦い顔をしている女性同心の姿も印象的ではあったが。
「僕は目には自信があるんだよー。キミはどうかなー」
風月に比べると夜目が効くとは言えない新人同心。音である程度の場所は予想がつくが、正確な位置までは到底把握できない。
「単純な腕力だけじゃないんだよー。戦いは、色んな要素が絡んでくるもんねー♪」
背後から攻撃してくる風月に新人同心が気付いた時には、もう迎撃できるタイミングではない。
「ここまでよっ! いい勝負だったわ」
一方、グロリアの方も決着がつく。武器をディザームで弾き飛ばされてしまった女性同心その2は降参し、グロリアと微笑みあっていたのである。
二人は固い握手を交わし‥‥お互いの更なる向上を誓い合った―――
●雪守明(ea8428)&雨宮零(ea9527)
「真っ向勝負‥‥これあるのみ。いざ、尋常に勝負!」
オーラパワーとオーラエリベイションを使い、わざと新人同心二人に自分を発見させた雪守は、言葉通り真正面から相手と向かい合う。左の目が紅い、少女のようにも見える少年もまた同様である。
「抜刀術‥‥これが僕の唯一の技にして‥‥闇路への案内人‥‥」
木の密集度が少し高い場所‥‥夜目が効く人間ならではの戦場選択と言えた。
「っ! やるっ!?」
向こうもそこそこ夜目が効くのか、雪守ほどではないにしろ正確に木々をすり抜ける。ソニックブームを放ってきたりと、油断はできそうにない。もっとも、基本的な格闘術は雪守と大差がなさそうだが。
一方の雨宮も、もう一人の新人同心へブラインドアタックEXを放つ。暗闇ということもあって、新人同心は避けることなど到底できない。だが惜しむらくは、ダメージが増加するわけではないので、現状では『確実に当たる普通の攻撃』にしかならないのである。
「『俺』もまだまだ修行が足りないか‥‥っていけない、地が‥‥(汗)。なら相手よりはやく相手を斬り伏せるまで!」
もっとも、『現状で確実に当たる』攻撃がどれだけ恐ろしいかは、言うまでもない―――
「実力伯仲か‥‥面白い!」
雪守は木を背後にしながら移動しつつ戦うが、相手はソードボンバーだのソニックブームだのと上級技を放ってくるため、雪守も少なからず傷を受けている。どうやら通常の戦闘力より技を重点的に覚えたタイプらしい。
と、接近戦で木刀同士が打ち合ったとき、雪守が賭けに出る!
「パワーチャージ‥‥どちらが立っているか、勝負だ!」
格闘力が均衡している相手とのパワーチャージ‥‥雪守らしいといえばらしいが、危険な賭けには違いない!
「い‥‥けぇぇぇぇぇっ!」
一瞬の隙を見逃さず、一気に押し切る! 転倒した相手に追撃の一撃を加え、木刀を突きつけた。
真っ向からの戦いは、意地を貫き通した雪守に軍配が上がったようである―――
●昏倒勇花(ea9275)
「あたしは細かい戦い方が苦手なのよね‥‥やっぱり真っ向からっていうのが性に合ってるわ」
身長2メートル近い花の乙女(男である)、様々な呼び名を持つ昏倒。対する新人同心は、意外にも気後れすることなく対峙している。
自分では『そこそこ強い』などと言っているが、冒険者の中でもかなりの使い手であろう。
「速い!?」
だが、新人同心の繰り出した攻撃は恐ろしく速かった。相手が新人だから油断した‥‥というわけでもなく、ただ反応が遅れたのである。この新人‥‥恐らく達人級!
「凄い新人も居たものね‥‥これは油断できないわ。乙女の業の全てを以ってお相手よ!」
正直、昏倒とまともに受けつ受けられを続けられる人間は現状ではそう多くない。関東最強といわれる源徳武士団の強さを垣間見たような気がして、流石の昏倒も戦慄せずには居られない。
しかし昏倒の見立てでは、この新人同心、基本だけを重点的に高めたせいかこれといった決め手がない。特に今回のように木刀を使っている状況では、それが致命的とも言えた。
「絶・乙女叩きっ!」
ごんっ! と鈍い音がして‥‥哀れ達人級の腕前を持つ新人同心は、スタンアタックによって気絶する。昏倒もかなりもらっているが、同じ当てるならスタンアタックがあった方が有利に決まっていた。
「勉強になったわ‥‥ジャパンも意外と広いものね」
新人同心を担いで雑木林の入り口に戻る昏倒。最終兵器とも呼ばれる彼が、少なからず驚いた日であった―――