浪漫を求める漢たち
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■ショートシナリオ
担当:西川一純
対応レベル:1〜5lv
難易度:普通
成功報酬:1 G 35 C
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:01月17日〜01月22日
リプレイ公開日:2005年01月20日
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●オープニング
世に星の数ほど人がいて、それぞれに人生がある。
冒険者ギルドでは、今日も今日とて人々が交錯する―――
「えっと‥‥こんにちは。今日はまた、ひじょぉ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜に特殊な依頼が入ってます。というか、半ば無理矢理紹介しろと脅されているような感じです、はい」
頭を抱えながら、テンションがだだ下がりの状態で依頼の紙を机に置いた。
ひょいと紙を覗いて見れば、紙いっぱいにでかでかとこう書かれている。
『浪漫を解する漢、求む!』
「あー、依頼を出してきたご本人に聞くのが一番かもしれませんね。実は『どうしてもこの熱い想いを直接伝えたい』とか言うんで、面倒くさいから来てもらっちゃいました。どうぞ〜」
冒険者ギルドの若い衆‥‥西山一海が入り口のほうに声をかけると、一人の男がゆっくりと姿を現した。
年齢はおよそ三十くらいか。標準的な体格で、中肉中背。外見もこれといって特徴がなく、有名な人間ではなさそうだ。
「お初にお目にかかる。では早速依頼の説明をさせていただこう‥‥ズバリ、『巫女服のよさを知っていただきたい!』この一言に尽きるッ! 我々『大日本巫女服党』は、広く同士を募集しているのだぁっ!」
「はぁ!? 大日本巫女服党って確か、いつぞや競売会に現れた盗人が所属していたところじゃないですか! そんなところからの依頼、無効です無効!」
「あいや暫く! 我々の信条は『自由に自分らしく巫女服を愛せよ』というもの‥‥党員がどんなことをしようとそれは個人の自由であり、個人の責任だ。現に私は『ちょっと小粋な廻船問屋』で通っている!」
「そんなアーパーな党がありますかっ!?」
「ここにあるわいっ! そういきり立つな‥‥君も巫女服を愛する同士だろう!?」
「一緒にしないでくださいっ!」
「何を言う! 巫女服こそ古今東西すべてにおいて遍く萌えを支えてきた萌えっ娘衣装界の金字塔とも言うべき存在! もはや巫女服は日本人の歴史とともに連綿と永劫の時を歩む先駆者であり、かの源徳家康をして『着る者がなければ巫女服を着ればよい』と言わせたとか! 昨今では巫女服、神主服、陰陽師服などの違いを明確にすることが論議されているが、私に言わせればそんなことは瑣末! 木を見て森を見ず! 大事の前の小事! 平織虎長の前の比叡山! 重要なのは巫女服を愛しその造詣を深めることにあるのであって、色・形状・材質の差別化に捕らわれない『美女の黄金律』の鍵たる巫女服を五感を以って『感じる』ことこそが重要なのだ! 巫女服という武器こそ百戦錬磨の美女をものともせず、装着するだけで対象物を一級品の戦士にする衣装界の妖刀村正であることを世の愚民どもは知るべきであり、巫女服が人類の阿頼耶識に鳴り響く勝利の雄叫びたることを重々再認識すべき! そう! 巫女服こそ人類の魂の原動力にして心の光であることはもはや自明の理! 霊長は巫女服を着るために進化し! 人類は巫女服を生み出すために発生し! 民族は巫女服を広めるために確立した! すべての生物は巫女服という富士の噴火の前に、脆き己の無力さを嘆くままただ巫女服を纏うのであった! 嗚呼巫女服よ永遠なれ! 巫女服を知らずして萌えを語らず! 今こそ世界は国境の垣根を取り去り、巫女服によって新世紀の光の恩恵をその身に受けることにより、理想郷をその手に掴むことができるのだぁぁぁぁぁっ!」
「やかましぃぃぃぃぃっ! 長いしわけわかりませんし、聞いてるだけで疲れますよっ! というか、その台詞は色んな意味でヤバイです!」
もうツッコミ所だらけで何からツッコんでいいかも分からない。一海が思わず依頼人を殴り倒してしまったことを誰が攻められるだろうか?
「ぜー、ぜー、ぜー‥‥説明を続けましょう。要は『先方から貸し出される巫女服を着て、大日本巫女服党の人間と演習する』ということらしいです。できれば女性の参加者であるほうが望ましいそうですね。男の参加者にはむしろ殴られる側に回ってもらうとか」
特殊な趣味がある集団だからなのか、普通の演習では絶対にない。というか、好んで『巫女服を着た女性に虐められたい』という性癖でも持ち合わせているのだろうか。男の参加者にはそれを身を持って体験してもらい、理解してもらおうとでも言うのだろう。
‥‥どちらにせよ、ロクなものではなさそうである。
「詳しいことは別紙を参照してください。私はもう疲れましたよ‥‥」
「はっはっは、ご希望とあれば4名様までに20Gで巫女服をお売りしようぞ」
いつの間にやら復活していた依頼人が、商売根性丸出しで笑う。
盛大にため息をついた一海が依頼人をもう一度黙らせるまで、大した時間はかからなかった―――
●リプレイ本文
●これがわれらの生きる道?
本日の江戸は快晴。季節の割には気温が高く、暖かい一日となりそうだ。
だが陽気以上に熱く燃え滾る連中が、この神社の境内に集まっていたのである。
「うぉぉぉぉぉっ、巫女服! 巫女服を着た女子じゃあぁぁっ!」
「素晴らしい‥‥本職の巫女さんにはない、こう‥‥グッと来るものがあるっ!」
すでに着替えを終えた参加陣を前に、大日本巫女服党の面々は昂っていた。というか、感動のあまり涙を流している者までいるのだが。
「じゃ、そろそろ始めましょうか。乙女に近づくいい修行だわ♪」
豪快にそう呟くのは、昏倒勇花(ea9275)‥‥一応言っておくが、『男』である。大柄で筋肉質な彼もまた、巫女服を着用している。
「‥‥今更だけどさ、あなたに巫女服を着られても萎えるだけなんだけど‥‥」
がしっ! 巫女服党の一人がそう言った瞬間、昏倒の愛暗苦労(アイアンクロー)』が手加減抜きで唸った。
「な・に・か・お・っ・しゃ・っ・て?」
猛烈な力で顔を握られた巫女服党の男は、あっさりと気を失う。始める前から奪略者が一名。これを笑顔でやるのだから、昏倒は怖い。
「‥‥大日本巫女服党と‥‥萌え演習‥‥説明‥‥」
業を煮やしたのか、僧侶の屠遠(ea1318)が音頭を取り始める。静かに‥‥ぼそぼそと呟くのだが、その目は何かを企んでいる。
「とにかく連打しろ‥‥」
一瞬の間をおいて、ニヤリと笑った。
「ハイ、私は巫女さんになって、相手をぺちぺちすればいいですか? 分かりました、頑張ってぺちぺちするですね♪ ジャパンの文化に触れられて、私とても嬉しいです☆」
「分かったよ。でも‥‥初めて着たけど、結構着心地いいかも。あの‥‥似合います?」
元気一杯、笑顔でガッツポーズを取る林麗鈴(ea0685)と、可愛くもじもじしながら呟くユキネ・アムスティル(ea0119)。どちらも巫女服党の人間には好評で、一旦下がったテンションがまた急上昇したが‥‥。
ひゅごうっ! もじもじすると同時に魔法を詠唱していたらしく、ユキネが突如アイスブリザードを放つ。
ちなみに、まだ開始の合図は無い。
「おお、もう始まってますか? ええと、確かおじさん、こう言えばいいって言ってたですね。『巫女様とお呼びっ!!』(鞭でぺちぺち)『ひざまずき足袋をお舐めっ!!』(鞭で絡め取り)『巫女様にお返事はっ!!』(平手でぺちぺち)これで私も巫女さん一人前ですか?(にこにこ)」
ご丁寧に本当に鞭を用意して、巫女服党の一人にターゲットを絞って行動を開始する林。おじさんというのが誰かは知らないが、確実に騙されているだろう。
「あれ? 嬉しくありませんか? 変ですね、ちゃんと教わったとおりやったですが」
いや‥‥新たな巫女服の使い道(?)を見出して大変悦んでいるのかもしれない。もっと叩いて欲しいから突っ込んでくる、とか?
「え‥‥あ、あの‥‥じゃあ、わ、私も‥‥」
控えめに呟いた水葉さくら(ea5480)だったが、小太刀に風車(暗器)を使用するらしく、意外と容赦が無いのかもしれない。『相手の方は、今回の演習に熱心なようですから、私も手加減無用、全力でお相手したいと思います‥‥』とは本人の談だが。
勿論巫女服党の人間も本気で怪我をするのは嫌らしく、しっかり日本刀で受けを行っている。ただしそれが普通の戦闘と大きく違うところは、水葉の相手がでれーっとだらしない顔をしていることだ。
「うぅっ‥‥お、男の方って皆様こうなのでしょうか‥‥。こ、怖いです‥‥」
わざと水葉に攻撃せず、受けに回ることによって戦闘時間を長引かせようとする巫女服党員。汗ばんで上気した表情や、荒い息をつく姿がたまらない‥‥らしい。
「ふぅ‥‥うやむやのうちに始まってしまいましたね。今から歌って効果があるでしょうか」
イギリス出身、銀髪のバードであるレテ・ルシェイメア(ea7234)は最初にいた場所から動いておらず、立ち回る周辺の人間を見やっていた。
銀髪だろうが外国人だろうが、巫女服は彼女によく似合っている。それをよく理解している巫女服党の一員は、演習という名目で集めたくせに刀を抜こうとはしなかった。
「‥‥あの。私が言うのもなんなのですが、戦わなくては意味が無いのでは?」
「はぁ、まぁそうなんですけどね。どっちかってゆーと見ているだけのほうが楽しいというか、無理に戦おうとすると巫女服が破けちゃったりしたら悲しいというかあなたも困るでしょう? いや、多少着崩れたりして他方が僕たちは萌えるんですけどね」
「‥‥シャドウバインディング」
聞いているうちに頭痛がしてきたらしく、じーっと見ているだけの若者に魔法をかける。だがさっきから見ているだけの彼に使っても状況は変わっていない。動けなくなった隙に背後に回りこみ、視線から逃れることはできたが。
「現状でメロディーを使っても、逆に妙なことになりかねませんね。素手も自信がありませんし‥‥このまま現状維持が一番でしょうか」
結局、他の人が助けに来てくれるまでシャドウバインディングを詠唱し続けることにしたレテであった。
「ん‥‥初めて着るけど‥‥なかなか可愛い‥‥」
同じく木刀を獲物としていた巫女服党員を標的とし、屠はとりあえず巫女服を見せびらかせてみる。相手は『萌えー!』とかなんとか叫びながら噎び泣いていた。
「諸兄に足りないものはー‥‥常識良識我慢体面気品優雅さマトモな性癖―――そして何より‥‥浪漫が足りない‥‥。‥‥いまから木刀で刻んじゃる‥‥来いやぁ‥‥」
相変わらずダルそうかつ無気力そうだが、巫女姿の可愛い女性相手にそんなことは些細である。がすがす木刀で殴られ、あちこち出血しているにも関わらず、巫女服党員はズゥンビの如く屠に近づいていく。
「‥‥気色悪い‥‥。‥‥目指せ死兆の星‥‥唸れ木刀‥‥かっ飛ばせー‥‥」
フルスイングで繰り出される一撃に‥‥巫女服党員がもんどりうって倒れた(でも幸せそう)のは、ほぼ必然の出来事だった。
言い忘れていたが、今回やってきた巫女服党員の数は8名。水葉、屠、林、レテ、昏倒が一人ずつ相手をしていて、ユキネが逃げ回りながらアイスブリザードを撃つ機会を伺うという混戦具合だ。
もはや開始の合図は完全無視である。
「女の道を極めるため、今日も今日とて女装街道まっしぐら! 女装侍結城、本日は巫女さん衣装で只今参上♪」
「謎の黒子美少女巫女、推参!!」
わざと遅れてきた人間が約二名。木の上から逆行を浴びて登場したのは、結城夕貴(ea9916)。神社の屋根の上(!)で弓を構える、巫女装束に黒子頭巾という格好の女性はインシグニア・ゾーンブルグ(ea0280)である。
二人とも申し合わせたかのようなタイミングで、高いところからの登場だ。
「インシグニアさん、顔が‥‥」
「頭巾してるのに『美』かどうか解るかとか、『少女』と名乗って良い年齢かとかいう疑問は受け付けん。気にするな、気にしたら普通の矢で射るぞ」
「うーん、確かに二十歳を越えたら少女とは言えない様な‥‥」
「ぬぅ、やはり手が滑ったことにして‥‥‥‥いかんいかん、いまは我慢だ。いまだけは!」
オカマだかゲイだかが嫌いなインシグニアは、今にも昏倒や結城を射かねない勢いである。
結城とインシグニアがお互い屋根の上と木の上で漫才をやっている間も、ほかの6人は奮戦していた。特に昏倒の、『反吐炉津苦(ヘッドロック)』や『瘤螺墜巣斗(コブラツイスト)』(注:どちらもホールド)にも負けずに抵抗する巫女服党員の姿は、ある意味鬼神じみてはいる。
その他の参加者と戦っている巫女服党員を攻撃するインシグニア。屋根の上からなので狙い放題だ。
一方、結城は‥‥。
「しぶといわねぇ。私のホールドやスープレックスを受けてなお立つなんて‥‥ちょっと素敵よ」
「僕も巫女さんスラッシュや巫女さんパンチでヒーローしちゃいますよ♪」
「お‥‥おのれぇ! 巫女服を着た男などに負けられるものか! 日本中の‥‥いや、世界中の巫女服愛好者のために! そっちのちっこいのはともかく、お前みたいなゴツイ男に巫女服を着させたままでいるかぁぁぁっ!?」
「んまっ、どういう意味!?」
「そのまんまの意味じゃぁぁぁっ! 大日本巫女服党でも腕利きと名高い俺が許しておかんわいっ!」
突っ込んでくる巫女服党員の攻撃を手盾で受け流し、昏倒が男を引きずり倒す。追い討ちをかけるように、結城もなぜか素手で男の腹に攻撃を打ち込んだ。
『二重巫女巫女愛暗苦労ッ!(ダブルミコミコアイアンクロー)』
要は息のあった連続攻撃‥‥ノリにノってる二人であった。
結局巫女服党全員が動かなくなるまで(もちろん死人は出ていないが)叩きのめし、インシグニアが倒れている連中を踏んで回って悦ばれたりと、大日本巫女服党の初期目的は果たされた‥‥のか?
ちなみに希望者にはしっかり巫女服が販売されたが、昏倒は抽選漏れという理由で売ってもらえなかった。
「これは陰謀よっ!?」
否‥‥それは大日本巫女服党の、せめてもの復習と愛服心―――