森の奥の蜘蛛屋敷
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■ショートシナリオ
担当:西川一純
対応レベル:2〜6lv
難易度:やや難
成功報酬:1 G 69 C
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:02月14日〜02月19日
リプレイ公開日:2005年02月16日
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●オープニング
世に星の数ほど人がいて、それぞれに人生がある。
冒険者ギルドでは、今日も今日とて人々が交錯する―――
「むぅ‥‥やはり悲しい男のサガなんですかねぇ‥‥いやはや、もはや業と言うべきでしょうか」
冒険者ギルドの若い衆こと西山一海は、依頼の紙を机に置きながら溜息をついた。
テンションがいつもより低いということは、彼が優先的に持ってくるオモシロ系の依頼ではないようだ。
「あ、すいません、説明します。実はですね‥‥江戸の西端、ギリギリ国境の辺りにある宿場で、最近妙な事件が頻発しているようなんです。その宿場に泊まっていた旅人が、荷物をそのままに行方不明になってしまうとか‥‥」
「しかも被害者は決まって男でね‥‥『ちょっと散歩に行ってくる』といった台詞を残して居なくなってしまうそうだ」
ふと見ると、何故か悠々と椅子に腰掛けて茶を啜っている男が一人。奉行所同心、藁木屋錬術である。
友人であるという一海の所によく茶を飲みに来ているが、本人も一海も仕事中のはずである。
「いや、流石に私も堕天狗党にかかりっきりというわけではないからね‥‥江戸内の事件ならお鉢が回ってくることもあるのだよ。そんなことより、今回の件はわりと重要度が高い。何せ江戸の入り口とも言える宿場でそんな事件が頻発しては、流通にも関わるからね」
「情報によれば、ふらふらと森の奥の方へ歩いていく男と、それを誘うかのような女を見かけた人がいるとかで。宿場の自警団が確認に行ったところ、うち捨てられた屋敷を発見したのはいいんですが‥‥付近に土蜘蛛がわらわらいて、中までは確認できなかったとのことです」
二人は代わる代わる説明を続ける。
と、そこに長い黒髪の女性が入ってきた。藁木屋の密偵として活動している、アルトノワール・ブランシュタッドだ。
「‥‥追加情報、仕入れてきたわよ。今日、被害者一名追加。自警団の一人が、単独で屋敷に出向いて行方不明になったみたい。手柄を焦ったのか腕に自信があったのか知らないけど、はっきり言って馬鹿ね。分を知りなさいな」
「アルト、それは流石に酷いと思うぞ(汗)。しかし、数が多いとは言っても土蜘蛛はそれほど苦戦する相手ではない。立ち回り方と本人の実力にもよるが、一人でも5匹くらいまでならなんとかなるはずだからな‥‥相手は土蜘蛛だけではないと考えるのが妥当か」
「なんにせよ、怪我がない様に頑張ってください。あ、それから、くれぐれも火事とか起こさないでくださいね? 森の中ですから♪」
そもそも何故森の中にそんな屋敷があるのかが謎だが‥‥宿場の安泰のためにも、撃破が優先である。
旅人を誘うという女‥‥その正体は如何に―――
●リプレイ本文
●まずは露払い
「え、えと‥‥あそこの草むらに、い、一匹と‥‥屋敷の縁の下に、一匹‥‥。そ、その他合わせて、全部で6匹、です‥‥」
「情報どおりだねー♪ 宿場の人達の為にも、ちゃんと退治したいよねー♪」
水葉さくら(ea5480)のブレスセンサーで土蜘蛛の数と位置を確認し、風月明日菜(ea8212)がこの場に居る6人にオーラパワーをかける。自分にはオーラエリベイションも使ったようであるが。
件の宿場町に着いた一行は早速行動を開始し、謎の女と接触する囮組みと、土蜘蛛を始末する先行組みに別れたのである。こちらは先行組みというわけだ。
「位置と戦力の知れた待ち伏せは組し易いですね。一気に決めましょう」
「いいえ、油断は禁物です。あくまで細心の注意を払い、特に毒には警戒しましょう」
笑顔の雨宮零(ea9527)の台詞を、真剣な表情で返す御神楽澄華(ea6526)。もっとも、あまりもたもたしていると囮組みが謎の女と共にやってきてしまうかもしれないため、そう時間はかけられないのだが。
「うーん‥‥土蜘蛛ってあまり太陽の下をうろうろしないんだね。下手にサンレーザーを撃ったら火事が‥‥(汗)」
「被害者の方々の亡骸も見当たりませんか。やはり、屋敷の中まで参りませんと‥‥」
今一行がいるのは、屋敷から数十メートル離れた草陰である。屋敷に近づくと土蜘蛛が集まってくると事前に聞いていたため、屋敷内までは確認していないため、グザヴィエ・ペロー(ea9703)と桂春花(ea5944)が想定していた戦法は取れそうにない。
一同は風月の魔法が切れる前に、屋敷の手前に広がる開けた場所で迎撃することを決め、戦闘態勢に入る! 当然それを察知した土蜘蛛も、わらわらと集まってきた!
「先手必勝! 毒の牙にさえ注意すれば‥‥!」
御神楽のスマッシュで、土蜘蛛1はあっさり重傷状態に陥る。EXを使うまでもなくこの状態‥‥藁木屋が言っていた通り、脆い。
「先生に貰った日本刀の切れ味、見せてあげるよー!」
霞刀と短刀のダブルアタックで、風月もまた土蜘蛛2を重傷状態へ持っていく。オーラ魔法2種を重ねがけしている彼女の攻撃を、土蜘蛛が避けられるわけがないのだ。
「これだけの距離があれば! サンレーザー!」
一番遠く‥‥屋敷の縁の下から這い出てきた土蜘蛛3がグザヴィエの魔法の直撃を受け、中傷を受ける。もっとも、傷自体より熱量に耐えかねて転げ回っているようだが。
「この距離なら‥‥! ディストロイ!」
桂から放たれた黒い衝撃が土蜘蛛4を直撃し、足が2、3本おかしなほうを向く。傷自体は中傷なのだが、見た目にはそれ以上の効果があったようにも見えた。
「見切れるか、闇路への送り刃」
仕込杖によるブラインドアタックで、雨宮もまた土蜘蛛5を重傷へ追い込む。本来なら中傷なのだが、風月のオーラパワーのおかげで、一撃で済んでいる。
「お、お兄様‥‥さくら、がんばりますっ(ぐっ)」
拳を握って何かを決意した水葉も仕込杖で攻撃する。接近戦が苦手という彼女でさえ、二回攻撃して土蜘蛛6を重傷にしてしまう。もっとも、一発目は当たるか避けられるかギリギリだったのだが。
すでにズタボロ状態になっている土蜘蛛軍団がさしたる抵抗をできるわけもなく‥‥6人はあっという間に土蜘蛛を葬り去ったのである。やはり、毒にさえ注意すれば大して怖い相手ではないのだ。
‥‥だが。
「キ! キ‥‥キキキキキキキキ!」
『!?』
一同が振り向いた先には‥‥ものすごい形相で奇声を発する、一人の女が―――
●女郎蜘蛛、その力
「ちっ、こやつ‥‥先ほどから一言もしゃべらんと思っていたら、言葉が話せないだけか!」
「もう雑魚は全滅してるみたいですね。グザヴィエさん、俺の武器を!」
囮組みの二人‥‥安積直衡(ea7123)と手塚十威(ea0404)が女の横をさっと通り抜け、6人と合流する。そして全員が戦闘準備を終えたときには、女郎蜘蛛がその真の姿を現していた!
「でかい‥‥! 足を入れたら10メートル近くあるよ、あれは!」
「あ、あははは‥‥ひょっとして、やばいかもー」
グザヴィエと風月が引きつったような顔で呟く。雑魚を先に潰して後顧の憂いを断ったのはいいが、目の前の敵は凱旋気分に水を注すのには十分な威圧感を持っている!
「作戦通りいきます! 手塚様と遠距離魔法を使える方々は後方で支援を! 前衛組みは突っ込みましょう!」
御神楽が音頭をとり、弓を使う手塚と、魔法を使う安曇、グザヴィエ、桂は詠唱に入る。一方、御神楽、風月、雨宮、水葉は、果敢にも女郎蜘蛛に突撃していく!
「って水葉さん!? あなたじゃ無理ですよ、戻ってください!」
「え‥‥えと、でも‥‥わ、私、遠距離魔法、つ、使えません‥‥し‥‥」
「だからって‥‥! っ、危ない!」
「きゃっ!?」
女郎蜘蛛に狙われていた水葉を雨宮が突き飛ばし、その牙を受け流す。だが女郎蜘蛛はすぐに標的を変更し、今度は御神楽を狙う!
「くっ‥‥図体のわりに速い! ‥‥あぐっ!?」
その牙の破壊力は、受け損なった御神楽をあっさり中傷にする。‥‥いや、『御神楽だから中傷で済んだ』と言ったほうが適切か。装備をきちんと整えた、わりと体力のある御神楽だからこの程度で済んでいるのである。
「土蜘蛛はまかせっきりだった手前、俺たちも楽しているわけには!」
手塚も重藤弓を射ようとするが、重量がかさんで動きが鈍い。準備にはもう少しかかりそうである。
「プラントコントロール‥‥森の中は植物の宝庫だぞ」
魔法を完成させ、蔦や草を操り始める安積。実際に攻撃するのはもう少し先だろうが、それをカバーするようにグザヴィエが動く!
「サンレーザーでどうだっ!」
命中はした。だが元々頑丈な皮膚をしている上、女郎蜘蛛は魔法への耐性が高く、全く効いていない!
「ディストロイならばいかがですか!?」
雨宮を追って射程内に入った女郎蜘蛛に桂が魔法を仕掛けるが、それもかすり傷程度。水葉の仕込杖も軽傷にすらならないのである。
「だ、ダブルアタックで一気にー‥‥わっ!?」
面と向かっていた風月が、突然女郎蜘蛛の吐き出した糸で絡めとられる! 力任せに剥ぎ取ろうとするが、ただの糸でないらしく、もがいてもうまく外れない!
「わーん、何これー! 白くてベトベトして気持ち悪いー!」
「何かひっかかる台詞だけど‥‥風月さん、助けるのは後回しだ!」
余裕がないのか、普段の微笑みも敬語も忘れて女郎蜘蛛に斬りかかる雨宮。オーラパワーがまだ効いているので、なんとか軽傷は与えられる!
「準備完了‥‥いけぇぇぇっ!」
手塚の重藤弓の用意が完了し、矢が唸りを上げて飛んでいく。背を向けていた女郎蜘蛛は避けることができず、総じて中傷クラスの傷となる!
「こちらもいけるぞ。プラントコントロール‥‥縛!」
ざわざわと草が動き、女郎蜘蛛を封じる。だが痛みで暴れる巨体を縛りきることができず、はずされてしまう!
「ちっ‥‥なんてやつだ!」
「バーニングソードを使う暇もない‥‥用心のために先にかけておくべきでしたか‥‥!」
土蜘蛛との戦闘、そしてそれに入るまでのタイムラグ。さらに、女郎蜘蛛との長引く戦闘で風月がかけてくれたオーラパワーも効果がなくなってしまった。御神楽は中傷、風月は糸で行動不能‥‥。
「後手に回っちゃ駄目だ! みんな、攻めないと‥‥!」
「す、少しでも‥‥き、傷を‥‥!」
かすり傷しか与えられない仕込杖で、必死に抵抗する雨宮と水葉。その姿に、全員が奮い立つ!
「今一度‥‥縛せ、プラントコントロール!」
「ディストロイ!」
「サンレーザー!」
後衛が次々と魔法を打ち込んでいく。草に封じられ動きの鈍ったところに、御神楽が懇親の一撃を振り下ろす‥‥!
「赤炎刀の名の下に‥‥この一撃をっ!」
がずぅっ‥‥! スマッシュによる、確率五分の賭け! 重傷となった女郎蜘蛛は、怒りで我を忘れて反撃する!
「ぐふっ‥‥!」
重傷状態でなお暴れまわる女郎蜘蛛の前に、やっと風月も糸から脱出した。反撃で重傷を負った御神楽を全員で庇うが、固まっていたのが災いし、今度は風月と水葉までもが重傷にまで持っていかれてしまう‥‥!
「まずい、まずいぞ‥‥前衛が雨宮殿しか残っておらん。後衛の我々は明確な有効打を持っていない」
「俺の重藤弓は準備に時間がかかりすぎるし‥‥!」
「ごめん、直してあげたいんだけど‥‥僕、自分に回復薬使っちゃったから‥‥」
風月は自前のポーション類で全快したが、彼女では止めを刺すのに時間がかかる上、一撃もらえばまた重傷‥‥!
「雨宮さん、これを!」
「グザヴィエさん‥‥恩にきる! いくよ、風月さん!」
「うん!」
愛用の日本刀を取ってきてもらった雨宮なら、軽傷を与えられる。風月とコンビで戦えば、なんとかなるか‥‥!?
結局、女郎蜘蛛を瀕死に追い込んだものの、風月が重傷、雨宮が瀕死状態になった時点で8人は撤退した。桂の進言で、生きてさえいれば‥‥ということになったのである。
もっとも、土蜘蛛は全滅し、女郎蜘蛛も瀕死‥‥となれば後詰を自警団や奉行所に任せても十分だろう。目的はほぼ達成したと言っていいのだから、この判断は賢明だ。
この8人にしろ、宿場の人間にしろ、旅人にしろ‥‥願わくば、彼らが二度と女郎蜘蛛と出会わんことを―――